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ごじゅうろく
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リアムが小さなスプーンを小さな口に運ぶ。
躰にあわないんじゃないかというような大きな服に苦戦してるのがわかる。脱げばいいのに、そう思ったのがわかったのか、魔法使いがリアムのフードに手を伸ばした。
「リアム、食べにくいでしょう、もうフードはいいよ」
「でもおししょーさま」
「いいよ、シャルルさんには話した。大丈夫だよ」
「でも他のひとには見せるなって」
「大丈夫、ほら」
魔法使いがそのままフードを落とすと、ぴょこ、と小さな耳が出てきた。
獣人か。
おれからすると珍しいものではない。
けれど彼等の反応からして、この数百年の間に減ってしまってる、のかもしれない。
「かわいい」
「……!」
「ね」
シャルルがおれを見て返事を促す。どうしていいかわからず頷いておいた。
かわいい。
かわいいって言うんだ。
おれにだって言ったけれど。
わかる、わかってる、こども相手に言ったことだというのは。
そして勿論、おれに言ったものも、それと同じだということも。
「おかわり!お注ぎします!」
「え、あ、うえ、あっ、うん……」
「いいよ、僕がやるからリアムも座って食べてて」
「出来ますよう」
「食べるの遅いんだから。早く食べて、寝る準備しようね」
「そうだ!おきゃくさまのお部屋準備しなきゃ!」
「あっお気になさらず、俺はソファでもいいし」
「おきゃくさまはおもてなしするものだって、ご本で読みました!ぼく、はじめてのおきゃくさまです!」
興奮するように話すリアムに相槌を打ちながら、魔法使いはおれにスープを渡し、これくらいで大丈夫かな、と訊いてきた。
量の確認かと思った。もっと食べられるって。
でもそうじゃなく、熱さの確認だった。
シャルルのと同じくらい、丁度良い感じのあたたかさ。
そうか、魔法使いだもんな、シャルルと同じようなこと、出来るよな。そうだそうだ、だからおれ、魔法使いに魔力貰おうと思って……
じい、と魔法使いのかおを見る。
優しそうな男だと思う。
どうしたの、なにか他にいる?と訊ねる声も柔らかい。
獣人のこどもも懐いてるくらいだ、普段からこの調子なのだろう。
……優しい男で良かった、これなら……
これなら。
ちらりとシャルルを見る。
どうせいつもと同じかおをしている。そう思った。
けれどそのかおは怒ったような、少し冷たいかおをしていて、心臓がきゅっとなった気がした。
なにそのかお、こわい。
怒ってるのかな、勝手なことばっかりするから。魔力いらないなんて言いながら倒れるわ運んでもらうわ結局魔力も貰うわで、行動が伴ってない。迷惑しか掛けてない。
そもそもがシャルルにおれといるメリットなんかないのだ、ただおれが暴れてしまうかもというデメリットを抑える為。見張り。
おれが弱いと思われてるから、信頼されてないから。
そんなんだから、呆れられても、いやになられても、きらわれたって、仕方ない。
仕方ないのだ。
でもきらわれるのはいやだ。
だっておれはシャルルがすきだから。すきだもん、シャルルが違うと言っても、おれはそうだと知っている。
「……」
「もう食べないの?」
「いい……」
「いつもより食べてなくない?遠慮してる?俺の食べる?」
「だい、じょうぶ、お、おれ、もう、寝る」
「さっき起きたばかりでは?」
「魔力、とっときたいし……」
おかわり一回でスプーンを置いたおれに、シャルルが訊いてくるけれど、……船ではたくさん食べられたんだけど、何だか今は無理だった。
魔力もそんなにないんだから、食べなきゃ、そう思うんだけど。食事だって美味しいんだけど。でもなんだか、これ以上入りそうになかった。
寝るのですね、おきゃくさまのお部屋準備してきます!とぴょんと椅子から飛び降り走っていくリアムに、大丈夫だよ!とシャルルが声をかけるものの、それは魔法使いに止められる。あの子の仕事だからさせてあげて、と。
そして少しすると、用意出来ました!と戻ってきた。
普段からおそうじしてるのですぐでした!と得意気に。
おれの手を取って、こっちですこっちです、と引いていく。
慌てて食事の済んだソフィを抱えると、そのままベッドまで案内されてしまった。
背後から、おやすみ、と声がする。
案内された部屋にはベッドはひとつ。
それだけで、シャルルとは別の部屋になるのか、とわかってしまう。
シャルルは怒ってる、だから一緒に寝なくて正解だ。どうせ一緒には寝てくれない。
「ソフィは一緒に寝てくれる?」
きゅう、と鳴いたソフィを撫でると、ひとりはこわいですか?とリアムが訊いてきた。
びっくりした、もう出ていったかと思ってたから。
「一緒にねますか?」
「……リアムと?」
「ぼくも、たまに、ひとりでねるの、こわいです!そしたらおししょーさま、一緒にねてくれます!」
「そう……」
「あったかいとね、こわいのへるんですよ!」
「ん、知ってる……」
「リアムはあったかいねって、おししょーさまいっぱいいいます、だから一緒ねると、おきゃくさまもこわくないですよ!」
どうぞ、と腕を広げるのは、抱えてベッドまで上げろということだろうか。
おれはともかく、まだ君食事中じゃないの、とか、そんな勝手なことしていいのかな、とか思ったんだけど、迷ってる間にもう一度、はい!と腕を伸ばされて、ついそのまま抱き上げてしまった。
確かにあったかい。
あったかいと、こわいのがへる。
