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6忍
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大きな屋敷の一角。
私に与えられたスペースの中で、ここ数日で集めた情報を整理していた。
まず、明日に迫った財前家令嬢、財前万理華の誕生日パーティ。
会場は都内某ホテルの大ホール、主催者が押さえた部屋は最上階のスウィートルームと他2部屋。
出席者でめぼしい人物は、ご令嬢の父上、日本の支配者財前家当主。これまた日本の支配者である我が主のご子息、西園寺幸之助様。あとは支配された会社の社長と支配された政治家ぐらいだ。大したものは居ない。
しかし、碧真が気をつけろと言った。拳銃までよこした。絶対に、何かある。
ホテルの宿泊者名簿にめぼしい名前はなし。
ホテルのスタッフにめぼしい名前はなし。おかしな宗教関連の人物なし。
近くのホテルにも怪しい人物なし。
近くの屋上、廃ビルに狙撃ポイントはなし。
ダメだ、何も見つからない。時間も人手も足りていないのが、如実に現れてしまっていた。
今回のパーティへの同行は、本業として幸之助様の父上に頼まれた仕事ではない。どちらかと言うと、高校生アルバイトの延長だ。西園寺家のバックがないこれ以上の調査は不可能だと、即座に判断する。
ならば、あとはできる限りの準備と覚悟を。
私は、忍者である。主のために忍び尽くす、影である。
忍べ、私。
◆◇◆◇
パーティ当日。
幸之助様の穏やかな笑顔とタキシード姿を見て、また動悸と発汗が止まらなくなった。本当にまずい。忍べ私。
「暁、今日のドレスとても良く似合ってるよ。可愛らしいね」
「.......ありがとう、ございます」
自分のライトグリーンのドレスを握りしめた。今日これにして良かった。これにして良かった。この下に色々物騒なもの隠してるけど、このドレスにして良かった。もう、絶対このブランドのドレスしか買わない。
「行こうか、暁」
「.......はい」
とても自然に差し出された腕を、そっと取る。謎の動悸は激しさを増し、また口の中に血の味がしてきた。忍べ忍べ忍べ。
「暁」
「はい」
「ずっと僕の隣にいてね」
「もちろんでございます、幸之助様」
ずっと。
その言葉は、酷く魅力的だ。ずっとなど存在し得ないからこそ、たまらなく愛おしく感じる。
人は死ぬ。
ある日突然、修学旅行から帰ってきたら家が血の海になっている事もある。家族全員、ペットまで遺体すら見れたものでは無い状態になっていることもある。名も知らぬ親戚に至るまで、気がついた時には全て死んでいることだって、あるのだ。
だから、現実にずっとが有り得ないのであれば、せめて。せめて、言葉の上だけでも。
「すごいね暁。さすが財前家のご令嬢のパーティだ、僕の時と比べてしまうね」
煌びやかなホテルに、厳重な警備。招待客の全てが「上等」な服を着ていた。
「.......幸之助様は、穏やかにお過ごしになるのがお好きですから。.......そ、それに。私は、幸之助様との、誕生日の方が、好み、でした」
「ふふ、ありがとう、暁。暁は可愛らしいね」
動悸が。動悸が止まらない。本当に息が苦しい。丸2日水団の術の練習として池の中で忍んでいた時より苦しい。
「あら! ようこそいらっしゃいましたわ、西園寺幸之助に服部さん!」
現れたマドンナ財前を見て心を落ち着かせる。ドレスと化粧をしたマドンナはお人形さんのように可愛らしいが、むしろ逆に冷静になれる。
「な、なにか失礼なことを考えてらっしゃらない!? 服部さん!」
「ご機嫌麗しゅう、マドンナ財前」
「マドンナ!?」
あ、まずいミスった。
「お誕生日おめでとうございます、財前さん。本日は私までお招きいただき、誠にありがとうございます」
「い、いいんですのよ! わ、わたくし達、お友達じゃありませんの!」
「へ?」
「さ、さあ! 楽しんでいらして!」
押されるようにして入った会場で、立食形式の食事を楽しむ。幸之助様が隣にいるので、いつもの10分の1も食べられなかった。でも、どうしよう。食べすぎだと思われたらどうしよう。
「暁の食べる姿は可愛らしいね」
もう色々どうでもいい。今世界が終わっても、私に悔いはない。
ふと視線を感じれば、柱の影に碧真がいた。きっちり燕尾服を着て、前髪をあげている。あの瓶底メガネも無い。つまり相当キマッているのだから、もっと明るいところに出ればいいのに。なんだか顔色も悪く見えるし、大丈夫だろうか。
―――大丈夫なわけあるかちんちくりん
口パクでこちらに向かって話しかけてきた。
―――2トントラックに轢かれたんだぞ
なんで生きてんだ、モンスターか。
―――警戒しとけ。静かすぎる
身体中に仕込んだ武器を確認した。それから、ゆっくりと周りを見ていく。異常は無い。無さすぎると言ってもいい。不自然にならないよう、幸之助様に半歩近づく。何も起きない。
確かに、財前家当主が来るにしては静か過ぎないだろうか。
「お父様っ!」
「おお、万理華。いいドレスだな、似合ってるよ」
「はいっ!」
マドンナ財前は、本当に花のように笑った。これは碧真も落ちるよ。
「ああ、ちょっと、いいかな?」
財前当主が、マイクのある壇上に上がった。
何が、始まる?
