月が導く異世界道中

あずみ 圭

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三章 ケリュネオン参戦編

学園祭の脇で レンブラント&ザラ

単行本七巻部分のダイジェストになります。
ダイジェストとしては多分こちらが本体になりますね。
今回はレンブラントさん&ザラさんにご登場願いました。
********************************************


 ロッツガルド学園の秋の一大イベントと言えば学園祭である。
 元々は創立記念~と長々続く堅苦しい行事だったそれは、今では端的に学園祭という名で周知されている。
 とはいえスケールダウンした訳ではない。
 一週間あまりも続く大規模な催しになり、主立った各国からもそれなり以上の地位にある者が来賓として訪れる、むしろ年々盛り上がっていると言えた。
 この時期になると観光目的で街を訪れる人々の数も増え、当然ながら生徒の関係者なども何ヶ月も前から準備を整え学園を訪ねてくる。
 一年で一番街が沸く時期だった。

「久しいな、この辺りも」

「さも懐かしそうに言うじゃないか。さほどの思い出もないくせに」

「そうでもないさ。確かにいた時期も思い出も、そうないがな。行商時代、この学園には随分と悩まされたもんだ」

「……覚えてたのか」

「忘れはせんよ。俺の商人史の中でも屈辱、苦渋、絶望……そんな言葉の多くがこの街の周りに散らばっている」

「ならどうして、お前はあんな辺境に行った? ここで一緒にやろうと言った俺を一蹴して、忍耐なんぞ欠片も見せずにさっさと消えやがって」

「……あの頃は色々あった。まあいずれ、お前に話す事もあるかもしれんが今する話でもなかろう?」

「最早すっかり昔話だ。だからこそ聞きたいんだがな。血を見る事も厭わず、躊躇いもなく背筋が冷たくなる真似をしてきたお前があっさり尻尾を丸めて消えた。ありゃあ、俺にとっちゃ今でも喉につかえたまんまの謎なんだぜ?」

 街は通りの大小を問わず賑わいに包まれている。
 そんな様子を上から眺めながら、二人の男性が話をしていた。
 お互いに街を見つめ、目は合わせていない。
 ロッツガルド、商人ギルドの中。
 見た目にも豪華な調度品に囲まれた最高の応接室に彼らはいた。
 一人は辺境から我が子の成長を、というか愛娘の姿を見に来た商人。
 もう一人はこの街の商人のトップに君臨するギルドの代表だった。
 質問への答えを濁した辺境の豪商に対し、ロッツガルドのギルド代表はそれを良しとせず、更に追求する。
 しばらくの沈黙が続き、口から小さく笑みを零したのは客人である辺境の商人、パトリック=レンブラントだった。

「……ふふ、妙に突っかかるな、ザラ。まあ立ち話もなんだ、座ろうじゃないか」

「それは俺が客人のお前に言ってやる事だろうが。向こうじゃ礼儀はいらんのか?」

「お前がさっさと勧めんから、俺が代わりに言ってやっただけだ。俺ももう年なんだ、街を見るのは好きだが、話をするなら座って落ち着きたい」

「……。ふぅ」

「今日は商談でお前と相対してる訳じゃないしな。昔馴染みとの懐かしい再会だ」

「それでいて昔話を嫌がるとはどういう了見だ。あんな荷物まで寄越しておいて」

 ザラと呼ばれた男は機嫌の良さそうなレンブラントとは違い、この部屋に来てから終始不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。

「荷物? はて、何の事か。まあ、今日は時間を取ってもらっているんだ。ゆっくり話そうじゃないか。なあ」

「とぼけやがって。それも絶対に聞かせてもらうからなパット」

 一つ大きなため息を漏らし、ザラもレンブラントの対面に座る。
 どちらも良く沈む高級なソファーだった。
 二人の間には透明なクリスタルのテーブル。
 しかしその場にいる二人には全く違和感がない。
 こうした高級品を周囲に置くことに慣れている様子だった。

「旧友との再会だというのに、お前という男はもう少しわかりやすく喜べば、少しは誤解も減るというものだぞ? ほれ、笑ってみたらどうだ? ハグするか?」

「……」

「まったく。久方ぶりに会った人見知りの従兄弟でもあるまいに。仕方ない、俺の娘の肖像を見せてやろう、特別だぞ。見ただけで万人を幸せにする美しさだからな」

 懐から手のひら大の紙を取り出すレンブラント。
 それを片手で制するザラ。
 彼のもう片方の手は額に当てられている。
 まるで頭痛を抑えるかのように。

「……わざわざ肖像で見なくても、ちょくちょく見かけてる。お前、娘がどこの学園に通ってると思ってるんだ」

「ほう、気にかけていてくれたか。嬉しいじゃないか。どうだ、二人ともリサに似て美人だろう?」

「……ああ、それは認める。彼女の美貌を見事に受け継いでる。惜しむべくは、ついでにお前の腹の黒さも多少受け継いでる所だな。最近はなりをひそめちゃいるようだが」

「先日など、二人でドレスを着てな、見事なダンスを披露してくれた。ロッツガルド学園はやはり教育の質が良い。戦闘方面は知らんが作法全般については任せておいて安心だな」

「ユーノちゃんの方は正直露出が多すぎる気もしたが……まあ振る舞いは十分及第だったな。あの分ならもう一年も学べば社交界でも十分に立ち回れるだろう。元々レンブラントという強大な名前が下に付いている事だし、この所は彼女達の取り巻きになろうとする生徒も出てきている」

「……」

「叶うなら卒業後しばらくはグリトニア……いやリミア王国辺りで勉強させて磨きたいところだろうが……」

「……言っておくが二人は俺の娘だぞ? お前のじゃないぞ? ちょっと怖い位詳しいんだが? というかお前なんでユーノのドレス知ってるの? 殴るけどいいよな?」

「っ! 待て待て待て! 違う、誤解だ! そりゃお前と彼女の娘だから、少しは気にかけているのは事実だ。妙なことに巻き込まれんよう目を光らせているのもある。だがドレスについては本当に単なる偶然だ。あそこは来賓がかなりの数出席するから、俺も行かん訳にはいかんのだ!」

「それだけか? リサの娘だから、妙なことを考えたりはしているんじゃないのか……?」

 レンブラントの言葉が低く、冷たく響く。
 構えはあと、突き出すだけだ。

「俺をいくつだと思ってる!? 確かに若い女も何人か囲っちゃいるがな、流石にあの年齢はねえ。一番若いのでも院生だ。安心しろ!」

「そうか、院生までなら……院生? シフと五つしか違わないだろうがぁ!!」

「それだけ違えば女なんぞベツモンだろうが! 落ち着け!」

 レンブラントとザラの距離が開くまで数分程度。
 ソファーに戻った二人は肩で息をしていた。
 名のある商人同士の会話としては実に愉快なものだが、何とも情けない。
 ちなみに商人ギルドの職員からは、今日この日の会合は、何か途轍もなく大きな商談が行われるのだと理解されており、この部屋で行われる会話、商談を聞き出す為にかなりのお金が動いていたりした。

「まあ、そうか。お前が子ども好きの変態だったというのは残念な事実だが、あの場にいた面子を考えるとお前がいても不思議はないのか。というかいた方が自然か」

「俺は断じて子ども好きの変態ではないし独身の身で女と付き合う事をどうこう言われる筋合いもないが、納得してもらえて良かった」

「……リサも見た訳だな」

「ああ。相変わらず綺麗だった」

「やはり許さん」

「レンブラント、話が進まんぞ」

「む」

「一応気を遣って声をかけたりはしなかっただろう。今日会うからというのもあったが」

「……確かに。ちとふざけすぎだったな。すまん」

「いや」

「しかし、学園祭の催しを見るのは初めてだが、ああも毎年豪勢なものなのか? リミアからヨシュア王子、グリトニアから話題のリリ皇女、アイオンからは近衛の一角を担う将軍が一人と行軍中の軍、ローレルからは中宮の彩律。とんでもない顔ぶれだが」

