替え玉の私に、その愛を注がないで…。~義姉の代わりに嫁いだ辺境伯へ、身を引くはずが……持ちかけられたのは溺愛契約。

翠月 瑠々奈

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「あれは……私が12になったときに祖父が贈ってくれたものなんです」

 ラシーヌが12歳になった誕生日、バンズが義母たちに内緒で渡したものだった。

 本当の家族を少しでも感じられるように──と。

 だがバンズが亡くなってすぐ、義母に取り上げられた。

 話を聞いていたソラティスが「そうか」と返す。

「ならば、君も所有権を主張できないか調べてみよう。俺は君となら……」
「私と?」

 ついこぼれた言葉を繰り返されて、ハッとした彼は誤魔化すように咳払いした。

「とにかく俺としては、あのペンダントさえ戻ってきてくれれば問題ない。そして君とは、すでに婚姻を結んでいる。もし我々の主張が通れば何も問題ないということだ」
「たしかに。問題ない、のでしょうか……?」

 納得しかけて、軽く首を振った。

「そうじゃないでしょう? ティスは構わないの?」
「ああ。アーティファクトが戻れば」
「そちらではなくて、私と……その。形だけではない、本当の夫婦となることです」

 彼女は迷うように視線を漂わせ、意を決したようにソラティスの手を取って握った。

「このままでは、あなたの心が置き去りになっています。これではあんまりじゃないですか」
「ラシーヌ……。いや、俺は君なら」
「あのペンダントさえ、取り戻せればいいのですよね。そうすれば婚姻を続ける必要もないと」
「そうだが、そうじゃない。ラシー、聞いてくれ。一度、整理して話を」
「大丈夫です。あなたの心は私が守りますから」

 強く握られた手。なぜか使命感に燃えている瞳。その勢いに圧倒されて、ソラティスは言葉を呑み込んだ。ラシーヌはその間、決意を新たにし、輝く瞳を瞬いた。

「私にお任せください。必ず取り戻しましょう」

 そう言った彼女に彼は思わず頷き、直後「いや、待ってくれ」と挟んだ声は届かなかった。


*  *  *


 数日後、ソラティスはラシーヌから提案を受けた。

 レイアからアーティファクトを取り戻すためにも、溺愛のフリは続けた方がいいという話だ。

「ここ数日考えましたが……やはりこの間の件、義姉は納得していないと思います」 

 昔からレイアはラシーヌのものは全て、自分のものと考えている節があった。だが先日の茶会でソラティスに手酷く拒絶された。

 自分より優先される義妹。許せない彼女は、何らかの方法でラシーヌに接触してくるだろうと考える。

「あの夜会で少なからずティスを気に入ったはずです。そこを逆手に取れば機会はあると思います」
「逆手に、か」

 そう言ったラシーヌだが、それはつまり、レイアの相手をしないといけないタイミングが来るということ。

 ソラティスは眉根を寄せて、険しい顔で腕を組む。

「それは……厳しい話だが」
「少しの間でいいのです。再びあなたが拒めば義姉は気にするはずです」
「拒んでいいのか?」
「ええ。二度も逃がしたとなれば、より執着するはず。そこにカナンやバルトネル、第三者からなんらかの話を持ちかけられれば乗るでしょう。たとえば、ヴァーガリア家に代々受け継がれる夫人の証のようなものを渡すとか。代わりにペンダントを渡してほしい、とか。そういうものはありますか?」
「夫人の証か……」

 ソラティスが呟く。その夫人の証と魔導飾アーティファクトを交換できないかと持ちかければ、きっと食いつくはず。彼女はアーティファクトの存在を知らないのだから、ヴァーガリア辺境伯の夫人の証という、目に見えやすい価値に飛びつくはずだ。

 ただ、証といっても一般的な指輪の交換はすでに済ませている。それで釣られるとは思わない。ラシーヌが言っているのは、祖母や母、女系に受け継がれるような特別な品だろう。

 ソラティスは一拍置いて、そういえば、と言う。

「確か祖母が持っていたネックレスがあったはずだ。母は趣味じゃないと受け取らなかったが……」
「ネックレス! それなら義姉が好きそうです。それにしましょう、それでダメなら、また策を考えればいいこと。今はこの案でいかがですか?」
「ああ、いいと思う。よろしく頼むよ」

 柔らかく微笑うソラティスに、ラシーヌも応えるように小さく頷く。二人はそれから、雑談して過ごした。
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