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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)
26、準備は着々と進んでアオっ!
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化粧ポーチを借りる約束を取り付けた後。
響季はギャルパイセン達とひとまずお昼にすることとした。
皆が昼食を摂る中、柿内君だけはお弁当を半分だけ食べ、筋トレに勤しんでいた。
三方向にひねる腹筋と背筋。足先を椅子に置いて高さを出したハードな腕立て伏せ。
本番までに少しでもパンプアップさせておこうと。
「かたせちゃん、あと何がいるんだっけ?」
そんな柿内君を見ながら、パイセン達から恵んでもらったお菓子を摘んでいた響季に白ギャルパイセンが訊く。
楽曲は白ギャルパイセンのスマートフォンで流してもらい、動画も他のパイセンのスマホで撮影することで話は通っていた。
あとは振付だが、これは踊る本人の頭の中に用意されているのだろう。残るは、
「カッキー、衣装どうすんの?」
「これで、適当に」
訊いてきた響季に腕立て伏せ中の柿内君は片手で身体をを支え、反対の手でシャツを引っ張ってみせる。
「へえ…」
もっとド派手な衣装を用意するかと思ってたので、皆なんだか拍子抜けする。
「あと腰に巻くスカーフが欲しいから、響季」
「はい?」
「それ貸してくれ」
シャツを引っ張っていた手で、柿内君が響季の弁当を包んでいたバンダナを指さす。
「いいけど。カッキー腰巻ける?」
「俺の弁当包んでたバンダナと端結べば回るだろ」
言って柿内君が起き上がり、自分と響季のバンダナの端を結ぶ。傍から見るとなんだかそれは特別な信頼関係が無ければ出来ないことに見えた。
「なんかさ」
「ね」
黒ギャルパイセン達が肩を寄せあい、端的な言葉でニヒヒと笑いながら囁き合う。
ダンス対決の準備をする一年生達はただのコント友達のようだが、なんだかそれ以上の関係にも見えた。
「これならまあなんとか」
だが響季はそれを気にも留めず、机の上で結んだバンダナの長さを確認すると、
「なにこれ可愛いね」
白ギャルパイセンがそれぞれのデザインを見て言う。
響季のバンダナは声優ラジオでメールが採用されて貰ったノベルティグッズで、柿内君のはバイク雑誌の読者ページでメールが採用されて貰ったノベルティだ。デザイン的にそういったものだと気づかれにくいものだったので、お互い普段から使っていたのだ。
端同志結んだそれを、筋トレを終えた柿内君のまあまあ細い腰に響季が巻いてやる。
手を添えた腰をくいくい動かし、柿内君が具合を確かめる。
「こんなもんか」
「いいんでない?」
響季がバンダナと魅惑の腰つきにOKを出す。
準備は着々と進んでいた。
それぞれが自分達の学校で残りの昼休みと5、6時間目をやり過ごすと、あっという間に放課後となった。
「はーい。ちょっとどいてー」
「ここ使うからぁー」
「こっから入んないでねー。今はいいけど始まったら入んないでー」
パイセン達はそのヒエラルキーパワーで中庭に踊れるだけのスペースを確保。
柿内君はパイセン達の化粧ポーチを手に中庭すぐ近くの一階教員用トイレを占領し、メイクルームにしていた。そのため、
「おっ、なんだ」
「いけませぬ。これより先は、何人たりとも通すことはまかり通りませぬ」
「ええっ!?」
本来の目的でやって来た男性教師には門番を仰せつかった響季が、箒を手に黒ギャルパイセンその1と共に立ち塞がる。それぞれ手にした箒とちりとりをカッ!とクロスさせて。
用を足したい教師は戸惑い、響季に付き合わされているギャルパイセンは困った顔をする。
「誰か使ってるのか?」
「それはもう超絶ブイアイピー様が」
「び、VIP?」
「その通り。申し訳ないですが隣の女性教員用か、体育館の近くにあるきっちゃない外トイレか、そこら辺の草場でプリリンとひねりなさいまし」
「ち、小さい方なんだが」
「んもー!今大事な用で使ってるんですってばぁ!すぐ終わるから他のトコ使ってくださいよ!融通効かないなあっ!」
そう、門番口調が続かない響季が適当に追い払い、
「……通すことをまかり通りませぬって日本語あってますかね」
「さ、さあ」
初対面からまだ数時間後しか経ってない、よくわからない一年女子に黒ギャルパイセンが気圧される。仲間がいないと強気に出れないでいた。
そんな会話をしていると、トイレでキュッキュと上履きのゴム底がタイルと擦れる音がしだす。演者はすでにメイクは終え、振りの確認をしているのだろう。
「そろそろいいですかー」
教師達を追い返すのも限界だと、響季がドアをノックする。
するとガチャリとドアが開き、
「うわ」
メイクを終え、開いたドアの隙間からぬるりと出てきた演者に驚く。
柿内君はパイセン達のメイク道具を駆使して、ドラァグクイーンのようなド派手メイクを施していた。
眼の周囲には大きな蝶々が留まっているようなゴージャスなアイメイク。立体的かつ魅惑的に塗った口紅。
ジェルか何かで撫でつけた艶めく髪はオールバックにし、理知的な額が眩しかった。
いつも退屈そうにしている少年は、根底にある野性を剥き出しにしていた。その姿を見て、
「う、美しい。お美しいですぞ柿内様っ!」
テンション高く、響季が胸元でぱちぱちと拍手を送る。
今の彼が言われたら一番嬉しいであろう言葉を賛辞として送りながら。
だがそれは紛れも無く響季の本心であった。
門番役のパイセンはその美しさがわからず、呆気にとられていた。
「そうであろう」
胸に手を当て、柿内君が恭しくお辞儀をする。お辞儀をしつつも決して頭は下げず、アイメイクを施したギラリとした目で観客を見つめながら。
彼は役に入り込んでいた。何役かは本人ですらわからない。
「ねー、もうステージの準備出来…、えっ?」
「ええーっ?」
こっちはもう準備が出来たがとやって来たギャルパイセン達もドン引く。
それを柿内君は楽しそうに口元を歪めて見るが、
「衣装はそれでいいの?」
唯一ドン引かなかった白ギャルパイセンが、彼の全身を見て言う。
「学生っぽいでしょう?」
メイクに気を取られていたが、よく見れば格好もそこそこぶっ飛んでいた。
限界までパンプアップした胸筋を見せるため、胸元までボタンを開けたワイシャツ。
直前の食事を少なめにし、エッジの効いた腹筋を見せるために裾を縛っているので肌色が多い。
制服ズボンの裾は片方だけ足首が見えるくらい捲り、もう片方は膝上あたりまで捲り上げ、固定している。
きっちり脱毛しつつ、男性的な筋肉で細く引き締まった足のラインが綺麗で気持ち悪い。
最初から衣装は制服でと言っていたので予定通りなのだが、
「でもこれだと俺の素晴らしき腸腰筋が見えないな」
自分の腰回りを見て柿内君が言う。
腸腰筋は下半身と上半身を繋げる重要な筋肉だ。ズボンを浅めに履き、ロードバイクで鍛えたそこをチラ見せしたいのに、バンダナスカーフを巻いてしまうとあまり見えない。
「最初んときにベールみたいに顔下半分隠しておいて、曲始まったらばさってするようにすれば?」
衣装ではなく演出に用いたらどうかと響季が提案するが、
「うーん。まあ、おいおい考えるか」
今は取り合えず真知子巻き風にスカーフを頭に巻いておいた。
その顔のまま柿内君が両手を高く掲げ、更に足はクロスさせると、
「THIS IS IT!!」
「うるせーよ!」
今は亡きキング・オブ・ポップの遺作ジャケ写を真似る。
親友の全力のボケに響季も負けないぐらいの声量で、笑顔でツッこむ。そして、
「行こうか」
気合入れも済んだところで呆気にとられているパイセン達に言うと、柿内君はサッサと廊下を歩き出した。
「うん」
それに響季が続き、
「う、うん」
ノリについていけないながらもパイセン達が後ろをついていく。
そんな奇妙な大名行列の中で、響季は内心ゾクゾクしていた。
これは、面白くなりそうだと。
「ぅわああっ」
向こうから廊下を歩いてきた生徒が柿内君の顔を見て声を上げると、
「THIS IS IT!」
「気に入ってんなよ!」
「わっ、なに?」
「THIS IS IT!!」
「はよ行けっ!」
