学生服の悪魔

式波博也

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忍び寄る死

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プロローグ

この世には闇がある。
この世には光がある。
光と闇は互いに拮抗(きっこう)し、戦いあい・・・・・・・・・そうして物語が生まれる。
陽は陰を、闇は光を生み出していく。


ここに物語る、一つの物語も闇と光を生きた・・・・・・・・一人の人間の物語である。
その男の名前は日向櫂。最も凶悪な殺人鬼になった男・・・・・・

 

「どこだ!奴は!」
 そう怒声が響く。
 怒鳴っているのは一人の大柄な警察官だ。
 彼は大柄でやや太り、当然のごとく、警官の制服を着ている。
 頭に血が昇りやすい激情型の彼は名前を海老沼(えびぬま)と言った。
「分かりません」
 そう、もう一人の警官が言う。
 彼は中肉中背の男だ。
 海老沼より冷静に見える彼は、名前を迎(むかえ)と言った。
 この二人の警察官はある犯人を追い詰めていた。
 その犯人の名前は日比谷。
  最近、この下塚市で通り魔をしている凶悪な犯罪者だ。
 神奈川県下塚市。
 人口は二十万ほどの美しい都市である。
 神奈川のほぼ真ん中にあり、海岸もある。
 この物語はそんな平和な一都市から始まる。


「○○通りよりこちら応答、現在、ホシは桜沼通りを走っている模様」
 そう無線の先から声がする。
 その無線を聞くと、海老沼と迎はパトカーに乗り現場へと急行した。
 犯人を捕まえる本能。それは警官としての義務である。
 加えて犯人を捕まえると言う手柄。
 海老沼はそんな本能で敵を追い詰めていった。
 海老沼と迎の二人は順調に犯人との距離を詰めていく。
 走り過ぎる深夜の街。
 赤い光。


そうして犯人は追い詰められた。
 道を誤ったのか、彼は行くところのない袋小路に行き着く。
「観念したか!日比谷」
 そうパトカーを降り海老沼が言う。
 日比谷と言われた男はどこにでもありそうなジーパンにフード付きのパーカーを被っていた。
 彼は慌てた様子もない。
 フードで表情は読めないが、息をあらげた様子もない。
「お前を逮捕する!」
 そう言い海老沼が拳銃を構えたときだった。
 隣に立っていた迎が突然、膝を折った。
「ぎゃああああ、熱い熱い熱いいいいいいい」
 そう叫び、悶絶する迎。
「どうした!」
 あいも変わらず拳銃を構えながら、横目で相棒の様子を見た海老沼。
 この距離でもわかるほど、迎の足は燃えていた。
 しかしよく見る赤い炎のように鮮やかにではない。
 黒い炎が消し炭のように迎の足を焼ききってしまう。
 やがて迎は上半身だけになると、動かなくなった。
 死。
 海老沼の目前には死がある。
 死は海老沼に向けて顔を向けていた。
 思わず嫌な連想をする海老沼。
 なぜか彼は自身の子供時代を思い出していた・・・・
「はあはあはあはあ」
 海老沼は恐怖と戦っていた。
 火?
 いつ?
 どこで?
 日比谷が?
 そうして汗をかきつづける海老沼。
「見てくれたかい、刑事さん。いや、お巡りさん?俺のマジックを。足を狙うのは許せよ?それが基本だ。でも、大丈夫、おじさんは全身、灰にしてあげるから。きっと苦しんだりもしないと思うよ」
「うおおおおおおおおお」
 そう言い、今度は海老沼は拳銃で日比谷を狙い撃った。
 しかし日比谷に当たった様子はない。
「ああ、銃火器かあ。俺にはそんなものとどかないと思うよ。見えないか?俺の炎が」
 しかし海老沼には何も見えない。
 一瞬のパニックの後、とっさにこの敵には拳銃は使えないと判断。
 相手の攻撃を躱したところを襟を掴んで投げる作戦に切り替える。
(こい、日比谷)
 しかし日比谷はすぐには来なかった。
 日比谷の全身に海老沼は神経を集中させる
(はあはあはあはあ)
 海老沼は死の恐怖を感じながらもなんとか事態の打開に動こうとしていた。
 この相手は手強い。
 ただの強盗犯ではない。
 おそらくは噂に聞く、異能の者か。
 しかし彼は人間、それ以上はどうすればいいかわからない。
 海老沼は応援を喚ぶことも忘れていた。
「何かびっくりするものはないのか?まあそうか警察もまだ異能には不慣れなんだな」
 そう日比谷は呟く。
 そうしてすばやい動きで海老沼に距離を詰める日比谷。
 後の先を取るべく攻撃に身構える海老沼。
 しかし攻撃はさっきと違った。
 見えない炎は海老沼の足ではなく、顔に直接きた。
 思わず悲鳴を上げる海老沼。
 しかし其の意志だけは強情に何かをつかむように両手を差し伸べる。 その手が日比谷の服に触った瞬間、日比谷は海老沼の内股を喰らっていた。
「いつつ。これ痛覚遮断してなかったら、しばらく起き上がれなかったかも」
  でも、といい殺人鬼は能力を行使する。
  瞬間海老沼の全身に火が付いた。近くには水のみ場もない。
  やがて海老沼の体は炎に包まれ大人しくなった。
  そうして、この夜の戦いも終わった・・・・・
  彼は口元をゆがめて笑う。
 (今日はいい日だ)
  そう思い彼は高らかに笑う。
  その笑いはいつまでも街の闇にこだましていた。

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