リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
94 / 155
第二章 誇り高きルディラント

終話① 誇りを受け継ぐ者

しおりを挟む
「……おーおー。大人びているように見えて、所詮ガキだなぁ、お前さんも」
 エルマがたっと駆け出して、座り込むリシアの傍に屈み、その体を優しく胸元へ抱きしめた。
「やはり口先だけではないか。覚悟を決めてきたなどと、その体たらくでよく言えたもんだ」
 言葉とは裏腹に、その声は優しい。ランセムはぱっと総司の方へ目をやって、呆れたように言った。
「なんだなんだお前さんまで。王の門出を泣いて見送るつもりか」
 総司は答えない。涙を流しながら、じっとランセムを見つめるのみだ。
 一千年の時を超えて、言葉を交わす救世主とルディラント王。女神レヴァンチェスカを以てして予期し得なかった奇跡の実現。
「フン……まあ、ここに来た時よりはマシな男になった。まだまだ足りんがな!」
「足りねえ足りねえって言うばかりで、最後ぐらいハッキリ言ってくれたっていいだろ!」
 また敬語が抜け、総司が叫ぶ。ランセムはフン、と鼻を鳴らした。
「おぉ良いだろう、言ってやる! わしはなぁ、お前さんの理由が今でも全く気に入らん!」
 ランセムは再び王の気迫を纏って、怒号を飛ばすかのように強く叫ぶ。
「右も左もわからぬ分際で、己の欲も望みも持たず、与えられただけの使命に踊らされおって! それ以外に理由がないだぁ? わしらの前で良くもそんなことが言えたもんだ!」
 王は本気で怒っていた。
 リシアが辿り着いた王の真意は――――
「使命がなければ生きる意味はないのか!? その役割をこなすことにしかお前さんの存在価値はないのか!? 全ての生命は、意味を持たねばただ生きることすら許されんのか!」
「でも、俺はそうしなきゃならない! 俺はそのためにリスティリアに呼ばれて――――」
「勝手に呼びつけられて勝手に押し付けられて、はいわかりましたと素直に受け入れて! とんだお人よしだ、笑えもせんわ!!」
「王ランセム、私が――――」
「お前さんは黙っとれ!」
 泣いて言葉を紡ぐのもやっとのリシアが何とか声を絞り出すが、ランセムは一喝して黙らせた。
「女神にやれと言われたからには、お前さんはそれしかしてはならんのか! 何も望んではならんのか! 与えられた役割をこなすことだけが命の存在価値だと! では我が臣民たちの、わしの命はどうなる! かつてこの地でただ日々を懸命に生き、最後には路傍の石ころのように蹴散らされるだけだったわしらの命には――――何も成し得なかったルディラントの民の命には、何の意味もなかったと! お前さんはそう言うのか!」
「いいえ――――いいえ、決して!!」
「おうとも!!」
 ランセムが頷いて続ける。
「誰にもそんなことを言わせはせん! ルディラントの民はかつてこの世界で懸命に生きた! 生きて、己の望みを持ち、それを叶えるため命の限りを尽くし! 結果がどうであれ自分の子へ、孫へ、親しい者たちへ、生きた証をこの世界に刻み続けてきた! それこそが生命の価値、生命の意味だ! そして今ここに!」
 ランセムがブン、と腕を振った。
 レブレーベントで女王より賜った白銀のジャケットには、レブレーベントの国章がその背中に刺繍されている。
 そして今、総司のジャケットの胸元に、時計の文字盤を模したルディラントの紋章が浮かび上がり、刻み込まれた。
 リシアの軽やかな、わずかな面積の鎧にも、ルディラントの紋章が焼き付けられた。リシアはその証を手で覆い、泣き崩れる。
「我らルディラントが確かにこの世界にあった証を受け継ぐ者が二人もいる! ルディラントの誇りと魂を受け継ぐ者が、ここにいる! この二人が望みと誇りを失わぬ限り、我らルディラントもまた失われることはない! 千年の仮初に、確かに意味はあったのだ!」
 胸元に刻まれた紋章に手を当て、しわが寄るほど強く握りしめる。
 ランセムが伝えたかった全てが詰まっている。
 リスティリアという世界を滞りなく回すための舞台装置。それが自分の役割だとレブレーベントで悟った。傍にいるリシアも、それが総司の役目だと当然のように受け入れていた。
 王ランセムは何よりそれが許せなかったのだ。本人も含めて、本来文句の一つも言っていいような苛酷な使命が、異世界の民に押し付けられていることをよしとして、誰もが当然と断じている目の前の現実。ランセムは、誰よりも総司のために怒り狂っていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...