「リミアからはヨシュア様だけじゃねえ。陛下もおいでだ」

「それはまた……! 二十年ぶりぐらいじゃないか?」

「ああ、そうだ。今年はちょっと来賓の地位が高すぎる。例年ならもう2ランクは下だ。大国がその顔ぶれだから、中小国に至っちゃ国王やら王女、元首なんかが普通に参加してきてる有様だしな」

「お前たちからすると嬉しい商機か?」

「俺にとっちゃ、な。だがまださほど力の無い連中からすると……どうだかな」

「なるほど、『頭越し』になり過ぎてリスクの方が大きくなるか」

「今年は元々懇意にしている方々への挨拶回りにしておくのが正解だな。ここで勝負をかけてもまず潰される。どうやっても目立つし、まともな商人ならやらねえな」

「……」

「だが、何故かこの時期にその勝負をかけて大国の要人とまで個別に話をしだす駆け出しの馬鹿もいない訳じゃない。辺境から誰かさんの紹介状を持って転がり込んできた、とあるお荷物なんかがそれだ」

「……」

「そのまともじゃない馬鹿なお荷物は、ローレルの中宮と、学園祭の行事の最中に人払いをして密会をしやがってな。元々とにかく色々と下手を打っている馬鹿なんだが、この件でローレルに食い込んでるウチの幹部を怒らせやがった」

「……くく」

 話題がとあるお荷物のことになって少しして。
 レンブラントが堪えきれないようにわずかな笑みを漏らした。

「何がおかしい?」

「いや、続けてくれ」

「ギルドの会合でも、地域の会合でも、お荷物本人はとにかく出てこなくてな。これが寝る間も無いほどに多忙な昇り調子の中堅商会や、一線で大商会を切り盛りする代表だってんならまだ何とでも言い訳は立つ。だがあそこは出来たばかりだ。忙しくても店は一つ、お前のとこを勘定に入れても二つだ。これで多忙ですとか流石に言える訳がねえ」

「だが、確か学園の講師もしているとの事だろう、『彼』は」

「……わかってて言ってるだろ、パット。それなら余計にギルドの会合に出てくる時間の余裕は作れると見られる。俺もそう見る」

 呆れた様子のザラ。

「なのに来るのは側近らしい識とかいう若いのか、亜人の女どもが代わる代わるだ。ギルドに文句を垂れる連中も本音では本人に直接攻撃したいだろうからな。これはまずい。それに識も亜人の女も、妙に人をかわすのが上手い。不平はたまる一方だった。扱っている薬の製法については神殿から何故かお墨付きが来たが、依然価格の帳尻は合わんし。魔族との関わりまで口にしだす連中が出てきているのが現状だ。正直、詰んでる」

「識殿か。やはり、彼もそれなり以上にはやるか」

「ん、ああ。あの識ってのは中々まともだ。なんであのお荷物にあのレベルの従業員が付いてくるのが理解できん程にな。それに亜人の女も。ヒューマンだったなら即引き抜きをかける位、有能だな」

「ふふ、なるほどなあ」

「とにかくだ。その溜まった不満も当然その幹部が利用してきた。はっきり言うが、俺にはもうあれを庇い切れん。というかつくづく呆れ果てた。ぶっ潰してお前のとこに投げ返すから、もう一回一から鍛え直してやってくれ。ちなみにだ」

「なんだ?」

「個人的にはヒューマン向けの商人じゃなく、亜人向けの商会にでも転向させてやった方があれの為だとも思ってる。もっと突っ込んで言えば商人を辞めさせて冒険者か講師一本にさせれば十分やっていけるだろう、あれは」

「それは……出来んだろうなあ」

 レンブラントはザラの言葉から、彼が未だ昔ながらの彼らしい甘さを持っている事に安心しつつ、その提案を却下した。

「はあ? お前はあれのどこに商人としての器を見てる? 明らかに向いてないぞ?」

「彼は、この世から呪病で苦しむ人をなくしたいらしい。ひいては、病そのもので苦しむ人をなくしたいとも考えているかもしれん。だから。彼は、ライドウ殿は。商人を辞めんだろう」

