2 / 2
1
しおりを挟む
彩花は別に神隠しにあったわけではない。
「とある財閥の御曹司に見初められて婚約したら、その婚約者に溺愛されすぎて会社に行けなくなった」
のだそうで、その婚約者が「こんなセキュリティがろくに無い所に住まわせておけない!」と手持ちのタワーマンション、いわゆる億ションに引越しさせられたそうで、住まいも変わったからーーらしい。
まるで漫画のような展開である。成り行きも異世界テンプレぽいし。
と、ただ「へえ、そうだったんだ」と思っただけの私と違い、おさまらなかったのが意識高い系女子ーーもとい、彩花より美人を自認する女子社員たちだ。
「なんで、あんな地味なのが御曹司に見初められるのよ?!」
派手ならいいってものでも無いからでは。
「彩花なんていっつも無印派でブランド物なんて一個も持ってなかったわよ?!」
いや、私も実は一個しか持ってない。無印も良くない?
「女子会だって不参加多いし、たまに来てもいつも同じ服だったわよ?」
「あーそれ私も思った。アレンジはしてたみたいだけど」
「まあ何着ても地味だったけどさ?名前負けだったよね彩花ってさ」
「言えた。マリアは名前通りなのにね」
“マリア“と呼ばれた一番派手なメイク女子がふっと髪を揺らし、
「まぁね」
と満足げに笑う。
マリアというのは源氏名でも自称でもなく、本名だ。
ハーフというわけでもないし、彫りの深い顔立ちでもないのだが、当人は名前の印象に寄せたいらしく、金に近い茶色の巻き髪をいつも誇らしげに揺らしている。
彩花と同じ年だから余計気に障るのかもしれないが、当人がもういないからって言いたい放題だ。
彩花は薄化粧ではあったが顔の造作自体は整っていた。
そもそも派手な服もメイクも必要ないって最強なのでは?
私は何も聞こえていない振りをして食事を続けた。当たり前だが会社にいるのは彼女らのような女性ばかりではないし、約半数は男性社員なのだ。
「とりあえずその会話はそれこそ女子会のホテルの密室とかでやらないと、益々婚期が遠のくわよ」と心の中で忠告しつつ、そういえば彩花と食事した回数は私が一番多かったな、と思いを馳せた。
だが、私の予測というか忠告は無用だったようだ。一ヶ月後、マリアも会社を去った。それも、
「旅行に来ていた外国のセレブに見初められて結婚することになったので、彼の帰国に合わせて一緒に国に帰った」
という、彩花と全く同じシチュエーションで。
正確には全く同じとは言えないが、いきなりの見初められ婚には違いない。
マリアと話していた一同は大騒ぎだが、
(そんなにお互いを全く知らない状態で結婚して大丈夫なのかしら?)
と思うだけだった。
通常、会社の同僚が結婚退職などしたら引き継ぎ・お祝い、送別会など忙しくなるものだが、今回の二人は急に一切会社に来なくなったのでそういったことはない。
引き継ぎに関してだけ、婚約者の御曹司だかが人を送ってきてサポートしたとか聞いたが。
そして今、私は鞠音という後輩に昼食の邪魔をされている。
「先輩、彩花と親しかったですよね!彩花がやめる前日も二人で先に帰ったじゃないですか!何か聞いてませんか?!」
いや、定時だが?と返したいがそんな言葉は期待していないのだろう。
「何も言ってなかったよ」
「本当ですかっ!!」
「嘘ついてどうすんの。ただーー」
「ただ?!」
「凄く大事な用があるって言ってた。それが婚約者のことだったのかも」
「そ、そんな……」
「彩花と何かあったの?」
「いえ、何もないですけどーーただ、ずっとランチとか休憩とか一緒してたんですよ?!彼氏が出来たとかひと言くらい何かあっても良いじゃないですかっ!」
「それは私も思った」
彩花は堅実な子だ。一か八かの賭けに出るタイプではない。今回のことはマリアならあり得ても彩花らしくないとは思う。
「私なんか、いつも派手なマリアと同じような発音の名前だから比べられて色々気を抜けないし、でもやりすぎるとマリアが不機嫌になるし。参加しなくても話を聞いてくれる彩花は仲間だと思ってたのに」
キラキラ女子にも色々あるんだな。
鞠音ってマリアと同じタイプかと思ってたけど、結構無理して合わせてたんだな。
「うーん、もし機会があったら訊いてみるね」
でも、もう引越しちゃったって言うしなぁ。
機会、来ないだろうな。
そしてそんな会話の翌日、鞠音も姿を消した。
「とある財閥の御曹司に見初められて婚約したら、その婚約者に溺愛されすぎて会社に行けなくなった」
のだそうで、その婚約者が「こんなセキュリティがろくに無い所に住まわせておけない!」と手持ちのタワーマンション、いわゆる億ションに引越しさせられたそうで、住まいも変わったからーーらしい。
まるで漫画のような展開である。成り行きも異世界テンプレぽいし。
と、ただ「へえ、そうだったんだ」と思っただけの私と違い、おさまらなかったのが意識高い系女子ーーもとい、彩花より美人を自認する女子社員たちだ。
「なんで、あんな地味なのが御曹司に見初められるのよ?!」
派手ならいいってものでも無いからでは。
「彩花なんていっつも無印派でブランド物なんて一個も持ってなかったわよ?!」
いや、私も実は一個しか持ってない。無印も良くない?
