5 / 8
5忍
しおりを挟む
「おはようございます、服部さん」
「おはようございます、財前さん」
幸之助様の登校を見守った後、教室で自分の席に座れば何故かマドンナ財前が大きな目でこちらを見ていた。そればかりか挨拶までされてしまった。本当に育ちがよろしいようで。
「今日は碧真はお休みですの」
「そうみたいですね」
仕事に穴を開けるなんて、碧真らしくない。
「今朝、碧真のお父様と喧嘩になったんですの。それで、碧真は肋骨を折られて全身打ち身だらけにされましたの」
本当に碧真らしくない。
「いくら忍者と言っても、大型トラックで轢きまわすなんて.......わたくしが今日の護衛はいらないと言ったばかりに、可愛そうなことをしてしまいましたわ」
「あ、お気の毒です」
さすがの碧真でも1トンを超える鉄の塊が猛スピードで迫ってきたら負ける。むしろ肋骨程度で済んだのが奇跡だ。
「では、さっそく本題に入らせていただきますわ!」
「本題じゃなかったんですね大型トラック」
「服部さん、あなた碧真のなんなんですの?」
「幼なじみです。あと同業者」
「碧真ったらいっつも暁暁暁、うるさいんですの。それで私の気持ちには、全然答えてくれないんですのよ? これでもわたくし、落ち込んでるんですの。パーティの日も、何かと理由をつけて私の隣から離れようとしてるんですもの」
「財前さん」
伏せられた大きな目。シミ一つない白い肌。柔らかくウェーブを描く髪。その全てが、美しいと可愛らしいという言葉のためだけに存在するかのような、可憐なご令嬢。
碧真の、どタイプ。
「碧真は、とってもウブで奥手なんです。財前さんのように魅力的な女性との距離の詰め方が、分からないんですよ」
「な、なんですって!?」
「私に言わせてもらえば.......あと、2回。あと2回のボディタッチで、奴は落ちます」
「なな、なんですって!?」
「公園に落ちてるエロ本を遠目で見て真っ赤になるようなやつです。いつも財前さんの顔なんてまともに見ることもできてないんですよ」
「ななな、なんですって!?」
マドンナ財前は、驚愕の姿勢のまま固まっている。ふと視線を感じれば、幸之助様がにっこり笑ってこちらを見ていた。首を少し傾げた拍子に流れたサラサラの茶髪に、こう、ずきゅん、ときた。好き。
「.......は、服部さん。わたくし、あなたのこと誤解してましたわ。お詫びに、西園寺幸之助の情報をお渡しします」
「なっ!?」
思わず席を立って臨戦態勢になるところだったのを、寸前で堪える。天井裏から、明らかな殺気を感じる。おそらく、碧真のお父さんだろう。
「幸之助様の情報とは、一体なんですか?」
「彼、ショートカットの女性が好きらしいですわ」
じゃき、と。
机から取り出したハサミを握り、引っ掴んだ自分の髪の毛を挟んだ。
「お待ちになってー!?」
何故か近くにいたクラスメイトに取り押さえられ、私の髪は長いまま。本来こんなお坊ちゃま達の甘々拘束など屁でもないが、ここで目立つのはまずい。既に目立っているからだ。忍べ私。
「.......暁」
少し目を丸くした幸之助様が、そっと駆け寄ってきた。その動作すらも穏やかで、とても心惹かれる。
「僕は、君の髪が好きだよ」
「.......はい」
もう一生切らない。
「それにね」
耳元に、口を寄せられて。甘く、穏やかな声が、耳を震わせる。
顔が熱い。心臓が飛び出しそうだ。だって口の中に血の味がする。
ざわつきつつも、私の拘束は解かれ野次馬達は散っていった。
「僕は、君だから好きなんだよ。どんな時でも君の見た目が、僕のタイプなんだ」
「.......はい.......!」
息が苦しい。目を開けていられなくて、ぎゅっと瞑った。すると、ふわりと幸之助様の匂いがした。
それからずっと、謎の頭痛、呼吸苦、発汗、動機の症状に悩まされ続け、幸之助様との帰り道で。
「結局、服部さんは西園寺幸之助とお付き合いしてらっしゃいますの?」
「.......」
息は止まるし心臓はおかしなリズムを刻むし顔は熱すぎて痛いぐらいだった。何故か幸之助様の下校に着いてきていたマドンナ財前が、あらまぁ、とその可憐な目を丸くする。
