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遅いぞ!と急かすように俺の腕を引くノエに、少し歩みを早める。
確かに早く済ませてしまわないと、また野宿になってしまうかもしれない、駄目です、それは駄目だ。ちゃんと宿に戻りたい。
暫くそのまま歩き続けて、歩き続けて、まだ歩き続けて、開けた土地なのに、未だドラゴンは姿を見せない。
気配は薄らと感じる。確かにいる。多分、想像しているのよりもずっとでかいのが。
隠れているのか、俺たちに姿を見せないだけか。
観光客で賑わう花の街。気温と土壌に恵まれた街。
そこを出て少し歩くだけで、目の前には枯れた土地が広がる。
そういうところも魔法のある世界だなって思う。なんて両極端な世界。
そのお陰で視界が広くて探しやすいんだけれど。
「もう少しだ!」
「……全然見えなくない?」
「あっち!」
森を抜けた時とは逆に、ノエが俺を引く構図がちょっと面白い。
腕を引くといっても力は全然篭ってないし、どちらかというと声で急かすという方が正しい。
余程ドラゴンに会えるのが嬉しいようだ、と考えて、それもそうかと思い直す。
まだここに来て数日とはいえ、魔王城は崩れ、魔族もほぼいなくなったのはわかっているようだ、その中で自分の味方がいるとわかったら会いたくなるのは普通だろう。
俺だってそんな存在が居たら会いたくなる。話が出来るだけで安心する、嬉しくなる、癒される。
凶暴なドラゴンだったらと少し心配してはいたけれど、そうでもなさそうだ。今の力のないノエであっても少しは……
…………
大丈夫か?魔王だってわかってもらえるのか?すぐ殺されたりしない?えっこわ、ドラゴンがってより無力なノエがこわい!
弱いくせに突っ込むこどものようでめちゃくちゃこわい!その通りなんだけど!
「あそこだ」
「えっ、え、どこ、いないけど、地面と空しか見えないけど、えっ擬態でもしてる?」
興奮気味にノエが指差すところには何もない。やはり気配はするのだけれど。
首を傾げる俺に、下だよ、下、とくいと指を下に降ろす。
下。
足を進めて、そこが崖のように地割れしているのを確認する。
この下にいるって?ドラゴンが?
恐る恐る、興味本位、初めて見るドラゴンに少し浮かれて、見たい、見たくない、まだ夢見てたい、本物が見てみたい。ノエがドラゴンを格好良いというが、俺だってそう思うよ、男はすきでしょ、ドラゴンとか恐竜とかさ。
好奇心と危機感、どちらもわかりながら、それでもここまで来てドラゴンと対峙することを止めることも出来る訳がない。
いる、と声を漏らすノエの横で、俺はその姿に目を丸くしていた。
予想通りの、昔ゲームや漫画で見たようなフォルム、保護色なのか土と同化しているような所々苔のような皮膚の色、硬そうな鱗、ちらりと見える鋭い爪、畳まれた翼、こちらを見てなくてもわかる大きな黒い瞳。
そしてとんでもない巨躯。
鷲だとか虎だとか象だとか鯨だとか、そんなのとは比べられなかった。あんなの、生き物じゃなくて、船とかそういうのと同じくらいの……
「シャル!」
「わっ馬鹿声でっけ」
「魔力!ちょうだい!」
今朝魔力を渡さなくて済んだと思った。あんな空気で渡すのもどうかと。
でもこんな元気に言われてしまうと、そんなこと考えてる俺の方が意識し過ぎだと思ってしまう。
ただの魔力供給、性的なものは何もない。かわいそうな魔王さまに魔力を渡してあげるだけ。
わかっているのに。
この子自体が色気を出したりこうやって無邪気に言ったりするから、どういう気持ちで言ってるのかわからない。
