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 何と返すのが正解なのか、考えて黙ってしまった俺に、慌てたように違うの、気になってるだけ、変な意味じゃないの、と聖女さまが焦るものだから、安堵しつつもその慌てようにあらかわいーねえ、なんて気も抜けてしまう。

「だってこの魔王、悪いように見えないけど……でも魔王だって出てるから」
「出てる?」
「出てる」
「……そうかあ」
「あれっ、見えるのってわたしだけ?」

 なんかほら、ゲームみたいな、吹き出しみたいな……と指先で四角を書いてみせる。なんだか既視感。
 異世界からきたひとは皆見えるものかと……と聖女さま。

「俺にはそれ見えないなあ、なんて書いてあんの」
「別に大したことは書いてないんだよ、ゲームみたいのなのだけど、ゲームのやつ程詳しくないの、ステータスとかは出ないし、ただ役職?とかある場合は出るみたい」
「役職?」
「シャルルさんだったら勇者って書いてるし、ノエっちは魔王って書いてあるだけ。国王とか王子とか騎士とか見習いとか、商人とかそういうの。ひとのかお覚えるの苦手だからこれ便利なんだ~」

 ノエっち。魔王とわかってそう呼ぶ女子高生のノリこわいな、ノエがこわくないからそう呼べるんだろうけど。

「シャルルさん、さっきノエっちにブランケット掛けたじゃない」
「君が寝かせたからね」
「そのブランケット、ボックスから出したでしょ」

 ちょっとした嫌味も綺麗にスルーし、アイテムボックス、これね、異世界人しか使えないんだよ、とまるで内緒話のようにこそこそと言う。ノエを眠らせておいて、他に誰も聞いてないというのに。
 でもそうなのか、ただの魔法の一種で、使えるひとは使えるものだと思っていた。あ、もしかして前ノエがびっくりしてたのって、このボックスにだろうか。
 ゲームなんかでよくある、防具や薬草なんかを幾つしか持てません、というような制限があるタイプではなくて、こいつ薬草無限に持てるな?というような、所謂四次元ポケットのようなものだ。
 幾らでも重さに関係なく持ち運べて冷蔵庫要らず。魔法って便利だなあ、魔法が衰退してこの便利なものが使えなくなったの痛いだろうなあ、俺運び屋さんにもなれちゃうな、なんて呑気に思ってたよ。
 そうかあ、そこも異世界人の判断材料になるのかあ。
 ……それなら今聖女さまが魔力阻害の使える俺の近くで魔法を使ったことも、何かしらの法則なりあるんだろうか。

「聖女さまさあ」
「聖女さまじゃなくて名前で読んでほしいな、なんかむずむずしちゃう」
「ゆりさん?」
「さんもいらないよお」
「ゆりちゃん」

 そう呼ぶと、一瞬瞳を丸くして、それからにこーっとご機嫌そうに笑った。
 シャルルさんお兄さんみたい、わたしお兄さんほしかったんだあ、とご機嫌な笑顔。益々妹のよう。

「ゆりちゃん幾つ?」
「じゅうなな!女子高生だよ~」
「ひとりっ子?」
「そお」
「……大丈夫?」

 高校生なんてまだこどもだ。
 おとなのおれでも家族が恋しいと思うように、この明るい子も不安でさみしいんじゃないか、と思ったのだけれど、あっさりと大丈夫だよ、今すっごく楽しいの、と返されてしまった。

「わたしのねえ、本名、百合って漢字なんだけどお……数字の百に合うで百合の花の百合、ね」
「うん」
「読みはね、リリィって読むの。キラキラネームどころじゃないでしょ、漫画みたい」
「まあ……でもこの世界ならゆりちゃんよりリリィちゃんの方が浮かないんじゃない?」
「いやだ、わたし、ゆりがいいの。シャルルさんがゆりちゃんて呼んでくれるの、嬉しい」

 その表情だけで、所謂毒親ってやつかな、とわかったんだけど、現実はそれ以上だったようだ。
 わたし施設育ちなんだあ、そんな馬鹿みたいな拘りで名前付けたくせに、こどもは邪魔だって捨てられたの、といつの間にか寄りかかっていただけのノエが俺の膝ですやすや眠りこけるのを見つめながら呟いた。

 うちは両親こそ仕事で忙しく家を空けていたものの、それなりに普通の愛情ある家庭だったと思う。
 知り合いに施設の子なんていなくて、実際にそういう子がいるのもわかってはいたけれど、何となくテレビの中の世界のようなものだった。
 傷付けずかなしませない言葉に詰まっていると、ふと俺を見上げた彼女は、だからわたしはこの世界にこれてラッキーだったって話!とまた笑った。

「高校卒業したら就職の予定だったし~、ともだちはいたけど腫れ物扱いなのもわかってた、でもそれもわたしを除け者にしたい訳じゃなくて、優しさだってのも」
「……」
「こっちに来た途端、わたしは聖女さま~ってちやほやされてね、王様みたいな偉いひとすらわたしのこと有難がるんだよ、危ないことしようとしたらそりゃ怒られるし、聖女としての勉強も大変だけど、こうやって割と自由にもさせて貰ってるし」
「……それなら」
「でもそれとは別に、日本人とかと会うと、わー!ってなっちゃうの、安心するし、話も通じるし、わたしだけじゃない特別もなんだかほっとする」

 特にシャルルさんはお兄さんだから安心しちゃうな、と近くに寄ってきた彼女はノエの頬を突っつきながら言う。
 魔王と知りながらこの子は物怖じしないな、同じことをした俺がいうのもなんだけど、まあ俺は最初は魔王だなんて半信半疑だったし。

「そんな訳で魔王ってわかってはいるんだけど、なんでシャルルさんは魔王といるの?」

 聖女さまがまたノエを突くと、んー!と少し怒ったような声を出してこちらを向くように体勢を変え、そのまま俺の腰にきゅうとしがみついて来る。
 よくあることなのでそのまま会話を続けようとした俺に、聖女さまはまさか、と大きな瞳を更に大きくした。
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