リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第一章  眩きレブレーベント

第二話 王女との出会いは疑いから④

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「アレイン様、ご機嫌麗しゅう」
 カルザスが形式ばった挨拶をして腰を折る。アレイン――――そう呼ばれた少女は口元に笑みを浮かべた。
「堅苦しい挨拶は結構。それで?」
「陛下が連れてこられた客人ですが、どうやら騎士団に招かれたようで。既に客人ではありませんな。魔法騎士団の団員と言った方が良いでしょう」
 銀色の髪、アメジスト色の瞳。総司の元いた世界でなら簡単にアイドルにでもなれそうな美しい見た目だったが、やはり、冷たい目つきが全てを台無しにしてしまっている。
 そんなところも、あの紫電の騎士と一緒だ。
「そう。あなた、名前は?」
「ソウシと言います」
 総司はとりあえず、聞かれた通りに名乗った。アレインは満足そうに頷いて、
「私はアレイン・レブレーベント。あなたを引き入れた女王の娘よ」
 つまりは、王女ということだ。総司はどうしていいかわからず、とりあえずぺこりと頭を下げた。
「ふぅん……?」
 アレインの鋭い目が、総司の背中にある剣を確かに捉えた。
 カルザスも気付いた、リバース・オーダーの持つ尋常ならざる力を、アレインもまた感じ取ったか。だが、そのことには触れずに、
「面白いエピソードがあるようね? 滅んだ街に『たまたま』居合わせたのだっけ」
「アレイン様、お言葉ながら――――」
「あぁ、いい、勘違いしないで」
 リシアが何か言おうとして、アレインが鋭く遮った。
「彼が街を滅ぼしたなんて思っていないわ、少しもね。ただ、そこにいたことが不思議だっただけ。まあそういう偶然もあり得るかもねと、今は納得しておくけれど」
 アレインは微笑みながら言った。
 魅力的に見える表情ではあるが、カルザスはどこか緊張した面持ちでいるし、リシアも和らいだ表情を微塵も見せない。別にアレインは、こちらに敵対的なことを言っているわけでもないし、何でもない井戸端会議みたいなものと思うのにどうしてこんな空気なのかと、誰よりも総司が一番戸惑っていた。
「さっき騎士たちがあなたを探していたわ。意外と早く会議が終わったのではないかしら。謁見の間、行ってあげれば?」
「あ……はい、お気遣いありがとうございます」
 リシアが頭を下げる。アレインは手を振りながら踵を返し、どこかへ消えていった。
「……えーっと……なに、二人とも、どしたの」
 さっきの異様な空気のことを、リシアとカルザスに問いただす。カルザスは困ったように笑いながら、
「なに、些細なことさ。キミが気にしなくても大丈夫。さあ、私はまだまだ仕事があるので、これで失礼するよ。キミたちは陛下のところへ」
「ええ。カルザス殿、あまり気張り過ぎぬよう」
「お気遣いどーも。じゃあね」
 カルザスとも別れ、二人は女王の待つ謁見の間を目指した。