「本日は、我が娘万理華の誕生日パーティにお越しいただき、本当に感謝いたします。末の娘もここまで大きくなったと思うと、私も胸に来るものがあります」
当たり障りのない言葉。はにかむマドンナの肩を抱き、堂々と声を張る。
「えー、本日お集まりいただいた皆様は、皆私の近しい人達であります」
それはそうだ。娘の誕生日パーティに呼ぶくらいの仲なのだから。
「ですので、皆様に1番にお伝えしたいことがございます」
何故か、訳のわかっていない顔をするマドンナが係の人に連れられて退出した。
残ったのは、財前当主。財前当主と近しい大物達。そして、目を見開き硬直した碧真。
最後に、財前家と対をなす、西園寺家の一人息子とその護衛1匹。
しまった、嵌められた。まさか、まさか。
「我が財前家は、正式に西園寺家を仇敵と見なします」
まさか、財前家が、正面から西園寺家と戦争をやる気だなんて。
私に与えられたスペースの中で、ここ数日で集めた情報を整理していた。
まず、明日に迫った財前家令嬢、財前万理華の誕生日パーティ。
会場は都内某ホテルの大ホール、主催者が押さえた部屋は最上階のスウィートルームと他2部屋。
出席者でめぼしい人物は、ご令嬢の父上、日本の支配者財前家当主。これまた日本の支配者である我が主のご子息、西園寺幸之助様。あとは支配された会社の社長と支配された政治家ぐらいだ。大したものは居ない。
しかし、碧真が気をつけろと言った。拳銃までよこした。絶対に、何かある。
ホテルの宿泊者名簿にめぼしい名前はなし。
ホテルのスタッフにめぼしい名前はなし。おかしな宗教関連の人物なし。
近くのホテルにも怪しい人物なし。
近くの屋上、廃ビルに狙撃ポイントはなし。
ダメだ、何も見つからない。時間も人手も足りていないのが、如実に現れてしまっていた。
今回のパーティへの同行は、本業として幸之助様の父上に頼まれた仕事ではない。どちらかと言うと、高校生アルバイトの延長だ。西園寺家のバックがないこれ以上の調査は不可能だと、即座に判断する。
ならば、あとはできる限りの準備と覚悟を。
私は、忍者である。主のために忍び尽くす、影である。
忍べ、私。
◆◇◆◇
パーティ当日。
幸之助様の穏やかな笑顔とタキシード姿を見て、また動悸と発汗が止まらなくなった。本当にまずい。忍べ私。
「暁、今日のドレスとても良く似合ってるよ。可愛らしいね」
「.......ありがとう、ございます」
自分のライトグリーンのドレスを握りしめた。今日これにして良かった。これにして良かった。この下に色々物騒なもの隠してるけど、このドレスにして良かった。もう、絶対このブランドのドレスしか買わない。
「行こうか、暁」
「.......はい」
とても自然に差し出された腕を、そっと取る。謎の動悸は激しさを増し、また口の中に血の味がしてきた。忍べ忍べ忍べ。
「暁」
「はい」
「ずっと僕の隣にいてね」
「もちろんでございます、幸之助様」
ずっと。
その言葉は、酷く魅力的だ。ずっとなど存在し得ないからこそ、たまらなく愛おしく感じる。
人は死ぬ。
ある日突然、修学旅行から帰ってきたら家が血の海になっている事もある。家族全員、ペットまで遺体すら見れたものでは無い状態になっていることもある。名も知らぬ親戚に至るまで、気がついた時には全て死んでいることだって、あるのだ。
だから、現実にずっとが有り得ないのであれば、せめて。せめて、言葉の上だけでも。