「呪病で苦しむ……って、お前。そりゃ肩入れしたくなる気持ちはわからんでもないが……。それに病そのものとなりゃ、もう商人の域じゃなかろう? むしろ現実的ですらない」

 レンブラントの口から出た呪病の言葉。
 それとレンブラントとの関係を知るザラが一瞬言葉に詰まりながら、それでもお荷物ことライドウが持っているらしい信念について、商人が志すものとはどこか異なるものだと否定的な意見を放った。

「まったくだな。現実味がない理想だ。だが、今リサ、シフ、ユーノが前の様に笑えるのは間違いなくその理想を抱く彼のおかげでね」

「……ルビーアイの冒険者は奴だったのか。情報が錯綜していて特定はできなかったが……それがお前があいつに味方する理由か。あんなものを即座に調達できる冒険者なら、確かに講師としての腕も頷ける」

「近いが、違う。確かに彼は冒険者としても途方もなく有望なんだろうがね」

「違う、だと?」

「ああ、違う。彼は、俺やお前が見果てぬままに捨て去ったものを、持ったまま前を向いている。そんな気がする。だから俺は、彼の行く先を見たいと考えている」

「意味がわからん。とにかく、ライドウを一度こちらに来させてくれ。悪いが……引導を渡す。ツィーゲで奴が活動する分には影響がないよう、収めてみせるが」

「……お前だけの結論ではなく、変更もできないという事か」

「ああ。これはギルドの結論だ。俺個人ではどうにもならん。それに、奴自身も、どうにかしようとしなかった。あいつはここでは通用しない」

「さて、それはどうかな」

「レンブラント。恩人を助けたい気持ちはわからんではない。だが!」

「ザラよ。そのローレルと懇意にしている幹部とやら。ウチと戦えるような商会かな?」

「……お前。本当にどこまで甘くなっちまったんだよ……。そりゃ、お前のとこが本気を出して潰しにかかる気なら相手にはならんさ。ツィーゲで生み出されるモノの価値はロッツガルドでもでかい。ここでも上に残ろうとするならツィーゲとの関わりは必須だからな」

「そうか」

「パット。それはライドウの為にはならん。絶対にならんぞ」

「やるとは言っていない。ただこれだけは明言しておく。もし、ライドウ殿がレンブラント商会の名を出して述べる事があるのなら、それは全て事実だと」

「お前……」

「仮に輸送にレンブラント商会を使っているというのならそれは事実だ。仮に資金援助を受けているというのならそれも事実。娘と結婚の約束をしているというのならそれも事実」

「っ!? ちょ、おま」

「そして……もし仮に彼がクズノハ商会の活動はレンブラント商会の後ろ盾を得てやっている。問題があるというならレンブラント商会の代表と話をつけろ、と言ったなら……それも事実だ。いつでもこちらに伺おう。誰とでも話をつけよう」

「……そこまで、か」

「もっとも。それらはライドウ殿の口からそう語られたらの話だ。彼は確かに甘いが、あまり人を頼ってはくれないからな。これは私としては若干寂しい事でもあるな。ではザラ。ライドウ殿に確かにこちらに来るよう伝えよう。また来る」

 パトリック=レンブラントがにこやかに退室し、応接室にはザラだけが残される。
 レンブラント商会は全力でクズノハ商会を支援し、誰が相手でも助ける。
 彼はそう口にした。
 ザラは、旧知の仲でもある彼がそこまで肩入れした商会を知らない。
 戸惑いと、ザラ自身がライドウとクズノハ商会を理解できない事への苛立ちが心を占めていた。
 どう考えてみても、商人として見てもギルドの代表として見ても、ライドウは未熟過ぎる。
 例え冒険者として一流であっても、商人としては三流未満だ。現状、彼は店を持つ器では決してない。
 
