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第四章 贖いしカイオディウム
プロローグ 王と枢機卿の密会①
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カイオディウム国王トルテウスは、涼しい顔で豪華な椅子に座っていた。恰幅の良い国王の体格に合わせて作られた椅子に腰かけた彼は、人の良さそうな柔和な笑みを浮かべながら、自分のすぐそばに控える聖騎士団員、クレア・ウェルゼミットに声を掛けた。
「君と会うのは久々だね、クレア。私の出迎えはいつもベルが来てくれていたからね」
「ご無沙汰いたしております、陛下。申し訳ありません、しばしお待ちを」
「よいよい。待たされるのはいつものことさ。リンクルと一緒でもいいかな? 娘がピアノのレッスンを受けている間、面倒を見るように頼まれてしまってね」
「もちろんです。良ければお預かり致しましょうか?」
「あぁ、いやいや。この子はどうも、クレアのことは苦手なようでね……」
「そう……ですか……」
カイオディウム王女のペット、リスのようなサイズの紫色の体毛を持つ小動物、リンクルが、国王の膝の上で丸まっている。愛くるしい姿であり、クレアとしては抱いてみたかったのだが、国王にストレートに言い切られてしまってシュンと落ち込んでしまった。
ここは大聖堂デミエル・ダリアの一室。“国王”と“枢機卿”が、政治も含め様々な打ち合わせをするという、そのためだけに作られた会議室だ。椅子が国王に合わせての特注品である、というのもこの部屋の機能によるものである。朝の陽ざしが差し込む大きな窓があるおかげで、魔法の灯りがなくとも十分に明るかった。
一国の王が、宗教団体であるウェルゼミット教団の本拠地に出向き、しかも当然のようにそれを「出迎える」ための部屋がある。そしてその逆はない。国王の屋敷に、簡素な城に、枢機卿を迎え入れる部屋は用意されていない。何故なら枢機卿は、大聖堂からわざわざ外へ出て、国王の元へ参じることなどありえないからだ。
カイオディウムと言う国の支配体制、その歪さがよく表れていると言えるだろう。
「お待たせいたしました」
フロル・ウェルゼミット枢機卿が足早に部屋に入り、国王に詫びた。口調は堅く、謝罪の意思が本当にあるわけでもないのがすぐにわかる。既にそんなことには慣れてしまった国王トルテウスは、嫌な顔一つしなかった。
「いえいえ、滅相もない」
フロルはさっと椅子に腰かけると、クレアに視線で合図する。クレアは頷いて部屋を出て行った。
代わりに入ってきたのは、背が高くがっちりとした体格の大男。よく鍛え上げられた体つきに、鋭く厳格そうな顔つきの男性だ。オールバックにした髪型と、何もせずとも醸し出す気迫も相まって、見る者を圧倒する威圧感がある。
「これはこれは、ライゼス。君も久しいね。息災かな?」
「お気遣い痛み入る、国王陛下。上々であります」
ライゼス・ウェルゼミット。ウェルゼミット一族の一人にして、ベル・スティンゴルドと並ぶ聖騎士団きっての魔法使い。魔法の才覚もさることながら戦闘の才能にも恵まれており、その実力は聖騎士団でも最強を誇る。
ライゼスはつかつかと、枢機卿と国王がつくテーブルに近づいたが、椅子に座ることはしなかった。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、国王陛下にはお聞きしたいことがありまして」
「何なりと。しかし穏やかではなさそうですな。ライゼスがこのような場に出てくるとはね。荒事は好かんのだが」
「私もそうならぬことを願うばかりです」
フロルは探るような目つきでトルテウスの顔を見た。
トルテウスは涼しい顔のまま、フロルの言葉を待っている。ライゼス・ウェルゼミットという、迫力溢れ実力も確かな使い手がこの場に配置されていても、何か焦るようなそぶりは微塵も見せていなかった。
「レブレーベントのアリンティアス団長と、それから御付きの男が来た日のことを、覚えていらっしゃいますか?」
「おぉ、もちろん。アリンティアス団長にソウシくん。彼らは一応私の客人であったことだし、よく覚えておりますよ」
「あなたはベルに出迎えを命じていた。そうですね」
