秘境の竜の巣で、かつて助けた「小さなトカゲ」に捕まりました。正体は竜王様だったようで「俺の番として愛し抜いてやる」と逃がしてもらえません

みやび

文字の大きさ
5 / 28

5 初夜の翌朝。腰は痛いですが、貴重なサンプルの採取チャンスは見逃せません

しおりを挟む
 翌朝。
 目が覚めると、体の上にずっしりと重たいものが乗っていた。

「……ん、重い」

 のっそりと身じろぎをすると、腰に回された太い腕がさらに強く私を締め付けた。
 目の前には、広い胸板。
 視線を上げると、少し幼さの残る――けれど人間離れした美貌を持つ青年が、私の頭に頬を乗せて安らかな寝息を立てていた。

「ああ、そっか……私、本当に食べられちゃったんだ」

 昨晩の記憶が蘇り、カァッと頬が熱くなる。
 あんなに激しく、何度も何度も貫かれたのだ。普通なら痛みで起き上がれないところだろう。
 けれど不思議なことに、腰や股関節に多少のダルさはあるものの、痛みはほとんど引いていた。

(ネロが言っていた『回復効果のある体液』って本当だったんだ……。すごい、これも新発見だわ)

 私はそっとシーツ(毛皮)の下を覗き込んだ。
 私の肌には、昨夜彼がつけたキスマークや噛み跡が、まるで赤い花のように無数に咲いている。
 お腹も、彼にたっぷりと注がれたせいで、まだ少しだけぽっこりと膨らんでいる気がする。

「……ふふ、あの子と繋がっちゃった」

 普通なら「監禁された」と嘆くべき状況なのだろう。
 でも、隣で眠る彼の顔は、十年前に私が手当てをした「ネロちゃん」の面影そのままで。
 あんなに激しい行為の後なのに、寝顔だけは甘えん坊の子供みたいだ。

「よし、起きてるなら今のうちね」

 私はネロを起こさないように、そぉっと彼の腕を抜け出した。
 散らばっていた自分の鞄から、奇跡的に無事だったフィールドノートとペンを取り出す。
 そして、再びベッドへ戻ると、無防備な竜王様の観察を開始した。

「失礼しまーす……。うわぁ、すごい」

 私は彼の側頭部から生えている、ねじれた角にそっと触れた。
 硬い。けれど、根本の部分はほんのりと温かい。血管が通っている証拠だ。

「角の質感は黒曜石に近いわね。でも魔力伝導率が高そう。……次は鱗」

 背中側に回り込み、肩甲骨のあたりに浮き出ている黒い鱗を指でなぞる。

「へぇ……リラックスしている時は、鱗も少し柔らかいのね。逆なでするとザラザラして、順目だとビロードみたい。メモメモ……」

 サラサラ、とペンの走る音が洞窟に響く。
 こんな至近距離で、生きた竜(しかも人化状態)の生体データを取れるなんて、研究者としてこれ以上の至福はない。

「あ、そうだ。昨夜気になってた尻尾の付け根はどうなってるのかしら。脊椎とどう接続して――」

 私が掛け布団をめくり、彼の腰付近を覗き込もうとした、その時だった。

「……エルマ?」

 不機嫌そうな低い声と共に、ガシッと手首を掴まれた。

「ひゃっ! お、おはよう、ネロ」

 恐る恐る顔を上げると、金色の瞳がジト目で私を見下ろしていた。

「……何をしている?」

「えっと、健康観察? ほら、昨夜あんなに頑張ったから、貴方の体に負担がかかってないかと思って」

「嘘をつけ。目が完全に『研究者』の目だ。……さっきからペタペタと俺の体を触り回して、俺が欲求不満で起きるのを待っていたのか?」

「ち、違うわよ! 純粋な学術的興味で……きゃっ!」

 言い訳も虚しく、私は再びベッドに引きずり込まれてしまった。
 ネロは私の上に覆いかぶさると、ふてくされたように唇を尖らせた。

「信じられない。あんなに熱く愛し合った翌朝に、『おはようのキス』より先に『採寸』をする妻がどこにいる」

「ご、ごめんってば。でも、目の前に未知のサンプルがあったら調べるのが私の性分というか……」

「サンプルじゃない。夫だ」

 ネロは私の首筋に顔を埋めると、甘噛みしながら低く唸った。

「俺はずっと、お前と肌を合わせる夢を見ていたんだぞ。朝起きたらお前が腕の中にいて、甘い声で『おはよう』と言ってくれるのを期待していたのに」

「う……」

「それなのに、お前ときたら。俺のことなんてどうでもよくて、俺が『竜だから』興味があるだけなのか?」

 顔を上げたネロの瞳が、切なげに揺れている。
 最強の竜王様が、まるで捨てられた子犬のように拗ねているのだ。
 そのギャップに、私の胸がキュンと音を立てた。

(なにこれ、可愛い……!)

 私は慌ててノートとペンを放り出し、彼の方へ向き直った。

「そんなことないわ! 私だって、貴方と一緒にいられて嬉しいの。ただ、その……嬉しすぎて、どう接していいか分からなくて、いつもの癖が出ちゃっただけで」

「……本当か?」

「本当よ。ネロちゃんは、私の一番大切な……ううん、愛しい旦那様だもの」

 私が精一杯の愛想笑い……ではなく、本心を込めてそう言うと、ネロはパァッと表情を輝かせた。
 そして、嬉しさを隠しきれない様子で、強く私を抱きしめる。

「そうか。そうだよな! やっぱり俺たちは相思相愛の番だ!」

「く、苦しい……力が強いってば……」

「すまない、嬉しくてつい。……よし、機嫌が直ったから、続きをしようか」

「え? 続き?」

 ネロの尻尾が、バタンバタンと嬉しそうに床を叩いている。
 その手が、私の寝巻き代わりのシャツの中に、するりと入り込んできた。

「ちょうど俺も目覚めたところだ。朝の交尾は、夜とはまた違った良さがあるらしいぞ」

「ちょ、待って! さっき起きたばかりでしょ!? 私の体力の限界も考えて――」

「大丈夫だ。俺の体液を飲ませればすぐに回復する」

「飲むの!? ……んぐッ!」

 反論は、朝一番の濃厚な口づけによって封じられた。
 どうやら私の研究(観察)時間はここまでのようだ。
 ここからは、竜王陛下による熱烈な「愛の確認作業」が始まるらしい。

 ノートに書き込むべき重要事項が、また一つ増えてしまいそうだ。
 ――『竜王は、朝から絶倫で甘えん坊である』、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...