〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)

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「団長が八年前、どうしても出征しなければならなかった理由は、私なんです」
そう言ってディーンは話し始めた。
エドワードが訓練に参加し始めてすぐに意気投合したこと。
自分の出征前、「何かあれば絶対助けに行く」と言ってくれたこと、「まだ卒業前の奴が何言ってやがる」と苦笑しながら拳を突き合わせて別れたこと。
戦時中、敵の懐深い場所で孤立し最早これまでと死を感じたこと__そこへ九死に一生を得たのは無謀とも言える一手で戦況をひっくり返してエドワード達が駆け付けてくれたこと。

先に来ていた仲間達が次々に散って行く中、エドワードは下を向くことなく敵に牙を剥いていったこと。
そんなエドワードの姿に鼓舞されて付き従う者が増えて行ったこと、年上のディーンでさえ「どうしてお前はそんなに強くあれるんだ?」と疑問に思って聞いたところ、
「……必ず迎えに行くって、約束したから」
とやや間があった後ポツリと答えたこと。
幼馴染の女の子のことは訓練を一緒に受けている頃から聞いていた。
六歳下の令嬢で、「良く泣くけれど弱虫じゃない、単に気を緩める場所がなかっただけだと思う。確かに家庭教師だけ付けて一日一回夕食時に顔合わせるだけの家じゃ、息もしづらいのかも__まだ子供なのにね」
「弟のみに時間割いてるなんて親失格だと思うけど__長男以外はそんなもんなのかな、うちなんてもっと酷いし」
「勉強とか教えてても凄く飲み込みが早いんだ、たぶん同学年の他の子供と話が合わないのはそのせいじゃないかなって」

最初は妹を語るようだったそれが、
「今はもう滅多に泣かないしそろそろお役御免かなぁ?女の子って成長が早いよね」
と明らかに意識しているものに変わったのはいつだったか。
「髪も背も伸びて凄く可愛いなって、学年が上がったらモテるんじゃないかな?変な男に引っかからないと良いけど」
「エルドア子爵が勝手に政略で婚約者を決めちゃうかもって、酷い話だよね」
「なら、お前が婚約者になってしまったらどうだ?お前も侯爵家の三男だし、卒業したら騎士になるんだろ?相手の令嬢が卒業するまでに一人前の騎士になってれば良いんじゃないのか?」
想いが明らかなのに自覚がないのに呆れて、ここまでひたすら聞き役に徹していたディーンが言うと、エドワードは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたがすぐに顔を赤くし、
「……提案してみる」
と言い、後日「正式に婚約した」と嬉しそうに報告してきた。

その経緯いきさつを知っているだけに、エドワードが戦場に来た時は有り難い反面、その令嬢とはどうなったのかが気になってはいたのだが、
「デビュタントには迎えに行くって約束したんだ。だから__戦争なんて絶対早く終わらせて迎えに行くんだ、リーアを」
そう迷いのない目で告げるエドワードを前に、ディーンは決心した。
絶対コイツを死なせない、生きて返すと。
例え自分が死んでも、元々エドワードに救われた命だ__必ず生かしてその令嬢の元に帰して見せる。
そんな決心の強い二人は、気付けば騎士団の頂点に登りつめていた。

だが、ディーンはその令嬢との約束云々がここまでエドワードの一方的なものだとは知らなかったのだ。
__アルスリーアがここまで度胸と行動力がある女性だということも。
「貴女には、お詫びをしなければと思っておりました。八年前、私がドジを踏んだせいで図らずも貴女と団長を引き離してしまった。私があんなことにならなければ、エドワード様が例え戦場に行くことになっていたとしてもそれはもっと後の予定になったはず。貴女としっかり話し合って行く時間も持てたことでしょう」
頭を下げるディーンに、(それはどうかしら?)とアルスリーアは思う。

「お話はわかりましたわ、謝罪も結構です。けれどディーン様?例えタイミングが違っていても、エドワード様は止める私を振り切って行っていってしまったと思いますわ。だって私は、戦争になんて行ってほしくなかった。側にいて欲しかったのです、大好きなエディに。」
「アルスリーア嬢、それは、」
「我儘でしょう?わかっています、エドワード様はほんの数年で騎士団長まで昇りつめた方。けれどまた何かあれば止めても行ってしまう方です、行った先で素敵な女性に出会われることもあるでしょう、だから幼い頃の約束など_「_アルスリーア嬢!」?」
「そこから先は、私が聞いて良い話ではありません。直接団長にお話ください__けれどアルスリーア嬢、エドワードどのはいつも言っていましたよ、辛い出来事に直面する度に、“リーアの笑顔を守るためならこれくらい耐えてみせる“と。貴女様の存在が、フェンティ騎士団長の精神的な支えであったことは誰にも否定できない事実だとだけ申し上げておきます」
「…………」
本当に、物理的な距離をものともしない想いはこんなにも眩しいものかと__呆れてしまうくらいに。

















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