「その点については申し訳ありませんなぁ。あなたの部下を勝手に使わせてもらいました。『下』に迎えがあった方が、事は円滑に進むと思いましてな」
「問題はありません。陛下にはベルと親しくしていただいておりますし、あの日彼女は休暇でしたので」
フロルはにこりともせず、愛想のない顔のままで言った。
「問題はその後です」
「その後」
「ベル・スティンゴルドは、あの日以来行方知れずとなっています」
「……なんと」
国王トルテウスの顔色がさっと変わった。涼しい顔が崩れ、どこか厳しさを帯びた表情になり、椅子に預けていた背中をぐっと伸ばして前のめりになった。
「そういえば、あの日以来遊びにも来ておりませんな……」
「客人二人は陛下との謁見の後、この大聖堂にやってきました。当然、陛下からは忠告があったと思いますが、無視した形でしょうね」
「ええ、まあ。望みが叶う可能性は低いというのは伝えた覚えがあります。しかしあの二人も、言葉一つで引ける状況ではなかったのでしょう」
「仰る通り、話を聞くに値しないと判断しておりました。大聖堂デミエル・ダリアの機能を使い、あの二人にはレブレーベントまでお帰り願うことにしていました」
トルテウスは少し顔をしかめた。
「お言葉ですが猊下、少々無礼が過ぎますな」
「致し方ありません」
トルテウスの厳しい言葉も軽く受け流して、フロルは続けた。
「その機能に、ベルは巻き込まれた形となります。少なくとも、見かけ上は」
「……深遠なる物言いをされますなぁ。見かけ上と」
「ええ。レブレーベントに使者を送りましたが、あの二人とベルはレブレーベントにはいませんでした」
「行き先が猊下の思惑とは違った、と? しかしデミエル・ダリアの転移魔法に干渉するとなると、かなりの使い手です。ベルは優秀な子ですがそこまでのことは……」
「その場でとっさに、というのであれば、確かに無理だったでしょう。ライゼス?」
「転移魔法に施された小細工は、周到に準備されていたものです。行き先は……座標が示す通りであれば、エルフの国ティタニエラがあるとされる広大な森」
トルテウスは困ったように眉根を寄せた。
「うぅむ……? 何ともはや、訳がわかりません。猊下がベルを疑っていらっしゃるのは理解しました。しかし、行き先があのティタニエラと言うのは……」
「そうですね、そこがわからないのですが、まあそれは今は置いておきましょう」
フロルはコホン、と咳ばらいをして、鋭く聞いた。
「率直に聞きます。まず、陛下は此度のベルの所業について、ご存じだったのではないかということ」
「私が?」
トルテウスは思わず笑った。
「残念ながら何も知りません。ベルがそのような真似をした理由も、行き先についても、一体どういう考えがあるのやら、見当もつかぬところです」
「ではもう一つ」
恐らくはそちらが本題だ。フロルは一つ目の質問を早々に切り上げた。
「あの日、ベルはあの二人と話す時間がありました。興味を持っていたのも知っています。陛下――――逆だったのではありませんか?」
「逆……?」
「あなたがベルに命じてあの二人を迎えに行かせたのではなく、“ベルが頼んで、自ら出迎え役を買って出た”のではないか、ということです」
ライゼスの目がすうっと細くなった。トルテウスの表情をじっと見つめ、観察している。
とうのトルテウスは、と言えば。
「いえいえ、決してそのようなことは。まさに私が依頼したことです。まああの子の性格ですから、休日のお遣いなど断られるかとは思いましたが、存外乗り気ではありました」
「陛下のお屋敷で、あの二人とベルが三人で話す機会はありましたか?」
「それもまずないと考えていいでしょう。もちろん、『下』からの道中どのような話があったのかは存じ上げませんが、ベルは確か、我が娘ルテアの部屋で昼食まで過ごしていたはずです」
トルテウスは首を振りながらそう言って、
「よろしければルテアを連れて参りましょうか? 丁度会いたがっておりましたし、猊下たっての望みとあらば、ピアノのレッスンなんて放り出して飛んでくると思いますが」
「いえ、それは」
フロルはわずかに眉根を寄せて遠慮がちに言った。フロルにしては珍しい表情である。というのも、トルテウスの娘、カイオディウムの王女ルテアは、フロルが苦手とするカイオディウムきっての「枢機卿の大ファン」なのだ。フロルの演説中に抱き着いてきたり、礼拝時にフロルが姿を見せようものなら最前列で目をらんらんと輝かせ、我慢しきれずフロルの元へ駆け出してしまったり。フロルとかかわるためなら王女の地位を存分に使い倒す根性も持つ、元気はつらつなルテアの暴走はこれまで数えきれない。
