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3 婚約破棄宣言後の兄妹相談
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「困りましたね」
「そうだねぇ、困ったねぇ」
家で兄と二人きりのお茶会である。
両親は既に駆けずり回り善後策を練っているようである。
その内容もある程度形ができれば私たちもわかるだろうが、現状は情報が少なかった。
久しぶりに手作りをしたスコーンを二人でつまみながら、さて、今後はどうしようかと悩む。
年始のパーティでの騒動は様々な波紋を投げかけた。
まず、公家と皇家の水面下での婚約解消交渉をすべてダメにした。
穏当に婚約を解消し、穏当に済ませるための交渉だったのだ。
あのような婚約破棄を公で叫ばれてしまえば、交渉がとん挫するのは当然だった。
ひとまず皇太子をコテンパンにけなしたうえに、決闘で打ち負かしたのだから、このままいけば我が公家の家名は問題はないが、そうすると今度は皇帝側の名誉の問題が出てくる。
上手い落としどころはなく、皇帝側がどのような選択肢をとっても遺恨が残る状況だ。
「ひとまず皇帝陛下はどういう対応を取られますかね?」
「一番無難な落としどころは廃嫡だが……」
「陛下の子は皇太子だけですよね?」
「そうだな。しかも今の皇帝は血筋が細い。次代は下手すると別の家、別の皇朝になるかもしれない」
一番手っ取り早い手は皇太子にすべての責任を押し付けて廃嫡にしてしまう方法だ。
こちらとの調整が必要だが、皇太子がすべて悪いとして消えてしまえば、案外すんなりいくだろう。
しかし今回に関しては問題が多い。
皇太子は皇帝の一人息子である。他に子はおらず、皇帝も一人っ子だったので甥や姪などの近い血族もいない。
次代を立てるとなるとかなり遠い、他家になっている血縁を連れてこなければならない。
そうなると選帝侯たちが果たしてそれを承認するか。
場合によっては全く別の家から皇帝が選出される可能性すらある。
今すぐの問題は回避できるが、未来が真っ暗である。
皇后陛下もかなりご高齢だからもう一人、というのも難しいだろう。
「そうすると無理して皇太子をかばいますか?」
「それはそれで大問題だろう。身内のパーティならまだしも、新年のパーティだぞ」
「ですよね」
あの婚約破棄宣言をなかったことにしてうやむやにする、という選択肢は難しい。
あの時帝国中の王侯貴族が集まっていた。
その様子を見ていた者が多すぎるのだ。しかも皇太子の頭がおかしい行動までばっちり見ている。
ここで皇太子をかばうのは皇帝の求心力を著しく落とすだろう。
次代への血筋は守れても、次代が皇帝に選出されるかわからないし、そもそも今代すら危うくなる。
さらに言えば、我がアデライト公家と確実に戦争になり、帝国内の内戦は免れない。
そんなへまを皇帝が打つのか疑問であった。
「で、どこまでやってる?」
「イグニス辺境伯夫人は親友ですので、そちらにはすでに茶会のお誘いをしています。ウルカ王にも連絡はしています。オーベル宮中伯令嬢も誘っていますからウルカ王も釣れるかと。お兄様は?」
「こっちは地場固めをしている。寄子の領主たちには今回の現状を説明する手紙は既に送付済みだ。離反するものは出ないだろう」
疑問でも対応は考えないといけなかった。
予想外のことなどいくらでも起きる。今回の皇太子のやらかしなど予想外過ぎた。
それに比べれば皇帝がこちらに敵対してくることなど予想できる範疇のことである。
ひとまず私は知り合いの貴族に手紙を送っている。皆帝都にいるので、3日後には茶会を開く予定である。
ここに誰が来るかで旗色が分かるだろう。知り合いも連れてきて構わない旨送っているので、どれだけ来るかに今後がかかっている。
この茶会にどれだけ来るか次第で皇帝への圧力にもなる。戦争になれば、こちらにつくという意思表示に近いからだ。なので私としても積極的に多方面に声をかけていた。
一方兄は寄子、当家の従属している領主たちに連絡をしていた様だ。私のしていることは派手だが、兄がしているような味方から離脱者を出さないことも非常に大事だ。
かなりの量の手紙を出しただろう。腱鞘炎が心配である。
皇帝が折れれば徒労に終わる可能性もあるが、徒労に終わればそれはそれで構わないのだ。
両親もそれなりに動いているだろうし、ひとまず対皇帝側はこんなところだろう。
「で、うちの家はどうしますか?」
「どうしますかって?」
「次期当主ですよ」
「マリアが次期アデライト公。私が夫でいいだろ」
「……」
「照れるなよ」
「照れてません」
「ほら、おにーさまだいすき、お嫁さんになるって言いなさい」
「言いません」
兄といっているが、兄との実際の血縁は又従兄弟であり、現アデライト公の子は私である。
ただ、私が皇太子妃に内定したため、兄が養子として当家に来たのだ。
もともと幼馴染であり、私の夫候補でもあったので、養子にするにもちょうどよかったという事情がある。
ちなみに「おにーさまだいすき」とか「お嫁さんになる」なんて言ったことはない。
まあ、気心知れているし、仲がいいか悪いかといえばかなりいい方だ。
私の婚約がなくなりこの家を継ぐポジションに戻るとなると、兄がどうしても浮いていしまうが、結婚すればすべてが丸く収まる。
「…… そんなに照れなくてもいいんじゃないか?」
「照れてません!」
「耳まで真っ赤だよ。かわいいなぁマリアは」
「可愛くありません!」
