記憶をなくしたジュリエット

詩海猫(8/29書籍発売)

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剣城瀬音は宣言通り、翌日には本の補修を綺麗にできるようになって(わざわざ零がテストした)、無事(?)読書クラブへの入部を果たし、瑠璃は放課後部室へ案内していた。
「今は学園祭で発表する朗読劇の練習が始まったところなの。なかなか全員揃わないんだけど……」
「へぇ。ちゃんと練習するんだ、すごいね」
「ただの展示じゃ皆見てくれないし。本の面白さを知らせるなら読み聞かせが一番良いと思うの。そんなに本格的なものじゃないし、気軽に参加して欲しいんだけど……」
現在読書クラブの部員は十二名。
真面目な部員ばかりではあるのだが、それ故に「人前での朗読はちょっと……」という部員も多く、出番の多い役をやりたがる部員はほぼ皆無。
「何をやる予定なの?」
「ウエストサイドストーリーをやる予定なの。皆ある程度知ってるけど細かいところまでは知らない人が多いだろうから、これで原作を読んでみようって人が少しでも増えたらって」
「ほんとに本が好きなんだね橅木さんは。しかしウエストサイドストーリーか、惜しいな」
「惜しいって、何が?」
「ロミオとジュリエットじゃなく後発のウエストサイドストーリーっていうのが。橅木さんならジュリエット役が似合いそうなのに」
「えっ……」
(ジ、ジュリエットが似合いそう?)

突然の殺し文句に顔を赤らめる瑠璃に、
「間に受けんな馬鹿、からかわれてんだよ」
ゼノのさらに後ろからついてきた零がさらりと水を差す。
「お前もナンパに来たんなら帰れ」
とゼノにも絶対零度の威圧を向ける。
「失敬だな。思ったことを言っただけだよ。それで?君がトニーで彼女がマリアかい?」
「あゝそうだ。」
「ふうん?それでリフやベルナルド役の生徒は今日は来てないのかい?」
「ああ今日はお前が来たらどうせ練習にならないだろうからな、休みって通達しといた。主要な役は決まってるが人数が足らないからギャングの手下どもは兼任でやってもらうことになってるからそれでも良ければまだ余ってるぜ?__モブで良ければな」
「もちろんやらせてもらうよ。せっかくの学園祭だし、それに練習に参加しておけば万が一当日主要キャストの誰かが出られなくなった時なんかの時に役に立てるかもしれないしね?」

この時の二人を遠目に見た誰かがいたら青い火花が散っていたと証言しただろう。

が、二人の目の前にいながら背を向け、本棚の方に気を取られていた瑠璃は全く気がついていなかった。そんな二人をよそ目に、
「あ!あった」
と明るい声を出して一冊の本を取り出す。
そんな瑠璃をなんとも言えない苦みを噛み締めた顔で見やりながら、
「何がだ、瑠璃?」
「これ!剣城くんてほんとに本が好きで詳しいんだね。ウエストサイドストーリーがロミオとジュリエットを元に制作されたものだって知ってるし役名もぽんぽん出てくるんだもん」

ウエストサイドストーリーはロミオとジュリエットを元に、アメリカの監督が映像権を獲得し、ミュージカルロマンス映画化されたのが始まりである。
舞台がベローナからニューヨークに変わり、名家の派閥争いがギャングの縄張り争いに変わり、ヒロインの結婚を決めるのが父親ではなく兄になる。
役も全てではないがそのままロミオとジュリエットから当て嵌めるのが可能であり、
ロミオ=トニー
ジュリエット=マリア
マキューシオ=リフ(トニーの親友)
ティボルト=ベルナルド(マリアの兄)

という感じである。


「あ、ああ。そうだね、仕事柄勉強しているしね」
瑠璃のあまりの邪気のなさに一瞬虚をつかれたていのゼノもすぐに持ち直し、如才なく返す。
そんなゼノを零はそれは冷たい横目で見ていたが、
「ウエストサイドストーリーは上演のための脚本しかなくって原作小説ってものがないからただの本読みには敬遠されがちなんだよね。それで去年わかりやすく“小説“として書いて出した人がいてね、これがそうなの」
と一冊の本を差し出す。
「へえ……興味深いね。借りていいの?」
「うん!部員ならここの本棚の本は持ち出し自由だよ、もちろん紛失や破損した時は個人負担で弁償してもらうことになるけど……」
「もちろん大事に扱うよ、読んだら感想文は必要かい?」
「まさか!あ でもひと月に一回の茶話会ではここ一ヶ月に読んだ中で一番印象に残ったものについて語ってもらうけど」














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