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3巻
3-1
しおりを挟むプロローグ
ここは辺境の街ツィーゲの商人ギルド。
僕が提出した書類を確認して、受付のお姉さんが説明を始める。
「はい、これで登録は完了致しました。商会名はクズノハ商会、代表はライドウ様、構成職員は巴様と澪様ですね。代表の方が商人ギルドに登録されてますので、他の職員の方はギルドへ新たに登録する必要はございません。なお、情報の変更がある場合は、代表であるライドウ様が速やかに商人ギルドへ申し出てください。臨時雇いなどの非正規職員を増員する場合、申告は不要ですが、正規の構成職員の場合は必要となります。その他申告が必要な事項や免許品等につきましては、こちらの冊子でご確認下さい」
説明が終わり、発行されたばかりのギルドカードを受け取る。こうして僕、深澄真は、晴れて従者二人と共に自らの商会を立ち上げることに成功した。あ、ちなみにライドウは僕の偽名ね。
できたてのギルドカードを眺める。表面に青色の塗装がされた金属製のカードだ。
次に、渡された冊子をパラパラとめくる。分厚くはないが、一つのページごとに文字がびっしりと書き連ねてある。紙が貴重だから、なるべく少ないページ数で収めようとしているんだろうけど、ここはわかり易さを優先してもらいたいな。
さてと、商会を立ち上げたはいいものの、まだ考えなきゃいけないことだらけだ。リンゴや桃といった果物、すなわち亜空の産物と薬をメインに扱おうと決めているけど、それ以外は漠然としたまま。
だから、登録の際にお姉さんから商会の特徴と方針を聞かれたときには、まだ定めておりませんので正式に活動を始めたら改めて挨拶に伺います、とお茶を濁すハメになった。
何でもギルドが顧客に商会を紹介(駄洒落じゃないよ?)する際にこれらの情報があると、話がスムーズに進むということで、報告するのが望ましいらしい。まあ、もっともだと思う。
この辺りについては、ここツィーゲの大商人であるレンブラントさんに相談に乗ってもらおうかね。
クズノハ商会として商売を始めるのに、まずは店舗を確保したい。そして店を覚えてもらうためにツィーゲでもっと顔を売る必要もあるだろう。
挨拶回りは必須として……そのとき配る名刺を作ってみるのもアリか。こっちの世界では見たことがないけどあれって便利だと思うし。
……よし、出店に向けて、受付のお姉さんに色々尋ねてみよう。
[早速ですが、店舗を構えたいと考えています。こちらでそのための準備について教えてもらうことは可能ですか?]
魔術でフキダシを作って問いかける。そう、僕はこの世界の主要言語である共通語が話せないのです。
ツィーゲの商人ギルドには何度か訪れていたこともあって、お姉さんは僕のフキダシを見ても特に驚いたりしない。彼女はにこやかな笑みを浮かべ、説明してくれた。
「ええ、こちらで色々とご説明できますよ。お店を出すとなれば、まず必要なのは土地ですね。これについては今からお調べして、明日には候補地をいくつかご案内できるかと思いますが、いかがなさいますか?」
おお! そんなスピーディーに対応してもらえるのか! これは即決だろう。
[ええ、お願いします]
フキダシに書かれた僕の肯定を確認し、お姉さんは続ける。
「かしこまりました。候補地選びに際してご希望があればこの場で承りますが、何かございますか?」
[いえ、『果て』からツィーゲに来て間がなく、この街については知らないことばかりなので……。ですからとりあえず、商売するのに良さそうなところを複数挙げてもらえますか?]
ツィーゲをくまなく歩いたわけではないので、正直どの辺りが良いかなんてさっぱりだ。こういった場合は専門家に任せるのもありだろう。
「わかりました。特にご希望がないのであれば、本日中にいくつかご案内できるかもしれません」
そう言ってお姉さんは笑顔を向けてくる。
うん、土地探しは順調に進行できそう。次はその他の注意事項だな。
[それは助かります。土地の他に、お店を持つにあたっての注意事項なども教えていただけますか?]
「基本的なことについては、先程お渡しした冊子に載っていますのでご確認いただければ……あ、『果て』からツィーゲに来て間もないということでしたら、このお話はしておいた方が良いかもしれませんね」
ん? 何やら意味深な台詞だな。気になる。
[教えていただけます?]
