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織羽、気付く 後
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「では次に誂える衣装はこの布で……そろそろ暑くなってまいりましたから薄衣も増やしましょう、蓮花様はどのような色合いをお好みでしょう?」
「そうですね……夏といえばやはり青色でしょうか?薄い青も綺麗だとは思いますが私は濃いめの、藍に近い青色が好きですわ。」
「ほう……、成る程、蓮花様は濃い青がお好みでしたか。だから去年私が作らせたものはお気に召さなかったのですね」
「………」
いや、あの薄い緑が嫌いだったわけではない。
綺麗だと思ったよ?
ただ単にお前の女一の宮ごっこに付き合いたくなかっただけなんだが?
無言で微笑む私を不審に思ったのか、
「蓮花様……?」
戸惑ったように問う薫に、
「女一の宮と私の好みは違いますので」
と言ってやった。
「えっ……」
薫は一瞬呆けたように固まったが、直様顔を青くし、
「で、では私はそろそろ出仕しなければなりませんので失礼致します」
と早々に辞去を告げて立ち上がった。
私はそのさまがおかしくて、薫の姿が見えなくなってからくすくす笑う。
「楽しそうですね姫様」
最初は諌めていた晶もここ最近は諦めたのか、「楽しそうだからまあいいか」と妥協することにしたらしい。
そうなのだ。
私は三日とあけず何やかやとやってくる薫にああしてさらりと今までの意趣返し(受けていたのは私じゃないが)をしては慌てふためく薫の姿を見送っては笑っている。
(物語には、こんな場面出てこなかったものね?)
大君に死なれ、浮舟も匂宮に寝取られた後入水し、生き延びた所を迎えに行ったもののそこで薫は完全に振られる。
浮舟は頑なに「人違いだ」と断じて会おうとしなかったからだ。
ここで薫は「悟りを開くつもりで来た自分がどうしてこんなに恋に迷ってしまったのか」どこまでも自分に酔ったまま浮舟の章は終わる。
薫の世間的評価は高いまま__。
うん、それっておかしいよね?
そして同じく散々女性を弄んだ匂宮が東宮、帝となったのだとしたらやりきれない話だ。
女性の救いは、憂さ晴らしはどこにある?
ないなら作ればいい。
思いきり笑うこと、花を見ること、風を感じること__そんな小さな幸せを噛み締めることとか、いつも堅苦しい表情の誰かさんの上っ面を引っ剥がして素顔を引っ張り出してやること__とかね?
これが意外とはまって楽しい。
理由がなんであれ、あれほどの美男子に熱烈に口説かれて悪い気はしないし、花が欲しいと言えばこれでもかと届けてくれるし、どれそれが食べたいといえば取り寄せてくれる。
どんな我儘も「夫である自分を頼っていただけて光栄」とばかりに目を輝かせて叶えてくれる。
月二人も「上手くやれ」と(意図は未だ不明だが)と静観しているし、私の行動に干渉しないことも約束させた。
だから、一人でトウヤを誘き寄せて会うような真似も出来た。
織羽は気付いたのだ。
結月も月影も、トウヤも__彼等が守っているのは他ならぬ“蓮花の器“なのではないかと。
だから、月二人には「出家する」とかまをかけ、トウヤには「夫である薫と自分は円満である」と敢えて告げて反応を見た。
彼等の反応は概ね予想通り__心にぽっかり穴が空いたような織羽の細やかな意趣返しだった。
「そうですね……夏といえばやはり青色でしょうか?薄い青も綺麗だとは思いますが私は濃いめの、藍に近い青色が好きですわ。」
「ほう……、成る程、蓮花様は濃い青がお好みでしたか。だから去年私が作らせたものはお気に召さなかったのですね」
「………」
いや、あの薄い緑が嫌いだったわけではない。
綺麗だと思ったよ?
ただ単にお前の女一の宮ごっこに付き合いたくなかっただけなんだが?
無言で微笑む私を不審に思ったのか、
「蓮花様……?」
戸惑ったように問う薫に、
「女一の宮と私の好みは違いますので」
と言ってやった。
「えっ……」
薫は一瞬呆けたように固まったが、直様顔を青くし、
「で、では私はそろそろ出仕しなければなりませんので失礼致します」
と早々に辞去を告げて立ち上がった。
私はそのさまがおかしくて、薫の姿が見えなくなってからくすくす笑う。
「楽しそうですね姫様」
最初は諌めていた晶もここ最近は諦めたのか、「楽しそうだからまあいいか」と妥協することにしたらしい。
そうなのだ。
私は三日とあけず何やかやとやってくる薫にああしてさらりと今までの意趣返し(受けていたのは私じゃないが)をしては慌てふためく薫の姿を見送っては笑っている。
(物語には、こんな場面出てこなかったものね?)
大君に死なれ、浮舟も匂宮に寝取られた後入水し、生き延びた所を迎えに行ったもののそこで薫は完全に振られる。
浮舟は頑なに「人違いだ」と断じて会おうとしなかったからだ。
ここで薫は「悟りを開くつもりで来た自分がどうしてこんなに恋に迷ってしまったのか」どこまでも自分に酔ったまま浮舟の章は終わる。
薫の世間的評価は高いまま__。
うん、それっておかしいよね?
そして同じく散々女性を弄んだ匂宮が東宮、帝となったのだとしたらやりきれない話だ。
女性の救いは、憂さ晴らしはどこにある?
ないなら作ればいい。
思いきり笑うこと、花を見ること、風を感じること__そんな小さな幸せを噛み締めることとか、いつも堅苦しい表情の誰かさんの上っ面を引っ剥がして素顔を引っ張り出してやること__とかね?
これが意外とはまって楽しい。
理由がなんであれ、あれほどの美男子に熱烈に口説かれて悪い気はしないし、花が欲しいと言えばこれでもかと届けてくれるし、どれそれが食べたいといえば取り寄せてくれる。
どんな我儘も「夫である自分を頼っていただけて光栄」とばかりに目を輝かせて叶えてくれる。
月二人も「上手くやれ」と(意図は未だ不明だが)と静観しているし、私の行動に干渉しないことも約束させた。
だから、一人でトウヤを誘き寄せて会うような真似も出来た。
織羽は気付いたのだ。
結月も月影も、トウヤも__彼等が守っているのは他ならぬ“蓮花の器“なのではないかと。
だから、月二人には「出家する」とかまをかけ、トウヤには「夫である薫と自分は円満である」と敢えて告げて反応を見た。
彼等の反応は概ね予想通り__心にぽっかり穴が空いたような織羽の細やかな意趣返しだった。
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