「違う、とは言ったが。あいつも人の親だ。妻と二人の娘を救われた事への恩義で目が曇ったのかもな。ツィーゲは決して楽じゃない場所の筈だが……成功してタガが緩んだのか? 寂しいもんだな、パトリック=レンブラント」

 腰を上げ、始めに二人でそうしたように、彼は窓際に歩を進めた。
 街並みは一層盛り上がりを見せつつある。
 昼よりも夜。
 今日よりも明日。
 この街の活気は高まっていく。
 最終日にはどうなるのか、怖いほどである。

「お前がそういうなら、俺も多少は情けをかけてやるさ。あいつにその言葉を言う機会はやる。俺には……あのライドウがそこまで頭の回る奴とは思えないがな。もしそうやってお前の名を使える程度に頭が回るなら、そもそもこんな窮地に奴はいないんだよ。あいつは悪い意味で悪人じゃない、商人に必要な悪さを、俺は奴に感じないんだよパット……」





◇◆◇◆◇◆◇◆





 闘技大会。
 それは学園祭の目玉の一つだ。
 生徒達による戦闘技術の披露の場にして、高い水準の人と人の対戦が楽しめる場でもある。
 学生は自らの力を示し、来賓たちに顔を覚えてもらうことで将来の就職を助け。
 観客は学生達の戦いに喝采を送り、その戦いを楽しむ。
 予選から会場は観客で埋まり、学園祭中の本選では立ち見も当たり前、売り子には移動に特殊な技術が求められる程の盛況さを毎年見せる。
 無論、落ちる金も半端な量じゃない。

「用事とやらは済んだのか、ザラ」

「は。詰まらぬ雑務ですが、これも仕事でして。お待たせを致しました」

「構わんよ。大司教様も司教様も今は試合の方に夢中になっておられるからな」

「試合に、でございますか?」

 思い出しただけで胸糞が悪くなるライドウとの話。
 それどころか、あんな小僧をあのパトリック=レンブラントが全力で支援している事への怒りが無尽蔵に内から湧いてくるのがわかる。
 が、ここはそれを出すような場所じゃない。
 傍に控えるようお願いという名の命令をされていた俺は、若干遅くなりながらもリミアから学園祭に訪れた大司教の所に顔を出していた。
 闘技大会を絶好の場所から見下ろす来賓席にだ。
 だが例年、それほど真剣に試合など観覧していなかった大司教が夢中になっているという言葉に、俺は思わず聞き返した。

「うむ。もっとも、大司教様に限らず主だった方々は皆様、だがな。リミア王も、グリトニア皇女も、それに貴族のお歴々もか」

「それは、余程学生諸君が頑張っておられるのですな」

 毎年レベルは高いはずだが、今年は……そうか。
 リミアのホープレイズ家の息子がいたな。
 あれは確か今年が最高学年の筈。
 将来のリミアを舵取りするかもしれない有望な貴族の一人をここでしっかり見定めようって腹か。
 ……そういえば、ライドウの馬鹿はホープレイズとも揉めている様子だったな。
 何度かギルドにも有形無形の圧力があったのを思い出す。
 ホープレイズと名のつく貴族はそこそこ色んな国にあるにはあるが、リミアのホープレイズ家と問題を起こすのは馬鹿のやる事だ。
 あそこだけは他とはまるで格が違う。
 対応は王家に準じるものを。
 それがあそこを相対する商人の鉄則だ。
 むしろ関わりが深い奴らはホープレイズ家を王家そのもののように扱ってみせることだってままある。
 リミアの政治にも深く関わっているし、広大な領地の運営も上々。
 その上歴史も備えた名家中の名家。
 ライドウとリミアとの関わりはこちらの調べでは出てきてないが……ホープレイズと揉めるなど言語道断。
 これもまたあいつの馬鹿さ加減の証拠のひとつだな。
 断言できるが、まずリミアでは商売できない。
 これは今後拡大を目指している商会にとってはかなりの痛手になる訳だが……。

