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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)

27、GOTOのMAKIちゃんのSOME BOYS! TOUCHとMadonnaのHung Upも候補曲にあがっていました

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 同じ頃。
  零児は暇な教師達と共に、撮影場所に決めた教員用駐車場へ向かった。
  用がなく、学校敷地内でもあまり目立たない位置にあるので生徒達も滅多なことでは訪れない。
  カメラをセットしてもらい、四隅を適当なものでバミった即席ステージの中央に零児は立つと、精神を集中するように目を閉じた。
  そして考える。
  自分からヴォーグ対決を仕掛けてきたということは、柿内君はよほど自信があるのだろう。
  しかも向こうは男の子だ。
  肉体的にこちらは不利。
  正攻法では無理だ。分が悪すぎる。
  しかし、むしろちょうどいいぐらいだと開かれたアーモンドアイが前を見据える。
  撮影係のおじいちゃん先生が、すでに準備万端だと笑顔で手を振ってくれていた。
  それに手を振り返しながら、零児は衣装のポケットからバーサングラスを取り出す。
  以前響季が買った雑誌の付録についてきたものだったが、なぜか自分の通学バッグに入れっぱなしになっていた。
  せっかくなので小道具として使うことにしたそれを、手の中でじっと見つめる。

  黒いバーのようなそのアイテムは何も語りかけてはこない。
  真面目に、真っ正面から、真っ向勝負をこちらから仕掛けたことなんてただの一度もない。
  のらりくらりといつものようにやるだけだ。
  不真面目に、全力で。
  ゆっくりとした動作でバーサングラスをかけると、零児の中でカチリとスイッチが入った。
  そして、

 「キャメラさん!準備はいいっ!」

  零児が女優然とした発声でそう言う。

 「大丈夫ですよぉー」

  撮影係のおじいちゃん先生がのんびり手を振って答える。

 「音声さんっ!」
 「ぃ…、いませーん」

  見物を決め込む教師陣の中から、冷え性先生が弱めのツッコミをする。

 「音響さんっ!」

  ラジカセのボタンを押す係の中里先生が手を振り、

 「おまえだァァァーッ!!!」

  びっくり怪談のオチみたいなことを言って零児が指差し、無駄にびっくりさせてやる。

 「照明さんっ!」
 「いいよ」

  科学担当の教師が空を指差す。気温は低いが綺麗に晴れていた。

 「じゃあー…、本番っ!」
 「はい、本番っ!!」
 「本番っ」
 「ほんばん!」
 「本番!!」

  本番という零児の掛け声に、スタッフ教師陣とギャラリー教師陣からも本番という声が重なる。
  まるで映画の撮影現場のように。
  大人達が、それはそれは楽しそうに。

 「……行きます」

  小さな、けれどしっかりとした少女の声に、教師達が楽しい熱を抑えこみ、見守る。
  一人の女子生徒が、完全に場の空気を支配していた。
  そして、たった数分のショーが始まった。



「れーじちゃんの動画も来ましたッ!」

  客も居ないしと早々に店じまいしてしまった献結ルームにて。
  パソコン前にいた受付職員さんが嬉々とした声で言う。
  先に届いていた柿内君のエントリー動画に次いで零児の動画も届き、これでようやく出展作品が揃った。

 「どれどれ?」
 「早く見ようっ!」

  採血室で後片付けをしていた看護師さん達もわらわら集まってくる。
  中には自販機の無料ジュースを手に、準備万端の人もいた。

 「もっとモニターこっちに向けられない?」
 「こうですか?」

  職員さんが受付カウンター内にある大きなパソコンディスプレイを、みんなが見えるように向ける。
  そして審査員全員がパソコン前に集まったところで、

 「じゃあまずは先に届いたカキウチ君の方から」

  職員さんの声に、おおーっ!と皆が拍手する。お姉さん達は状況を楽しみまくっていた。
  再生ボタンを押すと、一人の少年が学校の中庭らしき場所が映し出された。
  四隅に置いたペンケースやローファーをバミリに使い、その中心に彼は立っていた。
  腰履きの制服ズボンは裾を長さ違いで捲り、シャツは裾を縛って引き締まった腹筋をチラ見せ。
  胸元は3つ開けてこちらも胸筋を見せていた。
  シャツの袖も、肌寒い季節なのに肘まで捲り上げている。
  全体的に肌色が多かった。
  腰に手を添えたモデル立ちで、もう片方の手は顔の前に。
  そのポーズのまま、曲が流れてきた。
  メロディに合わせて大きな手のひらで見えなかった顔が顕になり、

 「すごいっ!メイクしてない?」
 「してるっ!」

  看護師さん達がきゃあきゃあと騒ぐ。
  肌色多めな少年はドラァグクイーンのようなド派手なメイクを施していた。
  そのメイクに負けない高貴な視線でカメラを見つめている。
  そして、流れてきたどこか怪しげなイントロに、

