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依頼
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テレビのニュースを消すと、唯はコーヒーを飲み、櫂は変わらず、何かの本を読み続けている。
そのまま時が流れる。
二人の居るのは雪ヶ谷探偵事務所の所長室である。
所長用のケヤキのデスクとブラインドのかかった窓、テレビ。後は仏壇。
調度品はあまりない。
殺風景なのは、唯も百も承知だ。
けれど唯にはこの部屋を飾る必要も欲求も無かった。
雪ヶ谷唯が探偵を始めて三年経つが、この部屋だけは、まったく変わることは無い。
事務所を手伝う時頼さんだけが、唯にしつこく、この部屋を飾るように言う。
しかし頑固な唯は、その忠告を聞かないでいるのだった。
「さっきのニュース、気になる?櫂」
沈黙を破るように唯が言う。
「ああ、そうだな。あの殺人はいずれ回ってくる。そんな気はしたよ。そのうち依頼がここに来るだろう」
「警察は威信にかけてもあの殺人鬼を逮捕すると思うけど?」
「だが、異能の者だしな・・・・・・警察も最近になっても異能対策をしていないらしいし・・・・・・」
「手に負えないってこと?」
「ああ、そんな気がする。俺の勘ではな」
「そう」
「・・・・・・・・後二十日で十二月ね」
「ああ」
「あんた、相変わらず独り身なの?クリスマスとかはしないんだ?」
「独り身なのは所長もだろう?俺はクリスマスなんて興味はないよ、今のところ」
「真琴さんに連絡してる?あんたの唯一の身内でしょ?」
「いや、もう去年以来連絡していないな」
「ダメじゃないちゃんと連絡しなきゃ」
そんなことを二人が話していると、突然、人が入ってきた。
入ってきたのは、まだ溌剌としたいかにも新入社員と言った女性である。
「先輩、所長、依頼です!すぐに電話代わってもらえますか?私では分からないので」
そう言うのは池上はるか、ここの探偵事務所の社員である。
ストレートな黒髪にYシャツ、ネクタイにスーツをしている姿はいかにも初々しい新人社員らしい。
彼女は去年の四月から入ったばかりだ。
まだ経験も浅く、ミスも多い。
それでもけなげに頑張る姿は、所長である唯も認めるところだった。
「そう、電話代わるわ」
そう唯が言い、電話のつながっている事務室へと向かう。
「依頼は誰からだ?」
「それが・・・・・・・・どうやら警官殺しの事件の遺族からのようです」
「そうか、思ったより早かったな」
「?早かった?」
「いや、なんでもない」
そう言うと櫂は口を濁した。
「テレビのニュースは見ていたか?」
「はい、どこも警官殺しで騒いでましたから」
「そうか。こいつは警察にとって難儀だからな。だからウチに依頼してきたんだろう」
「そうですか」
「異能の者だ」
「!異能の・・・・・・」
「ああ」
「それは難儀ですね」
「ああ、そうだな警察にとっては。だからウチみたいな異能専門の俺がいるんだけどな」
そう日向櫂は言うと、煙草を吹かす。
櫂にはこう見えて神経質な所がある。
それを唯は察せるが、まだ新人のはるかには分からない。
櫂はイライラした時には煙草を吹かす。
そうして彼は消えていく煙を黙ってじっと見つめていた。
やがて唯は電話を終えると、所長室に戻ってきた。
「櫂、依頼。例の警官殺しの異能の者を捕まえてくれって。警官はプライドから私達に依頼できないけれど、遺族が直接私達に言ってきた。例の警官殺しの犯人を捕まえてくれって。引き受けられる?報酬も弾むわ」
「ああ・・・・・多分な、いや・・・・・」
「いや・・・・・何?」
「なんでもない」
その時、櫂は何か嫌な予感がした。
その予感は後になって嫌というほど的中することになる・・・・・・
その日、櫂達は何事もなく、仕事を終えた。
櫂にはまだやることが残っている為、彼は家で仮眠を取る
そのまま時が流れる。
二人の居るのは雪ヶ谷探偵事務所の所長室である。
所長用のケヤキのデスクとブラインドのかかった窓、テレビ。後は仏壇。
調度品はあまりない。
殺風景なのは、唯も百も承知だ。
けれど唯にはこの部屋を飾る必要も欲求も無かった。
雪ヶ谷唯が探偵を始めて三年経つが、この部屋だけは、まったく変わることは無い。
事務所を手伝う時頼さんだけが、唯にしつこく、この部屋を飾るように言う。
しかし頑固な唯は、その忠告を聞かないでいるのだった。
「さっきのニュース、気になる?櫂」
沈黙を破るように唯が言う。
「ああ、そうだな。あの殺人はいずれ回ってくる。そんな気はしたよ。そのうち依頼がここに来るだろう」
「警察は威信にかけてもあの殺人鬼を逮捕すると思うけど?」
「だが、異能の者だしな・・・・・・警察も最近になっても異能対策をしていないらしいし・・・・・・」
「手に負えないってこと?」
「ああ、そんな気がする。俺の勘ではな」
「そう」
「・・・・・・・・後二十日で十二月ね」
「ああ」
「あんた、相変わらず独り身なの?クリスマスとかはしないんだ?」
「独り身なのは所長もだろう?俺はクリスマスなんて興味はないよ、今のところ」
「真琴さんに連絡してる?あんたの唯一の身内でしょ?」
「いや、もう去年以来連絡していないな」
「ダメじゃないちゃんと連絡しなきゃ」
そんなことを二人が話していると、突然、人が入ってきた。
入ってきたのは、まだ溌剌としたいかにも新入社員と言った女性である。
「先輩、所長、依頼です!すぐに電話代わってもらえますか?私では分からないので」
そう言うのは池上はるか、ここの探偵事務所の社員である。
ストレートな黒髪にYシャツ、ネクタイにスーツをしている姿はいかにも初々しい新人社員らしい。
彼女は去年の四月から入ったばかりだ。
まだ経験も浅く、ミスも多い。
それでもけなげに頑張る姿は、所長である唯も認めるところだった。
「そう、電話代わるわ」
そう唯が言い、電話のつながっている事務室へと向かう。
「依頼は誰からだ?」
「それが・・・・・・・・どうやら警官殺しの事件の遺族からのようです」
「そうか、思ったより早かったな」
「?早かった?」
「いや、なんでもない」
そう言うと櫂は口を濁した。
「テレビのニュースは見ていたか?」
「はい、どこも警官殺しで騒いでましたから」
「そうか。こいつは警察にとって難儀だからな。だからウチに依頼してきたんだろう」
「そうですか」
「異能の者だ」
「!異能の・・・・・・」
「ああ」
「それは難儀ですね」
「ああ、そうだな警察にとっては。だからウチみたいな異能専門の俺がいるんだけどな」
そう日向櫂は言うと、煙草を吹かす。
櫂にはこう見えて神経質な所がある。
それを唯は察せるが、まだ新人のはるかには分からない。
櫂はイライラした時には煙草を吹かす。
そうして彼は消えていく煙を黙ってじっと見つめていた。
やがて唯は電話を終えると、所長室に戻ってきた。
「櫂、依頼。例の警官殺しの異能の者を捕まえてくれって。警官はプライドから私達に依頼できないけれど、遺族が直接私達に言ってきた。例の警官殺しの犯人を捕まえてくれって。引き受けられる?報酬も弾むわ」
「ああ・・・・・多分な、いや・・・・・」
「いや・・・・・何?」
「なんでもない」
その時、櫂は何か嫌な予感がした。
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