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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)
18、職人の鋳型
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High Viskus×汎用人型決戦兵器アニメ 次回予告ネタ用台本
(※紹介文のみ 枕部分割愛)
ハナ「じゃあハイビスカスっていう声優アイドルユニット知ってます?」
リリ「知らんっ!」
ハナ「お前は何も知らんなあ」
リリ「知らん知らん知らぁーん!」
ハナ「おおおっ、お怒りじゃ。姫がお怒りじゃ。あ、じゃあアタイがサクッと説明してあげますから、リリちゃんは新世紀のアニメのあのー、シュッとした紫色のロボットが出てくるアニメの次回予告奏でて。口で」
リリ「ああ、汎用人型決戦兵器が出てくるアニメね」
ハナ「そうね。正式はね。ついロボットと間違いがちなやつね。まあでも時間もないからちゃちゃっと行くわね」
リリ「40秒で支度するわよ?」
ハナ「う、うん。それは違うアニメよ?」
リリ「でもこのアニメの監督、昔こっちのアニメで巨神兵描いてたわよ?」
ハナ「そうね。あとさっきからなんでアタイ達オカマ口調なのかしら。とにかくその監督のっ、アノ監督のあのアニメの次回予告よ!頼むわよ!?」
リリ「わかったわ。3分間だけ待ってやるわよ?」
ハナ「ネタ時間が三分だから終わっちゃうよ!もう行くよ!?」
リリ「はーい」
リリ「♪ぱぁーらぁーぱーらぱー ぱららラーらららぱーららーららー たらたらっ!」
ハナ「身長175センチ超え女性声優ユニット High Viskusハイビスカス 大きな体なのになんだかかわいい彼女達は、まさに21世紀の大和撫子といえよう」
リリ「♪ぱぁーらぁーぱーらぱー ぱららラーリラりらーららーららー」
ハナ「発表曲には特になんのアニメタイアップが付くこともなく、ライブも出来ず、ラジオは箱番、時代の徒花として散っていった彼女達だが」
リリ「♪タららラ、なーにーそーれー、なぁーにぃーあぁーじぃー、なあーにいーにいーくうー、ちゃーちゃっちゃーちゃちゃー、ちゃちゃーちゃ、ちゃーちゃん!」
ハナ「きっときっと、現代を生きる背ぇ高ガール達の希望の光となっているのだ。いや、いたのだっ!きっとそうなのだ!褒めるところが見つからないよう!次回 High Viskus 声優は顔が命、鴨居に額をぶつけるな!」
リリ「いえーい!尺ぴったりー」
ハナ「っていうかなにそれってなに?後半のやつ!何それ何味何肉って何?」
リリ「ええっ?そう聞こえるやん」
ハナ「あとアンタ30秒バージョンでやったわね」
リリ「あれっ!?違った!?」
ハナ「……15秒尺でやっていただきたかった」
リリ「じゃあそっちもあとでやりましょう」
High Viskusは近年の声優アイドルユニット史でも黒歴史に近い、なかったことにされたユニットだ。
170センチ超えの新人声優だけを集めたユニットという、声優ファンのニーズに合わずクソほどにも売れなかったユニットで、響季もぼんやりとだが知っていた。
そんなユニットの映像も関連動画としてアップされていた。
揃いのコスチュームで出演した深夜のアニメ系情報番組。音楽配信サイトの動画。一回こっきりの映像付きアニラジ。
それなりに気合の入ったプロジェクトだったのか、デビュー当時は色んなメディアに出ていたようだが、デビューしてからの動画があまりにも少ない。
だがそんな数少ない動画を見てみれば、高身長の漠然とした丈夫さと新人特有のおどおどした不器用さがミスマッチしてどうにも愛おしい。
メンバーのうちのほとんどがその後声優としては活躍出来ず消えていったのもなんとも儚い。
時が経つのも忘れて、響季はアップされているリリ×ハナヤシキの動画を見ていった。
そのどれもがかなりの再生数を誇っていたが、
「撮って出しなのかな」
アップされた時間の間隔が異様に短い。パターンを掴んだハナヤシキが一気にネタを書き上げていったのかもしれない。
ネタ職人たる響季にも経験があった。
