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第二章
邂逅
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「放せっ! 放せってば!」
「こんなところで子供がひとりでいては危険だ。わたしと一緒にここを出るんだ。さあ!」
地下遺跡の一角でそんな押し問答を繰り広げていたのは、ケルトとスタローン王国警備兵だ。ケルトも逃げ足は速い方であったが、毎日鍛錬を積んでいる兵とその体力は比べものにならず、あっさりと腕をつかまれてしまった。
「嫌だっ! 放せっ、この馬鹿力!」
必死に手をふりほどこうと暴れるケルトに兵は大きなため息をつくと、ひょいとケルトを抱えて肩に担ぎあげた。
「はいはい。冒険ごっこでもしたかったのか? だがいまはだめだ。危険な奴がひそんでいるからな」
「違う! そんなんじゃ……!」
ケルトを担ぎあげた兵はケルトの叫びには耳を貸さず、くるりときびすを返し地上へ続く階段へと向かって歩き始めた。
その肩の上で顔を真っ赤にして叫びながら、ケルトは遠のく通路を涙ぐんで見つめる。通路の中には青白い発光が筋を描きうっすらと光って見えていた。
それは追尾魔法の痕跡であり、アレクが通った道筋を指し示すものだった。
追尾魔法は半径五百メートル以内でしか探知できない。
モーリッシュのアジトを抜けて、すぐさま周囲に魔法の痕跡がないか探してみたが、残念なことに見つけることはできなかった。
それで、あてもなく暗闇の中を壁伝いにウロウロしていたところで警備隊と遭遇してしまったケルトだったのだが、警備隊から逃げた先でやっとその痕跡をとらえることに成功していたのだ。
けれどアレクの現状を知らず居場所を警備隊に教えたくなかったケルトは、愚かにも魔法の痕跡の話をしなかった。
泣く泣く地下街へと強制的に連れ戻されたケルトはベローズ王国警備隊の元へと引き渡され、規律違反で身柄を拘束されてしまったのである。
それとほぼ時を同じくして。
地下街マンホールからモーリッシュのアジトへ向かってまっすぐに伸びた階段を下り、マーリナスはアジト内を捜索する警備兵に目をやる。
モーリッシュのアジトには部屋が五つあり、その中で貯蔵庫らしき部屋にはモーリッシュの仲間とみられる男の死体を発見した。うち一か所には傍仕えの者が数人怯えたように身をひそめており、その身柄も確保。
モーリッシュの確保が公になったことにより、地上で待機していたギルを含めベローズ王国警備隊も大手を振って地下街へと乗り込んだ。
アジト内のキッチンにあった抜け穴は一方通行であり、あれは緊急用の逃走ルートだったと判明。そこから元の場所に戻ることはできない。
モーリッシュのアジトや地下街の警備はギルに一任し、マーリナスは数人の兵を伴ってアジトを出た先の通路に向かって足を進める。
モーリッシュがアジトを出てアレクを探していたこと考えると、バロンとの取り引きに向かう最中に何かあったのではないかとマーリナスは予想していた。
ならば、バロンのアジトもここからそれほど遠い場所ではないはずだ。
捜索班を何班かに分けて相変わらず枝道の多い通路をひとつずつ当たり、奥へと進んでいく。
バロンの屋敷内地下牢から探索を開始してはや二日。アレクと別れてから三日が経過した。
アレクが呪いの代償を身に受けていなければ、もしかしたら今頃は……
そんな恐怖がマーリナスの胸に襲いかかる。だが諦めるわけにはいかない。どうか無事でいてくれと切に願いながら自分を鼓舞し、歩みを進める。
ベローズ王国警備隊の協力もあり、バロンの屋敷から伸びた捜索の手はそろそろこちら側に届く頃だ。おそらく合流も近いだろう。
となれば両側の出入り口を封鎖され追い詰められたバロンやベインを見つけだすのは時間の問題だ。
モーリッシュはベインが隠し金庫にアレクを隠した可能性が高いといっていたが、あれは本当だろうか。そんな考えがマーリナスのあたまをよぎる。
いや、あれは隠し通路で逃亡を図るための苦し紛れの戯言だ。
だが、その後見つかったバロンのアジト内にもやはり本人どころかアレクの姿は見当たらず、その報告を受けたマーリナスは考えを改めなければならなかった。
各所で見つかった金庫は一応中も確認してはいたが、数も多くアレクの捜索を優先していたため、鍵のかかった金庫は後回しにしていたし、通りすがら見つけた金庫には印すら残してこなかった。万が一、その中にアレクがいたら。
いまさら後悔しても遅いが、マーリナスは同行していた兵に新たに指示をだした。
「遺跡内の金庫にアレクが囚われている可能性がある。ギル殿と捜索班にできるだけ早くその旨を伝えてくれ」
そう伝達を頼み、去りゆく背中を見送って再びマーリナスが歩みを進めたときだった。
松明の灯りが届かぬ暗闇の先から、はあはあという息づかいが反響して耳に届いたのである。
マーリナスはすっと目を細めて闇の奥を見据え、携えた警棒に静かに手を添えて立ち止まった。
ちらちらと闇の中から灯りがもれる。
それは次第に近づきながら光量を増してゆき、暗闇を明るく照らした。
そしてそこに現れたのは――
「バロンッ!!」