「女子会だって不参加多いし、たまに来てもいつも同じ服だったわよ?」
「あーそれ私も思った。アレンジはしてたみたいだけど」
「まあ何着ても地味だったけどさ?名前負けだったよね彩花ってさ」
「言えた。マリアは名前通りなのにね」
“マリア“と呼ばれた一番派手なメイク女子がふっと髪を揺らし、
「まぁね」
と満足げに笑う。
マリアというのは源氏名でも自称でもなく、本名だ。
ハーフというわけでもないし、彫りの深い顔立ちでもないのだが、当人は名前の印象に寄せたいらしく、金に近い茶色の巻き髪をいつも誇らしげに揺らしている。
彩花と同じ年だから余計気に障るのかもしれないが、当人がもういないからって言いたい放題だ。
彩花は薄化粧ではあったが顔の造作自体は整っていた。
そもそも派手な服もメイクも必要ないって最強なのでは?
私は何も聞こえていない振りをして食事を続けた。当たり前だが会社にいるのは彼女らのような女性ばかりではないし、約半数は男性社員なのだ。
「とりあえずその会話はそれこそ女子会のホテルの密室とかでやらないと、益々婚期が遠のくわよ」と心の中で忠告しつつ、そういえば彩花と食事した回数は私が一番多かったな、と思いを馳せた。
だが、私の予測というか忠告は無用だったようだ。一ヶ月後、マリアも会社を去った。それも、
「旅行に来ていた外国のセレブに見初められて結婚することになったので、彼の帰国に合わせて一緒に国に帰った」
という、彩花と全く同じシチュエーションで。
正確には全く同じとは言えないが、いきなりの見初められ婚には違いない。
マリアと話していた一同は大騒ぎだが、
(そんなにお互いを全く知らない状態で結婚して大丈夫なのかしら?)
と思うだけだった。
通常、会社の同僚が結婚退職などしたら引き継ぎ・お祝い、送別会など忙しくなるものだが、今回の二人は急に一切会社に来なくなったのでそういったことはない。
引き継ぎに関してだけ、婚約者の御曹司だかが人を送ってきてサポートしたとか聞いたが。
そして今、私は鞠音という後輩に昼食の邪魔をされている。
「先輩、彩花と親しかったですよね!彩花がやめる前日も二人で先に帰ったじゃないですか!何か聞いてませんか?!」
いや、定時だが?と返したいがそんな言葉は期待していないのだろう。
「何も言ってなかったよ」
「本当ですかっ!!」
「嘘ついてどうすんの。ただーー」
「ただ?!」
「凄く大事な用があるって言ってた。それが婚約者のことだったのかも」
「そ、そんな……」
「彩花と何かあったの?」
「いえ、何もないですけどーーただ、ずっとランチとか休憩とか一緒してたんですよ?!彼氏が出来たとかひと言くらい何かあっても良いじゃないですかっ!」
「それは私も思った」
彩花は堅実な子だ。一か八かの賭けに出るタイプではない。今回のことはマリアならあり得ても彩花らしくないとは思う。
「私なんか、いつも派手なマリアと同じような発音の名前だから比べられて色々気を抜けないし、でもやりすぎるとマリアが不機嫌になるし。参加しなくても話を聞いてくれる彩花は仲間だと思ってたのに」
キラキラ女子にも色々あるんだな。
鞠音ってマリアと同じタイプかと思ってたけど、結構無理して合わせてたんだな。
「うーん、もし機会があったら訊いてみるね」
でも、もう引越しちゃったって言うしなぁ。
機会、来ないだろうな。
そしてそんな会話の翌日、鞠音も姿を消した。
18
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる