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にじゅうきゅう
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「ノエはドラゴン退治する俺を止めて、ドラゴンに会う為にここに来たでしょ、だからもう、俺といる必要はないのかなって思ったんだ、ごめんね、そうだよね、今は卵あるもんね……でもその卵……いやいい、これは今度話そう」
大丈夫、魔力もあげるし、卵が孵るまで一緒にいるよ、と柔らかく言う。
違う、違う、違う違う違う、卵が孵るまでとか、そんなんじゃなくて、おれが死ぬまで一緒にいて。
そう言いたかったのに、それも言えなかった。
魔王のおれがそんなこと言ったらだめだろうってわかってるから。
◆◆◆
明日出ちゃうから今日は最後にこの街を回らない?
そうシャルルに提案されて頷いた。
ここ数日のおれはベッドから殆ど出ることもなく閉じ籠っていたから、多分シャルルも気を遣ったんだと思う。
少し安心したようなかおをして、いっぱい食べようね、といつもより優しく話す。
「歩いてる間、やっぱり魔力減るし俺が卵預かろうか」
「……いい、ちゃんと自分で責任持つ」
自分の為にも卵の為にも、本当はシャルルに預かってもらった方がいいのかもしれない。
けれど、卵が孵るまで、と言われてしまった、シャルルが預かるとその魔力の高さゆえ、すぐに孵ってしまうかもしれない、そうなったら、
……そうなったら。
そんなことを考えてしまった自分が嫌だ。
早くドラゴンに生まれてほしいのに、会いたいのに、心配なのに、こんなことまでシャルルのせいにしてしまうなんて。
シャルルはそっか、と苦笑いして、ぶつけないよう気をつけてね、と言う。
もしかしたら、おれは誰かと話すのが下手くそなのかもしれない。
だって今までそんなに話すことなんて、必要なかったし。考えたこと、なかった。
どうしよう、こういうのが、シャルルといるのが嫌だと思われてしまう原因なのかもしれないのに。
どうしたら楽しい、ってわかってもらえるんだろう。
考えて考えて、でもどうしようもなくて、だからといってまあいっかと放って置ける訳でもなくて、シャルルの手に自分の腕を伸ばす。
シャルルは少しびっくりしたかおをして、それからすぐに笑って、迷子にならないようにね、とその手を握り返してくれた。
どうしたらひとりにならないですむかわからなかった。
ドラゴンが生まれたって、きっとひとりじゃおれは死ぬ。
生まれたドラゴンだって下手すれば死ぬ。
今の世界はおれたちに優しくない。
だから、シャルルの傍にいないといけない、ドラゴンだって言っていた、勇者といれば大丈夫、そう言っていた。
だから、だから、おれはシャルルから離れたらいけないんだ、シャルルがおれから離れたらいけないんだ。
あれ食べる?あっちの方はこないだ行かなかったよね、行ってみようか、あ、その前にあれ買ってこう、そうおれの手を引いたままシャルルは先に進んでいく。
たまに立ち止まってお店を覗いて、おれのかおを見て、買って、また進む。時折おれの体調を気にしながら。
握った手は離されても、すぐにまた重ねられる。
シャルルが誰かをおれと重ねてるのかはもうわかってる。それでもいい、離れないのなら。
初日のように、食べて、休んで、雑貨なんかを買って、また食べて。
シャルルは今回は食べ過ぎないようにしようと笑いながらも、おれには食べなとすすめてくる。
美味しくて、少しでも魔力になるのだから喜んで食べる。
食べるけれど、本当はシャルルの魔力がいちばん美味しいと思う。
食べ物の美味しさとはまた違うんだけど、なんというか、そんなちっぽけなものじゃなくて、躰がぽかぽかするような、そんな満足感があって……だからおれは、シャルルから魔力を貰うのがいちばん嬉しい。
「明日のおやつも買ってこっか」
「おやつ」
「どうせノエ、道中でお腹空いたって言うでしょ、すきなの選んでいいよ」
「えっ、ほんと」
じゃあさっき食べた小さなケーキと、袋に詰め合わせられた焼き菓子と、甘いどろっとしたのが乗ったパンと、あと果物も、冷たいのは溶けちゃうからだめ、砂糖漬けとキャンディと、それから……
「いつものノエだ」
ふ、とシャルルが笑って、おれの頭を撫でた。元気が出て良かった、と。
やっぱりノエは元気にしてる方がかわいいよ、と言うから、ああそうか、おれは元気にしてたらいいのか、と思った。
わかった、じゃあおれ、元気でいる。
「元気出てきたじゃん」
「ん、いっぱい食べた、から」
「そか」
「んっ」
くしゃくしゃと両手で髪を撫でて、その手をまたおれに向けると、今言ったの全部買って戻ろうか、と言う。
頷いてその手を握った。
こわいことなんてないと思っていたのに、こわいことが増えていく。
シャルルが眩しい程照らして、世界も明るくて、おれはもうあんな暗いところにはいない筈なのに、なんでだろう。
多分それはもうわかってて、知ってしまったから、だからこわいんだろう。
知らないことはこわい。
けれど、知ることでもこわくなるなんて。
だけどおれはまだ知りたい、ニンゲンのことを、シャルルのことを、もっと知って、もっと、もっと、もっと、
おれと一緒にいるって、言ってもらわなくちゃ。
大丈夫、魔力もあげるし、卵が孵るまで一緒にいるよ、と柔らかく言う。
違う、違う、違う違う違う、卵が孵るまでとか、そんなんじゃなくて、おれが死ぬまで一緒にいて。
そう言いたかったのに、それも言えなかった。
魔王のおれがそんなこと言ったらだめだろうってわかってるから。
◆◆◆
明日出ちゃうから今日は最後にこの街を回らない?
