〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)

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「イ、イリアス……」
ミレスナの王は口元をわなわなと震わせるが、国王は揺るがない。
「悪戯に民を疲弊させ、享楽を貪ればこうなる。何度も忠告したはずだ」
「エ、エドワード様!横領はお父様の罪であって私の罪ではありません!」
「レ、レベッカ!お前__」
「まあ卑しい本音が表れたわね。全くあの女のにそっくりだこと」
「ヘレネーと出会う前の貴方は、ここまで愚かな人ではなかった。ちゃんと“この国で得たことを自国にどうやって持ち帰り、役立てるか“を考えている人だった__どこで間違ったのだろうな?」
国王の言と、目の前のレベッカの裏切りとに打ちのめされたミレスナの王は、がっくりと項垂れた。

そんな父親の様子には頓着せずに、
「先ほどジークリード殿下も仰っていたではありませんか!“子供は親を選べない“と。私は何ら罪を犯してはおりません!」
「貴女が三歳ならともかく二十三でその理屈は通らなくてよ」
「その通りだ。王女を名乗るなら一緒に我が儘を振りかざすのでなく諫めるべきだった。それにやたら金が必要だったのは王女の浪費が一因だった面もあろう」
「そ、そんな……だって私は王女ですから、」
「もう王女ではなくなると言っただろう?尤も“王女として“裁きを受けたいのなら父上同様、国民投票で刑を決めてもらうかい?」
「刑だなんて!我が国の国民なら私の減刑を願うに決まってますわ!」

どこから来るんだその自信は、とはもう誰も突っ込まない。

代わりに、
「なぁレベッカ、お前自分にさんざんただ働きをさせ、威張り散らしていた相手を無条件に愛したり許したりできるか?」
「?何を言って……」
「お前はただ運良く生まれた時の身分に恵まれてただけで、尊い存在でも何でもないんだ。それでも少しは頭を使って人のために何かひとつでも成し遂げていればその可能性もあったかもしれない。だが、お前は自分のことしか考えない。そんな人間を心から慕う人間なんているはずがないだろう」

「わ、私はちゃんと私を好きだという人間に愛を返してきましたわ!」
「好みの男だけにな」
「侍女たちだって皆私を慕って「単に給料が良かったからだ、お前の侍女は重労働だからな」、なんでそんな意地悪を言うの?自分がお父様に愛されなかったからって」
「あんなヤツの愛情なんか欲しがるわけないだろう?そもそもお前に向けていたのがまともな親の情かも疑問だ、普通の親は我が儘がすぎる子供は叱るものだ。将来まともな人間に育って欲しいならな」

__確かに。

「わ、私はエドワード様を心からお慕いしております!この気持ちは本物ですわっ、私が自分しか愛せないなんて言葉は取り消し__ひy、」
瞬間、剣先が眼前に突き出され、レベッカは言葉を失う。
「いい加減にしてくれ、俺だけでなくリーアまでこれ以上気分を悪くしたらどうしてくれる?」
誰の目にも止まらない速さで突きつけられた剣先はつ、と徐々に下げられ喉元でぴたりと止まった。
「改めて言っておくが俺はお前を想ったこともまともな女性と捉えたこともない。俺が愛しいと想ったのは、傍にと願ったのはリーアだけだ。なのにリーアをお前らの斡旋した変態に引き渡してお前と結婚だと?どこをどうやったらそんな結論に行き着くのか一度その脳をかち割って調べてみたいものだ__国王陛下?」
“何か異論はあるか?“と目で訊かれた国王は『ひっ!』と内心で冷や汗をかきつつ、「うむ。ここはフェンティ伯に任せる」と抜刀(完全な後出しジャンケンだが)の許可を出した。

流石に声が出せないレベッカに、
「貴様の声は聞くに堪えない。口を開けば自己愛の主張とリーアを貶める発言ばかりだ。今すぐ喉を切り裂くか声帯を潰してやりたいが__」
「……っ」
「リーアがいるからここではやらないが、今すぐ貴様の四肢を切り落として晒すくらいわけはないぞ。それくらい、俺にとって貴様らの命は軽い」
逆に、リーアのためならどこの国だって焦土にして見せよう。
そう決心するくらい、再会してすぐにアルスリーアから言われた「初めまして。どちら様ですか?」と言われたことはエドワードにとってトラウマになっている。

今やエドワードにとっては、自分からアルスリーアを引き離すもの全てが敵だった。




























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