〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)

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「私と結婚して下さい」
翌日ピンクの薔薇の花束を抱えてやって来たエドワードの第一声はそれだった。
因みに領主夫妻は出迎えだけは共にしたがすぐに放置、じゃない気を使われて席を外された。
お付きのディーンも同じく。
「……昨夜お断り申し上げたはずですが」
「受けてくれるまで何度でも来る」
「やめて下さい」
(仕事はどうした、騎士団長。)
もちろんディーン以下、部下総出で全力フォロー中である。

「旦那様に伺いましたが騎士団からこの館に護衛も派遣されているとか。そういったことは、「やめてくれ」は?」
「俺以外の男を“旦那様“などと呼ぶのはやめてくれ」
「雇い主ですから。ずっとそう呼んできましたし、無茶を仰らないで下さいませ」
「リーア、君はもう働く必要なんてないんだ。騎士伯と一緒に王都に館も賜った、今の俺なら君に何でも買ってあげられるだから__」
「買っていただくには及びません。特に不自由していませんから」
「?だが、これから社交界に出るならドレスとか色々必要だろう?」
「は?何で平民の私がこれから社交界に出るんですか、出ないんだから必要ないでしょう?!」
「あるだろう!エドワード・フェンティの妻はアルスリーア・フェンティとなっているのだから!」
「それはエルドア子爵の娘だった場合でしょう!エルドア子爵の娘がいなくなった時点で無効ですそんなのは!」



__こんな不毛なやりとりが一週間ほど続いた翌日、
「はいはいお二人共、エミリア夫人が好意でお茶の席をご用意下さったのでせっかくだからいただきましょう」
舌戦が始まってすぐにディーンが割って入った。
「ディーンお前、」
「お二人でどうぞ、私は失礼致します。仕事があるので」
「まぁそう仰らず。貴女の好きなお菓子を用意して下さいましたよ?」
「…………」
つまり雇い主公認の席ということか。
不承不承席に着いたアルスリーアは、
「ディーン様はどういう立ち位置ですの?」
と呆れて訊ねた。

「戦場では誰より頼もしいのにこういったことに疎い上司のアドバイザー兼見張りですかね、放っとくと とんでもない暴走をしそうですから」
「暴走なんかしてないぞ」
「相手の職場に突撃プロポーズという行為は間違いなく暴走です。まず相手の仕事の邪魔になりますし、場合によっては相手の職場での立ち位置まで悪くしてしまいます」
「俺はそんなつもりは__」
「なくてもそうなりますよ連日押し掛ければ。ついでにその為に自分の仕事ほっぽりだしてくとかあり得ないです」
「ぐっ……!」
「今はまだ領主夫妻が出来た方なので問題になっていませんがこんな状態が続けばいずれ人の口の端に乗ります、というわけでアルスリーア嬢」
「?何ですか」
「とっとと求婚受けてあげてもらえませんか?」
「……お断りです」
「っ、お前、勝手にプロポーズを代行するな!」
「いえ、なかなか手強そうな方なので会話の流れに乗ってやってみたらどうかと思ったんですが__以上のことを踏まえて団長、ハワード夫妻へのフォローは私がしておくので今日は仕事に戻って下さい、仕事をサボる男は嫌われますよ?」
「__わかった。ではまた、リーア」
席を立つエドワードを見送ってアルスリーアも退席しようとしたが、
「少しお時間をいただけますか、アルスリーア嬢」
否を言わせないディーンの口調に、動きを止めざるを得なかった。
















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