11 / 15
11拾い
しおりを挟む
最近景気が悪い。
「やあアリッサ、またおすすめを詰めてくれないか?」
このチョビ髭軍人が店に落とすお金は日々増えているが、その他は寂しいものだった。
ルノにコートを買った日から1ヶ月ほど経ち、真冬も通り過ぎた頃。ルノが雪かきに駆り出される回数も減ってきたというのに、この街の雰囲気は悪くなる一方だった。理由は簡単で、隣国が不安定なのだ。戦勝国だというのに、内部でいざこざがあるとかなんとかで、今までのようにこちらまで物が入ってこなくなってきていた。
「拾い主さん、大丈夫?」
ソファでぼうっとしていたら、コートを着たルノが帰ってきた。今日も大家さんにこき使われたのか。
あの告白から、ちょっとは距離が近づくかなと思ったのに、ルノは相変わらずだった。せめて名前で呼んでほしい。
「.......あーあ。うちの店、今月ちょっと危ないのよ。どうにかならないかしら」
「!」
ルノがだっと走って裏紙とペンを持って私の前の床に座った。それでもコートは床につかないように脱いで、ちょっと得意そうな顔で私を見上げている。ちなみに2号はソファの上でぐうすか寝ていた。なんだか1号の方が犬らしい。
「どうしたのルノ、似顔絵でも描いてくれるの?」
「.......お店の状況を教えてくれる?」
へら、と笑って、似顔絵はまた今度頑張るよ、とペンを握ったルノに。
「あら、本当に何とかしてくれるつもりなの?」
「できる限りはね」
「ふふ、じゃあ今月の売り上げが足りないのと、小麦が高いのと.......」
なんだか張り切っているルノが可愛くて、勤め先の状況を伝えた。別に本当に何かを期待していた訳では無いが、ルノが自分から何かをするのが珍しくて、ペラペラと話してしまった。
「うん、細かい数字は想像だけど」
ペラりと渡された紙には、びっしりと角張った文字が並んでいた。うっ、脳が読むことを拒否している。私は読み書きが苦手なのだ。
「まず、小麦の入手ルートをね」
澄んだ瞳を輝かせ、数字や文字を指しながらルノが話す。売り上げと生産がどうたら、中間コストがどうたら、と止まることなく話しているルノは、なんだか生き生きしていた。
「.......ルノは、お店をやってたの?」
「え?」
言ってから、しまったと思った。ルノに過去のことを聞くまいとしていたのに、あまりに楽しそうだったのでつい聞いてしまった。
ルノが出ていってしまってら、どうしよう。
「あはは、やってないよー」
思いのほか軽い返事が返ってきた。ほっとする。
その後も特段変わったこともなく、ルノはご飯を食べて寝た。
次の日、パン屋の主人にルノが書いた紙を見せれば、確かに、と言いながら奥に消えていった。それから、帳簿を見たのかと問われる。
「見てません。それに私、学がないので見ても分かりません」
「.......この数字、ほとんど帳簿と合ってるんだ。プロに相談でもしたか? この街にそんな奴いたかな.......」
お礼にと1番お高いパンを貰った。
そしてなんと月末ギリギリに、今月はダメだと思われた利益がなんとかノルマに乗った。
「ルノ! ルノすごい! 今月大丈夫だった!」
「よかったぁ」
大家さん自慢のラジオを修理していたルノに、2号と一緒に飛びつく。見ていた大家さんがちょっと慌てた。それでもルノは部品を落とすことなく、手を止めることすらなくガチャガチャとラジオを組み立てていく。手際が良すぎる。
「はい、出来ました大家さん」
「本当か! 良かった良かった、いやぁ、お前本当に器用だなぁ! 前は電気屋でもしてたんじゃねえのか?」
「あはは、してないですー」
ルノは、やっぱりなんでもないようにそう言った。ちょっとでも心の傷が癒えたのならいいな、と思いながら、3人でご飯を食べた。
そして。
その三日後、ルノが消えた。
「やあアリッサ、またおすすめを詰めてくれないか?」
