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傭兵団の聖女マロン
宝石の瞳の少年
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はたと気がつくと、私は広い花畑の中心に座り込んでいた。
柔らかく風に吹かれ、花々が揺れる。
その様は酷く幻想的で、現実味がない。
「······どうかしたの?」
ぼんやりしていると、目の前から躊躇いがちに声がかかった。
視線を上げて、絶句する。
そこには、ケイゴさんとノワと比べて劣らないほどの絶世の美少年が座っていた。
不思議そうに私の手元を見ていて、その視線に従って私も手元を見る。
そこには、作りかけの花かんむり。
麻痺したままの頭で、手だけが勝手に動いて、不器用に、不格好な形の花かんむりを編み上げた。
いつもよりずっと短い手で、柔い手のひらで、其れを目の前の少年の頭に載せる。
少し頭を下げて屈むその少年に冠を授けたら、妖精の王の戴冠式でもしているかのような奇妙な心地だった。
夜を引連れている事が似合いそうな、瑞々しい黒髪がさらりと揺れる。
自然と伏し目がちになっているから、そのまつ毛の長さが酷く際立った。
人とは思えないような整った顔立ちにけれども優しげな色を乗せて、紅も塗っていないのに赤いくちびるが弧を描く。
しずしずと、恭しく頭を上げてこちらを見た少年の、その強い瞳は、宝石のようなアイオライトの色をしていた。
「大好きだよ、───」
嬉しそうに、少し頬を染めて、少年がそう言う。
花に囲まれて、最愛の少女に愛を囁く。
私はそれを、少し遠くで眺める気分で見ていた。
彼の囁く名前は聞き取れない。
自分が何者であるのか、思い出すことが出来ない。
思い出すべきなのに、知りたいと思うのに、足が竦んで動かない。
彼の名前すら、知る気にはなれなかった。
不意に、強い風が吹く。
視界の奥で、アイオライトの瞳がぼやけた。
かすれるようにして、その姿は、花畑ごと消えてゆく。
「っ────」
声は出なかった。
代わりに、呻きのような音が漏れ出た。
呼ぶべき名を、私は知らない。
『不可なり』
ただ、耳元で聞こえたその女の声が、とてつもなく冷たいことだけを、私は覚えていた。
柔らかく風に吹かれ、花々が揺れる。
その様は酷く幻想的で、現実味がない。
「······どうかしたの?」
ぼんやりしていると、目の前から躊躇いがちに声がかかった。
視線を上げて、絶句する。
そこには、ケイゴさんとノワと比べて劣らないほどの絶世の美少年が座っていた。
不思議そうに私の手元を見ていて、その視線に従って私も手元を見る。
そこには、作りかけの花かんむり。
麻痺したままの頭で、手だけが勝手に動いて、不器用に、不格好な形の花かんむりを編み上げた。
いつもよりずっと短い手で、柔い手のひらで、其れを目の前の少年の頭に載せる。
少し頭を下げて屈むその少年に冠を授けたら、妖精の王の戴冠式でもしているかのような奇妙な心地だった。
夜を引連れている事が似合いそうな、瑞々しい黒髪がさらりと揺れる。
自然と伏し目がちになっているから、そのまつ毛の長さが酷く際立った。
人とは思えないような整った顔立ちにけれども優しげな色を乗せて、紅も塗っていないのに赤いくちびるが弧を描く。
しずしずと、恭しく頭を上げてこちらを見た少年の、その強い瞳は、宝石のようなアイオライトの色をしていた。
「大好きだよ、───」
嬉しそうに、少し頬を染めて、少年がそう言う。
花に囲まれて、最愛の少女に愛を囁く。
私はそれを、少し遠くで眺める気分で見ていた。
彼の囁く名前は聞き取れない。
自分が何者であるのか、思い出すことが出来ない。
思い出すべきなのに、知りたいと思うのに、足が竦んで動かない。
彼の名前すら、知る気にはなれなかった。
不意に、強い風が吹く。
視界の奥で、アイオライトの瞳がぼやけた。
かすれるようにして、その姿は、花畑ごと消えてゆく。
「っ────」
声は出なかった。
代わりに、呻きのような音が漏れ出た。
呼ぶべき名を、私は知らない。
『不可なり』
ただ、耳元で聞こえたその女の声が、とてつもなく冷たいことだけを、私は覚えていた。
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