そのたびに彼は天国に召されたキング・オブ・ポップギャグをいちいち披露する。
それを回収するように響季がツッこむ。
ワクワクが止まらなかった。
響季はギャルパイセン達とひとまずお昼にすることとした。
皆が昼食を摂る中、柿内君だけはお弁当を半分だけ食べ、筋トレに勤しんでいた。
三方向にひねる腹筋と背筋。足先を椅子に置いて高さを出したハードな腕立て伏せ。
本番までに少しでもパンプアップさせておこうと。
「かたせちゃん、あと何がいるんだっけ?」
そんな柿内君を見ながら、パイセン達から恵んでもらったお菓子を摘んでいた響季に白ギャルパイセンが訊く。
楽曲は白ギャルパイセンのスマートフォンで流してもらい、動画も他のパイセンのスマホで撮影することで話は通っていた。
あとは振付だが、これは踊る本人の頭の中に用意されているのだろう。残るは、
「カッキー、衣装どうすんの?」
「これで、適当に」
訊いてきた響季に腕立て伏せ中の柿内君は片手で身体をを支え、反対の手でシャツを引っ張ってみせる。
「へえ…」
もっとド派手な衣装を用意するかと思ってたので、皆なんだか拍子抜けする。
「あと腰に巻くスカーフが欲しいから、響季」
「はい?」
「それ貸してくれ」
シャツを引っ張っていた手で、柿内君が響季の弁当を包んでいたバンダナを指さす。
「いいけど。カッキー腰巻ける?」
「俺の弁当包んでたバンダナと端結べば回るだろ」
言って柿内君が起き上がり、自分と響季のバンダナの端を結ぶ。傍から見るとなんだかそれは特別な信頼関係が無ければ出来ないことに見えた。
「なんかさ」
「ね」
黒ギャルパイセン達が肩を寄せあい、端的な言葉でニヒヒと笑いながら囁き合う。
ダンス対決の準備をする一年生達はただのコント友達のようだが、なんだかそれ以上の関係にも見えた。
「これならまあなんとか」
だが響季はそれを気にも留めず、机の上で結んだバンダナの長さを確認すると、
「なにこれ可愛いね」
白ギャルパイセンがそれぞれのデザインを見て言う。
響季のバンダナは声優ラジオでメールが採用されて貰ったノベルティグッズで、柿内君のはバイク雑誌の読者ページでメールが採用されて貰ったノベルティだ。デザイン的にそういったものだと気づかれにくいものだったので、お互い普段から使っていたのだ。
端同志結んだそれを、筋トレを終えた柿内君のまあまあ細い腰に響季が巻いてやる。
手を添えた腰をくいくい動かし、柿内君が具合を確かめる。
「こんなもんか」
「いいんでない?」
響季がバンダナと魅惑の腰つきにOKを出す。
準備は着々と進んでいた。
それぞれが自分達の学校で残りの昼休みと5、6時間目をやり過ごすと、あっという間に放課後となった。
「はーい。ちょっとどいてー」
「ここ使うからぁー」
「こっから入んないでねー。今はいいけど始まったら入んないでー」
パイセン達はそのヒエラルキーパワーで中庭に踊れるだけのスペースを確保。
柿内君はパイセン達の化粧ポーチを手に中庭すぐ近くの一階教員用トイレを占領し、メイクルームにしていた。そのため、
「おっ、なんだ」
「いけませぬ。これより先は、何人たりとも通すことはまかり通りませぬ」
「ええっ!?」
本来の目的でやって来た男性教師には門番を仰せつかった響季が、箒を手に黒ギャルパイセンその1と共に立ち塞がる。それぞれ手にした箒とちりとりをカッ!とクロスさせて。
用を足したい教師は戸惑い、響季に付き合わされているギャルパイセンは困った顔をする。
「誰か使ってるのか?」
「それはもう超絶ブイアイピー様が」
「び、VIP?」
「その通り。申し訳ないですが隣の女性教員用か、体育館の近くにあるきっちゃない外トイレか、そこら辺の草場でプリリンとひねりなさいまし」
「ち、小さい方なんだが」
「んもー!今大事な用で使ってるんですってばぁ!すぐ終わるから他のトコ使ってくださいよ!融通効かないなあっ!」
そう、門番口調が続かない響季が適当に追い払い、
「……通すことをまかり通りませぬって日本語あってますかね」
「さ、さあ」
