紅葉-くれは-

菊池まりな

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第136話 村が隠してきたもの

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 朝の光が差し込むにつれ、森は“普通の場所”の顔を取り戻していった。
 昨夜の異様な気配が、すべて錯覚だったかのように。
 だが、三人の胸に残る重さは消えない。
 祐真は、駐在所に戻る途中で車を止めた。
 村の外れ、使われなくなった集会所の前だった。
「……ここ、寄っていきたい」
 春香が怪訝そうに見る。
「こんな所に、何が?」
 祐真はハンドルから手を離さず、低く答えた。
「……“記録”が残ってる」
 集会所は、鍵がかかっていなかった。
 それ自体が、異様だった。
 中は埃っぽく、古い畳の匂いがこもっている。
 壁際には、年代物の戸棚が並び、帳簿や名簿が無造作に詰め込まれていた。
 美奈が、ふと声を落とす。
「……なんで……
 こんな大事なもの、放置してあるの……?」
「……残してるんだ」
 祐真は言った。
「……“消す”より、“置いておく”方が……
 この村は、得意だから……」
 祐真が一冊の帳簿を引き抜く。
 表紙は色褪せ、「行事記録」とだけ書かれていた。
 ページをめくる音が、やけに大きく響く。

 ──昭和○○年 秋祭り
 ──異常なし

 ──昭和○○年 秋祭り
 ──不参加者一名(体調不良)

 ──昭和○○年 秋祭り
 ──途中退席一名

 祐真の指が止まった。

 ─平成○年 秋祭り
 ──行方不明者一名
 ※後日処理済

 春香が、息を詰める。
「……処理……?」
 ページをめくると、次の行には名前があった。

 橘 美桜(3歳)

 春香は、その場に崩れ落ちそうになる。
「……そんな……
 “行方不明”じゃない……
 あの子は……!」
 祐真は、さらにページをめくった。

 ──平成○年以降
 ──秋祭り規模縮小
 ──記録簡略化

 美奈が震える声で言う。
「……簡略化って……
 隠したってこと……?」
 祐真は、別の書類を取り出した。
 それは、村の古い“申し送り”だった。
「……“森に近づきすぎた子は……
 戻らないことがある”……」
 春香が顔を上げる。
「……そんなの……
 ただの噂でしょう……?」
 祐真は、首を振った。
「……違う……
 “注意”だ……」
 美奈の背筋に、冷たいものが走る。
「……じゃあ……
 村の人たちは……
 知ってて……?」
 祐真は、はっきりとは答えなかった。
 ただ、一行を指さす。
 ──“呼ばれた場合、探さぬこと”
 沈黙が落ちた。
 春香の胸に、怒りと絶望が込み上げる。
「……じゃあ……
 20年前も……
 誰も、本気で……
 探そうとしなかった……?」
 祐真は、目を伏せた。
「……探した人は……
 いた……」
「……誰?」
「……“村から、消えた人たち”だ……」
 美奈が、かすかに声を漏らす。
「……消えた……
 人たち……?」


 その瞬間、集会所の外で、
 ぎい……
 と、扉が軋む音がした。
 三人は、同時に振り返る。
 そこに立っていたのは──
 白髪混じりの老人だった。
「……ああ……
 やっぱり……
 見つけてしまったか……」
 老人は、疲れ切った声で続ける。
「……あの森はな……
 “連れていく”んじゃない……」
 一歩、こちらに近づく。
「……“受け取る”んだ……
 村が……
 昔から……」
 春香の視界が、ぐらりと揺れた。
 村が、子どもを差し出してきた。
 その事実が、ようやく、言葉として形を持ち始めた。
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