<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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聖女は自分を喚んだ異世界を嘲笑う 1

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意外と楽しい。

これがここで数日過ごした感想だ。

聖女候補は全員聖女の宮に部屋をあてがわれ専用のメイドが1人つく。
部屋付きが1人というだけで、他にも沢山の使用人がいる。
毎日午前中に座学の講義(この国の事や聖女の役割についてとかね)があって、後は好きにしてて良い。
 私は元々人と話すより本を読んでる方が好きなのでお城の図書館に入り浸れれば文句なかったけど、スマホもゲーム機もないここでは早くもヒステリー起こしてる候補もちらほら。

ま、当然だ。
そうそう、美少女さんはカリンちゃんと言うらしい。彼女は周りに取り巻きを増やして楽しそう。他の候補はあまり見ない。

 私も特に交流深めようとか思ってないので図書館以外はお城の中を探索した。
仕組みとか、逃げ道とか。必要でしょ?
お菓子も好みの物は自分で作らせてもらいながら情報収集。城の中を案内してもらいながら情報収集。
無邪気な好奇心を装って人懐こいふりをして、長い髪を飾り気なくひっつめて、自分で出来る事は出来るだけやった。
メイドさんだろうが他の使用人だろうが何かしてもらったらお礼を言う。
だって相手のホームグラウンドで無闇に敵作ってどうする?
図書館の本は沢山部屋に持ち込んで構わないしお茶だって菓子付きで幾らでも出てくるーー後でツケが来ないかマジで心配になる高待遇。

 でも、忘れてやしませんか?私達がここにきた時の周りの反応。それなりに切羽詰まってたよ?あれ。
聖女って要するに魔物退治の最終秘密兵器で、今は魔法使い達が頑張ってるけどそろそろ顕現してくれないとヤバい。
儀式も中々成功せず、あれがここ数年で唯一の成功例。高待遇=期待値なワケですよ。要するにとっとと誰かがやってくんないと全員滅亡しちゃうってこと。

 ーーーなのに貴族や王族や騎士どもは。自称聖女にべったべた……他の人だった場合を考える頭はないのか。
 神官さん達は比較的まともで公平に接してるけどね、あと大多数のお城で働く人たちも。
カリンちゃんはメイドの数を増やせと言ってきたりドレスや宝石ねだったり、またお付きのメイド達まで一緒になって天狗になっちゃったり、、笑える。流石に周囲も引き気味だって気付いてる?

 そんな様子を遠目にみながら私は今日も城を歩きまわる。このブレスがあれば基本どこもフリーパスだからね。
 と、建物の角を曲がった途端、凄い勢いで人にぶつかった。しかも、でっかい図体に鎧というその相手は人を吹っ飛ばす勢いで体当たりかましときながら「気をつけろ!!」とか怒鳴ってきた。
 むかついた私は無言でそいつの目の前にブレスをつけた腕を差し出した。
「!…っこれは…ー失礼した、聖女候補どの」
 先程の態度が嘘のように綺麗に膝を折る。
「…………」
身長180センチ前後体重不明金髪金眼、顔はイケメンだけどちょっと筋肉質すぎ。カリンちゃんの取り巻きにはいないタイプ。20代半ばくらいか?
「お怪我はありませんか?」
「ないけど痛かった。普通こういうとこでぶつかったら互いの責任はイーヴンだと思うから相手があ、すみません!とか一瞬でも立ち止まって言う人なら別にコレ見せびらかしたりしないんだけど。自分はそんな装備でぶつかった相手吹っ飛ばしときながらその態度ってそれがここの常識?それともあなた個人の常識?」
「いや!も、申し訳ない…!普段我々騎士はこのような事はありません。ただ今は急いでおりましたもので…、真に申し訳ありません。無礼の詫びはまた後ほど改めて。私は第二騎士団長クレイルと申します。貴女のお名前を伺っても…?」
「……ツキナ」

♦︎♦︎♦︎

 ツキナという聖女候補の事を調べてみた。騎士団の連中は全く知らなかったが、宮で働く者達からは概ね好意的にとらえられていた。
 *メイド始め使用人に礼を欠かさない
 *我が儘やヒステリーを起こさない
 *本が好きで図書館に入り浸るか部屋で本を積み上げて読む合間城の散策をしている
 *紅茶が好きでそれに合わせる菓子は自分で作ったりもする
 *ドレスや宝石に興味を示さず地味なものを好む
 *身の周りの事を出来るだけ自分でやろうとする
 座学講師の意見
 *いつも1番後ろの1番端で真面目に授業をきいている
 *常に無表情で考えが全く読めないが質問には誰よりも的確に答える

