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終.最後の戦い編

第113話(1192年7月) 関ヶ原の戦い③

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 関ヶ原の西・出雲軍本陣

 源氏軍の動きが鈍ったので、貴一は偵察の数を増やしていた。
 本陣に弁慶隊副長の水月が入ってくる。

「源氏軍の切り込み攻撃が減った理由がわかりました。2万の騎馬隊が関ヶ原を離れたようです」

「源氏の精鋭ではないか。貴一どう見る」

「こっちの戦車が揃う前に、義仲の別動隊を討とうと考えたのかもしれん。だとしたら、関ヶ原の兵力は6万対3万。こちらが圧倒的に有利だ。総攻撃をかけるぞ」

 出雲大社6万が敵本陣を目指して進むと、源氏軍も2万の兵を押し出してきて、激しい銃撃戦が始まった。

 弁慶が戦況を見て水月を呼んだ。

「水月、この場所は6万の兵が生かし切れぬ。3万を左右の山に展開させろ。包み込む」

「山にある敵の砦はどうします? 10以上ありますが」

「相手をしていたら連携できぬ。砦を封じ込める人数だけ置いて、先へ進ませろ」

「御意!」

 互いに万を超える火縄銃の戦いである。突撃したほうがハチの巣になる。両軍距離を置いての撃ち合いが続いた。

 一刻後、徐々にではあるが、火縄銃の数の差が表れてきた。源氏の兵が倒れていくのが、貴一の目にもわかる。

「ここが戦機だ。戦車をすべて出せ! 一気に崩す!」

 出雲軍の奥に控えていて蒸気戦車30両がゆっくりと前進し始めたとき、貴一の顔に水滴が落ちてきた――。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 出雲軍が総攻撃を仕掛ける1日前。

 比叡山から京に降りてきた僧兵たちは、口々に「仏敵! 仏敵!」と叫び、朝廷に向かって突き進んでいた。その中ほどに、輿に乗った関白・九条兼実くじょうかねざねが100程度の武者に守られていた。

 兼実が側の侍大将を呼ぶ。

「出雲は仏敵だけではない。武者どもに朝敵と叫ばせよ」

 朝廷の前で出雲軍1万対僧兵2万の市街戦が始まった。
 僧兵は建物の陰で火縄銃の攻撃を避け、隙を見ながら攻撃を仕掛けていく。

 出雲軍を指揮する神楽隊を見て兼実はつぶやく。

「あれが舞いで指揮をするという神楽隊か。出来は悪くはないが、静御前の舞いに比べれば、田舎臭い――法然上人をこれに」

 兼実は比叡山に避難してから、ますます法然の話を聞くことを好んだ。出雲軍を天魔と呼び、怒り怯える各宗派の中で、法然だけが、「神社仏閣・経典は破壊できても、念仏は形無きゆえ壊されません」と言い、泰然自若としていた。
 そして、出雲大社もなぜか法然だけには一目置いて敵意を向けていなかった。

「上人、和睦に奔走していた、そなたは不本意だろうな」

「残念です」

「そなたは出雲とも懇意だ。兵糧の場所を知っておろう」

「言えませぬ」

「1つ聞く。念仏を唱えれば、悪人も極楽浄土へ行くという考えは変わっておらぬか」

「無論」

「ならばこれからは念仏を唱えるとしよう。余は悪人だ。そなたや弟子の後をずっと付けさせていた――侍大将に命ずる! 5000の兵とともに、霧の神社に向かう」

 法然は目を見開いて兼実を見た後、手を合わせて瞑目した。

「南無阿弥陀仏――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 関ヶ原中央・出雲軍視点

 関ヶ原には強い雨が降り始めていた。
 弁慶が声を上げる。

「火縄を濡らすな!」

 副長の水月が弁慶に進言する。

「この雨では無理です。鉄砲隊は1度下げましょう」

 弁慶は交代で火縄銃を荷駄隊に預けた後、戦線に戻るよう命じた。
 貴一が出雲兵に向かって叫ぶ。

「火縄銃が使えないのは敵も同じ。こうなれば兵の差が物を言う。勝機だ。兵が戻り次第、突撃するぞ」

 弁慶が源氏軍のほうを見て、目を細めた。

「何か聞こえぬか、鬼一」

「――ああ、広元にまんまとやられたようだ」

 源氏軍の前面が割れると、馬蹄を轟かせて、源氏騎馬隊が飛び出してきた――。
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