「ま、あいつがそれに気付いているかどうか、ってレベルだわな」

「どうした?」

「いえ、失礼致しましたシナイ様。それでは私はこのまま控えさせていただきまして、後ほど皆様にご挨拶させて頂きます」

 この間ロッツガルドに来たばかりの女司教も、リミアから来た連中に気を遣いながら試合を食い入るように見てるな。
 ……。
 俺の見立てじゃ、あの女はかなりの野心家だ。
 あの若さでここに来る辺り相当政争では優秀な部類に入るのは間違いない。
 それがホープレイズの試合にそこまで執心するもんかね。

「折角だ、団体戦をお前も楽しんでいけ。そちらからなら邪魔にもならんだろう」

 俺の相手をしている巡司祭のシナイが顎を向ける。
 そこにも試合を見られるスペースがあり、来賓の護衛やらお付やらがこれまた試合を見ていた。
 ……いや、見ていながらも呆然としているような、何だこれは。
 さほど闘技大会そのものには興味もないが、勧められた以上無視もできんな。

「ではお言葉に甘えまして」

「うむ。ああ、そうだ。大暴れしている奴らの中には何とかいう商人の娘だか息子だかが参加しているらしいぞ? 辺境の商家らしいから知らんかもしれんが」

「!」

 レンブラント。
 パットの娘となると、シフとユーノだな。
 あの二人、本選に出るほどの腕だったのか。
 闘技大会に出ることすら報告に上がってなかったな。
 ふむ……。

「っ、嘘だろ、あそこから蹴り!?」

「詠唱速度が無茶苦茶速い。それに一部強引にキャンセルして発動を優先させてるぞ。しかもそれであの威力、うあ、あれは駄目だろ……」

「どの連中も舞台全部を完全に把握してやがる、一切相手の術を完成させてねえ。こりゃ、えげつねえにも……」

 騎士や用心棒といった連中が学生の試合を見て動揺していた。
 いくらロッツガルドとはいえ、本職がそれでいいのかね。
 嘆かわしい。

「こりゃ団体戦でもホープレイズ家のイルムガンドは駄目だな」

 なに?

「ああ、話にならん。団体戦の方が連中活き活きしてやがるわ。そこらの冒険者でも相手にならねえっての」

「試合というより蹂躙よね。初見なら私もやられそうだもの」

「同じ人数ではやりあいたくないガキどもだわな。俺なら雇い主置いて逃げる」

「ひでえ! ま、けどそれが正解だな。見ているモノがまるで違うわ。ああいう技が身につくってなら俺も学園に通いたいね」

「三人なのに他のパーティの七人を圧倒か。いやいや、とんでもない奴らが出てきたね。あの子達、取り合いになるわねぇ」

「それに、あそこまで育てた講師も、だな」

「でしょうね。きっと向こうじゃ今頃必死にその辺りの情報、集めてるんじゃない? あの七人に共通した講師の誰かがあの戦い方を指導したってのは絶対なんだし?」

 腕に覚えがあり、それを糧にしている連中から聞こえてくる学生への賞賛。
 それは奨学生が組む、あるパーティの戦いに向けられていた。
 ホープレイズは、そのダシにされているようだ。

「……っ」

 彼らの試合も俺も目にする。
 そこにはレンブラントの娘、シフと男子生徒二人が舞台で相手を圧倒している姿があった。
 戦いの素人である俺でも、両者の間にどれだけの力の差があるか、すぐにわかった。
 全体を見ているから、というのもある。
 七人の動きを三人の生徒が誘導し、切断し、叩いていた。
 術や剣が閃く度に、相手の生徒が悲鳴を上げて崩れ落ちていく。
 確かに言葉通り、圧倒的だった。
 そうか。
 来賓の殆どは、彼らの試合を見ていたのか。
 そして、彼らを手に入れようとしている。
 更には彼らを育て上げたであろう講師を。
 講師。
 俺はその正体をもう知っているかもしれない。
 レンブラントの娘、シフが一番熱心に講義を受けている、その講師の名は……ライドウだ。
 しかも、それは妹のユーノにもあてはまる。

「まさか、講師は奴だというのか?」

「ん?」

「あ、いや何でもありません。大した学生さんだと驚きまして」

 不意に出てしまった言葉で何名かの視線を受け、俺は慌てて誤魔化す。

「完全に別格さ。個人戦からもうとんでもなかったけどな」

「今年はホープレイズ家のご令息が注目株だと人づてに聞いていたのですが、イルムガンド様は個人戦では?」

「……剣士部門準優勝だ。あれを準優勝ってのもなんだけどな」

 苦笑する冒険者風の男。
 イルムガンドの剣技は今年だけでなく毎年話題にあがる。
 今年はいきなりそれを上回った子がいたということか。
 にわかには信じ難いな。

「優勝はあの子だよ」

「え」

 もう一人の冒険者らしい女が示してくれたのは今舞台にいる少年の一人だった。
 背が高く、活き活きと木剣を振っている。
 木剣か。
 不自然だが……何らかの都合で武器が使えなくなったから仕方なく、か?

「ジン=ロアン。これまでは中堅位に名を連ねる子だったらしいんだけどね。今年いきなり伸びてきたんだって。ま、そのジン=ロアンも横にいるシフ=レンブラントにボコボコにされて、今年の覇者はあのシフってお嬢ちゃんって訳」

「あれはお嬢ちゃん、って感じじゃねえぞ? 正直俺は一対一でもやりたくねえ」

「そんなの私も同じに決まってるでしょ? あんな凶悪な術師、まさか学生にいるとは思わないわよ」

 シフが覇者?
 剣士と術師の頂点に立つ、今年の覇者?

「それはまた……」

 なんと言葉を繋げようかと口ごもる。
 どういうことだ?
 シフはそこまで力がある子じゃなかったぞ?
 それに、そもそもあの姉妹は戦闘技術を主に習いに来ているのでもなかったはずだ。
 どうしてこんなことになってる?
 まさか、これもライドウなのか?
 ここまで学生を短期に、強烈に育て上げる事ができるなら、何故あいつは講師を本職にしてないんだ?
 彼らを宣伝に使えば百人でも二百人でも生徒を集められるだろうに。
 更に個人的にも講義を開催すればその収入は一月か二月で普通のヒューマンが一生暮らせるレベルのものになる。
 ここは天下のロッツガルド学園だ。
 優れた成果を出した講義には高い報酬が約束されるのは間違いない。
 しかも物販の商人とは違って講師の元手は己の技術。
 利益率も比べ物にならないほど高い。
 一年も講師をやればその辺りの商会をそっくり買い取る事だって十分可能じゃないか。
 商人ごっこがしたいだけなら、そもそもそれで十分だろうが。
 なんで、あいつが。
 本当に、こんな優秀な講師としての腕があるなら、どうして。
 試合は予想を外れることなく、どこまでも一方的に進んでいく。
 決勝の対戦相手を見ても、俺にもどちらが優勝するか簡単にわかった。
 
「ザラ、いいか。少し話があると上の方から申しつかってな。来てもらいたい」

 シナイが再び俺のところに来て声を掛けた。
 上の方。
 大司教か司教のどちらかだろう。
 内容は、あの学生達のことか。
 シフとユーノだけなら知っているが、あの二人を術師や戦士として誰かに紹介するのは不可能だろう。
 恐らく将来はツィーゲに戻る事が決まっているだろうからな。
 やれやれ、頭の痛い事になりそうだ。
 ライドウについてなら、俺はついさっきあいつに……。
 ちっ。

「わかりました。すぐに参ります」

 待たせる訳にもいかない。
 既に最初に一度、遅れてしまっているしな。
 対応は確かに定まっちゃいないが、行きがてら考える事にするか。
 くそ、なんだかな。
 ライドウがこの街に来てから、どうにも良くない事が続きやがる。
 せめて学園祭の時くらい、気楽に屋台でも回って酒を煽ってと行きたいところなんだが、うまくいかねえな。

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 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ファンタジー 連載中 長編 R15
文字数 2,361,613
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話 表紙

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
BL 完結 ショートショート R15
文字数 2,284