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第113話 森の裂け目に残った足跡
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紅葉の部屋で見つかった紙片を春香が胸に抱きしめたまま、三人はその足で森へ向かった。
夜ではないのに、森はなぜか夕闇のように薄暗い。
木々の間を抜ける風は重たく湿っており、耳鳴りのような低いざわめきを運んでくる。
「……ここ、変わったよね。昔はもっと明るかったのに」
美奈が呟くと、春香は首を振った。
「違うわ、美奈ちゃん。変わったのは……私たちのほうよ。
紅葉がいない世界の色が、全部、暗く見えるだけ」
言葉は強くても、春香の声は震えていた。
祐真は前を歩きながら、ふと足を止めた。
「……ここだ」
美奈も春香も、祐真の視線を追った。
そこは、森の中でもとりわけ木々が密集し、
にもかかわらず ぽっかり円形に空間が開けた“裂け目”のような場所 だった。
どこか不自然に、地面だけが浅く沈み込んでいる。
「ここ……紅葉が見つかった場所じゃないよね?」美奈が不安を滲ませる。
祐真はゆっくりと首を横に振る。
「違う。紅葉の足取りは、この先で途切れてる。
でも……ここは二十年前、美桜ちゃんが最後に目撃された場所だ」
春香は息を止めた。
「……そんな……。同じ場所……?」
祐真はその沈んだ地面に膝をつき、手袋越しにそっと触れた。
そのとき、美奈が呟く。
「……ねえ、見て」
ひび割れた地面に、足跡が残っていた。
だがそれは 紅葉の靴のサイズでもないし、美奈たちのものでもない。
もっと、小さい。
「……子どもの足跡?」美奈の顔色が変わる。
「こんな場所に子どもが来るわけないだろ……」祐真が唸るように言う。
春香の胸中に、冷たいものが広がっていく。
美桜が失踪したのは三歳のとき。
もしこれが──
「……まさか……美桜の……?」
自分で言った言葉に、春香は震えた。
そんなはずはない。
二十年も前の、幼い娘の足跡が、今この場所に残っているなんて。
だが祐真は何も否定しなかった。
ただ、地面を見つめ、眉根を寄せたまま呟く。
「つい最近のものだ。土の沈み方からして、数日……いや、一週間も経ってない」
美奈が悲鳴のような息を漏らした。
その瞬間、森の奥から風が吹き抜け、三人の身体が冷気に包まれた。
どこからともなく、葉が擦れる音がした。
それは “自然の音” ではなく、まるで 何かがそこに立っているような気配 を伴っていた。
春香は祐真の肩にしがみつく。
「祐真さん……ここで、美桜も……紅葉も……“呼ばれた”の?」
祐真の喉が、乾いた音を立てる。
美奈も震える声で問う。
「……祐真さん。一つだけ教えて。
紅葉……ここで泣いてた? 怖がってた? 私……あのとき気づいてあげられなかったの?」
美奈の目が涙で滲む。
祐真はゆっくりと、美奈と春香を見た。
そして、言った。
「──泣いてなかった。
紅葉さんは……ここで、誰かを見ていた。
二十年前の美桜ちゃんと……同じように」
森のざわめきが、まるで笑っているように聞こえた。
春香は凍りついた声で呟く。
「誰に……呼ばれて……?」
答えはまだ闇の向こう。
しかし三人は悟った。
紅葉も美桜も、同じ何かに触れ、そして消えた のだ。
そして──その “何か” は、まだ森にいる。
夜ではないのに、森はなぜか夕闇のように薄暗い。
木々の間を抜ける風は重たく湿っており、耳鳴りのような低いざわめきを運んでくる。
「……ここ、変わったよね。昔はもっと明るかったのに」
美奈が呟くと、春香は首を振った。
「違うわ、美奈ちゃん。変わったのは……私たちのほうよ。
紅葉がいない世界の色が、全部、暗く見えるだけ」
言葉は強くても、春香の声は震えていた。
祐真は前を歩きながら、ふと足を止めた。
「……ここだ」
美奈も春香も、祐真の視線を追った。
そこは、森の中でもとりわけ木々が密集し、
にもかかわらず ぽっかり円形に空間が開けた“裂け目”のような場所 だった。
どこか不自然に、地面だけが浅く沈み込んでいる。
「ここ……紅葉が見つかった場所じゃないよね?」美奈が不安を滲ませる。
祐真はゆっくりと首を横に振る。
「違う。紅葉の足取りは、この先で途切れてる。
でも……ここは二十年前、美桜ちゃんが最後に目撃された場所だ」
春香は息を止めた。
「……そんな……。同じ場所……?」
祐真はその沈んだ地面に膝をつき、手袋越しにそっと触れた。
そのとき、美奈が呟く。
「……ねえ、見て」
ひび割れた地面に、足跡が残っていた。
だがそれは 紅葉の靴のサイズでもないし、美奈たちのものでもない。
もっと、小さい。
「……子どもの足跡?」美奈の顔色が変わる。
「こんな場所に子どもが来るわけないだろ……」祐真が唸るように言う。
春香の胸中に、冷たいものが広がっていく。
美桜が失踪したのは三歳のとき。
もしこれが──
「……まさか……美桜の……?」
自分で言った言葉に、春香は震えた。
そんなはずはない。
二十年も前の、幼い娘の足跡が、今この場所に残っているなんて。
だが祐真は何も否定しなかった。
ただ、地面を見つめ、眉根を寄せたまま呟く。
「つい最近のものだ。土の沈み方からして、数日……いや、一週間も経ってない」
美奈が悲鳴のような息を漏らした。
その瞬間、森の奥から風が吹き抜け、三人の身体が冷気に包まれた。
どこからともなく、葉が擦れる音がした。
それは “自然の音” ではなく、まるで 何かがそこに立っているような気配 を伴っていた。
春香は祐真の肩にしがみつく。
「祐真さん……ここで、美桜も……紅葉も……“呼ばれた”の?」
祐真の喉が、乾いた音を立てる。
美奈も震える声で問う。
「……祐真さん。一つだけ教えて。
紅葉……ここで泣いてた? 怖がってた? 私……あのとき気づいてあげられなかったの?」
美奈の目が涙で滲む。
祐真はゆっくりと、美奈と春香を見た。
そして、言った。
「──泣いてなかった。
紅葉さんは……ここで、誰かを見ていた。
二十年前の美桜ちゃんと……同じように」
森のざわめきが、まるで笑っているように聞こえた。
春香は凍りついた声で呟く。
「誰に……呼ばれて……?」
答えはまだ闇の向こう。
しかし三人は悟った。
紅葉も美桜も、同じ何かに触れ、そして消えた のだ。
そして──その “何か” は、まだ森にいる。
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