 ……変わっているな。稀少な茶葉を手に宮を訪ねた。
「わざわざお訪ね下さってありがとうございます」
「先だっては大変致しました」
 あまり歓迎はされてない様なのでさっさと茶葉を差し出して帰ろうと思ったが、茶葉は存外喜ばれた。誰にきいても常に無表情、という顔が綻んだからだ。
「ありがとうございます。よろしかったらお茶をご一緒にいかがですか?ちょうど良い菓子があるのです」
「ではお言葉に甘えて」
 出された菓子が見た事がない物だった為、
「これは?」
「紅茶の茶葉を練り込んだクッキーです。もう一つは同じく紅茶のシフォンケーキ」
「噂の貴女のお手作りですか?」
「噂になってるんですか?」
「他に菓子を手作りしてる候補の方はいませんから」
「あぁ……」
 ツキナは苦笑する。菓子は美味で、実際彼女は作りながら料理人達にレシピを教えておりそれを他の候補達に出すと好評だと言う。
 お礼にまた珍しい茶葉が手に入ったらお持ちしますと約束して辞した。

♢♢♢

 噂になってるのか……目立ちたくないんだけどな。レシピもそろそろ尽きたし菓子作りはやめておくか。
ひと通り伝えたから作ってもらえるし、料理人達の噂や愚痴はもうインプット済みだからね。
 元々菓子作りが趣味な訳ではない。この国の菓子があまり好みじゃなかっただけだ。

こちらに呼ばれてもう半月、近くの部屋でけたたましい叫び声が響いた。続いて何かが壊れる音とメイドさんの悲鳴。
近くに行ってみると廊下にうずくまって泣いてるメイドさん、その周りをオロオロしてる使用人数名、良く見るとメイドさんの片腕には何かが当たって出来た痕がある。その傍らに陶器の置物。あーこれ当たったら痛いよね。
 ーー投げられた先は小学生の部屋。成る程、納得。

 他の人はこの音聞いても部屋から出て来ない。私もガキは苦手なんだけど、しゃーないか。

 部屋に入ると、予想通り小学生が
「もう嫌!こんなところ嫌!!帰して!うちに帰してよ!こんな所嫌い!食べ物だってキライなものばっかりだしマズいし!マンガもテレビもないしする事っていったら勉強ばっかり!いいかげんにしてよ!」
 ーーごもっとも。私も小学生だったらこうだったろう。まあ、私は休暇中だと思ってるけどね?仕事嫌いだし。

「えーーと……とりあえず物投げるのやめようか?危ないし」
「何よあんた!!」
「同じ魔方陣にいたヒトだけど?」
「ーー何の用よ」
「うるさいから様子見にきただけ」
「!何よ!別にいいじゃないここにいる間は好きにしていいって言われてるんだから!」
「うん私も言われてる」
「………」
「うるさくて本読んでらんないの。わかる?」
「何よ!大人のクセに!」
「ガキのクセに何言ってんの?来た時教わったでしょ?ここにいる間は皆平等。年齢は関係ない。そして私はあなたの保護者じゃない。この意味わかってる?」
「…!…」
「あなたを保護する義務は私にはない。もちろん他の候補にもね。あるのはあのメイドさん達。それをケガさせて追い出して、自分で自分の面倒もみらんないガキがこの先どうやって生きてくの?一方的にケガさせて謝罪もないガキの面倒とか誰が見たがる?病気してもまた機嫌悪いみたいだから近付かないようにしましょう、とかほっとかれて見殺しにされちゃうかもよ?」
「う、嘘よ、そんな……」
「あり得ないって言える?あなたがあのメイドさんだったらどう思うか考えた事ある?」
「だ、だって、だって…、」
 あー泣き出した。めんどい。
「助けが欲しいなら言いなさい。言いたい事も言っていい。でも一方的に物ぶつけるのは駄目。わかった?」
 目線を合わせてそう言ったら抱きつかれた。抱きついてわんわん泣かれた。仕方がないので泣き止むまで抱きしめて背中を撫で続けた。

 子供の体温は高いから、抱きしめるとあったかい。うん、可愛いとこあるじゃん。

「お姉さま!お茶にしましょう!」
 ひらひらドレスの小学生、カンナちゃんはあれから妙に懐き、毎日部屋に来るようになった。いや、この展開が想像出来なかったワケではないのだが毎日アレ続いたら困るし。カンナちゃんは可愛いけどもさ。やっぱり早く帰してくんないかな?

♦︎♦︎♦︎

 カリンという聖女候補が頻繁に俺を宮に呼びつけるので任務に支障が出る。
ツキナ嬢にぶつかった時も任務中であったのにとにかく来いとしつこいのでイライラしながら急いでた最中だったからだ。
呼んだ理由を問えば各地の魔物討伐状況がどうの話し出すがまだ魔力の片鱗すらないのに聞いてどうするのだ。
しかもすぐに好きなタイプだの食べ物だのに話が脱線する。まだ聖女と決まった訳でもないのに調子に乗りすぎではないのか。
 あの日もそんな調子でイライラと聖女の宮を去ろうとした時あの騒ぎに出くわした。
 
ーー全く、どいつもこいつもーー

 そう思った時、ツキナ嬢が現れ、カンナという子供をあっさり宥め、さらにメイドに謝罪させていた。それからというもの、癇癪持ちのカンナ嬢はなりを潜め「おねーさま♡」と毎日ツキナ嬢の元に通っているという。

あの娘、何なんだ?



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*

補足

視点はツキナかクレイルのみ、因みに召喚された時年齢は確認されていません(笑)
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