「ねえ早く!早く下行きたい!そこ!もうすぐそこいる!」
ぴょこぴょこ跳ねるようにして腕を掴むノエ。
おにいちゃんあれ買ってえ!とせがむ小さい頃の妹にそっくりだ。かわいい。強請ってるものがかわいくないけど。
そうなってしまうくらい興奮してるようだ。
「……」
「お願い、残ってるだけの魔力じゃ話出来ない」
「ドラゴンと話出来んの」
「うん!」
「……やばくない?あのでかさ、ノエなんて息するだけで吹っ飛ぶよ」
大丈夫だから!早く!ねえねえねえ!と、もうここまで来たら駄々っ子の域だ。
がくがくと俺を揺らし始めたノエに、もう駄目とも言えない。こんなに瞳をきらきらさせられては、魔力をあげないなんてもう意地悪じゃないか。
ひとつ溜息を吐いて、少しだけだからね、と言うが早いが、俺の首元に飛びつき、頭を下げさせ、柔らかい唇を重ねてくる。
……この子は物覚えが悪いな、俺が渡そうとしなければ魔力を渡すことは出来ないと伝えてるのに。
一瞬で終わったキスに、あれ、とノエは首を傾げる。
それからあっと口を開いて、間抜けなかおで、力ちょうだいよ!と頬を膨らませた。
馬鹿、そんなタイミング良く渡せる訳ないだろ、リズムゲームかよ、と突っ込みたいところをぐっと堪えて、腰を曲げた。
「今の一瞬じゃ無理だよ、ほらどうぞ」
俺も馬鹿なんだよ、自分の首を絞めてるのはわかるのに、そんな意地悪言っちゃうの。背伸びしてキスするノエかわいいななんて思っちゃうの。
だって所詮弟のようで弟ではない、シャルルよりも、生前の俺よりも大分歳上なんだし、おとなと未成年の危ない関係ではない、多分。
ちょっとくらい、キスくらい、と魔が差してしまうのは仕方がない。
だってもう、信じらんないくらいかわいいんだもんこの子。
何も手入れしてない筈の唇がふわふわしてるんだもん、そんなの欲望に抗えなかった。
俺は悪くない。
確かに早く済ませてしまわないと、また野宿になってしまうかもしれない、駄目です、それは駄目だ。ちゃんと宿に戻りたい。
暫くそのまま歩き続けて、歩き続けて、まだ歩き続けて、開けた土地なのに、未だドラゴンは姿を見せない。
気配は薄らと感じる。確かにいる。多分、想像しているのよりもずっとでかいのが。
隠れているのか、俺たちに姿を見せないだけか。
観光客で賑わう花の街。気温と土壌に恵まれた街。
そこを出て少し歩くだけで、目の前には枯れた土地が広がる。
そういうところも魔法のある世界だなって思う。なんて両極端な世界。
そのお陰で視界が広くて探しやすいんだけれど。
「もう少しだ!」
「……全然見えなくない?」
「あっち!」
森を抜けた時とは逆に、ノエが俺を引く構図がちょっと面白い。
腕を引くといっても力は全然篭ってないし、どちらかというと声で急かすという方が正しい。
余程ドラゴンに会えるのが嬉しいようだ、と考えて、それもそうかと思い直す。
まだここに来て数日とはいえ、魔王城は崩れ、魔族もほぼいなくなったのはわかっているようだ、その中で自分の味方がいるとわかったら会いたくなるのは普通だろう。
俺だってそんな存在が居たら会いたくなる。話が出来るだけで安心する、嬉しくなる、癒される。
凶暴なドラゴンだったらと少し心配してはいたけれど、そうでもなさそうだ。今の力のないノエであっても少しは……
…………
大丈夫か?魔王だってわかってもらえるのか?すぐ殺されたりしない?えっこわ、ドラゴンがってより無力なノエがこわい!
弱いくせに突っ込むこどものようでめちゃくちゃこわい!その通りなんだけど!