「王家の娘の嗜みであります故、邪魔をするわけにはいきません。後日きちんとお目通り願うとしましょう」
ライゼスがくすりと笑った。フロルの鋭い目が彼に飛び、ライゼスは即座に表情を引き締めた。
「疑ってしまった無礼をお許しください、陛下。我らも陛下と同じく見当がつかないのです。ベルがどうしてあの二人と共にティタニエラに向かったのか……少しでも何か手がかりがあればと」
「結構結構、気にしませんよ。しかしそうですか、ベルが……うぅむ、しかし反逆の類と決めつけるのは早計でしょうな。あの子が猊下を裏切るような真似をするとはとても」
「私ももちろんそう信じていますが、事実として現在、あの子は帰ってきていません」
「しかしこうは考えられませんか?」
トルテウスはパッと思いついたように軽く手を挙げた。
「例えば、あの二人の目的。荒唐無稽な話ではあるものの、ベルはとても興味を持っていました。それについては事実です。昼食の席でも楽しそうでしたので」
「ええ、私も知っていますが」
「ですがカイオディウムの秘宝を手にするというのは、正直言って不可能に近い。だから別の国まで送って、ついでに自分もちょっとした冒険を……なんて。あの子なら考えそうなことです。退屈しているようにも見えましたしね」
「……デミエル・ダリアの転移魔法を用いていなければ、なるほどと頷ける話ではあります。いえ、頷けてしまうのはよくないのですけどね。ベルの日頃の行いが知れるというものですが」
「失礼ながら陛下、即席で細工を施したというのは考えられない以上、スティンゴルドは計画的にこの脱走に及んだと思われます」
ライゼスが口を挟んだ。
「二人から話を聞いて、ちょっと協力してやろう、と思い立って出来ることではありません。仮に陛下の仰る通りだったとすれば、なおのことティタニエラを目指したというのも不可解な話です」
「ああ、そういえばその問題があったね」
ベルが目指した国は、遥か昔から外界との接触を拒み続けてきた秘境中の秘境だ。ちょっとした冒険の行き先とするにはあまりにもリスクの大きい目的地である。
ベルには明確な目的があった。しかし、それが何かまでは読み切れない。
「力になれなくて済まないが、私にはどうも、わからんなぁ……」
「君と会うのは久々だね、クレア。私の出迎えはいつもベルが来てくれていたからね」
「ご無沙汰いたしております、陛下。申し訳ありません、しばしお待ちを」
「よいよい。待たされるのはいつものことさ。リンクルと一緒でもいいかな? 娘がピアノのレッスンを受けている間、面倒を見るように頼まれてしまってね」
「もちろんです。良ければお預かり致しましょうか?」
「あぁ、いやいや。この子はどうも、クレアのことは苦手なようでね……」
「そう……ですか……」
カイオディウム王女のペット、リスのようなサイズの紫色の体毛を持つ小動物、リンクルが、国王の膝の上で丸まっている。愛くるしい姿であり、クレアとしては抱いてみたかったのだが、国王にストレートに言い切られてしまってシュンと落ち込んでしまった。
ここは大聖堂デミエル・ダリアの一室。“国王”と“枢機卿”が、政治も含め様々な打ち合わせをするという、そのためだけに作られた会議室だ。椅子が国王に合わせての特注品である、というのもこの部屋の機能によるものである。朝の陽ざしが差し込む大きな窓があるおかげで、魔法の灯りがなくとも十分に明るかった。
一国の王が、宗教団体であるウェルゼミット教団の本拠地に出向き、しかも当然のようにそれを「出迎える」ための部屋がある。そしてその逆はない。国王の屋敷に、簡素な城に、枢機卿を迎え入れる部屋は用意されていない。何故なら枢機卿は、大聖堂からわざわざ外へ出て、国王の元へ参じることなどありえないからだ。
カイオディウムと言う国の支配体制、その歪さがよく表れていると言えるだろう。
「お待たせいたしました」
フロル・ウェルゼミット枢機卿が足早に部屋に入り、国王に詫びた。口調は堅く、謝罪の意思が本当にあるわけでもないのがすぐにわかる。既にそんなことには慣れてしまった国王トルテウスは、嫌な顔一つしなかった。
「いえいえ、滅相もない」
フロルはさっと椅子に腰かけると、クレアに視線で合図する。クレアは頷いて部屋を出て行った。
代わりに入ってきたのは、背が高くがっちりとした体格の大男。よく鍛え上げられた体つきに、鋭く厳格そうな顔つきの男性だ。オールバックにした髪型と、何もせずとも醸し出す気迫も相まって、見る者を圧倒する威圧感がある。
「これはこれは、ライゼス。君も久しいね。息災かな?」
「お気遣い痛み入る、国王陛下。上々であります」
ライゼス・ウェルゼミット。ウェルゼミット一族の一人にして、ベル・スティンゴルドと並ぶ聖騎士団きっての魔法使い。魔法の才覚もさることながら戦闘の才能にも恵まれており、その実力は聖騎士団でも最強を誇る。
ライゼスはつかつかと、枢機卿と国王がつくテーブルに近づいたが、椅子に座ることはしなかった。
「本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、国王陛下にはお聞きしたいことがありまして」
「何なりと。しかし穏やかではなさそうですな。ライゼスがこのような場に出てくるとはね。荒事は好かんのだが」
「私もそうならぬことを願うばかりです」
フロルは探るような目つきでトルテウスの顔を見た。
トルテウスは涼しい顔のまま、フロルの言葉を待っている。ライゼス・ウェルゼミットという、迫力溢れ実力も確かな使い手がこの場に配置されていても、何か焦るようなそぶりは微塵も見せていなかった。
「レブレーベントのアリンティアス団長と、それから御付きの男が来た日のことを、覚えていらっしゃいますか?」
「おぉ、もちろん。アリンティアス団長にソウシくん。彼らは一応私の客人であったことだし、よく覚えておりますよ」
「あなたはベルに出迎えを命じていた。そうですね」
「その点については申し訳ありませんなぁ。あなたの部下を勝手に使わせてもらいました。『下』に迎えがあった方が、事は円滑に進むと思いましてな」
「問題はありません。陛下にはベルと親しくしていただいておりますし、あの日彼女は休暇でしたので」
フロルはにこりともせず、愛想のない顔のままで言った。
「問題はその後です」
「その後」
「ベル・スティンゴルドは、あの日以来行方知れずとなっています」
「……なんと」
国王トルテウスの顔色がさっと変わった。涼しい顔が崩れ、どこか厳しさを帯びた表情になり、椅子に預けていた背中をぐっと伸ばして前のめりになった。
「そういえば、あの日以来遊びにも来ておりませんな……」
「客人二人は陛下との謁見の後、この大聖堂にやってきました。当然、陛下からは忠告があったと思いますが、無視した形でしょうね」
「ええ、まあ。望みが叶う可能性は低いというのは伝えた覚えがあります。しかしあの二人も、言葉一つで引ける状況ではなかったのでしょう」
「仰る通り、話を聞くに値しないと判断しておりました。大聖堂デミエル・ダリアの機能を使い、あの二人にはレブレーベントまでお帰り願うことにしていました」
トルテウスは少し顔をしかめた。
「お言葉ですが猊下、少々無礼が過ぎますな」
「致し方ありません」
トルテウスの厳しい言葉も軽く受け流して、フロルは続けた。
「その機能に、ベルは巻き込まれた形となります。少なくとも、見かけ上は」
「……深遠なる物言いをされますなぁ。見かけ上と」
「ええ。レブレーベントに使者を送りましたが、あの二人とベルはレブレーベントにはいませんでした」
「行き先が猊下の思惑とは違った、と? しかしデミエル・ダリアの転移魔法に干渉するとなると、かなりの使い手です。ベルは優秀な子ですがそこまでのことは……」
「その場でとっさに、というのであれば、確かに無理だったでしょう。ライゼス?」
「転移魔法に施された小細工は、周到に準備されていたものです。行き先は……座標が示す通りであれば、エルフの国ティタニエラがあるとされる広大な森」
トルテウスは困ったように眉根を寄せた。
「うぅむ……? 何ともはや、訳がわかりません。猊下がベルを疑っていらっしゃるのは理解しました。しかし、行き先があのティタニエラと言うのは……」
「そうですね、そこがわからないのですが、まあそれは今は置いておきましょう」
フロルはコホン、と咳ばらいをして、鋭く聞いた。
