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へびのきゅうあい
03
しおりを挟む「うまいな」
「……んなわけないじゃん」
先の割れた赤い舌を見せつけるようにちろちろさせながら、指に付いた白濁を舐めとって見せる。やっぱり変態だ。こっちが本物の変態。俺なんて序の口だ。
「も、いいからそれ拭いて」
「全部舐めても問題ないが?」
「俺が問題ある」
「ほう……?」
その俺の嫌がることをしたい、って書いてある顔やめて。知ってたけど、ヤトってドエスだ。
手近にいいものがなかったから、すでに汚れている布団を引っ張ってきてヤトの腹を拭う。すべて拭き終わってから、その胸にぴとりと体を寄せた。
汗で濡れた体同士なんて、他の人だったら絶対にごめんだって思うのに……ヤトがすごく綺麗だからなのか、それとも何かもっと別の気持ちなのかわかんないけど、こうしてるとすごく落ち着く。
「突然、愛いことをするな。お前は」
「……別に、普通じゃん」
すり、と肩口に顔を寄せるといい匂いがした。これ、ヤトの匂いかな?
今まで気づかなかったけど、すごくいい匂い。
お香みたいなほんのりと甘い……でも、痺れるような匂い。もっと嗅ぎたくて、その匂いがさらに濃く感じる首元に鼻を近づけてみる。
「睦月……?」
ヤトが俺の名前を呼ぶ声が、何だか困惑して聞こえた。なんだろう?
でも今は、それよりもこの匂いのほうが気になる。もっとたくさん吸い込みたくて、首元に顔を擦り寄せる。
一度達して毒の効果はすっかりなくなっていたのに、その匂いを嗅いでいると何だかほんわりと頭の奥が解けていくみたいになる。匂いに酔った?
「お前、もしかして」
「ぁ、ヤト……」
何かに気づいたヤトが俺から体を離そうとするから、慌ててしがみつく。嫌だ、もっとこの匂いを嗅いでいたい。
ぎゅっと少し長めのヤトの首に腕を回して、肩に頭をくっつける。
そして、目の前いっぱいに広がった白い肌を見て、ある衝動に駆られた。
―――噛みたい。
この肌に自分の跡を残さないと。これは、俺のだ。
とても大事な、大切な……俺の。
「―――ッ」
ヤトの体がびくりと震えて、俺はハッと我に返った。
目の前の白い肌についた赤い跡は、紛れもなく俺の歯型だ。しかもそこからは赤い血が流れている。
「……俺、何して」
自分がやったことなのに、訳がわからない。
なんで俺、ヤトに噛みついたんだっけ。なんで、こんなこと。
「……舐めろ」
「え?」
「嫌でないのなら、それを舐めとれ」
―――それって、このヤトの血のこと?
さっきからしていた匂いがさらに濃くなったみたいだった。それに、何だかもっと甘い匂いもする。なんだろう、これ。
言われるままに、ヤトにつけてしまった傷に唇を寄せた。ぺろりと舌でその血を掬い取って、その味に驚く。
「甘い……―――」
ヤトの血は甘かった。花の蜜のような、澄んだ甘さ。自分の血のような鉄臭さは一切ない。ずっと舐めていたくなるような甘い味に、俺は夢中でその傷を舐める。
気が付くと、傷がなくなっていた。
跡形もなく消えて、その下から赤い痣が現れる。その痣には俺にも見覚えがあった……同じものが、俺の体にもあるからだ。
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