「あそこだ」
「えっ、え、どこ、いないけど、地面と空しか見えないけど、えっ擬態でもしてる?」
興奮気味にノエが指差すところには何もない。やはり気配はするのだけれど。
首を傾げる俺に、下だよ、下、とくいと指を下に降ろす。
下。
足を進めて、そこが崖のように地割れしているのを確認する。
この下にいるって?ドラゴンが?
恐る恐る、興味本位、初めて見るドラゴンに少し浮かれて、見たい、見たくない、まだ夢見てたい、本物が見てみたい。ノエがドラゴンを格好良いというが、俺だってそう思うよ、男はすきでしょ、ドラゴンとか恐竜とかさ。
好奇心と危機感、どちらもわかりながら、それでもここまで来てドラゴンと対峙することを止めることも出来る訳がない。
いる、と声を漏らすノエの横で、俺はその姿に目を丸くしていた。
予想通りの、昔ゲームや漫画で見たようなフォルム、保護色なのか土と同化しているような所々苔のような皮膚の色、硬そうな鱗、ちらりと見える鋭い爪、畳まれた翼、こちらを見てなくてもわかる大きな黒い瞳。
そしてとんでもない巨躯。
鷲だとか虎だとか象だとか鯨だとか、そんなのとは比べられなかった。あんなの、生き物じゃなくて、船とかそういうのと同じくらいの……
「シャル!」
「わっ馬鹿声でっけ」
「魔力!ちょうだい!」
今朝魔力を渡さなくて済んだと思った。あんな空気で渡すのもどうかと。
でもこんな元気に言われてしまうと、そんなこと考えてる俺の方が意識し過ぎだと思ってしまう。
ただの魔力供給、性的なものは何もない。かわいそうな魔王さまに魔力を渡してあげるだけ。
わかっているのに。
この子自体が色気を出したりこうやって無邪気に言ったりするから、どういう気持ちで言ってるのかわからない。
「ねえ早く!早く下行きたい!そこ!もうすぐそこいる!」
ぴょこぴょこ跳ねるようにして腕を掴むノエ。
おにいちゃんあれ買ってえ!とせがむ小さい頃の妹にそっくりだ。かわいい。強請ってるものがかわいくないけど。
そうなってしまうくらい興奮してるようだ。
「……」
「お願い、残ってるだけの魔力じゃ話出来ない」
「ドラゴンと話出来んの」
「うん!」
「……やばくない?あのでかさ、ノエなんて息するだけで吹っ飛ぶよ」
大丈夫だから!早く!ねえねえねえ!と、もうここまで来たら駄々っ子の域だ。
がくがくと俺を揺らし始めたノエに、もう駄目とも言えない。こんなに瞳をきらきらさせられては、魔力をあげないなんてもう意地悪じゃないか。
ひとつ溜息を吐いて、少しだけだからね、と言うが早いが、俺の首元に飛びつき、頭を下げさせ、柔らかい唇を重ねてくる。
……この子は物覚えが悪いな、俺が渡そうとしなければ魔力を渡すことは出来ないと伝えてるのに。
一瞬で終わったキスに、あれ、とノエは首を傾げる。
それからあっと口を開いて、間抜けなかおで、力ちょうだいよ!と頬を膨らませた。
馬鹿、そんなタイミング良く渡せる訳ないだろ、リズムゲームかよ、と突っ込みたいところをぐっと堪えて、腰を曲げた。
「今の一瞬じゃ無理だよ、ほらどうぞ」
俺も馬鹿なんだよ、自分の首を絞めてるのはわかるのに、そんな意地悪言っちゃうの。背伸びしてキスするノエかわいいななんて思っちゃうの。
だって所詮弟のようで弟ではない、シャルルよりも、生前の俺よりも大分歳上なんだし、おとなと未成年の危ない関係ではない、多分。
ちょっとくらい、キスくらい、と魔が差してしまうのは仕方がない。
だってもう、信じらんないくらいかわいいんだもんこの子。
何も手入れしてない筈の唇がふわふわしてるんだもん、そんなの欲望に抗えなかった。
俺は悪くない。
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