「率直に聞きます。まず、陛下は此度のベルの所業について、ご存じだったのではないかということ」
「私が?」
トルテウスは思わず笑った。
「残念ながら何も知りません。ベルがそのような真似をした理由も、行き先についても、一体どういう考えがあるのやら、見当もつかぬところです」
「ではもう一つ」
恐らくはそちらが本題だ。フロルは一つ目の質問を早々に切り上げた。
「あの日、ベルはあの二人と話す時間がありました。興味を持っていたのも知っています。陛下――――逆だったのではありませんか?」
「逆……?」
「あなたがベルに命じてあの二人を迎えに行かせたのではなく、“ベルが頼んで、自ら出迎え役を買って出た”のではないか、ということです」
ライゼスの目がすうっと細くなった。トルテウスの表情をじっと見つめ、観察している。
とうのトルテウスは、と言えば。
「いえいえ、決してそのようなことは。まさに私が依頼したことです。まああの子の性格ですから、休日のお遣いなど断られるかとは思いましたが、存外乗り気ではありました」
「陛下のお屋敷で、あの二人とベルが三人で話す機会はありましたか?」
「それもまずないと考えていいでしょう。もちろん、『下』からの道中どのような話があったのかは存じ上げませんが、ベルは確か、我が娘ルテアの部屋で昼食まで過ごしていたはずです」
トルテウスは首を振りながらそう言って、
「よろしければルテアを連れて参りましょうか? 丁度会いたがっておりましたし、猊下たっての望みとあらば、ピアノのレッスンなんて放り出して飛んでくると思いますが」
「いえ、それは」
フロルはわずかに眉根を寄せて遠慮がちに言った。フロルにしては珍しい表情である。というのも、トルテウスの娘、カイオディウムの王女ルテアは、フロルが苦手とするカイオディウムきっての「枢機卿の大ファン」なのだ。フロルの演説中に抱き着いてきたり、礼拝時にフロルが姿を見せようものなら最前列で目をらんらんと輝かせ、我慢しきれずフロルの元へ駆け出してしまったり。フロルとかかわるためなら王女の地位を存分に使い倒す根性も持つ、元気はつらつなルテアの暴走はこれまで数えきれない。
「王家の娘の嗜みであります故、邪魔をするわけにはいきません。後日きちんとお目通り願うとしましょう」
ライゼスがくすりと笑った。フロルの鋭い目が彼に飛び、ライゼスは即座に表情を引き締めた。
「疑ってしまった無礼をお許しください、陛下。我らも陛下と同じく見当がつかないのです。ベルがどうしてあの二人と共にティタニエラに向かったのか……少しでも何か手がかりがあればと」
「結構結構、気にしませんよ。しかしそうですか、ベルが……うぅむ、しかし反逆の類と決めつけるのは早計でしょうな。あの子が猊下を裏切るような真似をするとはとても」
「私ももちろんそう信じていますが、事実として現在、あの子は帰ってきていません」
「しかしこうは考えられませんか?」
トルテウスはパッと思いついたように軽く手を挙げた。
「例えば、あの二人の目的。荒唐無稽な話ではあるものの、ベルはとても興味を持っていました。それについては事実です。昼食の席でも楽しそうでしたので」
「ええ、私も知っていますが」
「ですがカイオディウムの秘宝を手にするというのは、正直言って不可能に近い。だから別の国まで送って、ついでに自分もちょっとした冒険を……なんて。あの子なら考えそうなことです。退屈しているようにも見えましたしね」
「……デミエル・ダリアの転移魔法を用いていなければ、なるほどと頷ける話ではあります。いえ、頷けてしまうのはよくないのですけどね。ベルの日頃の行いが知れるというものですが」
「失礼ながら陛下、即席で細工を施したというのは考えられない以上、スティンゴルドは計画的にこの脱走に及んだと思われます」
ライゼスが口を挟んだ。
「二人から話を聞いて、ちょっと協力してやろう、と思い立って出来ることではありません。仮に陛下の仰る通りだったとすれば、なおのことティタニエラを目指したというのも不可解な話です」
「ああ、そういえばその問題があったね」
ベルが目指した国は、遥か昔から外界との接触を拒み続けてきた秘境中の秘境だ。ちょっとした冒険の行き先とするにはあまりにもリスクの大きい目的地である。
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