兄と結婚する。全くそんなことを考えてなかったが、確かに方針としてはベストだろう。だが、それを考えてから顔がとても熱い。
ごまかすようにお茶を飲んだら、舌を火傷してしまった。
「そうだねぇ、困ったねぇ」
家で兄と二人きりのお茶会である。
両親は既に駆けずり回り善後策を練っているようである。
その内容もある程度形ができれば私たちもわかるだろうが、現状は情報が少なかった。
久しぶりに手作りをしたスコーンを二人でつまみながら、さて、今後はどうしようかと悩む。
年始のパーティでの騒動は様々な波紋を投げかけた。
まず、公家と皇家の水面下での婚約解消交渉をすべてダメにした。
穏当に婚約を解消し、穏当に済ませるための交渉だったのだ。
あのような婚約破棄を公で叫ばれてしまえば、交渉がとん挫するのは当然だった。
ひとまず皇太子をコテンパンにけなしたうえに、決闘で打ち負かしたのだから、このままいけば我が公家の家名は問題はないが、そうすると今度は皇帝側の名誉の問題が出てくる。
上手い落としどころはなく、皇帝側がどのような選択肢をとっても遺恨が残る状況だ。
「ひとまず皇帝陛下はどういう対応を取られますかね?」
「一番無難な落としどころは廃嫡だが……」
「陛下の子は皇太子だけですよね?」
「そうだな。しかも今の皇帝は血筋が細い。次代は下手すると別の家、別の皇朝になるかもしれない」
一番手っ取り早い手は皇太子にすべての責任を押し付けて廃嫡にしてしまう方法だ。
こちらとの調整が必要だが、皇太子がすべて悪いとして消えてしまえば、案外すんなりいくだろう。
しかし今回に関しては問題が多い。
皇太子は皇帝の一人息子である。他に子はおらず、皇帝も一人っ子だったので甥や姪などの近い血族もいない。
次代を立てるとなるとかなり遠い、他家になっている血縁を連れてこなければならない。
そうなると選帝侯たちが果たしてそれを承認するか。
場合によっては全く別の家から皇帝が選出される可能性すらある。
今すぐの問題は回避できるが、未来が真っ暗である。
皇后陛下もかなりご高齢だからもう一人、というのも難しいだろう。
「そうすると無理して皇太子をかばいますか?」
「それはそれで大問題だろう。身内のパーティならまだしも、新年のパーティだぞ」
「ですよね」
あの婚約破棄宣言をなかったことにしてうやむやにする、という選択肢は難しい。
あの時帝国中の王侯貴族が集まっていた。
その様子を見ていた者が多すぎるのだ。しかも皇太子の頭がおかしい行動までばっちり見ている。
ここで皇太子をかばうのは皇帝の求心力を著しく落とすだろう。
次代への血筋は守れても、次代が皇帝に選出されるかわからないし、そもそも今代すら危うくなる。
さらに言えば、我がアデライト公家と確実に戦争になり、帝国内の内戦は免れない。
そんなへまを皇帝が打つのか疑問であった。
「で、どこまでやってる?」
「イグニス辺境伯夫人は親友ですので、そちらにはすでに茶会のお誘いをしています。ウルカ王にも連絡はしています。オーベル宮中伯令嬢も誘っていますからウルカ王も釣れるかと。お兄様は?」
「こっちは地場固めをしている。寄子の領主たちには今回の現状を説明する手紙は既に送付済みだ。離反するものは出ないだろう」
疑問でも対応は考えないといけなかった。
予想外のことなどいくらでも起きる。今回の皇太子のやらかしなど予想外過ぎた。
それに比べれば皇帝がこちらに敵対してくることなど予想できる範疇のことである。
ひとまず私は知り合いの貴族に手紙を送っている。皆帝都にいるので、3日後には茶会を開く予定である。
ここに誰が来るかで旗色が分かるだろう。知り合いも連れてきて構わない旨送っているので、どれだけ来るかに今後がかかっている。
この茶会にどれだけ来るか次第で皇帝への圧力にもなる。戦争になれば、こちらにつくという意思表示に近いからだ。なので私としても積極的に多方面に声をかけていた。
一方兄は寄子、当家の従属している領主たちに連絡をしていた様だ。私のしていることは派手だが、兄がしているような味方から離脱者を出さないことも非常に大事だ。
かなりの量の手紙を出しただろう。腱鞘炎が心配である。
皇帝が折れれば徒労に終わる可能性もあるが、徒労に終わればそれはそれで構わないのだ。
両親もそれなりに動いているだろうし、ひとまず対皇帝側はこんなところだろう。
「で、うちの家はどうしますか?」
「どうしますかって?」
「次期当主ですよ」
「マリアが次期アデライト公。私が夫でいいだろ」
「……」
「照れるなよ」
「照れてません」
「ほら、おにーさまだいすき、お嫁さんになるって言いなさい」
「言いません」
兄といっているが、兄との実際の血縁は又従兄弟であり、現アデライト公の子は私である。
ただ、私が皇太子妃に内定したため、兄が養子として当家に来たのだ。
もともと幼馴染であり、私の夫候補でもあったので、養子にするにもちょうどよかったという事情がある。
ちなみに「おにーさまだいすき」とか「お嫁さんになる」なんて言ったことはない。
まあ、気心知れているし、仲がいいか悪いかといえばかなりいい方だ。
私の婚約がなくなりこの家を継ぐポジションに戻るとなると、兄がどうしても浮いていしまうが、結婚すればすべてが丸く収まる。
「…… そんなに照れなくてもいいんじゃないか?」
「照れてません!」
「耳まで真っ赤だよ。かわいいなぁマリアは」
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