ネタのテンプレート、鋳型が一度出来上がると何かが脳の中でガチリと噛み合い、キラキラドロドロしたアイデアがマグマが如く延々垂れ流されるアレだ。
マグマを鋳型に流し込めば、自動でネタが量産されるアレだが、
「なんだよこれ、終わらない」
パソコン画面を見続け過ぎて、響季の目は次第にしぱしぱしてくる。
ネタ動画だけでも消化が追いつかないのに、リリ×ハナヤシキが紹介し、見たいと思ったアイドル達の動画も直ぐに出てくる。
数珠繋ぎのように欲しい動画が準備されていた。それらを見ていき、
「…そうか」
響季が理解する。
おそらくこの情報の早さがリリ×ハナヤシキのブレイクのきっかけになったのだ。
知りたい情報が素早く、一秒で手に入る。
アニメの次回予告という耳馴染みのある音楽と、マイナーアイドルという知らない世界の融合。
ネタ自体には特に斬新さはなく、ベタでチープなものだった。
しかし題材が適度にハードコアで人を選ぶネタで、それをネットに投下することで母数が大きくなる。本来少ないはずのファンが多くなる。
そしてネタが眼と耳からするすると入って来た後。ネタにされた彼女達の情報は全てネットにアップされているから、興味があればすぐにその姿が検索できる。
ほぼストレスゼロで知りたい情報が手に入る。
それはテレビなどでは味わえないシームレスな楽しさだ。
この楽しい無限地獄が多くの人を虜にし、響季のように夜更かしナイトを開催していったのだ。
動画に付けられたコメントも『面白い』『こんなアイドルいたのか』など好意的だった。
アニメの予告音楽ネタと聞きつけ、海外のアニメファンも見に来ていた。
『リリの次回予告バックグラウンドミュージックの謎の再現度はなんなのだ!(アメリカ)』
『もう本家を聴いてもそうとしか聴こえない(イギリス)』
『ジャパンアイドルとジャパンアニメの融合。実にクールだね(シカゴ)』
『気づくとLiLyの次回予告を口ずさんでいる自分がいるよ(チチカカ湖)』
『ファットレディの方のリズムも小気味いいね。あれがメイチョーシというのかな(カナダ)』
『ねえ、リリーはセクシー女優なのかい?あんなキュートなコが?とても信じられないよ!(フランス)』
『それを言うのは野望ってものさ(ルーマニア)』
『野暮な(モンテビデオ)』
『上の人達がなんかアニソンアーティスト名みたいになってる(クアラルンプール)』
概ね好評なコメントばかり。
そしてコメントをくれた中には当然のようにネタにされた地下アイドルのファンもいた。
『ダンキシェンファンだからネタにしてくれて嬉しい』
『ねるふぁーなんて名前も曲も何年ぶりに聴いただろう…。まだアルバム実家にあるかな』
『High Viskusのことはもうそっとしておいてよ!俺の青春だったんだよ!』
『てれんれ学園祭実行委員会頼んます』
様々な想いが書き込まれていたが、その誰もが自分の好きなマイナーアイドルを美味しくいじってくれてありがとうという想いをリリ×ハナヤシキに伝えていた。
「……すごいじゃん」
そんな嬉しいコメントを目で追いながら響季が興奮の滲んだ声で呟く。
枕部分を含めても、核となるネタ自体が15秒ないし30秒なのでコンパクトにまとめられる。時間がなく、すぐに笑いたい現代人向けのネタだった。
これだけ話題なら、うまくいけばテレビにも目をつけてもらえる。
ネットで話題のものをテレビで紹介するという、メディア屋のやり方としてはいささかいただけない流れだが実質的なお仕事には繋がるかもしれない。
売れて、大ブレイクしてしまうかもしれない。
「うわうわうわ、やばいやばいやばい」
自分の目をつけていたマイナー女芸人が、聴いていたマイナーラジオのパーソナリティが世界を相手に旋風を巻き起こし、今まさに大きく羽ばたこうとしていた。
いや、すでに羽ばたいている。
だが売れる前から知ってたもんね、という優越感はあるが、ブレイクの瞬間には完全に乗り遅れていた。
少しでもそのブレイクに追いつきたくて、響季は更に情報を仕入れていく。
ネットは簡単だった。欲しい情報がすぐ手に入る。
その中に、話題のモノや人物を取り上げるトレンド系サイトのインタビュー記事があった。