「ひとまずシエルダの件は、大臣たちに任せた。あの街には、住民の歴史が詰まっておる。あのまま朽ち果てさせるにはあまりにもな」
 開口一番、女王は二人に言った。
 国のお偉方も部屋を出ており、謁見の間には、女王を直接補佐する老獪な宰相、カルザスの父、ビスティーク・アイルザードと、総司とリシアしかいなかった。
「ソウシ、お前はどうみる。この魔獣の活性化という現象、やはり女神がいないことと関連すると思うか。いや無論、お前にも私にも確かなところはわからんのだ。直感で良い。今、お前はどう思っておる」
「関連がありそうには思えるんですけど、そこに全部直結させるのもどうかな、とは思います」
 総司はいきなり話を振られて面食らっていたが、自分の考えを述べた。
「全部レヴァンチェスカの不在に持って行ってしまうと、単なる『誰かの悪意によるもの』も隠れてしまうから」
「そら、どうだ」
 女王がにやりと笑ってビスティークを見た。
「お前と同じことを言いよる」
「考えずとも思いつくことです。そも、女神さまのご不在の方が異常事態であって、それはそれとして世界の皆でともに考えること。我らは我らで、もっと身近な問題の解決に向け、出来ることをすべきなのです」
「げに疑り深く用心深い男よ。ソウシ、こやつはお前を信頼しておらんときている。どう思う」
「当然の警戒と思います」
 総司が言うと、ビスティークはわずかに頷いた。
「フン……まあ、事の成り行きは陛下からも聞いておる」
 ビスティークは厳しい顔つきではあるものの、別に総司に対して過度に敵対的というわけでもない。ただ、彼は公平で平等、客観的なだけなのだ。
「だが、皆が手放しでお前を信じるのも危険だ。お前自身も知らぬ“何か”があるやもしれん。そういうことだ」
「理解しています」
「結構。なるほど、頭は悪くないようだな。アリンティアス、よくこの男を監視せよ。お前もあまり油断し過ぎぬこと。この男の善悪を取沙汰したいのではない。この男がいみじくも言ったように、それが当然のことなのだ」
「はい、肝に銘じておきます」
 リシアも素直に頭を下げた。ビスティークは厳しく、疑り深いようだが、カルザスと同じく、決して人格が捻じ曲がっているわけではないらしい。でなければ、既にかなり総司に気を許しているリシアが、厳しい指摘を受けて素直に頭を下げるとは思えなかった。
「さて、イチノセ」
 総司に向かってビスティークが言った。
「お前にはグライヴを打倒したという功績があるのも確かだが、逆を言えば、生きた状態の『活性化したグライヴ』に出会い対峙したのはお前しかおらんということだ」
「そうなりますね」
「その様子を聞かせてくれ。活性化した魔獣は強力で、故に調査もままならん。お前の証言は貴重なものとなる」
「……いや、しかし、困ったな」
 何か話そうとして、総司は言葉に詰まった。
「何がだ?」
「様子と言われましても、俺は普段のグライヴというのを知らないんです。ですからこう、活性化しているときとしていないときの違いがわからないといいますか」
「では見たままのことでよい。そうだな……」
 ビスティークが言った。
「まず、その気配だ。奴はお前に対し、最初から敵対的だったかね?」
「間違いなく。一番最初に殺気をぶつけられましたし……あぁ、そう」
 思い出したら少しムカついてきて、総司は一瞬唇を噛んだ。
「奴は住民の死体を水路に投げ捨てて音を立てた。結果、俺が気づいた。今思えばあれは挑発されていたんでしょうね」
「ほう……ヒトを食らうという目的のために忍び寄ることもなくか」
「はい。そうだ、俺も思い出してきた」
 グライヴと戦ったのは教会の庭。それは間違いないが、その道中は決して、グライヴも総司も「まっすぐ教会に向かった」というわけではなかった。
 グライヴはわざわざ、総司に見せつけるように、一度大通りの方角へ進んでから、教会へ進路を変えたのだ。
「凄惨な、自分で創り出した光景を俺に見せるために、奴はわざと……」
「……ヒトを食らうこと、殺すこと、どちらが目的でも不可解だな。存在を誇示すれば警戒されることは自明の理。事実、お前はグライヴに気づき、戦いとなり、斬り伏せた。後ろから忍び寄り襲い掛かっていれば、正面切って戦うよりは勝算があったかもしれんのにな」
「生存者たちを目の前にしてソウシに目標を切り替えたという事実もあります」
 リシアが、ルーナの証言を反芻した。女王もまた頷いて、
「残虐になるだけではなく好戦的になる。相手が誰であろうとだ。危険極まりないことに変わりはないね」
「ええ。しかも発生の原理も不明ときた。何とも厄介なことで」
 ビスティークが疲れたようにため息をついた。
「魔力はどうであった? 感覚的なものでよい」
「……気分の良いものではありませんでした。今朝、山の頂で凄い生き物と出会ったんですけど」
 総司が顔をしかめながら、思い出しながら、苦々しげに言った。
「生物が放つ魔力というものを比べてみて初めて、グライヴの放っていた魔力が不快なものなんだと知りました」
「まあ、ビオステリオスのそれはまた特殊ではあるが」
 ビスティークが言いながら、女王へと視線を移す。
「数少ない生き残りの話と合致しますな。うまく言葉に出来んがとにかく不愉快と」
「しかし情報が少ないね。ソウシよ」
「はい」
「次、活性化した魔獣とお前が遭遇したとしたら生け捕りに出来るか?」
「シエルダで戦ったのと同じ程度の戦闘能力なら、出来ると思います」
「しかし危険が伴う。イチノセにではなく、捕えた後見張る者たちに」
「何とも厄介なことよ……うむ、しかしわかった」
 女王はパン、と膝を叩いて、
「よく話してくれた。お前も辛かろうにな」
「いえ……大丈夫です」
「今日は休暇とする。明日より働いてもらうぞ。リシア、あとは任せる」
「かしこまりました。行くぞ、ソウシ」
「おう。では、失礼します」
 二人が謁見の間から足早に出ていくのを見送って、女王が口を開いた。
「どうであったか、お前の見立ては」
「確かに謎めいた雰囲気を持っている。陛下が気に掛けるというのも納得ですな」
 ビスティークはふわりと腕を振った。
 音もなく、簡素な椅子が空中から現れる。ゆったりと腰かけて、彼は深く息をついた。
「しかし、女神さまも随分と酷なことをされる。我らには到底理解の及ばぬお考えがあるのでしょうが……あの様子では、本当に何の知識もないのでは?」
「国の名前すら知らなかったようだ。だが、ソウシが女神の遣いという話は、ビオステリオスの様子を見れば疑いようもない……」
「……彼にはもうご教授なさったのですかな? 女神の住まう神域への至り方を」
「子ども向けの話を聞かせただけだよ。後はお前に任せようと思っていてね」
「さて、彼にそのことを教えるという行い……果たして、本当に女神を救うことに繋がるのやら……謎が多すぎます。あまりにも」
「それもこれから見定めていくさ。時間がどれほど残されているのか、私も知らんがね」
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