「.......思っていたより可愛らしい方ですのね、服部さん」
「暁は可愛いらしいね」
涙まで出てきた。
「でも、お二人がこんなに上手くいってらっしゃるのなら、私も心置き無く碧真を手に入れられますわ!」
「財前さんは、望月くんをとても大切に思っているんだね。素敵な関係だ」
「な、なんですの急に! 西園寺幸之助にしては良いこと言うじゃありませんの! そうですのよ、私はこれからも碧真とずっと一緒にいるんですの!」
ずっと、か。
碧真は本業で忍者をやる気があるのだろうか。私は別に好きなようにすればいいと思う。忍者の仕事は諜報暗殺破壊工作と、綺麗な仕事の方が少ないのだから、あの弱虫碧真が嫌になるのも仕方ない。
だったら、この人間離れした可憐なマドンナの隣で、ゆっくり過ごした方が。
幸せそうな2人を想像して、きゅ、と喉が締まった。
「暁」
小声で、幸之助様が話しかけてきた。どきん、と胸が跳ねて耳に血が集まる。
「.......僕も、君とずっと一緒に居たいと思っているよ」
あ、碧真とかどうでもいい。結婚式ぐらいは呼んでくれ。そろそろ私も弟離れだ。じゃあな、マドンナの隣で幸せに。私も幸之助様のお傍で忍んでおくから。
「服部さん、もしお暇でしたら今夜電話して下さらない?」
「? はい」
「では、ごきげんよう」
マドンナ財前と別れ、夜中の忍者の仕事を早倒しにして、電柱の上でマドンナからの電話に出た。
「もしもし? 服部さんですの?」
「はい、財前さん。こんばんは」
それから、約5時間。
初めはマドンナ財前の恋バナを聞くだけだったのが、段々と私の恋愛相談が始まり、最後の方にはお互い興奮しながら電話にかじりついていた。
「.......」
ぴ、と通話を切って、電柱から飛び降りて。
「んふふ」
やっぱり、女子とする恋バナが1番楽しい。
「おはようございます、財前さん」
幸之助様の登校を見守った後、教室で自分の席に座れば何故かマドンナ財前が大きな目でこちらを見ていた。そればかりか挨拶までされてしまった。本当に育ちがよろしいようで。
「今日は碧真はお休みですの」
「そうみたいですね」
仕事に穴を開けるなんて、碧真らしくない。
「今朝、碧真のお父様と喧嘩になったんですの。それで、碧真は肋骨を折られて全身打ち身だらけにされましたの」
本当に碧真らしくない。
「いくら忍者と言っても、大型トラックで轢きまわすなんて.......わたくしが今日の護衛はいらないと言ったばかりに、可愛そうなことをしてしまいましたわ」
「あ、お気の毒です」
さすがの碧真でも1トンを超える鉄の塊が猛スピードで迫ってきたら負ける。むしろ肋骨程度で済んだのが奇跡だ。
「では、さっそく本題に入らせていただきますわ!」
「本題じゃなかったんですね大型トラック」
「服部さん、あなた碧真のなんなんですの?」
「幼なじみです。あと同業者」
「碧真ったらいっつも暁暁暁、うるさいんですの。それで私の気持ちには、全然答えてくれないんですのよ? これでもわたくし、落ち込んでるんですの。パーティの日も、何かと理由をつけて私の隣から離れようとしてるんですもの」
「財前さん」
伏せられた大きな目。シミ一つない白い肌。柔らかくウェーブを描く髪。その全てが、美しいと可愛らしいという言葉のためだけに存在するかのような、可憐なご令嬢。
碧真の、どタイプ。
「碧真は、とってもウブで奥手なんです。財前さんのように魅力的な女性との距離の詰め方が、分からないんですよ」
「な、なんですって!?」
「私に言わせてもらえば.......あと、2回。あと2回のボディタッチで、奴は落ちます」
「なな、なんですって!?」
「公園に落ちてるエロ本を遠目で見て真っ赤になるようなやつです。いつも財前さんの顔なんてまともに見ることもできてないんですよ」
「ななな、なんですって!?」
マドンナ財前は、驚愕の姿勢のまま固まっている。ふと視線を感じれば、幸之助様がにっこり笑ってこちらを見ていた。首を少し傾げた拍子に流れたサラサラの茶髪に、こう、ずきゅん、ときた。好き。