「はい、このツィーゲという街は、アイオン王国と呼ばれる国に属しています。ですので、第一号店をツィーゲで出店した場合、その商会はアイオン王国所属となります」
アイオン王国? 初めて聞く名前だ。どんな国なんだろう。
お姉さんの説明を遮って質問をする。
[アイオン王国とはどのような国なのですか?]
僕のド直球な問いかけに、お姉さんはやや困った表情になってしまった。
「えーっと……普通の王政国家ですよ? ……ただ、商人の方や我々商人ギルドにとって少しばかり厄介な点はありますが……」
お姉さんが言葉を濁す。しかし、看過できる話題ではないのでさらにつっこむ。
[その厄介な点というのは?]
お姉さんは言いにくそうにしていたが、決心がついたらしく口を開いた。
「……この話は、ここだけの秘密にしてくださいね?」
そう言って小声になり、僕に顔を近づけてくる。この世界の方なので、例に漏れず物凄い美人だ。当然、そんな美女に顔を近づけられたら緊張してしまう。いい加減、慣れないとまずいなあ。
「……アイオン王国は諜報活動にとても熱心な国でして。他国に密偵を放つ、なんていうのは当たり前なのですが、さらに密偵の数を増やすために、国の間を行き来する商人たちに諜報活動をするよう求めることがあるのです」
何とも凄い話だな……。だけど、どうやって使えそうな商人を捕まえるんだ? まさか、商人ギルドに登録した時点で情報が伝わっていたりするのか?
[諜報活動へ誘うと言っても、どうやって商人の動きを把握しているのですか? ギルドに登録した時点で王国へ何らかの通達があったりするんですか?]
僕の質問に、お姉さんは小声で答える。このやり取り、傍から見ると相当怪しいだろうな。
「いえ、登録情報はあらゆる国にあるすべての商人ギルド内でのみ共有される情報ですから、登録したからといってアイオン王国が管理下におけるわけではありません。商人の中には、店舗を持たずに国々を自由に行き来する隊商なんて形態もあるわけですし……。問題なのは、店舗を構える場合なのです――」
お姉さんの声がさらに小さくなる。僕は思わずカウンターから乗り出す。
「――お店を出すときには土地の問題が絡んできますので、当然王国の許可が必要になります。そこで許可を与える代わりに、商会に関する詳細を聞き出すのです。得た情報から商会の規模や資金力、成長度合いを見定め、晴れて他国に出店、という運びになると、その商会に諜報活動の誘いがかかるんです」
なるほど……というか、アイオン王国はどこまでスパイ活動に執心しているんだよ。
[わかりました。今の話を聞いた感じですと、ツィーゲはあまり初めての出店には向かない土地のようですね]
「ええ、第一号店を出す商会となれば、他国の間諜である可能性が低いので、特に狙われやすいんです。お店を出した経験がないということは、他国の息がかかっていない確率が高いと考えられますし……。どこの国でも、土地を買って出店する際に商会の詳細な情報が国の手に渡っちゃうのは共通ですからね」
え? 他国の間諜である可能性が低いって、この世界、どの国でもスパイ活動をさせられるかもしれないのか!?
[どこの国でも間諜にさせられる心配があるのですか?]
僕の質問に、お姉さんは困り顔で答える。
「他国がどれだけ諜報活動に熱心なのかはわかりかねますが、このようなことはどこの国でもやっているかと……。ですが、アイオンが特に情報収集に重きを置いている国なのは確かです。各商人ギルドに寄せられる、間諜に関する相談件数が他国に比べて群を抜いているんですよ」
まったく、何で商人が他の国に行って商売するのに諜報任務まで兼任せにゃならんのだ。
断固断る。
アイオン王国にいるからって当然のように愛国心があるとか思ってんじゃないよ。現代人なめんな。
[なるほど……。ちなみに、その誘いを断ったりするとマズかったりしますか?]
当然あるだろうペナルティについて聞いてみる。
「断ること自体は可能ですけど、今後のアイオン内での商人活動に著しい不利益が生じる可能性はありますね……」
お姉さんは力なく答える。そんな諦めた顔しないでほしい。より自由な商売のために断固戦ってくださいよ商人ギルドさん。
やっと到着して一息ついた街がスパイ行為に熱心な国の都市、ってこれなんて試練。正直、もう厄介事に巻き込まれたくないよ。
しばらくの間無言になってしまう。その様子がよほどショックを受けている風に見えたのか、お姉さんが優しく話しかけてくる。
「でも、一応抜け道みたいなやり方は存在します。実行するのはかなり難しいかもしれませんが、他の商会の店舗の一部を間借りするかたちであれば、王国への申請を行わずに商売を始められますよ」
……おお、それならレンブラントさんに頼めば何とかなるかもしれない!
[良い情報をありがとうございます。検討してみますね。……さっきのお話を伺ったかぎりでは、どの国で登録しても諜報活動をさせられる可能性があるみたいですが、そういったものと無縁な場所は本当にないんですか? 私は純粋に商人として色々な国に店舗を構えたいのです]
僕の質問にしばし考えを巡らせるお姉さん。思い当たる場所があったようで、少しして口を開く。
「どこの国にも属していない都市がございます。そこであればライドウ様の希望通りのことができるかもしれません」
おお! どの国にも支店があり、この世界のどこでも迅速に商品を供給できるグローバルな商会。その理想が叶えられそうな場所がちゃんとあるじゃないか。
早速教えてもらわねば!
[本当ですか!? ぜひ、教えてください!]
フキダシを見てお姉さんが微笑みながら答える。
「……ライドウ様は本当に変わった考えをお持ちのようですね。まあ確かに、色々な国に支店を開く……商人ギルドの理念からすれば極めて理想的です」
あくまで可能性の話で実際はわかりませんが、と付け足したうえでお姉さんが都市名を告げる。
「学園都市、ロッツガルドです」
◇◆◇◆◇
「若、お待たせしました」
「若様、遅くなってすみません」
色々と話を聞けて上機嫌で商人ギルドから出てきた僕は、巴と澪と合流した。二人は、僕が商人ギルドへ入る前に亜空からツィーゲに来るよう伝えておいた。遅れたことを謝られたけど、タイミング的にはベストだと思う。
従者二人と合流したあと、昼食を簡単に済ませて、ツィーゲを拠点としてクエストに奮闘しているトアさん一行へ連絡する。このあいだ達成したクエストの報酬受け取りと報告のために冒険者ギルドへ向かうことを告げると、何も予定がなかったのか、「急いで向かいます!」と鼻息荒い返事がすぐに戻ってきた。
トアさんは、今は失き「世界の果て」にあったベース「絶野」で出会った冒険者。僕たちは彼女とその妹リノン、そして彼女のパーティメンバーと共に、このツィーゲまでやって来たのだ。
以前、ツィーゲの大商人であるレンブラントさんの家族を、呪病と呼ばれる病から救ったときに、色々あってこの街で一番強い冒険者をフルボッコにしたことがある。
それがバレて、ギルドから文句の一つも言われるんじゃないかと内心ビクビクだったが特に問題はなかったみたい。
ちなみに、レンブラント一家を救うことになったきっかけは冒険者ギルドのクエスト依頼だった。呪病を使った術者探し、とかではなく、その治療に必要な素材の提供。そのときのレンブラントさんの口ぶりでは、術者はすでに自分たちで始末してたっぽい……。
そんな具合に怪しさ満点の依頼だったので、報告の際にギルドに何かつっこまれるのではと思ってたけど、特につつかれなかった。
ギルドって情報網が凄そうだから知られてないわけはないと思うんだけど。
確かに便利だけど謎の多い組織というのは不安を掻き立てる。読んでもいなかった冒険者の手引きっぽい冊子にも目を通しておくかぁ。少しは冒険者ギルドについてわかるかも。
僕が痛めつけた、ツィーゲのトップランカーことライム=ラテは、小悪党な雰囲気の、見るからにチンピラっぽい男だったのに、事件後、ギルドに泣き付いたり、仲間や手下にあることないこと吹き込んだりといったことはしなかったようだ。思ったより殊勝な人だったのかな。思えば、あのときから会ってないや。
そんなわけで冒険者ギルドには特に入りづらい雰囲気もなく、無事に受付のカウンターまで来れた。
そこでギルドに既に届けられていた破格(依頼内容を考えると実は破格というほどではなかったようだけど)の報酬を受け取る。
