【完結】最後の勇者と元魔王さまはこの世界を知り得るか

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

 どうしたものかね、思わずそう溜息を吐いた。
 背後で完全に不貞腐れた表情のノエがぶつぶつ呟いている。

 先程、試したいことがあると神妙なかおで言うノエに何事かと思ったけれど、なんてことはない、今の自分の状態を知りたいというだけだった。
 俺はもうこの世界で二年程過ごしてきたけれど、ノエからしたら気がついてまだ一日も経ってないのだ、色々と納得いかないことも多いのだろう。

 お前がいると魔力が使えん、近付くなとなかなかの酷い言われように、まあ今の状態のノエが逃げても捕まえるのは簡単だし、と離れたところから見守っていてあげることにした。
 遠目で見ても、何かしらの魔法を使っているのはわかる。
 本当に魔王かどうかは置いておいても、魔法を使えるということは事実のようだ。
 それなら何故ノエが不貞腐れているのか。
 魔王さまご自慢の魔力が余りにもしょぼかったからだろう。
 一度こっちまで息切れを起こしながらも戻り、魔力が足りない!と文句を言われたので多分そう。

 魔力が欲しいの、と口許に触れると、ぐぬぬ、という表情をするものだから、成程、行為の意味はわかっているようだ。
 勘違いしないでほしい、別に俺にそんな趣味はない。先程のはからかい半分、残り半分はわかりやすく、手っ取り早い手段を取ったというだけ。
 流石にセックスをする訳にもいかず、血を飲ませるのもアウトな気がして、キスくらいならいいかと思っただけ。
 勿論、何回もキスを出来るのか出来ないかと言われたら全然余裕で出来る。この綺麗なかおには余裕。
 けれど誰彼構わずする程節操なしのつもりもないし、何より弟みたいな年齢の子に欲情する程やばい奴にもなりたくなかった。
 いや、本当に二百歳超えてたとしてもやっぱりね?見た目と言動がこどもなんだもん、そんなつもりにもなれないし犯罪という言葉もちらつく。

 だから出来るだけそういう接触は避けたいな、と思っていたので、ノエの方から近付かないでくれたら助かる。そう安心していたのに。
 ノエの羞恥心や屈辱感とかそういうものより、どうにも気になってしまったんだろうな、魔力ちょうだい、とお強請りされてしまった。
 ……正直かわいい。
 昔からそういうのに弱いの、俺。
 野菜食べなさい、お菓子はもう終わり、玩具は買わないよ、そう弟妹に言っても最終的に、おにいちゃんお願い、と言われたら折れてしまうの。母さんたちにもいつも甘いわね、って呆れられてしまう程。
 だってかわいい。かわいいから仕方ないのだ。
 ……とはいえやっぱり無理。そんな理由じゃ無理。
 一応まだ歩けるようだし、魔力のバーゲンセールはいたしません。慣れてしまっても困るし。

 食事を作るからと丸め込もうとしても、朝食でそれが微々たる魔力にしかならないのを知ってしまったノエは明らかに納得していないかお。
 でもお強請りしてしまったとはいえ、やはりキスをするのは癪なんだろう、わかるよ、その感覚をだいじにしてほしい、俺を犯罪者にしない為に。

 結局、魔法が使えることはわかったのだからもういいだろう、と座らせて、夕飯の準備に取り掛かった訳だけども。
 色んな意味で熱い視線が痛い。

 ひとり分なら余裕のあった食材も、ノエのあの食べっぷりのお陰でもう心許ない。まさかパン全部食べ切るなんて思わなかった。
 明日の昼には街に着いてるとして、夕食と朝食となると……今から何かを狩りに行くのは避けたい。そうなるとまた魚かあ。
 薄暗くなって来たし、さっさと終わらせてしまいたい。
 ノエにそのまま動かないよう残して、川の方へ足を向ける。
 俺は繊細な魔法は苦手なのだ。

「……お前、」

 背後から呆気に取られたような声がする。
 ちょっとびっくりさせちゃったかな、出来るだけ出力は抑えたつもりだったんだけど。
 思ったより音が響いてしまったみたい。魚も跳ねたし。
 俺はやっぱり繊細な魔法は苦手なのだ。

 雷は海に落ちないと見たことがあるけど、魔法なら話は別だ。
 電気を流して外来魚を捕獲したとニュースで観たことがある、その時の魚の一網打尽っぷりを思い出して、同じようなことをさせてもらった。
 一応範囲は狭くなるように防御魔法も張って。その後は網のようなもので回収するだけ。
 ……本当に苦手なんだよね、こういう、複数魔法を使ったり範囲を狭めたり出力の調整をしたりするの。
 魔法を使うひとの減ったこの時代ではそんなに頻繁に使わないようにはしてたし。
 ばばっと大きなモンスターを倒す!とかの方が向いてると思うんだけど、残念ながらまだそんな機会はない。
 だからドラゴン退治ではやっと自分のすきにできる、とわくわくしていたんだけれど。
 ノエがやたらドラゴン退治に反対するものだから、ちょっと躊躇いが出てきてしまった。
 頭が良い生き物、そうノエは言っていた。
 そうだよなぁ、竜ってそういうものだよなあ、いや、見たことはないけどさ、言い伝えではそういう存在だよなあって。

 そんなことを考えていると、また無言でノエが近付いてきた。
 わかってはいてもびっくりする、食事への期待が凄い。
 許して欲しい、ちゃんと伝えた筈だけど、俺は凝った料理は出来ない、こっちの世界に来て、必要に駆られてやっと魚を捌けるようになったレベルなのだ、街で美味しいもの食べさせてあげるから、そんなにきらきらした瞳で手元を見つめないでほしい。
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