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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)

25、志が高いといいギャルが集まる

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 同じ頃。響季達は二年生の教室へと向かっていた。
  すでに柿内君がメールで用件を伝えている。
  彼は謎の顔の広さと持ち前の取り入り上手で、ギャルのパイセン達とも仲が良かった。

 「おっ、カーキー」
 「こっちこっちー」

  教室のドア付近に柿内君の姿を見つけると、リーダー格の白ギャルパイセンとその仲間である黒ギャルパイセン達が、彼女達だけの呼び方で後輩男子を手招きしてくれた。
  が、呼ばれた方は、柿内君はそれを冷ややかな目で見つめる。
  すると突然、彼はパチ、パチ、と小気味いいフィンガークリップを刻み、

♪ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃらっちゃらっちゃらっちゃらっちゃら~

と、ピンク色の豹のテーマソングを口ずさみだした。
  引き締まった体を抜き足差し足で移動させ、ケツ持ちに収まった響季も見えない追っ手を警戒しつつ、見えない壁に沿って見えないサーチライトを避けつつ移動する。
  そして要所要所でだるまさんが転んだの如く奇妙なポーズを決め、教室後方を移動してくる。
  それを、テーマソングを口ずさみつつ、何度も繰り返しながらやってくる。
  抜き足差し足、三歩進んで一歩下がり、一歩進んで二歩下がり、ポーズを決め、なかなか窓際の席に陣取ったパイセン達の元に近づかない。
  奇妙な下級生二人に、上級生達はなんだなんだと見てくる。
  説明不要な、見た目のみのコントに彼ら彼女らは魅了されていたが、

 「普通に来いよッ!」

  なかなかやってこない後輩に机をバンと叩き、白ギャルパイセンがツッこむ。
  声だけは怒っているが、顔は笑顔で。

 「というわけです」
 「全くわからん」

  パンサーステップから一転し、すたこらさっさーとやってきた柿内君の言葉に、特に仲の良い白ギャルパイセンが冷静にツッこむ。
  周りの黒ギャルパイセン達は腹を抱え、手を叩いて笑っていた。
  響季はその反応を見て、もう一個くらい笑いが欲しいなと考える。
  教室中から意識と視線が集中しているのを感じていた。見知らぬ先輩方も、突然現れた一年コンビから目と耳が離せないようだ。
  そんな中で、

 「ガイアの夜明けッ!」

と、響季が突然末っ子民放局の経済番組の名を叫び、戦隊ヒーロー風のポーズを決めると、

 「カンブリア宮殿ッ!」
 「ルビコンの決断ッ!我ら、テレ東経済番組三兄弟ッ!」

  柿内君と交互に番組名を言い合い、そのたびに戦隊ヒーロー風のポーズを決めていく。
  ガイアとルビコンは響季が兼役でこなして。
  最後に響季が名乗りを挙げると、びしいっ!と柿内君が腰の入った指差しを交えて言い、響季がその後ろで不死鳥のポーズを取る。
  打ち合わせもなく、最初の一声ですぐカンブリアに繋げてくれた相方に、響季は感動のあまり心が打ち震えた。
  すでにどこかでやっただろうか、それともこれは初出しだろうかと考えるが、どちらでもいい。
  互いを信頼しきっての合体技は、やってる方は心地よいほどだったが、

 「いや、だから全くわからんて!」

  真顔でヒーローポーズを決める二人に、白ギャルパイセンは更にツッこみ、友人パイセン達がまた笑う。
  みんな大好き民法TV局の末っ子。それの経済系番組を戦隊ヒーロー風に名乗るというネタだったのだが、パイセン達はお腹を抱えて笑う。
  番組自体は見たことはなくても番組名くらいは知っているのだろう。
  あるいはわからなくても見た目と雰囲気で笑っているのか。
  なぜ経済系番組名を戦隊風に名乗りあげるのか、響季達自身にもわからなかった。
  ただなんとなくそうしたら面白そうで、テレ東ちゃんが大好きだからに他ならない。
  決めポーズから一旦ふう、と脱力すると、

 「というわけさっ!」

  びしっと響季が歌舞伎の見栄のポーズで、柿内君は脇の下を隠した挙手ポーズをパイセン方に決めた。
  柿内君のポーズにあ、ちくしょー、そっちのが面白い、と響季の心の中で歯噛みする。

 「だからわからんて」

  被せボケにパイセン達が更にツッこむが、その声にはざわざわとさざ波のような笑いが混じっていた。
  後ろで見ている上級生達だ。
  訳がわからない。だがなんだか面白いという笑い。
  その笑顔を眼と耳で感じながら、柿内君と響季はぞくぞくする。
  自分が、自分達が年上相手に笑いを取っていることに。
  目線すら交わさずとも、打てば響く相方にも。

 「忘れちゃいないかソロモン流ッ!」
 「真打ち登場、ワールドビジネスサテライトッ!」
 「我ら、テレ東経済番組ファイブ!」

  更に響季が三役で、柿内君が二役務めて2番組を追加し、経済番組五兄弟が揃うが、

 「だからわかんねーって!」

  白ギャルパイセンはきちんとツッこんでくれた。
  ポーズを決めたまま、響季は周りで見ている上級生達の笑いがもっとはっきりしたものになったのがわかった。
  ああ笑っていいんだという遠慮のない笑いに。
  充分ボケられたし、笑いも取れたしもういいかと響季達が視線を交わす。
  そうして笑いで有耶無耶にこじあけた扉から、

 「メールでもお伝えしましたが、化粧ポーチを貸していただきたいんですが」

  パイセン達に柿内君が本題を切り出す。

 「ああ、べつにいいけど。何に使うの?」
 「♪ちゃらっ、ちゃら~」
 「それはいいから!」

  響季がまた例のテーマソングを口ずさみ、ステップを踏み出すのを白ギャルパイセンが笑顔で制した。

 「まあ言ってみれば、ダンス対決というか」
 「ダンス?」
 「なにそれおもしろそう!」
 「Vogueという踊りで」
 「ヴぉーぐ?」

  聞き慣れない単語に、パイセン達は仲良く揃って首を捻る。
  その反応にどう説明したものかと柿内君は考えるが、

 「それで、音楽を流しながら撮影とかもするのでパイセン達にもお力を借りたいのですが」
 「へえ…」
 「まあ、いいけど」
 「おもしろそうだし」

  結局フワフワした説明でパイセン達は顔を見合わせ、なんとなくで納得する。よくわからんけど楽しそうだしまあいいか、と。
  ギャルさん達はあまり細かいことにはこだわらず、目の前に面白そうなことがあったらとりあえず飛びつく習性があった。それが今の柿内君達にはありがたかった。

 「どこでやるの?」
 「たぶん、中庭で撮影します」

  白ギャルパイセンの問いに柿内君が答える。出来ればギャラリーは少ない方がいいかと思ったが、ある程度広さがあって自由に使える場所となるとそこら辺しかなかった。

 「いつ撮るの?今から?」
 「いや、今から準備して放課後には」
 「あ、ねえねえ」
 「はい?」

  柿内君が細かいことを伝えている間、一人の黒ギャルパイセンが響季に声を掛けてきたが、

 「ソロモン流って経済番組じゃなくね?」
 「えっ!?」

  中学までは比較的真面目だった高校デビューのパイセンに、響季は驚愕の事実を突きつけられた。なんとなくでやったからボロが出たのだ。

 「それだったら未来世紀ジパングの方が」

  そして冷静にダメ出しされた。
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