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愛を伝えるにはどうしたら?
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玲司さんはふ、と笑って、格好良い?とぼくの言葉を繰り返した。うんうんと頷くと、凜もかわいいよ、とぼくの首に腕を回す。
えっ、今から出掛けるのに、とどきどきしていると、すぐにその腕は解かれて、ほら手を出して、と言われた。
「?」
「外出の時は指にしてって言ったでしょ」
首に掛けたままだった指輪を薬指に通される。どうやらネックレスを外しただけのようで、勝手に期待した自分に恥ずかしいと思ってしまった。
あるべき場所につけられたそれは、いつもこんなだったっけ、と思ってしまう程ぴかぴかきらきらしていて、別に儀式でもなんでもないのに、神々しく思えて、愛しくなる。
「……手袋しなくてもいいですか?」
「車だしいいよ」
同じ指輪をした大きな手がぼくの頭を撫でた。嬉しい。
こんな特別なことが日常になってしまうなんて、本当に、本当に、願っていたくせに思ってもみなくて、夢みたいなふわふわした道を歩いてるようだ。
でも一歩でもずれると落ちてしまいそうで、踏み間違えないように、確認をしながら歩いていく。
しあわせだからこそこわいと思う。しあわせだと思えば思う程。
番にしてもらっても、結婚なんて言われても。間違えたくない。
「凜」
「あっはい、」
「もうそろそろ時間だし、行こうか」
「……はい」
コートを着て、靴を履いて、姿見で自分の格好を確認する。そんなぼくを見て、また玲司さんはかわいいよと笑った。
似合うと言ってくれたダッフルコートはこどもっぽくないかなあ。卒業したというのにシルエットが高校生のようだ。口許まで覆われたマフラーが余計に幼く見える。
玲司さんみたいな大人っぽいロングコートが似合えば格好良いんだけど。
「ほら」
「?」
「手袋しないなら、手、寒いでしょ」
玄関を開けながら玲司さんがそう言って手を出す。
いいのかな、と迷ったけれど、玲司さんが差し出してくれるならぼくが断る訳もない、その手をこどものように掴んで、車までの短い距離をくっついて歩いた。
それだけでもう、プレゼントを貰ったかのような気持ちだった。
玲司さんの手は大きくてあったかくて、すごくすきだ。
でも同時に、この手が頬や耳や、首やお腹、内腿と触れたことを思い出して、恥ずかしくもなる。外だというのになんて不埒な頭をしてるんだろう。
玲司さんはそう、ぼくの手袋をしないという我儘をきいただけなのに。
「あの、今日はスーツじゃないんですね」
「……ああ、うん」
車に乗り込みながら、少し躊躇った返事に、まさかあの誕生日のときのぼく、大分おかしかったのでは、と思った。
もう良いお店には連れていかない方がいいと思う程恥ずかしいことを……
「ごめ」
「凜の喜ぶとこじゃないと意味ないから」
「……え」
またぶつかった言葉に、シートベルトをしようとした手が止まった。
その手に気付いた玲司さんが、ぼくの手毎包んでシートベルトを締める。
ふわ、と玲司さんの髪のにおいを感じた。
「ごめん、誕生日の時、無理させたでしょ」
「えっ」
「……ああいうの、すきなひと多いかなって思ったんだけど、凜は違ったよね」
「えっ……え」
「今日はもうちょっと落ち着ける場所行こっか」
「へあ……」
すぐ目の前で微笑む玲司さんが眩しい。
余りの近さについ抱きつきそうになってしまう、でも右手が玲司さんの手に掴まれたままだからそれが出来なかった。
……玲司さんが優しくするから。甘えてほしいって言うから。玲司さんに触れてほしいって言うから。すっかり甘ったれになってしまった気がする。
すぐ触りたくなってしまう。触ってほしくなる。
だって玲司さんも嬉しそうに笑うから。それを許されるんだなあって思うと、胸の奥がぎゅうぎゅうなってしまう。
「あ、あの……」
「うん?」
「……ほんとうは……その、緊張して、食べた気しなかった、のはそうです、そうなんです、けど……」
「うん」
「ぼくなんかをあんな高そうなとこ、連れてってくれるのは勿体ないって思うんですけど……マナーも詳しくないし、味だってよくわからないし、でも」
「ん」
「……玲司さんが、ぼくの為にって、考えてくれたのは、すごく……嬉しかったんです」
「……うん」
「だからその、えっと、慣れるのは多分難しいと思うんですけど、その、玲司さんが恥ずかしいと思わないくらいには色々勉強します……」
「いいよ、そんなこと」
凜が美味しいって思えるお店に行こう、そっちの方が嬉しい、そう言って玲司さんはぼくのおでこにキスをした。
続きは帰ってからね、と添えて。
ぼくが色々考えてしまって悩んでいるように、玲司さんも色々考えてくれている。
そしてそれを口にしてくれるようになった。
ふたりが安心出来るように。それがすごく、擽ったくて、あったかくて、嬉しい。
番になるって、こういうことなんだ、って。
◇◇◇
連れて行って貰ったお店は個室になった、ひとの目が気にならない仕様で、それでもどこかから薄らと聞こえるこどもの声になんだかほっとした。
勉強するとは言ったけど、やっぱりまだちょっと不安だったから。もうちょっと、ほら、歳取ったらぼくも落ち着くかもしれないし。慣れるかもしれないし。それまでは……幾つになるかわかんないけど、それまではまだ、その、待ってほしい。