そして安心してぐっすりできるんですよ、とその柔らかくてあたたかい塊がくすくすと笑った。
躰にあわないんじゃないかというような大きな服に苦戦してるのがわかる。脱げばいいのに、そう思ったのがわかったのか、魔法使いがリアムのフードに手を伸ばした。
「リアム、食べにくいでしょう、もうフードはいいよ」
「でもおししょーさま」
「いいよ、シャルルさんには話した。大丈夫だよ」
「でも他のひとには見せるなって」
「大丈夫、ほら」
魔法使いがそのままフードを落とすと、ぴょこ、と小さな耳が出てきた。
獣人か。
おれからすると珍しいものではない。
けれど彼等の反応からして、この数百年の間に減ってしまってる、のかもしれない。
「かわいい」
「……!」
「ね」
シャルルがおれを見て返事を促す。どうしていいかわからず頷いておいた。
かわいい。
かわいいって言うんだ。
おれにだって言ったけれど。
わかる、わかってる、こども相手に言ったことだというのは。
そして勿論、おれに言ったものも、それと同じだということも。
「おかわり!お注ぎします!」
「え、あ、うえ、あっ、うん……」
「いいよ、僕がやるからリアムも座って食べてて」
「出来ますよう」
「食べるの遅いんだから。早く食べて、寝る準備しようね」
「そうだ!おきゃくさまのお部屋準備しなきゃ!」
「あっお気になさらず、俺はソファでもいいし」
「おきゃくさまはおもてなしするものだって、ご本で読みました!ぼく、はじめてのおきゃくさまです!」
興奮するように話すリアムに相槌を打ちながら、魔法使いはおれにスープを渡し、これくらいで大丈夫かな、と訊いてきた。
量の確認かと思った。もっと食べられるって。
でもそうじゃなく、熱さの確認だった。
シャルルのと同じくらい、丁度良い感じのあたたかさ。
そうか、魔法使いだもんな、シャルルと同じようなこと、出来るよな。そうだそうだ、だからおれ、魔法使いに魔力貰おうと思って……
じい、と魔法使いのかおを見る。
優しそうな男だと思う。
どうしたの、なにか他にいる?と訊ねる声も柔らかい。
獣人のこどもも懐いてるくらいだ、普段からこの調子なのだろう。
……優しい男で良かった、これなら……
これなら。
ちらりとシャルルを見る。
どうせいつもと同じかおをしている。そう思った。
けれどそのかおは怒ったような、少し冷たいかおをしていて、心臓がきゅっとなった気がした。
なにそのかお、こわい。
怒ってるのかな、勝手なことばっかりするから。魔力いらないなんて言いながら倒れるわ運んでもらうわ結局魔力も貰うわで、行動が伴ってない。迷惑しか掛けてない。
そもそもがシャルルにおれといるメリットなんかないのだ、ただおれが暴れてしまうかもというデメリットを抑える為。見張り。
おれが弱いと思われてるから、信頼されてないから。
そんなんだから、呆れられても、いやになられても、きらわれたって、仕方ない。
仕方ないのだ。
でもきらわれるのはいやだ。
だっておれはシャルルがすきだから。すきだもん、シャルルが違うと言っても、おれはそうだと知っている。
「……」
「もう食べないの?」
「いい……」
「いつもより食べてなくない?遠慮してる?俺の食べる?」
「だい、じょうぶ、お、おれ、もう、寝る」
「さっき起きたばかりでは?」
「魔力、とっときたいし……」
おかわり一回でスプーンを置いたおれに、シャルルが訊いてくるけれど、……船ではたくさん食べられたんだけど、何だか今は無理だった。
魔力もそんなにないんだから、食べなきゃ、そう思うんだけど。食事だって美味しいんだけど。でもなんだか、これ以上入りそうになかった。
寝るのですね、おきゃくさまのお部屋準備してきます!とぴょんと椅子から飛び降り走っていくリアムに、大丈夫だよ!とシャルルが声をかけるものの、それは魔法使いに止められる。あの子の仕事だからさせてあげて、と。
そして少しすると、用意出来ました!と戻ってきた。
普段からおそうじしてるのですぐでした!と得意気に。
おれの手を取って、こっちですこっちです、と引いていく。
慌てて食事の済んだソフィを抱えると、そのままベッドまで案内されてしまった。
背後から、おやすみ、と声がする。
案内された部屋にはベッドはひとつ。
それだけで、シャルルとは別の部屋になるのか、とわかってしまう。
シャルルは怒ってる、だから一緒に寝なくて正解だ。どうせ一緒には寝てくれない。
「ソフィは一緒に寝てくれる?」
きゅう、と鳴いたソフィを撫でると、ひとりはこわいですか?とリアムが訊いてきた。
びっくりした、もう出ていったかと思ってたから。
「一緒にねますか?」
「……リアムと?」
「ぼくも、たまに、ひとりでねるの、こわいです!そしたらおししょーさま、一緒にねてくれます!」
「そう……」
「あったかいとね、こわいのへるんですよ!」
「ん、知ってる……」
「リアムはあったかいねって、おししょーさまいっぱいいいます、だから一緒ねると、おきゃくさまもこわくないですよ!」
どうぞ、と腕を広げるのは、抱えてベッドまで上げろということだろうか。
おれはともかく、まだ君食事中じゃないの、とか、そんな勝手なことしていいのかな、とか思ったんだけど、迷ってる間にもう一度、はい!と腕を伸ばされて、ついそのまま抱き上げてしまった。
確かにあったかい。
あったかいと、こわいのがへる。
そして安心してぐっすりできるんですよ、とその柔らかくてあたたかい塊がくすくすと笑った。
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