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第72話 埋められた声
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森の空気が、一瞬にして重たくなった。
紅葉の幻が消えたあと、風さえ止まったように感じられた。
木々が息を潜め、地面の下から何かが“聴いている”ような、奇妙な圧があった。
春香が、美奈の手を握る。
その手は冷たく、指先が震えていた。
「……美奈、戻ろう。もう、これ以上は──」
だが、美奈は小さく首を振った。
彼女の目は、紅葉が立っていたあたりの地面に釘づけになっていた。
「……ここ。足跡がある」
湿った土の上に、小さな靴の跡が残っていた。
だが、それは途中でぷつりと途切れ、
代わりに、円を描くように地面がわずかに盛り上がっている。
しゃがみこんで指でなぞると、土がまだ柔らかい。
最近、誰かが掘り返したようだった。
「まさか、動物の巣とかじゃ──」
春香の言葉を遮るように、遠くでカラスが鳴いた。
それが合図のように、美奈は手にしていた枝を突き立てる。
ぐっと力を込めて土を掻くと、腐葉が剥がれ、湿った泥の下から何かが覗いた。
──白い。
最初は、石かと思った。
だが、よく見るとそれは細長く、丸みを帯びている。
土を払うと、それは──骨だった。
春香が口元を押さえ、後ずさる。
美奈は息を呑み、枝を投げ出した。
掘り返された穴の中から、折れた小枝と共に、小さな布切れが見えた。
それは紅葉が祭りの夜に着ていた浴衣の柄──白地に紅い桜。
「……そんな、どうして……」
春香の声が震える。
美奈は、泥にまみれた布を拾い上げた。
その指に、何か硬いものが触れた。
小さな、錆びたペンダント。
中を開けると、写真が入っていた。
紅葉と美奈。二人が笑って肩を寄せ合っている、祭りの夜の写真だった。
だが、その裏面に、黒いペンで何かが書かれていた。
──「呼ばれたの、今度はあなた」
風が再び吹き抜け、森がざわめく。
どこからか、紅葉の笑い声のようなものが混じった。
春香が叫ぶ。
「美奈ちゃん、離れて! それ、置いて!」
だが、美奈の手は動かない。
ペンダントを握りしめたまま、彼女の瞳は空ろになっていた。
「……紅葉……私、今度こそ迎えに行くから──」
その瞬間、地面の奥から、何かが軋むような音がした。
まるで誰かが、下から扉を叩いているかのように。
春香の背筋を、凍えるほどの寒気が走った。
──森の奥で、何かが“目を覚ました”。
紅葉の幻が消えたあと、風さえ止まったように感じられた。
木々が息を潜め、地面の下から何かが“聴いている”ような、奇妙な圧があった。
春香が、美奈の手を握る。
その手は冷たく、指先が震えていた。
「……美奈、戻ろう。もう、これ以上は──」
だが、美奈は小さく首を振った。
彼女の目は、紅葉が立っていたあたりの地面に釘づけになっていた。
「……ここ。足跡がある」
湿った土の上に、小さな靴の跡が残っていた。
だが、それは途中でぷつりと途切れ、
代わりに、円を描くように地面がわずかに盛り上がっている。
しゃがみこんで指でなぞると、土がまだ柔らかい。
最近、誰かが掘り返したようだった。
「まさか、動物の巣とかじゃ──」
春香の言葉を遮るように、遠くでカラスが鳴いた。
それが合図のように、美奈は手にしていた枝を突き立てる。
ぐっと力を込めて土を掻くと、腐葉が剥がれ、湿った泥の下から何かが覗いた。
──白い。
最初は、石かと思った。
だが、よく見るとそれは細長く、丸みを帯びている。
土を払うと、それは──骨だった。
春香が口元を押さえ、後ずさる。
美奈は息を呑み、枝を投げ出した。
掘り返された穴の中から、折れた小枝と共に、小さな布切れが見えた。
それは紅葉が祭りの夜に着ていた浴衣の柄──白地に紅い桜。
「……そんな、どうして……」
春香の声が震える。
美奈は、泥にまみれた布を拾い上げた。
その指に、何か硬いものが触れた。
小さな、錆びたペンダント。
中を開けると、写真が入っていた。
紅葉と美奈。二人が笑って肩を寄せ合っている、祭りの夜の写真だった。
だが、その裏面に、黒いペンで何かが書かれていた。
──「呼ばれたの、今度はあなた」
風が再び吹き抜け、森がざわめく。
どこからか、紅葉の笑い声のようなものが混じった。
春香が叫ぶ。
「美奈ちゃん、離れて! それ、置いて!」
だが、美奈の手は動かない。
ペンダントを握りしめたまま、彼女の瞳は空ろになっていた。
「……紅葉……私、今度こそ迎えに行くから──」
その瞬間、地面の奥から、何かが軋むような音がした。
まるで誰かが、下から扉を叩いているかのように。
春香の背筋を、凍えるほどの寒気が走った。
──森の奥で、何かが“目を覚ました”。
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