「.......は、服部さん。わたくし、あなたのこと誤解してましたわ。お詫びに、西園寺幸之助の情報をお渡しします」
「なっ!?」
思わず席を立って臨戦態勢になるところだったのを、寸前で堪える。天井裏から、明らかな殺気を感じる。おそらく、碧真のお父さんだろう。
「幸之助様の情報とは、一体なんですか?」
「彼、ショートカットの女性が好きらしいですわ」
じゃき、と。
机から取り出したハサミを握り、引っ掴んだ自分の髪の毛を挟んだ。
「お待ちになってー!?」
何故か近くにいたクラスメイトに取り押さえられ、私の髪は長いまま。本来こんなお坊ちゃま達の甘々拘束など屁でもないが、ここで目立つのはまずい。既に目立っているからだ。忍べ私。
「.......暁」
少し目を丸くした幸之助様が、そっと駆け寄ってきた。その動作すらも穏やかで、とても心惹かれる。
「僕は、君の髪が好きだよ」
「.......はい」
もう一生切らない。
「それにね」
耳元に、口を寄せられて。甘く、穏やかな声が、耳を震わせる。
顔が熱い。心臓が飛び出しそうだ。だって口の中に血の味がする。
ざわつきつつも、私の拘束は解かれ野次馬達は散っていった。
「僕は、君だから好きなんだよ。どんな時でも君の見た目が、僕のタイプなんだ」
「.......はい.......!」
息が苦しい。目を開けていられなくて、ぎゅっと瞑った。すると、ふわりと幸之助様の匂いがした。
それからずっと、謎の頭痛、呼吸苦、発汗、動機の症状に悩まされ続け、幸之助様との帰り道で。
「結局、服部さんは西園寺幸之助とお付き合いしてらっしゃいますの?」
「.......」
息は止まるし心臓はおかしなリズムを刻むし顔は熱すぎて痛いぐらいだった。何故か幸之助様の下校に着いてきていたマドンナ財前が、あらまぁ、とその可憐な目を丸くする。
「.......思っていたより可愛らしい方ですのね、服部さん」
「暁は可愛いらしいね」
涙まで出てきた。
「でも、お二人がこんなに上手くいってらっしゃるのなら、私も心置き無く碧真を手に入れられますわ!」
「財前さんは、望月くんをとても大切に思っているんだね。素敵な関係だ」
「な、なんですの急に! 西園寺幸之助にしては良いこと言うじゃありませんの! そうですのよ、私はこれからも碧真とずっと一緒にいるんですの!」
ずっと、か。
碧真は本業で忍者をやる気があるのだろうか。私は別に好きなようにすればいいと思う。忍者の仕事は諜報暗殺破壊工作と、綺麗な仕事の方が少ないのだから、あの弱虫碧真が嫌になるのも仕方ない。
だったら、この人間離れした可憐なマドンナの隣で、ゆっくり過ごした方が。
幸せそうな2人を想像して、きゅ、と喉が締まった。
「暁」
小声で、幸之助様が話しかけてきた。どきん、と胸が跳ねて耳に血が集まる。
「.......僕も、君とずっと一緒に居たいと思っているよ」
あ、碧真とかどうでもいい。結婚式ぐらいは呼んでくれ。そろそろ私も弟離れだ。じゃあな、マドンナの隣で幸せに。私も幸之助様のお傍で忍んでおくから。
「服部さん、もしお暇でしたら今夜電話して下さらない?」
「? はい」
「では、ごきげんよう」
マドンナ財前と別れ、夜中の忍者の仕事を早倒しにして、電柱の上でマドンナからの電話に出た。
「もしもし? 服部さんですの?」
「はい、財前さん。こんばんは」
それから、約5時間。
初めはマドンナ財前の恋バナを聞くだけだったのが、段々と私の恋愛相談が始まり、最後の方にはお互い興奮しながら電話にかじりついていた。
「.......」
ぴ、と通話を切って、電柱から飛び降りて。
「んふふ」
やっぱり、女子とする恋バナが1番楽しい。
0
あなたにおすすめの小説
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
※AI不使用です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる