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5 初夜の翌朝。腰は痛いですが、貴重なサンプルの採取チャンスは見逃せません
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翌朝。
目が覚めると、体の上にずっしりと重たいものが乗っていた。
「……ん、重い」
のっそりと身じろぎをすると、腰に回された太い腕がさらに強く私を締め付けた。
目の前には、広い胸板。
視線を上げると、少し幼さの残る――けれど人間離れした美貌を持つ青年が、私の頭に頬を乗せて安らかな寝息を立てていた。
「ああ、そっか……私、本当に食べられちゃったんだ」
昨晩の記憶が蘇り、カァッと頬が熱くなる。
あんなに激しく、何度も何度も貫かれたのだ。普通なら痛みで起き上がれないところだろう。
けれど不思議なことに、腰や股関節に多少のダルさはあるものの、痛みはほとんど引いていた。
(ネロが言っていた『回復効果のある体液』って本当だったんだ……。すごい、これも新発見だわ)
私はそっとシーツ(毛皮)の下を覗き込んだ。
私の肌には、昨夜彼がつけたキスマークや噛み跡が、まるで赤い花のように無数に咲いている。
お腹も、彼にたっぷりと注がれたせいで、まだ少しだけぽっこりと膨らんでいる気がする。
「……ふふ、あの子と繋がっちゃった」
普通なら「監禁された」と嘆くべき状況なのだろう。
でも、隣で眠る彼の顔は、十年前に私が手当てをした「ネロちゃん」の面影そのままで。
あんなに激しい行為の後なのに、寝顔だけは甘えん坊の子供みたいだ。
「よし、起きてるなら今のうちね」
私はネロを起こさないように、そぉっと彼の腕を抜け出した。
散らばっていた自分の鞄から、奇跡的に無事だったフィールドノートとペンを取り出す。
そして、再びベッドへ戻ると、無防備な竜王様の観察を開始した。
「失礼しまーす……。うわぁ、すごい」
私は彼の側頭部から生えている、ねじれた角にそっと触れた。
硬い。けれど、根本の部分はほんのりと温かい。血管が通っている証拠だ。
「角の質感は黒曜石に近いわね。でも魔力伝導率が高そう。……次は鱗」
背中側に回り込み、肩甲骨のあたりに浮き出ている黒い鱗を指でなぞる。
「へぇ……リラックスしている時は、鱗も少し柔らかいのね。逆なでするとザラザラして、順目だとビロードみたい。メモメモ……」
サラサラ、とペンの走る音が洞窟に響く。
こんな至近距離で、生きた竜(しかも人化状態)の生体データを取れるなんて、研究者としてこれ以上の至福はない。
「あ、そうだ。昨夜気になってた尻尾の付け根はどうなってるのかしら。脊椎とどう接続して――」
私が掛け布団をめくり、彼の腰付近を覗き込もうとした、その時だった。
「……エルマ?」
不機嫌そうな低い声と共に、ガシッと手首を掴まれた。
「ひゃっ! お、おはよう、ネロ」
恐る恐る顔を上げると、金色の瞳がジト目で私を見下ろしていた。
「……何をしている?」
「えっと、健康観察? ほら、昨夜あんなに頑張ったから、貴方の体に負担がかかってないかと思って」
「嘘をつけ。目が完全に『研究者』の目だ。……さっきからペタペタと俺の体を触り回して、俺が欲求不満で起きるのを待っていたのか?」
「ち、違うわよ! 純粋な学術的興味で……きゃっ!」
言い訳も虚しく、私は再びベッドに引きずり込まれてしまった。
ネロは私の上に覆いかぶさると、ふてくされたように唇を尖らせた。
「信じられない。あんなに熱く愛し合った翌朝に、『おはようのキス』より先に『採寸』をする妻がどこにいる」
「ご、ごめんってば。でも、目の前に未知のサンプルがあったら調べるのが私の性分というか……」
「サンプルじゃない。夫だ」
ネロは私の首筋に顔を埋めると、甘噛みしながら低く唸った。
「俺はずっと、お前と肌を合わせる夢を見ていたんだぞ。朝起きたらお前が腕の中にいて、甘い声で『おはよう』と言ってくれるのを期待していたのに」
「う……」
「それなのに、お前ときたら。俺のことなんてどうでもよくて、俺が『竜だから』興味があるだけなのか?」
顔を上げたネロの瞳が、切なげに揺れている。
最強の竜王様が、まるで捨てられた子犬のように拗ねているのだ。
そのギャップに、私の胸がキュンと音を立てた。
(なにこれ、可愛い……!)
