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 ◇◇◇

 会は至極順調平和に進んだ、訳でもなかった。
 ……ノエに食事のマナーを教えてなかったからだ。
 今まで簡単に食べれるものや、ノエとふたりきりで食べていたから失念していた。
 フォークやスプーンの使い方すら怪しい子がナイフを使ったり、順番だとかマナーだとかわかる訳はなかったのだ。
 俺だって詳しい訳ではないけど、そこまでではない、と思う。

 その空気を柔らかくしたのは末っ子の七女だった。
 おにいちゃんも練習中なのね、あたしもなの!と言う幼い女の子に、皆がそうね、練習中なのね、と笑顔で流してくれたのだ。
 実際は練習中とかではないし、実年齢どころか見た目ですら末っ子ちゃんとは歳が離れてるんだけれど、それでも流してくれた王族は器がでかい。

 それ以外は和やかなものだった。
 お噂はかねがね、いつも断られてたからね~、漸くお会い出来て嬉しいよ、
 勇者さまかっこいー!
 お付き合いなさってる方はいらっしゃるの?うちの娘はどうかしら~?
 もう、お母様ったら、
 ドラゴンってどれくらい強かったですか!?

 明るい両親と素直な子達。
 きちんとした会ではないからか、それともこの王族が少し変わってるのか、他の王族なんて知らない俺からしたら当たり障りない反応以外は出来なくて、でもここが聖女さまの生きていく世界だというのなら、彼女の第二の生活が恵まれているようで良かった、と思ってしまう。

 それはそれでやっぱり俺とノエからしたらめちゃくちゃ居心地は悪いんだけれど。
 散々話を訊かれ、お礼を言われ、ノエがいつまたぶすくれるかとはらはらした頃、漸く聖女さまから助け舟が出た。遅い。
 勇者さまとお話があります、わたしの部屋で宜しいですか、と猫被り聖女さまモードで部屋まで連れていかれ、扉を閉めたところでさんにん揃って溜息を吐いた。

「王様が嬉しそうで止められなかった、ごめんなさい」
「うん……いや、まあ……ゆりちゃんの立場を考えたらね、まあ……仕方ないよね」
「ごめんね、長引いちゃって。いやだったのにね、ノエっち」
「……お腹空いた」
「えっ」

 食事が今まさに終わったところだ。そんな言葉が出るなんて思わなかっただろう聖女さまは瞳を丸くして足りなかった?と訊いてくる。
 そうなんです、よく食べる上にその子甘い物を食べたがるんです。
 聖女さまは少し考えて、それからノエに、そういえばわたしもおすすめ紹介するって言ってたよね、ちょっとお願いするから待ってて、と部屋を飛び出した。
 ……女の子のお部屋に男ふたり置いてくなんてあの子は。
 やっぱり危機感が足らん、戻ってきたら叱ってやりたい。

「……たべるの、下手くそでごめん」
「あ、気にしてたんだ」
「だって魔王城ではあんなの使わなかったし」
「俺も注意してなかったもんね、またこういうことあるかはわかんないけど、今度ちょっと練習しようか」
「……ん、」

 意外と素直に頷いたノエに笑って、頭を撫でようとした手を引っ込めた。
 こういうことするから、ノエが変なことを思いつくのかもしれない。俺だって自重すべきだ。
 ……ノエのふわふわの髪の毛を撫でるのはすきだったけれど。

 すぐに戻ってきた聖女さまが、甘いのお願いしてきたからもうちょっと待ってね、と得意げなかおで言うものだから、ああやっぱりわかってないな、と懇々と注意をすると、ぽかんとしてからまた満面の笑みを見せた。

「ほんっと、シャルルさんお兄ちゃんみたい!」
「あのね」
「でもシャルルさんもノエっちも変なことしないでしょ」
「しないけどさあ、その信頼も……昨日会ったばかりだよ」
「だーいじょーぶ!わたしもう、シャルルさんには絶大な信頼!をおいているのだ!」
「ゆりちゃん」
「出来ればずっと近くにいてほしいくらい」

 その言葉に反応したのはノエだった。
 俺と聖女さまを交互に見て、それからまた黙って俺の裾を掴む。
 昨日の今日では簡単に不安を払拭することは出来ないらしい。

 丁度そこで扉がノックされ、聖女さまがそちらに向かったのをいいことに、ノエに大丈夫だよ、とだけ伝えておく。
 聖女さまが一緒にいようといまいと、ノエを離すつもりはない。大丈夫だと安心させてあげなきゃ、またこの子は突拍子もないことをしでかすだろう。

「じゃーん!いっぱい食べていいよ!」

 笑顔でワゴンを押して戻ってきた聖女さまに、今度は俺とノエが瞳を丸くした。
 甘い物のオンパレード。その量は流石にない、と思ったのが伝わったのか、余ったものは持って帰ってもいいし、それも無理なら皆で食べるから気にしないでいいよ、と聖女さま。
 そういう考えはやっぱり日本人だな、と思ってしまう。

「わたしね、甘いのすきで、お菓子作りもそこそこすきだったの。でも施設だと材料費だってそんなになくてさ、誰かの誕生日にケーキ作ったり、たまあにクッキーとかプリンとか安価そうなの作るくらいでさ、でもここだと使い放題なんだよ、なんでも」
「へえ」
「同じ材料とかないものもたくさんあるけど、でもほら、そういうの探すのも楽しいっていうか……お金のこと気にしなくていいんだもん、そりゃ楽しいよね」

 さっきまでの落ち込んでいたようなノエのかおが嬉しそうになって、次々にフォークを動かす姿を聖女さまは瞳を細めて見ていた。
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