今回の食事はちゃんと味がした、美味しかったし、デザートまで綺麗に平らげてしまった。家にケーキの用意もあるというのに。
そんなぼくをじっと見る玲司さんにじわじわとあつくなってしまう。
えっ、今から出掛けるのに、とどきどきしていると、すぐにその腕は解かれて、ほら手を出して、と言われた。
「?」
「外出の時は指にしてって言ったでしょ」
首に掛けたままだった指輪を薬指に通される。どうやらネックレスを外しただけのようで、勝手に期待した自分に恥ずかしいと思ってしまった。
あるべき場所につけられたそれは、いつもこんなだったっけ、と思ってしまう程ぴかぴかきらきらしていて、別に儀式でもなんでもないのに、神々しく思えて、愛しくなる。
「……手袋しなくてもいいですか?」
「車だしいいよ」
同じ指輪をした大きな手がぼくの頭を撫でた。嬉しい。
こんな特別なことが日常になってしまうなんて、本当に、本当に、願っていたくせに思ってもみなくて、夢みたいなふわふわした道を歩いてるようだ。
でも一歩でもずれると落ちてしまいそうで、踏み間違えないように、確認をしながら歩いていく。
しあわせだからこそこわいと思う。しあわせだと思えば思う程。
番にしてもらっても、結婚なんて言われても。間違えたくない。
「凜」
「あっはい、」
「もうそろそろ時間だし、行こうか」
「……はい」
コートを着て、靴を履いて、姿見で自分の格好を確認する。そんなぼくを見て、また玲司さんはかわいいよと笑った。
似合うと言ってくれたダッフルコートはこどもっぽくないかなあ。卒業したというのにシルエットが高校生のようだ。口許まで覆われたマフラーが余計に幼く見える。
玲司さんみたいな大人っぽいロングコートが似合えば格好良いんだけど。
「ほら」
「?」
「手袋しないなら、手、寒いでしょ」
玄関を開けながら玲司さんがそう言って手を出す。
いいのかな、と迷ったけれど、玲司さんが差し出してくれるならぼくが断る訳もない、その手をこどものように掴んで、車までの短い距離をくっついて歩いた。
それだけでもう、プレゼントを貰ったかのような気持ちだった。
玲司さんの手は大きくてあったかくて、すごくすきだ。
でも同時に、この手が頬や耳や、首やお腹、内腿と触れたことを思い出して、恥ずかしくもなる。外だというのになんて不埒な頭をしてるんだろう。
玲司さんはそう、ぼくの手袋をしないという我儘をきいただけなのに。
「あの、今日はスーツじゃないんですね」
「……ああ、うん」
車に乗り込みながら、少し躊躇った返事に、まさかあの誕生日のときのぼく、大分おかしかったのでは、と思った。
もう良いお店には連れていかない方がいいと思う程恥ずかしいことを……
「ごめ」
「凜の喜ぶとこじゃないと意味ないから」
「……え」
またぶつかった言葉に、シートベルトをしようとした手が止まった。
その手に気付いた玲司さんが、ぼくの手毎包んでシートベルトを締める。
ふわ、と玲司さんの髪のにおいを感じた。
「ごめん、誕生日の時、無理させたでしょ」
「えっ」
「……ああいうの、すきなひと多いかなって思ったんだけど、凜は違ったよね」
「えっ……え」
「今日はもうちょっと落ち着ける場所行こっか」
「へあ……」
すぐ目の前で微笑む玲司さんが眩しい。
余りの近さについ抱きつきそうになってしまう、でも右手が玲司さんの手に掴まれたままだからそれが出来なかった。
……玲司さんが優しくするから。甘えてほしいって言うから。玲司さんに触れてほしいって言うから。すっかり甘ったれになってしまった気がする。
すぐ触りたくなってしまう。触ってほしくなる。
だって玲司さんも嬉しそうに笑うから。それを許されるんだなあって思うと、胸の奥がぎゅうぎゅうなってしまう。
「あ、あの……」
「うん?」
「……ほんとうは……その、緊張して、食べた気しなかった、のはそうです、そうなんです、けど……」
「うん」
「ぼくなんかをあんな高そうなとこ、連れてってくれるのは勿体ないって思うんですけど……マナーも詳しくないし、味だってよくわからないし、でも」
「ん」
「……玲司さんが、ぼくの為にって、考えてくれたのは、すごく……嬉しかったんです」
「……うん」
「だからその、えっと、慣れるのは多分難しいと思うんですけど、その、玲司さんが恥ずかしいと思わないくらいには色々勉強します……」
「いいよ、そんなこと」
凜が美味しいって思えるお店に行こう、そっちの方が嬉しい、そう言って玲司さんはぼくのおでこにキスをした。
続きは帰ってからね、と添えて。
ぼくが色々考えてしまって悩んでいるように、玲司さんも色々考えてくれている。
そしてそれを口にしてくれるようになった。
ふたりが安心出来るように。それがすごく、擽ったくて、あったかくて、嬉しい。
番になるって、こういうことなんだ、って。
◇◇◇
連れて行って貰ったお店は個室になった、ひとの目が気にならない仕様で、それでもどこかから薄らと聞こえるこどもの声になんだかほっとした。
勉強するとは言ったけど、やっぱりまだちょっと不安だったから。もうちょっと、ほら、歳取ったらぼくも落ち着くかもしれないし。慣れるかもしれないし。それまでは……幾つになるかわかんないけど、それまではまだ、その、待ってほしい。
今回の食事はちゃんと味がした、美味しかったし、デザートまで綺麗に平らげてしまった。家にケーキの用意もあるというのに。
そんなぼくをじっと見る玲司さんにじわじわとあつくなってしまう。
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