私は慌ててノートとペンを放り出し、彼の方へ向き直った。
「そんなことないわ! 私だって、貴方と一緒にいられて嬉しいの。ただ、その……嬉しすぎて、どう接していいか分からなくて、いつもの癖が出ちゃっただけで」
「……本当か?」
「本当よ。ネロちゃんは、私の一番大切な……ううん、愛しい旦那様だもの」
私が精一杯の愛想笑い……ではなく、本心を込めてそう言うと、ネロはパァッと表情を輝かせた。
そして、嬉しさを隠しきれない様子で、強く私を抱きしめる。
「そうか。そうだよな! やっぱり俺たちは相思相愛の番だ!」
「く、苦しい……力が強いってば……」
「すまない、嬉しくてつい。……よし、機嫌が直ったから、続きをしようか」
「え? 続き?」
ネロの尻尾が、バタンバタンと嬉しそうに床を叩いている。
その手が、私の寝巻き代わりのシャツの中に、するりと入り込んできた。
「ちょうど俺も目覚めたところだ。朝の交尾は、夜とはまた違った良さがあるらしいぞ」
「ちょ、待って! さっき起きたばかりでしょ!? 私の体力の限界も考えて――」
「大丈夫だ。俺の体液を飲ませればすぐに回復する」
「飲むの!? ……んぐッ!」
反論は、朝一番の濃厚な口づけによって封じられた。
どうやら私の研究(観察)時間はここまでのようだ。
ここからは、竜王陛下による熱烈な「愛の確認作業」が始まるらしい。
ノートに書き込むべき重要事項が、また一つ増えてしまいそうだ。
――『竜王は、朝から絶倫で甘えん坊である』、と。
目が覚めると、体の上にずっしりと重たいものが乗っていた。
「……ん、重い」
のっそりと身じろぎをすると、腰に回された太い腕がさらに強く私を締め付けた。
目の前には、広い胸板。
視線を上げると、少し幼さの残る――けれど人間離れした美貌を持つ青年が、私の頭に頬を乗せて安らかな寝息を立てていた。
「ああ、そっか……私、本当に食べられちゃったんだ」
昨晩の記憶が蘇り、カァッと頬が熱くなる。
あんなに激しく、何度も何度も貫かれたのだ。普通なら痛みで起き上がれないところだろう。
けれど不思議なことに、腰や股関節に多少のダルさはあるものの、痛みはほとんど引いていた。
(ネロが言っていた『回復効果のある体液』って本当だったんだ……。すごい、これも新発見だわ)
私はそっとシーツ(毛皮)の下を覗き込んだ。
私の肌には、昨夜彼がつけたキスマークや噛み跡が、まるで赤い花のように無数に咲いている。
お腹も、彼にたっぷりと注がれたせいで、まだ少しだけぽっこりと膨らんでいる気がする。
「……ふふ、あの子と繋がっちゃった」
普通なら「監禁された」と嘆くべき状況なのだろう。
でも、隣で眠る彼の顔は、十年前に私が手当てをした「ネロちゃん」の面影そのままで。
あんなに激しい行為の後なのに、寝顔だけは甘えん坊の子供みたいだ。
「よし、起きてるなら今のうちね」
私はネロを起こさないように、そぉっと彼の腕を抜け出した。
散らばっていた自分の鞄から、奇跡的に無事だったフィールドノートとペンを取り出す。
そして、再びベッドへ戻ると、無防備な竜王様の観察を開始した。
「失礼しまーす……。うわぁ、すごい」
私は彼の側頭部から生えている、ねじれた角にそっと触れた。
硬い。けれど、根本の部分はほんのりと温かい。血管が通っている証拠だ。
「角の質感は黒曜石に近いわね。でも魔力伝導率が高そう。……次は鱗」
背中側に回り込み、肩甲骨のあたりに浮き出ている黒い鱗を指でなぞる。
「へぇ……リラックスしている時は、鱗も少し柔らかいのね。逆なでするとザラザラして、順目だとビロードみたい。メモメモ……」
サラサラ、とペンの走る音が洞窟に響く。
こんな至近距離で、生きた竜(しかも人化状態)の生体データを取れるなんて、研究者としてこれ以上の至福はない。
「あ、そうだ。昨夜気になってた尻尾の付け根はどうなってるのかしら。脊椎とどう接続して――」
私が掛け布団をめくり、彼の腰付近を覗き込もうとした、その時だった。
「……エルマ?」
不機嫌そうな低い声と共に、ガシッと手首を掴まれた。
「ひゃっ! お、おはよう、ネロ」
恐る恐る顔を上げると、金色の瞳がジト目で私を見下ろしていた。
「……何をしている?」
「えっと、健康観察? ほら、昨夜あんなに頑張ったから、貴方の体に負担がかかってないかと思って」
「嘘をつけ。目が完全に『研究者』の目だ。……さっきからペタペタと俺の体を触り回して、俺が欲求不満で起きるのを待っていたのか?」
「ち、違うわよ! 純粋な学術的興味で……きゃっ!」
言い訳も虚しく、私は再びベッドに引きずり込まれてしまった。
ネロは私の上に覆いかぶさると、ふてくされたように唇を尖らせた。
「信じられない。あんなに熱く愛し合った翌朝に、『おはようのキス』より先に『採寸』をする妻がどこにいる」
「ご、ごめんってば。でも、目の前に未知のサンプルがあったら調べるのが私の性分というか……」
「サンプルじゃない。夫だ」
ネロは私の首筋に顔を埋めると、甘噛みしながら低く唸った。
「俺はずっと、お前と肌を合わせる夢を見ていたんだぞ。朝起きたらお前が腕の中にいて、甘い声で『おはよう』と言ってくれるのを期待していたのに」
「う……」
「それなのに、お前ときたら。俺のことなんてどうでもよくて、俺が『竜だから』興味があるだけなのか?」
顔を上げたネロの瞳が、切なげに揺れている。
最強の竜王様が、まるで捨てられた子犬のように拗ねているのだ。
そのギャップに、私の胸がキュンと音を立てた。
(なにこれ、可愛い……!)
私は慌ててノートとペンを放り出し、彼の方へ向き直った。
「そんなことないわ! 私だって、貴方と一緒にいられて嬉しいの。ただ、その……嬉しすぎて、どう接していいか分からなくて、いつもの癖が出ちゃっただけで」
「……本当か?」
「本当よ。ネロちゃんは、私の一番大切な……ううん、愛しい旦那様だもの」
私が精一杯の愛想笑い……ではなく、本心を込めてそう言うと、ネロはパァッと表情を輝かせた。
そして、嬉しさを隠しきれない様子で、強く私を抱きしめる。
「そうか。そうだよな! やっぱり俺たちは相思相愛の番だ!」
「く、苦しい……力が強いってば……」
「すまない、嬉しくてつい。……よし、機嫌が直ったから、続きをしようか」
「え? 続き?」
ネロの尻尾が、バタンバタンと嬉しそうに床を叩いている。
その手が、私の寝巻き代わりのシャツの中に、するりと入り込んできた。
「ちょうど俺も目覚めたところだ。朝の交尾は、夜とはまた違った良さがあるらしいぞ」
「ちょ、待って! さっき起きたばかりでしょ!? 私の体力の限界も考えて――」
「大丈夫だ。俺の体液を飲ませればすぐに回復する」
「飲むの!? ……んぐッ!」
反論は、朝一番の濃厚な口づけによって封じられた。
どうやら私の研究(観察)時間はここまでのようだ。
ここからは、竜王陛下による熱烈な「愛の確認作業」が始まるらしい。
ノートに書き込むべき重要事項が、また一つ増えてしまいそうだ。
――『竜王は、朝から絶倫で甘えん坊である』、と。
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