このチョビ髭軍人が店に落とすお金は日々増えているが、その他は寂しいものだった。
ルノにコートを買った日から1ヶ月ほど経ち、真冬も通り過ぎた頃。ルノが雪かきに駆り出される回数も減ってきたというのに、この街の雰囲気は悪くなる一方だった。理由は簡単で、隣国が不安定なのだ。戦勝国だというのに、内部でいざこざがあるとかなんとかで、今までのようにこちらまで物が入ってこなくなってきていた。
「拾い主さん、大丈夫?」
ソファでぼうっとしていたら、コートを着たルノが帰ってきた。今日も大家さんにこき使われたのか。
あの告白から、ちょっとは距離が近づくかなと思ったのに、ルノは相変わらずだった。せめて名前で呼んでほしい。
「.......あーあ。うちの店、今月ちょっと危ないのよ。どうにかならないかしら」
「!」
ルノがだっと走って裏紙とペンを持って私の前の床に座った。それでもコートは床につかないように脱いで、ちょっと得意そうな顔で私を見上げている。ちなみに2号はソファの上でぐうすか寝ていた。なんだか1号の方が犬らしい。
「どうしたのルノ、似顔絵でも描いてくれるの?」
「.......お店の状況を教えてくれる?」
へら、と笑って、似顔絵はまた今度頑張るよ、とペンを握ったルノに。
「あら、本当に何とかしてくれるつもりなの?」
「できる限りはね」
「ふふ、じゃあ今月の売り上げが足りないのと、小麦が高いのと.......」
なんだか張り切っているルノが可愛くて、勤め先の状況を伝えた。別に本当に何かを期待していた訳では無いが、ルノが自分から何かをするのが珍しくて、ペラペラと話してしまった。
「うん、細かい数字は想像だけど」
ペラりと渡された紙には、びっしりと角張った文字が並んでいた。うっ、脳が読むことを拒否している。私は読み書きが苦手なのだ。
「まず、小麦の入手ルートをね」
澄んだ瞳を輝かせ、数字や文字を指しながらルノが話す。売り上げと生産がどうたら、中間コストがどうたら、と止まることなく話しているルノは、なんだか生き生きしていた。
「.......ルノは、お店をやってたの?」
「え?」
言ってから、しまったと思った。ルノに過去のことを聞くまいとしていたのに、あまりに楽しそうだったのでつい聞いてしまった。
ルノが出ていってしまってら、どうしよう。
「あはは、やってないよー」
思いのほか軽い返事が返ってきた。ほっとする。
その後も特段変わったこともなく、ルノはご飯を食べて寝た。
次の日、パン屋の主人にルノが書いた紙を見せれば、確かに、と言いながら奥に消えていった。それから、帳簿を見たのかと問われる。
「見てません。それに私、学がないので見ても分かりません」
「.......この数字、ほとんど帳簿と合ってるんだ。プロに相談でもしたか? この街にそんな奴いたかな.......」
お礼にと1番お高いパンを貰った。
そしてなんと月末ギリギリに、今月はダメだと思われた利益がなんとかノルマに乗った。
「ルノ! ルノすごい! 今月大丈夫だった!」
「よかったぁ」
大家さん自慢のラジオを修理していたルノに、2号と一緒に飛びつく。見ていた大家さんがちょっと慌てた。それでもルノは部品を落とすことなく、手を止めることすらなくガチャガチャとラジオを組み立てていく。手際が良すぎる。
「はい、出来ました大家さん」
「本当か! 良かった良かった、いやぁ、お前本当に器用だなぁ! 前は電気屋でもしてたんじゃねえのか?」
「あはは、してないですー」
ルノは、やっぱりなんでもないようにそう言った。ちょっとでも心の傷が癒えたのならいいな、と思いながら、3人でご飯を食べた。
そして。
その三日後、ルノが消えた。
0
あなたにおすすめの小説
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる