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ステファーニエとの出会い
しおりを挟むガタゴト揺れる馬車は案外座り心地がいい。
流石は大公家の馬車、と。
お母様が一緒じゃない時はもっと揺れの酷い馬車に乗っている私は幼ながらにそう思った。
身を乗り出しながら外を眺める私に、微笑ましげな視線を送るお母様と、その興味を自分に向けようとお母様にちょっかいを出すお父様。
そして、空気のように存在感を消し、壁を作るお兄様。
確かその日は初めての家族全員のお出かけだった。
その頃の私は、ほんの少しの疑問も抱くことがなくお母様が大好きで、お母様は女神様だって本気で思ってた。
だってお母様は本当に綺麗で、とっても優しい。
深い群青の瞳は常に優しくて、波打つ黒の髪は柔らかくて、お父様の白の髪も捨て難いけど、本当はお母様みたいな髪で生まれたかった。
色以外そっくりそのままの癖に、と言われるかもしれないけど、お母様は私の理想だったのだ。
だから私もいつかお母様と同じ色になって、お父様のような方に見染められて、そして聖女様になるんだって、その時の私は疑いもしなかった。
まあ、ちゃんと学んでいれば物理的に無理だってことに気がついたと思うけど。
今代の聖女が生きている間、二人目はありえない。
そもそも聖女自体が不必要となった魔王討伐後に廃れ、お母様の代で復活したのだ。
それが今後続いていく保証もない。
なんせお父様はお母様に倒されてしまったのだから。
私はご機嫌だった。
鼻歌を歌ってはお兄様にうるさそうに眉をしかめられ、足を揺らしてはお父様に鬱陶しそうな目を向けられながらも。
私はご機嫌だった。
街に入った時、窓の外によぎったあるものを見て、私は雷が落ちたような衝撃が走ったのを感じた。
「おかあさま!馬車をとめてください!」
「えっ、エルちゃん!?」
動く馬車の扉を開く。
私が飛び降りようとした時にちょうど止まった馬車。
そのまま地面に降り立って、その年頃にしては素早く、私は先程の景色に逆らって走った。
「エルちゃん!」
遠くでお母様が呼ぶ声が聞こえたけど、無我夢中で走って。
その先の細い路地のあるところに、うつ伏せに倒れる灰色を見つけた。
私より少し体が大きいだろうか、骨の浮いた細い手が微かに動く。
聖女に憧れるその頃の私は全くの怖いもの知らずだったので、すぐさま・・・というか嬉々としながら「大丈夫!?」と叫んだ。
貴族の令嬢の戯れにしては、スカートを地面につけてまで助けようとする様子に何を思ったのか野次馬ができ始める。
それに気付いたお母様が乱入してきてすぐに視線は全てお母様に行ったけど。
「聖女様・・・?」
「聖女様だ」
「聖女ジョアンナ様・・・」
お母様は子供を見て目を見開くと、すぐさまその軽い体(その頃の私には非常に重かった)を壁にもたれさせ、治癒魔法を使った。
良かった、これでこの子は助かるわ。
ほっと息をついていると、身動ぎした子供が薄く目を開く。
固唾を飲んで見守る野次馬たちと同じ反応で、瞳を見つめた。
・・・その瞳は、鮮やかな紫。
その瞳は、震えながら野次馬たちと、私を滑り、お母様を見て止まった。
それに優しく微笑んだお母様は、「安心してお眠りなさい」と囁いた。
そうして、(私とお母様の抗議で)連れて帰ったのが、ステファーニエ・・・ちなみに、私が命名した。
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