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第一章:ラファル・ウェントゥス
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「漆黒の乙姫様!」
雪崩れ込むようにしてラファルが部屋に入ってくる。そして赤髪の彼を見るなり、その表情を変えた。知り合いなのだろうか。怒りを抑えきれないかのように低い声を出す。
「グラッド、やはりキミだったのか。階下で赤髪の話が出ていた。まさかと思い来てみれば……どこで彼女のことを知った?」
「うちの船占術師だよ。最近有能なヤツが入ったんでな」
フッと微笑を浮かべながら、グラッドと呼ばれた男が答える。その言葉を最後まで聞くことなくラファルが腰元の剣に手を伸ばしていた。
それに気づいて、さらに笑みを深める。
「へぇ。俺に剣で挑むつもりなのか」
「今すぐその方から離れるなら見逃してやる」
「それを俺が聞き入れると?」
「聞き入れないならば」
引き抜いた剣の切っ先を、真っ直ぐグラッドへと向けた。
「容赦はしない」
鋭い声でラファルが威嚇するように睨み付ける。
彼の後ろにちらりとルスフェルの姿が見えた。バスケットを持っているのは食事の用意が出来たからかも。けど立ち入ることができずに、戸惑いながらラファルと私達を交互に見ていた。
「……」
正直私だって、どうしたら良いか分からない。逃げようにもしっかり片腕を腰に回され、強く抱きしめられている。ラファルは今にも斬りかかって来そうだし。困惑しながらグラッドを見上げると、こんな状況にもかかわらず笑みを浮かべて言った。
「容赦はしない、ね。どうするつもりだ?」
まるでこの問答を楽しんでいるかのよう。よほど余裕があるのか、それとも策があるのか、それは分からないけど。とにかく不快に思ってはいないみたい。
ただその反面、相手をしているラファルの厳しさは変わらない。グラッドの言葉にスッと瞳を細めた。
「グラッド………キミを倒してでも、その方を奪い返す」
決意を秘めた声色だけど、私を抱くこの男性はラファルの言葉を軽く一蹴した。
「ハッ! 言うようになったじゃねぇか。だが、それは出来ねぇ相談ってやつだな!」
「わっ……!」
言うや否や担ぎ上げられる。視界が反転して驚きで息をのむ。抵抗どころか掴むところさえない。慌てる私をよそにグラッドが歩き出す。
ラファルも一層焦り始める。
「待て! まさか飛び降りるつもりか!?」
「そのまさかだな」
真っ直ぐ向かっていくのは先ほどグラッドが現れた窓の方。って、いや、嘘でしょ?! ここ何階だと思ってるの?!
「ちょっとまっ……ね! ねえ!!」
不自然な体勢で上手く言葉がでない。もたついてる間にガタッと窓枠に足をかける音がした。
「それじゃあ、またな」
軽く挨拶してるけどここかなり高層なんだけど! もう半分下が見えてる! 怖すぎて思い切り目を瞑って、とにかく引き留めないと、と手探りで何か掴めるものを、と探す。探しながらも懸命に訴える。
「ちょ、まってまって!! お願い!!」
けど言葉も虚しく、軽い金属音と縄をかける音。バサバサっと葉が揺れる気配がして、すぐにグンッと嫌な浮遊感が来てしまった。
そのまま滑るような速度で落ちて地面が近づいてくる。
「ひっ、やぁぁああぁ!!」
言葉にならない必死の叫びは風にさらわれ、ぶつかる!!、と思った瞬間、地面の手前で止まった。でもその時には、激しい疲労感と安堵でぐったりとしてしまい抜け殻のようになっていた。
遠くから、グラッドを引き留めるラファルの声が聞こえる。
でも届かないと知った彼は最後に
― 漆黒の乙姫様、決して名を証してはなりません! ―
と、強い言葉を私の耳に残した。
雪崩れ込むようにしてラファルが部屋に入ってくる。そして赤髪の彼を見るなり、その表情を変えた。知り合いなのだろうか。怒りを抑えきれないかのように低い声を出す。
「グラッド、やはりキミだったのか。階下で赤髪の話が出ていた。まさかと思い来てみれば……どこで彼女のことを知った?」
「うちの船占術師だよ。最近有能なヤツが入ったんでな」
フッと微笑を浮かべながら、グラッドと呼ばれた男が答える。その言葉を最後まで聞くことなくラファルが腰元の剣に手を伸ばしていた。
それに気づいて、さらに笑みを深める。
「へぇ。俺に剣で挑むつもりなのか」
「今すぐその方から離れるなら見逃してやる」
「それを俺が聞き入れると?」
「聞き入れないならば」
引き抜いた剣の切っ先を、真っ直ぐグラッドへと向けた。
「容赦はしない」
鋭い声でラファルが威嚇するように睨み付ける。
彼の後ろにちらりとルスフェルの姿が見えた。バスケットを持っているのは食事の用意が出来たからかも。けど立ち入ることができずに、戸惑いながらラファルと私達を交互に見ていた。
「……」
正直私だって、どうしたら良いか分からない。逃げようにもしっかり片腕を腰に回され、強く抱きしめられている。ラファルは今にも斬りかかって来そうだし。困惑しながらグラッドを見上げると、こんな状況にもかかわらず笑みを浮かべて言った。
「容赦はしない、ね。どうするつもりだ?」
まるでこの問答を楽しんでいるかのよう。よほど余裕があるのか、それとも策があるのか、それは分からないけど。とにかく不快に思ってはいないみたい。
ただその反面、相手をしているラファルの厳しさは変わらない。グラッドの言葉にスッと瞳を細めた。
「グラッド………キミを倒してでも、その方を奪い返す」
決意を秘めた声色だけど、私を抱くこの男性はラファルの言葉を軽く一蹴した。
「ハッ! 言うようになったじゃねぇか。だが、それは出来ねぇ相談ってやつだな!」
「わっ……!」
言うや否や担ぎ上げられる。視界が反転して驚きで息をのむ。抵抗どころか掴むところさえない。慌てる私をよそにグラッドが歩き出す。
ラファルも一層焦り始める。
「待て! まさか飛び降りるつもりか!?」
「そのまさかだな」
真っ直ぐ向かっていくのは先ほどグラッドが現れた窓の方。って、いや、嘘でしょ?! ここ何階だと思ってるの?!
「ちょっとまっ……ね! ねえ!!」
不自然な体勢で上手く言葉がでない。もたついてる間にガタッと窓枠に足をかける音がした。
「それじゃあ、またな」
軽く挨拶してるけどここかなり高層なんだけど! もう半分下が見えてる! 怖すぎて思い切り目を瞑って、とにかく引き留めないと、と手探りで何か掴めるものを、と探す。探しながらも懸命に訴える。
「ちょ、まってまって!! お願い!!」
けど言葉も虚しく、軽い金属音と縄をかける音。バサバサっと葉が揺れる気配がして、すぐにグンッと嫌な浮遊感が来てしまった。
そのまま滑るような速度で落ちて地面が近づいてくる。
「ひっ、やぁぁああぁ!!」
言葉にならない必死の叫びは風にさらわれ、ぶつかる!!、と思った瞬間、地面の手前で止まった。でもその時には、激しい疲労感と安堵でぐったりとしてしまい抜け殻のようになっていた。
遠くから、グラッドを引き留めるラファルの声が聞こえる。
でも届かないと知った彼は最後に
― 漆黒の乙姫様、決して名を証してはなりません! ―
と、強い言葉を私の耳に残した。
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