それはリリ×ハナヤシキの話題の次回予告風紹介ネタがどうやって産まれたか、というインタビューだったが、
「………え?」
記事を目で追っていた響季が絶句する。
(※紹介文のみ 枕部分割愛)
ハナ「じゃあハイビスカスっていう声優アイドルユニット知ってます?」
リリ「知らんっ!」
ハナ「お前は何も知らんなあ」
リリ「知らん知らん知らぁーん!」
ハナ「おおおっ、お怒りじゃ。姫がお怒りじゃ。あ、じゃあアタイがサクッと説明してあげますから、リリちゃんは新世紀のアニメのあのー、シュッとした紫色のロボットが出てくるアニメの次回予告奏でて。口で」
リリ「ああ、汎用人型決戦兵器が出てくるアニメね」
ハナ「そうね。正式はね。ついロボットと間違いがちなやつね。まあでも時間もないからちゃちゃっと行くわね」
リリ「40秒で支度するわよ?」
ハナ「う、うん。それは違うアニメよ?」
リリ「でもこのアニメの監督、昔こっちのアニメで巨神兵描いてたわよ?」
ハナ「そうね。あとさっきからなんでアタイ達オカマ口調なのかしら。とにかくその監督のっ、アノ監督のあのアニメの次回予告よ!頼むわよ!?」
リリ「わかったわ。3分間だけ待ってやるわよ?」
ハナ「ネタ時間が三分だから終わっちゃうよ!もう行くよ!?」
リリ「はーい」
リリ「♪ぱぁーらぁーぱーらぱー ぱららラーらららぱーららーららー たらたらっ!」
ハナ「身長175センチ超え女性声優ユニット High Viskusハイビスカス 大きな体なのになんだかかわいい彼女達は、まさに21世紀の大和撫子といえよう」
リリ「♪ぱぁーらぁーぱーらぱー ぱららラーリラりらーららーららー」
ハナ「発表曲には特になんのアニメタイアップが付くこともなく、ライブも出来ず、ラジオは箱番、時代の徒花として散っていった彼女達だが」
リリ「♪タららラ、なーにーそーれー、なぁーにぃーあぁーじぃー、なあーにいーにいーくうー、ちゃーちゃっちゃーちゃちゃー、ちゃちゃーちゃ、ちゃーちゃん!」
ハナ「きっときっと、現代を生きる背ぇ高ガール達の希望の光となっているのだ。いや、いたのだっ!きっとそうなのだ!褒めるところが見つからないよう!次回 High Viskus 声優は顔が命、鴨居に額をぶつけるな!」
リリ「いえーい!尺ぴったりー」
ハナ「っていうかなにそれってなに?後半のやつ!何それ何味何肉って何?」
リリ「ええっ?そう聞こえるやん」
ハナ「あとアンタ30秒バージョンでやったわね」
リリ「あれっ!?違った!?」
ハナ「……15秒尺でやっていただきたかった」
リリ「じゃあそっちもあとでやりましょう」
High Viskusは近年の声優アイドルユニット史でも黒歴史に近い、なかったことにされたユニットだ。
170センチ超えの新人声優だけを集めたユニットという、声優ファンのニーズに合わずクソほどにも売れなかったユニットで、響季もぼんやりとだが知っていた。
そんなユニットの映像も関連動画としてアップされていた。
揃いのコスチュームで出演した深夜のアニメ系情報番組。音楽配信サイトの動画。一回こっきりの映像付きアニラジ。
それなりに気合の入ったプロジェクトだったのか、デビュー当時は色んなメディアに出ていたようだが、デビューしてからの動画があまりにも少ない。
だがそんな数少ない動画を見てみれば、高身長の漠然とした丈夫さと新人特有のおどおどした不器用さがミスマッチしてどうにも愛おしい。
メンバーのうちのほとんどがその後声優としては活躍出来ず消えていったのもなんとも儚い。
時が経つのも忘れて、響季はアップされているリリ×ハナヤシキの動画を見ていった。
そのどれもがかなりの再生数を誇っていたが、
「撮って出しなのかな」
アップされた時間の間隔が異様に短い。パターンを掴んだハナヤシキが一気にネタを書き上げていったのかもしれない。
ネタ職人たる響季にも経験があった。
ネタのテンプレート、鋳型が一度出来上がると何かが脳の中でガチリと噛み合い、キラキラドロドロしたアイデアがマグマが如く延々垂れ流されるアレだ。
マグマを鋳型に流し込めば、自動でネタが量産されるアレだが、
「なんだよこれ、終わらない」
パソコン画面を見続け過ぎて、響季の目は次第にしぱしぱしてくる。
ネタ動画だけでも消化が追いつかないのに、リリ×ハナヤシキが紹介し、見たいと思ったアイドル達の動画も直ぐに出てくる。
数珠繋ぎのように欲しい動画が準備されていた。それらを見ていき、
「…そうか」
響季が理解する。
おそらくこの情報の早さがリリ×ハナヤシキのブレイクのきっかけになったのだ。
知りたい情報が素早く、一秒で手に入る。
アニメの次回予告という耳馴染みのある音楽と、マイナーアイドルという知らない世界の融合。
ネタ自体には特に斬新さはなく、ベタでチープなものだった。
しかし題材が適度にハードコアで人を選ぶネタで、それをネットに投下することで母数が大きくなる。本来少ないはずのファンが多くなる。
そしてネタが眼と耳からするすると入って来た後。ネタにされた彼女達の情報は全てネットにアップされているから、興味があればすぐにその姿が検索できる。
ほぼストレスゼロで知りたい情報が手に入る。
それはテレビなどでは味わえないシームレスな楽しさだ。
この楽しい無限地獄が多くの人を虜にし、響季のように夜更かしナイトを開催していったのだ。
動画に付けられたコメントも『面白い』『こんなアイドルいたのか』など好意的だった。
アニメの予告音楽ネタと聞きつけ、海外のアニメファンも見に来ていた。
『リリの次回予告バックグラウンドミュージックの謎の再現度はなんなのだ!(アメリカ)』
『もう本家を聴いてもそうとしか聴こえない(イギリス)』
『ジャパンアイドルとジャパンアニメの融合。実にクールだね(シカゴ)』
『気づくとLiLyの次回予告を口ずさんでいる自分がいるよ(チチカカ湖)』
『ファットレディの方のリズムも小気味いいね。あれがメイチョーシというのかな(カナダ)』
『ねえ、リリーはセクシー女優なのかい?あんなキュートなコが?とても信じられないよ!(フランス)』
『それを言うのは野望ってものさ(ルーマニア)』
『野暮な(モンテビデオ)』
『上の人達がなんかアニソンアーティスト名みたいになってる(クアラルンプール)』
概ね好評なコメントばかり。
そしてコメントをくれた中には当然のようにネタにされた地下アイドルのファンもいた。
『ダンキシェンファンだからネタにしてくれて嬉しい』
『ねるふぁーなんて名前も曲も何年ぶりに聴いただろう…。まだアルバム実家にあるかな』
『High Viskusのことはもうそっとしておいてよ!俺の青春だったんだよ!』
『てれんれ学園祭実行委員会頼んます』
様々な想いが書き込まれていたが、その誰もが自分の好きなマイナーアイドルを美味しくいじってくれてありがとうという想いをリリ×ハナヤシキに伝えていた。
「……すごいじゃん」
そんな嬉しいコメントを目で追いながら響季が興奮の滲んだ声で呟く。
枕部分を含めても、核となるネタ自体が15秒ないし30秒なのでコンパクトにまとめられる。時間がなく、すぐに笑いたい現代人向けのネタだった。
これだけ話題なら、うまくいけばテレビにも目をつけてもらえる。
ネットで話題のものをテレビで紹介するという、メディア屋のやり方としてはいささかいただけない流れだが実質的なお仕事には繋がるかもしれない。
売れて、大ブレイクしてしまうかもしれない。
「うわうわうわ、やばいやばいやばい」
自分の目をつけていたマイナー女芸人が、聴いていたマイナーラジオのパーソナリティが世界を相手に旋風を巻き起こし、今まさに大きく羽ばたこうとしていた。
いや、すでに羽ばたいている。
だが売れる前から知ってたもんね、という優越感はあるが、ブレイクの瞬間には完全に乗り遅れていた。
少しでもそのブレイクに追いつきたくて、響季は更に情報を仕入れていく。
ネットは簡単だった。欲しい情報がすぐ手に入る。
その中に、話題のモノや人物を取り上げるトレンド系サイトのインタビュー記事があった。
それはリリ×ハナヤシキの話題の次回予告風紹介ネタがどうやって産まれたか、というインタビューだったが、
「………え?」
記事を目で追っていた響季が絶句する。
応援ありがとうございます!
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