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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)

19、仕掛け人がおったのだ!

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はやみみルポルタージュ
今週のはやみみスト リリ×ハナヤシキさん


―ということはラジオのリスナーさんのメールが元ネタになっていると?
ハナ「元々これは、ラジオで私がブレイク出来るネタ考えてってリスナーさんに頼んで産まれたネタなんです。そうしたらたまたま私が以前地下アイドルさんを取り上げる番組でレポーター役をやっていたのもあって、そちらにもパイプを繋げやすいんではないかとわざわざ先回りもしてネタ考えてくれて。リスナーさんが」
リリ「そうっ。最初のネタも台本作ってくれて。メールだけじゃ分かりにくいかもって音声化したやつも添付してくれて」
ハナ「すごかったよね。一人二役で」
リリ「そうそうっ。おうちで録音してくれたのかと思うともう感激です」
ハナ「お母さんとか居ない間に(笑)」
リリ「そうそう(笑)」
ハナ「それを、じゃあラジオ終わりに即興でやってみようって。きりタソが……、じゃないや(笑)リリちゃんが」
リリ「一緒にラジオやってる人のっ、あのっ、お友達としてねっ、わたしが」
ハナ「そう。たまたま見学に来ててね」
リリ「そういう設定ですからね(笑)」
ハナ「ねっ(笑)」


 「リスナー、が」

  ラジオのリスナーが考えてくれたネタ。ネット記事にはそう書いてあった。
  それを読んだ響季の首の後ろ辺りに、ぞくぞくと鳥肌が立つ。
  考えてみれば、見たネタからは奇妙な存在感が放たれていた。
  会話から、あるいはネタそのものから。
  かつて見た花屋敷ZOZO美のネタとは違う匂いもしていた。
  彼女のネタにはもっと、自分が面白ければいいというエッジの効いたネタだった。
  それなのに、次回予告ネタは理論的に計算され、広く客を掴もうと意識したようなネタだった。
  そこに自分がまんまとハマっているのも響季はわかった。心地いいほどにぴたりと。

  次回予告風ネタにはブレーンがいたのだ。悪い言い方をすれば誰かの入れ知恵によって生まれた。そしてそれは、ラジオ発信だとあった。
  ということは過去の放送でそれが聴けるのではないかと考えるが、

 「あ、くっそ。バックナンバー」

  響季がすぐに頭を抱える。
  二人が出ていたサバダバアンバサダーは最新回の放送しかサイトに置いていない。だから確証が得られない。
  それでもダメ元で検索してみると、

 「あるやないかいっ」

  親切で違法者な誰かが過去放送分をネット上にアップロードしてくれていた。
  適当にスクロールして見ていくと、【躍進の】【始まり始まり~】という文字が番組タイトルを挟むように付けられた放送回があり、

 「これ、か」

  響季は恐る恐るそれをクリックし、再生してみた。



ラジオ サバダバアンバサダー ギリギリ50分

パーソナリティ
雛田 木理(ひなたきり)
 花屋敷 ZOZO美(はなやしきぞぞみ)

 以前募集したゾゾみんブレイク案から抜粋

きりタソ 「で、あの以前募集したやつ。ゾゾみんがどうやったらブレイク出来るかっていうアイデアをリスナーさんから募ったんですが」
 ZOZO美「あっ、はい。メール来てますか?」
きりタソ 「えーとね、ラジオネーム」


  聞こえてきたそのラジオネームに、響季が唾を飲み込む。
  それは、自分がかつて使った使い捨てネームだった。
  そのリスナー曰く。


 少子化なので子供にウケるワンフレーズネタなどをするより、もっと広い層を狙いましょう。
そこで、地下アイドルファンを狙い撃ちするのはどうでしょうか。
 現在あまたある地下アイドルには、そのファンもたくさんいます。ネットの発達により当然海外にも。