そして、僕以外のみなさんがわくわくどきどきのメインイベント。
報酬の受け渡しの段階でちょっと注目を集めたのなんて、このイベントが始まれば、すぐ過去の話になりそうな気が致します。
そう、巴と澪の冒険者登録だ。
この二人は僕の従者で、見た目はヒューマン。しかし、巴は「世界の果て」で眠っていた上位竜である「蜃」。澪は人々から「災害」と忌避されていた大蜘蛛。つまり、二人とも元化物なのである。つまり、ヒューマンとは比べものにならない力を有してるわけで……騒ぎになることは間違いないけど、まあ仕方ないか。
二人の登録の前にまずは僕のレベルを確認してもらった。けど、やっぱりレベル1のまま。戦闘なんかもかなりこなしてるんだけどなぁ。もうこれは、僕を異世界へと引きずり込んだ女神の呪いに違いない。
澪より先に巴が登録したがり、一悶着起きそうな空気になったが、僕としてはどちらからでも良かったので、まず巴からやらせる。
今、ギルド内にはあまり人はいないけど、数日もすればすっかり有名人なんだろうなあ。
いきなりレベル1600まで測れる紙を要求し、職員の度肝を抜く巴。当然、周囲はざわめく。まあ当たり前の反応だよね~。
以前「絶野」の冒険者ギルドで測ったときは1320だった。さすがにこんな高レベルだとポンポン上がるわけはないだろうから、変わってないだろうな。
「巴様、レベル……1340です」
「「何いいいいいいいい!?」」
巴と僕の驚きの声が重なる。
巴だけじゃなく、僕も思わず叫んでしまった。言葉を発するつもりはなかったのに叫んだね。
トアさんたちが僕の声を聞いてびっくりしている。そうだ、彼女たちの前では筆談で通してるんだった。
それはともかく、何で20もレベルが上がってるんだよ? ついでに何でそのレベルに不満顔なんだよ?
まさかこいつ、別行動中、密かに狩りに明け暮れていたんじゃ……。武者修行なんてお前と離れるための単なる口実だったんだぞ? 本気でやってたのかよ!?
どよめきが半端ない。一気に僕らを中心に人の輪ができた。
「そ、そ、そ、そんなはずはない! あれだけ斬りまくったんじゃぞ! 1500は超えておるじゃろう!?」
「いえ、あ、その、揺らさないでー!」
ガクガクとお姉さんの体が前後に揺れる。巴が1500っていう具体的な数字を挙げたのは……そうか、澪か。以前測ったとき、彼女はぴったり1500だったし。
[巴。やめろ]
「はっ! つい我を忘れて……。若、申し訳ありませぬ」
うあ、お姉さん顔真っ青。僕が声をかけるタイミング次第では死んでいたかもしれないもんなぁ。心中察するに余りある。
[澪、さっさと済ませてきて]
「はーい♪」
「うぬぬぬぬぬぬぬ」
巴の結果を聞いて安心したのか、澪は僕の言葉に機嫌良く返事をしながら巴を流し目で一瞥。巴、拳を震わせても結果は変わらないから。
1600の測定紙を掴むと、瞬く間に真っ赤に染め上げる澪。
「み、澪さま、レベル1500で、す。……はうっ」
お姉さんは読み上げるが早いか卒倒した。可哀想に。むしろ良く頑張ったよ。
さすがに澪のレベルは上がっていないようだ。というか荒野であれだけ戦わせたのに1レベルも上がらないのか。じゃあ巴は何をやって20も上げたんだか……。
荒野の一角に死体の山でもできているのだろうか。今からでも素材を取りに戻るか? いや、もう他の魔物の胃袋の中だろう。
でも骨や牙などは残っているかもしれない。もしそうならあとで巴に場所を吐かせて、リザードさんとオークさんに回収しに行ってもらおうかな。僕が行く必要はないよね。直に見たら、巴の作り出した惨状に正気を削られそうだからって理由じゃないですよ?