「すごいね暁。さすが財前家のご令嬢のパーティだ、僕の時と比べてしまうね」
煌びやかなホテルに、厳重な警備。招待客の全てが「上等」な服を着ていた。
「.......幸之助様は、穏やかにお過ごしになるのがお好きですから。.......そ、それに。私は、幸之助様との、誕生日の方が、好み、でした」
「ふふ、ありがとう、暁。暁は可愛らしいね」
動悸が。動悸が止まらない。本当に息が苦しい。丸2日水団の術の練習として池の中で忍んでいた時より苦しい。
「あら! ようこそいらっしゃいましたわ、西園寺幸之助に服部さん!」
現れたマドンナ財前を見て心を落ち着かせる。ドレスと化粧をしたマドンナはお人形さんのように可愛らしいが、むしろ逆に冷静になれる。
「な、なにか失礼なことを考えてらっしゃらない!? 服部さん!」
「ご機嫌麗しゅう、マドンナ財前」
「マドンナ!?」
あ、まずいミスった。
「お誕生日おめでとうございます、財前さん。本日は私までお招きいただき、誠にありがとうございます」
「い、いいんですのよ! わ、わたくし達、お友達じゃありませんの!」
「へ?」
「さ、さあ! 楽しんでいらして!」
押されるようにして入った会場で、立食形式の食事を楽しむ。幸之助様が隣にいるので、いつもの10分の1も食べられなかった。でも、どうしよう。食べすぎだと思われたらどうしよう。
「暁の食べる姿は可愛らしいね」
もう色々どうでもいい。今世界が終わっても、私に悔いはない。
ふと視線を感じれば、柱の影に碧真がいた。きっちり燕尾服を着て、前髪をあげている。あの瓶底メガネも無い。つまり相当キマッているのだから、もっと明るいところに出ればいいのに。なんだか顔色も悪く見えるし、大丈夫だろうか。
―――大丈夫なわけあるかちんちくりん
口パクでこちらに向かって話しかけてきた。
―――2トントラックに轢かれたんだぞ
なんで生きてんだ、モンスターか。
―――警戒しとけ。静かすぎる
身体中に仕込んだ武器を確認した。それから、ゆっくりと周りを見ていく。異常は無い。無さすぎると言ってもいい。不自然にならないよう、幸之助様に半歩近づく。何も起きない。
確かに、財前家当主が来るにしては静か過ぎないだろうか。
「お父様っ!」
「おお、万理華。いいドレスだな、似合ってるよ」
「はいっ!」
マドンナ財前は、本当に花のように笑った。これは碧真も落ちるよ。
「ああ、ちょっと、いいかな?」
財前当主が、マイクのある壇上に上がった。
何が、始まる?
「本日は、我が娘万理華の誕生日パーティにお越しいただき、本当に感謝いたします。末の娘もここまで大きくなったと思うと、私も胸に来るものがあります」
当たり障りのない言葉。はにかむマドンナの肩を抱き、堂々と声を張る。
「えー、本日お集まりいただいた皆様は、皆私の近しい人達であります」
それはそうだ。娘の誕生日パーティに呼ぶくらいの仲なのだから。
「ですので、皆様に1番にお伝えしたいことがございます」
何故か、訳のわかっていない顔をするマドンナが係の人に連れられて退出した。
残ったのは、財前当主。財前当主と近しい大物達。そして、目を見開き硬直した碧真。
最後に、財前家と対をなす、西園寺家の一人息子とその護衛1匹。
しまった、嵌められた。まさか、まさか。
「我が財前家は、正式に西園寺家を仇敵と見なします」
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