アイドルファンというのは、一度メディアで自分の好きなマイナーアイドルを丁重に美味しくいじってくれたタレントを未来永劫忘れぬものです。
そして音声ネタはどの世代からも食いつきがいいので、彼女達を面白おかしくいじるネタを量産し、更にそれを誰もが聞いたことのあるアニメの次回予告音楽に乗せてガッチャンコ。
 出来たネタはテレビはガン無視してネットに動画としてアップしていき、ネットに上がってるアイドルさん達の動画を関連動画として更にガッチャンコさせちゃえばいいと思います。
それを全世界に向けてアップすれば、この国どころか芋づる式に海外のアイドルファンもアニメファンも食いついてくれるかもしれません。

そのアイドルがのちのち、万が一売れた時も何かとオイシイかもしれません。
 昨今はネットで人気のコンテンツをテレビで紹介する簡単なお仕事が横行しているので、上手く行けばテレビでの仕事も入るかもしれません。
 大変都合のいいことに花屋敷さんは以前地下アイドルを紹介する番組をやられていて、ひなたん坊はお兄様がクソアニメオタクだそうなので役割分担もバッチリだね!
また、アニメの次回予告というのは15秒、長くて30秒なので、短く投げっぱなしにしたい時は15秒バージョン、きっちり重厚に情報を詰め込みたい時は30秒バージョンとすれば、今後テレビに出た時などにも使い勝手がよいのではないでしょうか。



  ざっくりとした、ネタメールというよりかは企画書メール。
  それは小狡く、とても計算高いアイデアだった。
  はなからテレビなんて相手にせず、ネットをフィールドにした売り込み方。
  なのに最終的にはテレビを味方につけようという魂胆も織り交ぜている。
  ピン芸人の持ちギャグを募集してる所に、お前らコンビ組んじゃえよ!ヒューヒュー!というわかりやすい誘導もあった。
  それら企画はあくまで机上の空論でしか無い。しかし、


きりタソ 「ひなたん坊なんて呼ばれ方初めてされた!!(笑)」
 ZOZO美「そこかよっ!(笑)」
きりタソ 「うへー、なんか新鮮……、これ私が裸ん坊なお仕事してるのに掛けてる?」
 ZOZO美「いや、掛けてないと思いますけど(笑)」
きりタソ 「でもこんながっつり考えてきてくれたのこの人だけですよ」
 ZOZO美「まあ元々来るメール少ないからねぇ」
きりタソ 「あっ、そうそうっ。実際にやってみた音声も送られてきてですね」
 ZOZO美「おおすごいっ!ありがとう!なんかごめんねわざわざ」


  行き届いた企画書を送ってきたリスナーに、花屋敷ZOZO美が声だけでもわかるぐらい諸手を上げて喜ぶ。
  そのあとの放送では、送られてきたリスナーによるお手本音声も流された。
  ライライぽんPoMの紹介と、二人の変身少女がマックスハートで活躍するアニメの次回予告音楽を掛け合わせたネタ。
  声を加工しているが、それは紛れも無く響季の知っている少女だった。
  にゃーにゃにゃんにゃにゃっ!、などというふざけた音声に、歯切れのいいナレーションを重ねていた。
  その後のメールにもいくつかアイドルの名前とガッチャンコすべき予告が文章のみで書かれていたらしい。
  要は、そのリスナーはプロの芸人とその後相方となるセクシー女優にかなりの知恵を授けたのだ。
  響季が知る少女は本来前へ出るのは好まない子のはずなのに。
  面白いことをしたい。おそらくその一心でこんなことをしていた。
  あるいは彼女達が面白いから何か手助けをしたくて知恵を授けようとしたのか。わからない。だが、

 「…すごい」

  彼女発案のネタが無名の芸人を押し上げ、面白い展開へと導いていた。
  もっと、次回予告ネタについての詳細を知りたかった。
  彼女の功績を知りたかった。
  しかし、リリ×ハナヤシキを検索したページに戻ると、響季は《今やブレイクツールはラジオ?》というネット記事を見つけた。
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