初対面からまだ数時間後しか経ってない、よくわからない一年女子に黒ギャルパイセンが気圧される。仲間がいないと強気に出れないでいた。
そんな会話をしていると、トイレでキュッキュと上履きのゴム底がタイルと擦れる音がしだす。演者はすでにメイクは終え、振りの確認をしているのだろう。
「そろそろいいですかー」
教師達を追い返すのも限界だと、響季がドアをノックする。
するとガチャリとドアが開き、
「うわ」
メイクを終え、開いたドアの隙間からぬるりと出てきた演者に驚く。
柿内君はパイセン達のメイク道具を駆使して、ドラァグクイーンのようなド派手メイクを施していた。
眼の周囲には大きな蝶々が留まっているようなゴージャスなアイメイク。立体的かつ魅惑的に塗った口紅。
ジェルか何かで撫でつけた艶めく髪はオールバックにし、理知的な額が眩しかった。
いつも退屈そうにしている少年は、根底にある野性を剥き出しにしていた。その姿を見て、
「う、美しい。お美しいですぞ柿内様っ!」
テンション高く、響季が胸元でぱちぱちと拍手を送る。
今の彼が言われたら一番嬉しいであろう言葉を賛辞として送りながら。
だがそれは紛れも無く響季の本心であった。
門番役のパイセンはその美しさがわからず、呆気にとられていた。
「そうであろう」
胸に手を当て、柿内君が恭しくお辞儀をする。お辞儀をしつつも決して頭は下げず、アイメイクを施したギラリとした目で観客を見つめながら。
彼は役に入り込んでいた。何役かは本人ですらわからない。
「ねー、もうステージの準備出来…、えっ?」
「ええーっ?」
こっちはもう準備が出来たがとやって来たギャルパイセン達もドン引く。
それを柿内君は楽しそうに口元を歪めて見るが、
「衣装はそれでいいの?」
唯一ドン引かなかった白ギャルパイセンが、彼の全身を見て言う。
「学生っぽいでしょう?」
メイクに気を取られていたが、よく見れば格好もそこそこぶっ飛んでいた。
限界までパンプアップした胸筋を見せるため、胸元までボタンを開けたワイシャツ。
直前の食事を少なめにし、エッジの効いた腹筋を見せるために裾を縛っているので肌色が多い。
制服ズボンの裾は片方だけ足首が見えるくらい捲り、もう片方は膝上あたりまで捲り上げ、固定している。
きっちり脱毛しつつ、男性的な筋肉で細く引き締まった足のラインが綺麗で気持ち悪い。
最初から衣装は制服でと言っていたので予定通りなのだが、
「でもこれだと俺の素晴らしき腸腰筋が見えないな」
自分の腰回りを見て柿内君が言う。
腸腰筋は下半身と上半身を繋げる重要な筋肉だ。ズボンを浅めに履き、ロードバイクで鍛えたそこをチラ見せしたいのに、バンダナスカーフを巻いてしまうとあまり見えない。
「最初んときにベールみたいに顔下半分隠しておいて、曲始まったらばさってするようにすれば?」
衣装ではなく演出に用いたらどうかと響季が提案するが、
「うーん。まあ、おいおい考えるか」
今は取り合えず真知子巻き風にスカーフを頭に巻いておいた。
その顔のまま柿内君が両手を高く掲げ、更に足はクロスさせると、
「THIS IS IT!!」
「うるせーよ!」
今は亡きキング・オブ・ポップの遺作ジャケ写を真似る。
親友の全力のボケに響季も負けないぐらいの声量で、笑顔でツッこむ。そして、
「行こうか」
気合入れも済んだところで呆気にとられているパイセン達に言うと、柿内君はサッサと廊下を歩き出した。
「うん」
それに響季が続き、
「う、うん」
ノリについていけないながらもパイセン達が後ろをついていく。
そんな奇妙な大名行列の中で、響季は内心ゾクゾクしていた。
これは、面白くなりそうだと。
「ぅわああっ」
向こうから廊下を歩いてきた生徒が柿内君の顔を見て声を上げると、
「THIS IS IT!」
「気に入ってんなよ!」
「わっ、なに?」
「THIS IS IT!!」
「はよ行けっ!」
そのたびに彼は天国に召されたキング・オブ・ポップギャグをいちいち披露する。
それを回収するように響季がツッこむ。
ワクワクが止まらなかった。
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