そうシャルルに提案されて頷いた。
ここ数日のおれはベッドから殆ど出ることもなく閉じ籠っていたから、多分シャルルも気を遣ったんだと思う。
少し安心したようなかおをして、いっぱい食べようね、といつもより優しく話す。
「歩いてる間、やっぱり魔力減るし俺が卵預かろうか」
「……いい、ちゃんと自分で責任持つ」
自分の為にも卵の為にも、本当はシャルルに預かってもらった方がいいのかもしれない。
けれど、卵が孵るまで、と言われてしまった、シャルルが預かるとその魔力の高さゆえ、すぐに孵ってしまうかもしれない、そうなったら、
……そうなったら。
そんなことを考えてしまった自分が嫌だ。
早くドラゴンに生まれてほしいのに、会いたいのに、心配なのに、こんなことまでシャルルのせいにしてしまうなんて。
シャルルはそっか、と苦笑いして、ぶつけないよう気をつけてね、と言う。
もしかしたら、おれは誰かと話すのが下手くそなのかもしれない。
だって今までそんなに話すことなんて、必要なかったし。考えたこと、なかった。
どうしよう、こういうのが、シャルルといるのが嫌だと思われてしまう原因なのかもしれないのに。
どうしたら楽しい、ってわかってもらえるんだろう。
考えて考えて、でもどうしようもなくて、だからといってまあいっかと放って置ける訳でもなくて、シャルルの手に自分の腕を伸ばす。
シャルルは少しびっくりしたかおをして、それからすぐに笑って、迷子にならないようにね、とその手を握り返してくれた。
どうしたらひとりにならないですむかわからなかった。
ドラゴンが生まれたって、きっとひとりじゃおれは死ぬ。
生まれたドラゴンだって下手すれば死ぬ。
今の世界はおれたちに優しくない。
だから、シャルルの傍にいないといけない、ドラゴンだって言っていた、勇者といれば大丈夫、そう言っていた。
だから、だから、おれはシャルルから離れたらいけないんだ、シャルルがおれから離れたらいけないんだ。
あれ食べる?あっちの方はこないだ行かなかったよね、行ってみようか、あ、その前にあれ買ってこう、そうおれの手を引いたままシャルルは先に進んでいく。
たまに立ち止まってお店を覗いて、おれのかおを見て、買って、また進む。時折おれの体調を気にしながら。
握った手は離されても、すぐにまた重ねられる。
シャルルが誰かをおれと重ねてるのかはもうわかってる。それでもいい、離れないのなら。
初日のように、食べて、休んで、雑貨なんかを買って、また食べて。
シャルルは今回は食べ過ぎないようにしようと笑いながらも、おれには食べなとすすめてくる。
美味しくて、少しでも魔力になるのだから喜んで食べる。
食べるけれど、本当はシャルルの魔力がいちばん美味しいと思う。
食べ物の美味しさとはまた違うんだけど、なんというか、そんなちっぽけなものじゃなくて、躰がぽかぽかするような、そんな満足感があって……だからおれは、シャルルから魔力を貰うのがいちばん嬉しい。
「明日のおやつも買ってこっか」
「おやつ」
「どうせノエ、道中でお腹空いたって言うでしょ、すきなの選んでいいよ」
「えっ、ほんと」
じゃあさっき食べた小さなケーキと、袋に詰め合わせられた焼き菓子と、甘いどろっとしたのが乗ったパンと、あと果物も、冷たいのは溶けちゃうからだめ、砂糖漬けとキャンディと、それから……
「いつものノエだ」
ふ、とシャルルが笑って、おれの頭を撫でた。元気が出て良かった、と。
やっぱりノエは元気にしてる方がかわいいよ、と言うから、ああそうか、おれは元気にしてたらいいのか、と思った。
わかった、じゃあおれ、元気でいる。
「元気出てきたじゃん」
「ん、いっぱい食べた、から」
「そか」
「んっ」
くしゃくしゃと両手で髪を撫でて、その手をまたおれに向けると、今言ったの全部買って戻ろうか、と言う。
頷いてその手を握った。
こわいことなんてないと思っていたのに、こわいことが増えていく。
シャルルが眩しい程照らして、世界も明るくて、おれはもうあんな暗いところにはいない筈なのに、なんでだろう。
多分それはもうわかってて、知ってしまったから、だからこわいんだろう。
知らないことはこわい。
けれど、知ることでもこわくなるなんて。
だけどおれはまだ知りたい、ニンゲンのことを、シャルルのことを、もっと知って、もっと、もっと、もっと、
おれと一緒にいるって、言ってもらわなくちゃ。
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