倒れたお姉さんの代わりに、レベル測定後の業務は別の人がしてくれて、無事登録は完了。
こうして、都合二度目となる最強レベルの冒険者が誕生したのでした。
トアさんたちは早速発行されたばかりの巴と澪のギルドカードに、自分たちの連絡先を登録してもらっている。周囲から向けられる羨望の眼差しを嬉しそうに受け止めながら。
MMOなんかで超強力な有名プレイヤーとフレンド登録するような感覚なのかな。
……いや、彼女たちは実際に命を懸けてるんだし、フレンドなんて気軽なもんじゃなく、ぶっとい命綱でもつけた気になっているのかもしれない。
「そういえば若様、商会の正規職員である私たちは、商人ギルドには登録しなくて良いんですの?」
澪だ。構成員全員がギルドに所属する必要はないって聞いたから、今は別にいっか。
[将来的には登録してもらうかもしれないけど、当面は大丈夫だよ。僕だけ登録していれば問題ないみたいだし]
そんな僕らの会話は、トアさんたちをさらに驚かせたようだった。
「ラ、ライドウさん、もしかして商人ギルドの〝再発行〟試験に合格したのですか?」
ああ、そうだった。ツィーゲまでの道中で商人ギルドの話になったとき、トアさんにはギルドカードを失くしたことにしてたんだったか。そのことを今、言われて思い出した。危ない危ない。
再発行試験は受けていないけど、ここは彼女の話に乗っておこう。
[ええ。もう一度試験を受け直して昨日取得しました。ほら]
そう言って商人ギルドのカードを見せる。
「ほおおお、あの難関試験を突破ですか! 相変わらずの超人ぶりですなあ、まったく」
神官戦士のドワーフさんの僕を見る目が、明らかに変態を見る目になっているよ。
[ここを拠点にして商売を始めるつもりですので、どうかご贔屓に]
「できるだけ、使う」
「お菓子は売るの~?」
エルフ娘は何やら力強く頷いてくれた。リノンは何とも子供らしい、可愛い意見をくれました。リノンには申し訳ないけど、お菓子のような加工品や、日用品、雑貨類はとりあえず保留だ。果物などの亜空の商品と薬品が中心になる。ドワーフの鍛冶の腕も活かせるなら嬉しいけど、こちらもとりあえず後回しにしておくつもりだ。偏屈故に辺鄙なところに引っ込んだ連中だから無理に商売用の武具を作らせると反感を買いそうで怖いしね。そこまでして武器を扱いたいとは思わないしさ。
「あの、ライドウさん。澪様と巴様は、これからすぐに店舗開設の準備に入るんですか?」
トアさんだ。何でそんなこと聞いてくるんだろう?
……ああ、もしかして商会が店を構えるまでの間、依頼を受けたりパーティを組んだりして冒険者として活動させないのか知りたいんだな。……店舗の開設に向けてやるべきことが山積してるからなあ。当面は冒険者ランクを上げてもらうよりも、そっちの手伝いをやってもらわないと。
[そうですね。二人には商会のメンバーとしてお店を構える場所とかツィーゲにいる同業者への挨拶回りとか、お店の開店までにやってもらうことがたくさんありますので]
とりあえず、商人ギルドに頼んである、店を開くための場所を見に行ってもらおう。ツィーゲの情報収集も兼ねた挨拶回りだって人数が多い方が捗るってもんだ。レンブラントさんに頼んで、店舗の間借りをするのはアリだけど、いずれ自分の店は欲しいし、土地だけでも押さえておいて損はない。
「はあっ!? こ、このお二人が土地探しに挨拶回り!?」
[ええ、冒険者レベルがいくつだろうと僕の従者ですし。できたばかりの小さな商会のヒラなんですから当然です]
「い、いやいやいや! ライドウさん、それよりも冒険者ギルドの依頼をこなしてもらってお二人に知名度を上げてもらった方がきっと……」
宣伝になりますよぅとか、トアさんがあーだこーだ言っております。
この分だと、巴か澪に自分のパーティに参加してもらうつもりだったのかな?
そりゃ、いずれは冒険者の作法を身につけるために同行させてもらうこともあるだろうけどね。そっちは当分先でいいと思ってるし。
[あはは、冒険者としての知名度なんて今は特に必要ないですよ。とりあえず当面は、冒険者として動いてもらう気はまったくありません]
ば、馬鹿な! とか有り得ない、とかいった驚愕の声がギルド内に響く。次第に僕への罵詈雑言まで聞こえてきた。
だがそれは、巴と澪がちょっと怒った顔をすることで静まった。
周囲に向けて無言の圧力を放つ二人に声をかける。
[さ、行くぞ。用意しておきたいものも、やっておきたいことも山のようにある。忙しくなるぞ]
「御意!」
「はい♪」
「お兄ちゃん、楽しそ~」
リノンに会えたし、ひとつ頼み事をしておくか。
[そうだリノン。君の絵の腕を見込んで頼みたいことがあるんだけど]
「私の絵? いいよ、お兄ちゃんのお願いなら聞いてあげる!」
よし、これで僕がこの世界でやろうと思っている計画が進められる。
待ってろ異世界の人々、もうすぐクズノハ印のお薬で健康な生活をお届けするからな!
そうそう、ロゴも考えないと!
リノンが代弁してくれたように――僕は今、楽しいです!!
応援ありがとうございます!
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