 「これなんの曲だっけ」

  看護師さんが誰とも無しに問う。選曲も審査の対象に含まれていたが、

 「ガガ様のJUDASだって」

  動画を受け取った受付職員さんがメールに書かれていた曲名を言う。
  流れてきたのはLady GagaのJUDASだった。
  イントロで一度顔を伏せると柿内君は両肩を自らの手でがしっと掴み、掻き抱くにする。
  と、腕をふぁさっと広げ、腕と手のひらを柔らかく使って蝶のように羽ばたく。
  いよいよ曲が始まると、

 「うわ…、これが」
 「…Vogue?」

  ヴォーグというものを知らなかった若い看護師さん達が、ディスプレイを見ながら割り台詞で言う。
  少年の若木のような細腕が、曲に合わせて自在に空を切る。
  そこには一切の迷いがなく、どう動けばいいか血やDNAが知っているような動きだった。
  脳から命令されるまま動いているような無機質な動きが心地いい。
  腕、手首、肘。全ての関節が内へ外へと自由に動き、予測がつかない。
  腕の動きが見事な左右対称、かと思えば非対称になり、かと思えばカクカクした蛇のように空間の中を泳ぎ伸びていく。
  更に身体全体を捻り、回転し、足の動きとも組み合わせ、それらを恐ろしい手数で繰り出してくる。

  曲のリズムに合わせて踊ってる、かと思うと一瞬にして早回しのようにダンスがリズムを追い越してしまう。
  一定の型やルールが存在する中で自由に動いているような、なんとも不思議な踊りだった。
  が、それでも決して踊りの中に優雅さは忘れなかった。
  振付の中で柿内君は時折、その美しい顔を大きな手のひらと腕全部で縁取った。
  額縁の中に収まった絵のような美しさに、審査員達から思わずほう、と感嘆の吐息が出そうになるが、それも一瞬ですぐにまた奇抜な腕の動きに目を奪われる。
  ビタ、ビタ、ぐにゃりぐにゃりと直線的なのに柔らかさを感じさせるその動きは、男性だからこそ出せた。
  チラ見せした腹筋や胸筋、自慢の腸腰筋など、硬質な筋肉は滑らかな動きの中でより映える。
  男性特有の大きな手のひらからセクシーさを振り撒き、気品がありつつも野性的な動き。
  海外ブランドの紳士服マネキンのように非日常なポーズもとる。
  暑い日差しから美しい顔を守るように手を額にかざす。
  そして顔全体に白粉を塗りたくるような手のひらの動きに、 若い看護師さんはルームのお姐さん達から元々ヴォーグとはゲイの人達がその美しさを競い合うために産まれたダンスだと教わったことを思い出す。
  ニの腕引き締まりそう、という独り言のような誰かの言葉に、その場にいた全員が頷き、

 「すごいすごい!」

  サビになると柿内君は頭の上で両手のひらを小さなプロペラのように高速で回転させ、審査員のテンションを更に上げさせた。
  ズボンのベルトループに通していた長めのバンダナを振付の中で抜き取ると、誘うような目付きでそれを身体の上に滑らし、しゅるしゅると纏わりつかせる。
  その動きの中で留めていたシャツのボタンも外し、更に全体の肌色を多くした。
  生き物のように身体の上を這い回るバンダナをスカーフのように首に巻き、またヴォーグに戻ったが、

 「…顔で踊ってる」

  赤峰さんの呟きに、隣にいた看護師さんが、ですね、と頷いた。
  いくら激しく動いても、柿内君はカメラに視線を向けたまま踊り続けた。
  彼は顔サーと呼ばれる、顔で踊るダンサーだった。
  美しき顔を軸にして踊るため、そこから伸びる背筋、腹筋、手足にブレが出ない。
  美しき私を見なさい、もっともっと見なさい、というオーラと自信が画面から滲み出ていた。
  この歳にして、彼はパフォーマーとしての肝が座りきっていた。
  たかだか15、6歳の男の子にお姉さん達は魅了される。
  ともすれば気持ち悪ささえ伴うその動きに、一瞬たりとも目が離せない。
  そして与えられた演技時間はあっという間に終わり、柿内君はバンダナを首から取るとバッと宙に放り、それが地面に落ちると同時に曲が終わった。

 「おおおーっ!」

  出展作品が終わると一拍置いて、ここにはいないパフォーマーに審査員からは賞賛の拍手が送られた。

 「これはぁー、なかなかですなぁ」

  ヴォーグというものを初めて知った若い看護師さん達が不敵な笑みで腕組みし、これは面白くなってきましたなと頷き合う。
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