松明の灯りに照らされて、太った体にちりばめられた宝飾品が輝きを反射する。その中でぎらりと光った紫色の視線に向かってマーリナスは地を蹴った。
「こんなところで子供がひとりでいては危険だ。わたしと一緒にここを出るんだ。さあ!」
地下遺跡の一角でそんな押し問答を繰り広げていたのは、ケルトとスタローン王国警備兵だ。ケルトも逃げ足は速い方であったが、毎日鍛錬を積んでいる兵とその体力は比べものにならず、あっさりと腕をつかまれてしまった。
「嫌だっ! 放せっ、この馬鹿力!」
必死に手をふりほどこうと暴れるケルトに兵は大きなため息をつくと、ひょいとケルトを抱えて肩に担ぎあげた。
「はいはい。冒険ごっこでもしたかったのか? だがいまはだめだ。危険な奴がひそんでいるからな」
「違う! そんなんじゃ……!」
ケルトを担ぎあげた兵はケルトの叫びには耳を貸さず、くるりときびすを返し地上へ続く階段へと向かって歩き始めた。
その肩の上で顔を真っ赤にして叫びながら、ケルトは遠のく通路を涙ぐんで見つめる。通路の中には青白い発光が筋を描きうっすらと光って見えていた。
それは追尾魔法の痕跡であり、アレクが通った道筋を指し示すものだった。
追尾魔法は半径五百メートル以内でしか探知できない。
モーリッシュのアジトを抜けて、すぐさま周囲に魔法の痕跡がないか探してみたが、残念なことに見つけることはできなかった。
それで、あてもなく暗闇の中を壁伝いにウロウロしていたところで警備隊と遭遇してしまったケルトだったのだが、警備隊から逃げた先でやっとその痕跡をとらえることに成功していたのだ。
けれどアレクの現状を知らず居場所を警備隊に教えたくなかったケルトは、愚かにも魔法の痕跡の話をしなかった。
泣く泣く地下街へと強制的に連れ戻されたケルトはベローズ王国警備隊の元へと引き渡され、規律違反で身柄を拘束されてしまったのである。
それとほぼ時を同じくして。
地下街マンホールからモーリッシュのアジトへ向かってまっすぐに伸びた階段を下り、マーリナスはアジト内を捜索する警備兵に目をやる。
モーリッシュのアジトには部屋が五つあり、その中で貯蔵庫らしき部屋にはモーリッシュの仲間とみられる男の死体を発見した。うち一か所には傍仕えの者が数人怯えたように身をひそめており、その身柄も確保。
モーリッシュの確保が公になったことにより、地上で待機していたギルを含めベローズ王国警備隊も大手を振って地下街へと乗り込んだ。
アジト内のキッチンにあった抜け穴は一方通行であり、あれは緊急用の逃走ルートだったと判明。そこから元の場所に戻ることはできない。
モーリッシュのアジトや地下街の警備はギルに一任し、マーリナスは数人の兵を伴ってアジトを出た先の通路に向かって足を進める。
モーリッシュがアジトを出てアレクを探していたこと考えると、バロンとの取り引きに向かう最中に何かあったのではないかとマーリナスは予想していた。
ならば、バロンのアジトもここからそれほど遠い場所ではないはずだ。
捜索班を何班かに分けて相変わらず枝道の多い通路をひとつずつ当たり、奥へと進んでいく。
バロンの屋敷内地下牢から探索を開始してはや二日。アレクと別れてから三日が経過した。
アレクが呪いの代償を身に受けていなければ、もしかしたら今頃は……
そんな恐怖がマーリナスの胸に襲いかかる。だが諦めるわけにはいかない。どうか無事でいてくれと切に願いながら自分を鼓舞し、歩みを進める。
ベローズ王国警備隊の協力もあり、バロンの屋敷から伸びた捜索の手はそろそろこちら側に届く頃だ。おそらく合流も近いだろう。
となれば両側の出入り口を封鎖され追い詰められたバロンやベインを見つけだすのは時間の問題だ。
モーリッシュはベインが隠し金庫にアレクを隠した可能性が高いといっていたが、あれは本当だろうか。そんな考えがマーリナスのあたまをよぎる。
いや、あれは隠し通路で逃亡を図るための苦し紛れの戯言だ。
だが、その後見つかったバロンのアジト内にもやはり本人どころかアレクの姿は見当たらず、その報告を受けたマーリナスは考えを改めなければならなかった。
各所で見つかった金庫は一応中も確認してはいたが、数も多くアレクの捜索を優先していたため、鍵のかかった金庫は後回しにしていたし、通りすがら見つけた金庫には印すら残してこなかった。万が一、その中にアレクがいたら。
いまさら後悔しても遅いが、マーリナスは同行していた兵に新たに指示をだした。
「遺跡内の金庫にアレクが囚われている可能性がある。ギル殿と捜索班にできるだけ早くその旨を伝えてくれ」
そう伝達を頼み、去りゆく背中を見送って再びマーリナスが歩みを進めたときだった。
松明の灯りが届かぬ暗闇の先から、はあはあという息づかいが反響して耳に届いたのである。
マーリナスはすっと目を細めて闇の奥を見据え、携えた警棒に静かに手を添えて立ち止まった。
ちらちらと闇の中から灯りがもれる。
それは次第に近づきながら光量を増してゆき、暗闇を明るく照らした。
そしてそこに現れたのは――
「バロンッ!!」
松明の灯りに照らされて、太った体にちりばめられた宝飾品が輝きを反射する。その中でぎらりと光った紫色の視線に向かってマーリナスは地を蹴った。
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