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 ◇◇◇

 わかりやすい程他人を近寄せないオーラを放つ家だった。
 いやもう、こんなん絶対ここに魔法使いいるの確定でしょ、と思ってしまうような。
 何度もノックをし、声を掛けるが出てこない。
 留守かな、と思ったけれど、こんなところで留守な訳もない。
 明らかに俺たちが怪しまれてるから出てこないのだ。

 でもここで諦める訳にもいかない。
 ノエもソフィもあたたかいところにいれてやりたいし、今から麓へ戻るには夜になってしまう。
 ううん、無理矢理入るのは流石に……と悩んでると、扉の前で何か言い争うような声が聞こえて、それからすぐに扉が少しだけ、開いた。
 誰もいない、と視線を下げると、こどもだろうか、ちんまりとした、目深にフードを被った子が、何か御用ですか、と尋ねてきた。
 辿々しい言い方に、こんな雪山にこどもがいるなんて思わなかったから、ついこんにちは、と先に挨拶をしてしまった。
 間違ってはないんだけれど。

「開けるなって言っただろ、危ないだろうが」
「でもおししょーさま、このニンゲン、ぐったりしてるひとおんぶしてる」
「帰ってもらえ」
「今帰ったら夜になっちゃうよう、危ないよ、いれてあげようよ、いつものじゃないよ」
「知らん」
「死んじゃうよお」

 突き放すような声と、心配するように説得をしてくれる幼い声。
 はっとして、怪しい者ではありません、勇者です、と言ってしまい、すぐに後悔した。どう考えたってその言い方は怪しい者だ。

「すみません、あの、少しでいいので話を聞いてもらえたら」
「断る」
「倒れてる子がいるんです、休ませてもらえませんか」
「話を聞けから更に図々しくなってるぞ」
「……すみません」
「おししょーさま、かわいそうだよ、死んじゃうよう、さむいよう」

 もう一度、駄目押しのようにこどもがお願いをしてくれて、漸く舌打ちと共に扉が開いた。
 あたたかい空気にほっとする。船よりあったかい。
 ただ、迎えてくれたふたりの出で立ちにぎょっとした。
 こどもの方はさっきも見えていたけれど、ふたりして室内なのに瞳が隠れる程深くフードを被っているのだ。
 それは俺たちが来たからなのだろうけれど、それでも、そこまで気にするというのはフードの下には問題があると言ってるようなもの。
 結界といい、守ってるようで逆にここですよ怪しいですよと自己紹介してるようなものだ。

 こちらにどうぞ、と小さな子がソファに案内してくれる。
 お茶を淹れますね、とすぐにとててと小走りで部屋を出て行った。
 かおが見えなくてもこどもは仕草だけでかわいらしいものだ。
 向かいにはどんと家主が座り、これまたわかりやすい程の不信感に、なんて切り出そうかな、と思いつつノエを下ろした。
 少しくらい魔力を与えておきたい。寝ているノエの口に血を突っ込むのは非常に絵面が悪い。
 寝ているなら少し唇を合わせるくらいノーカンだろう。ということにしておく。
 ……流石に人前では出来ないから、少し後になりそうだけれど。

 雪は深かったが降ってはいなかった。
 おかげで上着に雪は積もっていない。上着を脱ぎ、ノエのものも脱がせて、毛布替わりに肩に掛けておく。
 それを見た魔法使いは、何てもの連れてきたんだ、と呟いた。

 何てもの?ノエのことか、ソフィのことか。
 ソフィは鞄から出していない、寝ているから。ソフィのことがわかるなら、部屋に入る前にドラゴンがいると気付いている筈だ。
 そうなるとノエのことだと思うのだけれど、俺も忘れることが多いが、ノエには認識阻害をかけてある、聖女さまのように特殊なひとでなければ、見た目だけは普通のひとに映る筈だ。
 やはり魔法使い、普通のひととは何か違うのだろう。
 ノエのことも魔王だと見破られてるかもしれない、迂闊なことは言えない、そう口を閉じた時だった。
 まさか日本人じゃない、よな?と言い出したのは、フードを落とした彼の方からだった。

 真っ黒の髪、黒に近い焦げ茶の瞳、聖女さまと同じく、日本人特有の、少し幼く見える顔立ち。
 これは聖女さまと同じパターンのやつだ、いや召喚かは知らないけど、異世界人、日本人だこれ。

「は、初めて見た、自分以外の異世界人……」
「どうも……」
「……?」
「……?」
「ふたりとも異世界人なんですか……?」
「俺だけです……」
「……?」

 ふたりして見つめ合って、お互い、こいつの言ってる意味がわからん、というかおになっている。
 ……まさかノエが日本人だと思ってる?黒髪だから?あ、倒れてる状態じゃ瞳の色までわからないから?見た目だけで判断してんのか?認識阻害はされてないのに、魔力の流れとかはわかってないのか?
 ていうかなんか君さっきまでの居丈高なキャラと違わない?

「あのう……」
「あっ」

 さっきの小さな子がお茶を持って部屋に戻ってきた。
 大丈夫かと言いたそうな視線に、魔法使いは慌てて、大丈夫だから夕飯の準備をしてくれないか、客人の分も、とその子を追い出した。
 あんなに小さな子が料理を、と驚いたし大丈夫かと心配もしたけれど、どうやら彼もこの話は隠したいらしい。
 扉を閉めて、またぱたたと足音が聞こえなくなるまで待ってから、その、と口を開いた。
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