紅葉-くれは-

菊池まりな

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第151話 鈴の行方

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霧の中で、鈴の音が止んだ。

春香、美奈、祐真、紅葉、美桜──

五人は足を止め、互いの存在を確かめるように視線を交わす。

「……今、消えた?」
美奈の声が、霧に吸い込まれそうになる。

祐真は首を振った。

「いや。“止んだ”だけだ。  鳴らす必要がなくなったんだろう」

「必要が……なくなった?」

春香が問い返す。

そのとき、美桜が小さく春香の手を引いた。

「……あっち」

指さす先。

霧の奥に、古い石段が浮かび上がっている。

苔むき、崩れかけた段。

だが、その中央に──
小さな鈴が落ちていた。

錆びつき、色もくすんでいる。

だが確かに、紅葉が失踪した夜、祭りの屋台で売られていたものと同じ形。

紅葉が息を呑む。

「……それ……」

春香は一歩、前に出た。

「紅葉のじゃない。  あなたは、あれを身につけてなかった」

紅葉はゆっくり頷く。

「うん……。  でも……見覚えがある。 “つけてる子”を、見た」

祐真が眉をひそめる。

「誰だ?」

紅葉は、しばらく考え──首を振った。

「思い出せない。 顔が……曖昧で……」

その瞬間、美奈がはっとした。

「……森は、“役割”で人を呼ぶ。  名前じゃなくて……」

春香が、鈴を見つめたまま呟く。

「“代わり”にできる存在を……」

空気が、冷えた。

美桜が、鈴をじっと見つめて言った。

「……この音…… わたしが、いなくなったときも……」

春香の喉が詰まる。

「美桜……?」

「ちがう」

美桜は、首を横に振った。

「わたしじゃない。 でも……わたしの“あと”」

祐真が、静かに結論を口にする。

「……森は、最初から紅葉を選んだわけじゃない。 “美桜の次”を探していただけだ」

美奈が唇を噛む。

「だから、年齢も、性別も、関係なかった……」

「違うわ」

春香が、はっきり言った。

全員の視線が集まる。

「森が呼んだのは、“代わり”なんかじゃない。  呼ばれやすい声よ」

春香は、紅葉と美桜を見つめる。

「私は……ずっと呼び続けてた。 美桜を。  取り戻したくて……」

胸に手を当てる。

「その声が、森に“隙”を与えた。 そして……次に引き寄せられたのが、紅葉だった」

紅葉の目に、涙が溜まる。

「……じゃあ…… 私が消えたのは……」

「違う!」

春香は、きっぱりと言い切った。

「あなたのせいじゃない。 私が──母親として、森に縋ったせい」

祐真が一歩、前に出る。

「……だから五人なんだ」

全員が、彼を見る。

「奪われた側が二人。 呼び続けた者が一人。 止めようとした者が二人」

祐真は、霧の向こうを見据える。

「均衡を壊すには、  同じ数だけ、意思が必要だった」

鈴が、かすかに震えた。

もう音は鳴らない。

ただ、そこにあるだけ。

美奈が静かに言う。

「……これ、森に返すんじゃない。  “置いていく”のよ」

春香は、鈴を拾い上げ──石段の端に置いた。

「もう、誰も呼ばれない」

霧が、ゆっくりと薄れていく。

遠くで、鳥の声がした。

今度は──
本物の朝の音だった。

だが、最後に一度だけ。

霧の奥から、低く、重い気配が揺れた。

──……まだ……

声にならない声。

森は、完全には諦めていない。

祐真が、低く呟く。

「……終わらせるには、もう一度だけ……  “向き合う場所”があるな」

春香は頷いた。

「ええ。  でも今度は──逃げない」

五人は、並んで歩き出す。

本当の出口へ。
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