引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由。ファイナル

ジャンマル

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引き勇

開戦準備

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 全力疾走で、戻ってきた。と、言っても、100mほどしか離れていないのが幸いだった。歩くの遅い? うっせ。ほっとけ。
「……着いた、晴ちゃん……無事でいてくれっ……!」
 ガチャッ。ドアをたたき開ける。そこには――
「い、伊勢谷さん?」
 よ、よかった。無事でいてくれた。
「なんて、言うとでも思ったでござるか?」
 え……?
「違うって言っている。花沢晴はこちらの手の中でござる。下手に動けばどうなるか――わかっているな?」
 お、脅しかよ。しかも、忍者!? 忍者が何故ここに!?
「彼女の身柄は政府で預かる。お前たちは、何もするな」
 何を言ってんだよ。手を出さないわけないだろ。
「おっと。もうすでにここには居ないでござる。それ故、何をしても無駄でござる。ではな」
 そう言い残し、ポンッ! という音と、煙と共に消えた。……やっぱり、忍者じゃないか。

 しばらくして、美雨さんたちが帰ってきた。帰ってきてすぐに、晴ちゃんを探し始める美雨さんに、さっき起きたことを話した。
「……忍者ですか。はぁ……なんで戦わなきゃいけないんですか」
 知っている風だった。さっきの忍者、いったい何者なんだ?
「彼は、猿飛半蔵。普通の忍者と違って、政府の暗殺や依頼のみを専門に扱っている政府のお墨付きです」
 それ、忍者的には普通な気がする。というか、それが忍者だ。主に忠実。あの忍者は、いわば政府の犬。政府がある限り、彼は政府に味方し続けるだろう。厄介だな……忍者なんて、術が予想外なものをどう対応しろと。
「今すぐにでも、ジャンヌの遺産を手に入れるべきだな」
 ずっと気になっていた。その、『ジャンヌの遺産』というのは本当にいったい何なんだ?
「この間も説明したが、手に入れればそいつの願いを何でも叶えてくれるもの。それがジャンヌの遺産だ。しかし、ハルトしかありかを知らない。で、何か思い出したか?」
 思い出したには思い出したが……彼を信用できたわけじゃないからな……
「……思い出しているのなら、教えてください。伊勢谷さん!」
 本当に、晴ちゃんの事になるとどうしようもなくなるな。美雨さんは。しかし、彼女に、そのジャンヌの遺産は持たせられない。あれに関して、父さんが最後に教えてくれたのは、ジャンヌの遺産を手にすれば、手放したところで一生付きまとう死の呪いがまとわりつくと。それを、最後に教えてくれた。だからこそ、自分から殺されることを選んだんだ。そんなものを、美雨さんに持たせることはできない。僕が、そいつを見つけ出す。必ず。
「言いたくないならいい。だが、そいつを見つけ出すのが、晴ちゃんを助けるのにつながるんだ。その意味を、忘れるなよ。伊勢谷」
 一体、ジャンヌの遺産がどうなれば救えるんだよ。晴ちゃんを。願うのか? 晴ちゃんを助けろって……?
「政府は、あれを欲している。あれで、戦争に勝てる軍事力を手にするつもりだ」
 駄目だ。それじゃあ、晴ちゃんを助けられても、戦争が起こる。なのに、渡せだって? ふざけるな。一人を救ったとして、一体何千万の死人が出ると思っているんだ。そんな危険なもの、壊してしまえば……
「でも、ケビン。なんであなたはそこまで詳しいんですか?」
 そ、そうだ。そこだけが気になってたんだ。七瀬さんは元政府側だ。しかし、その七瀬さんすら知らない情報を、なんで。
「……言わなきゃとは思っていたよ。と、言っても、今日であったばっかだがね」
 ジョークはいい。こんな時に、ジョークはやめてくれ。一番情報が欲しいときに。冗談は今は時間の無駄にしかならない。
「まあ、そう焦るな。政府に捕まったといっても、平気だ。殺すよな真似をする輩じゃねえ。何より、晴ちゃんはジャンヌの遺産にもっとも近づくカギだからな」
 何を言っているんだ? もっと、わかりやすいことを言ってくれよ。何を居ているのか。全くわからない。
「あの子は、ジャンヌの生まれ変わりらしいぞ」
 しれっと何を言うか。そうじゃない、なんで、彼女にそんなあれが。
「理由なんて生まれ変わるのにいらねえだろ? 決めるのは、神様だけだ」
 ……そんなことはいい。それより、一体どうすれば助けられるんだ。遺産を見つけ、その後。どうすれば……
「遺産を政府に渡すのが手っ取り早いがな……」
「そんなことはどうでもいいです。ケビン。いい加減、一番大事なこと。話してください。じゃないと、伊勢谷さんが眠れません!」
 無理やりぼけなくても……一番つらいの、美雨さんだろ?
「ああ。そうだったな。話すよ。俺がいったい何者なのか。な」
 話してくれる。が、長そうだ……
「まあ、俺はつい最近まで政府側だったんだ。つい最近までな」
 強調されると、尚更疑われるだけだろ。なんでそんな回りくどい真似を……
「だけどな。さっき、七瀬を見て確信できた。お前たちの味方になるってな」
 とか言っておきながら、この状況を作り出したのはお前じゃないのか?
「この状況は俺の仕向けじゃない。多分、半蔵の独断だ。あいつ、尾行に関しては暗殺者じゃトップクラスだからな」
 だから、忍者が隠密行動できなきゃだめだってば。
「感謝しろよ? 七瀬に。俺は、何しろ『元』政府の特務隊の隊長なんだからな」
 なんでそんな偉い人がそこまで七瀬さんにこだわるんだ? 彼女が父さんの弟子だからか?
「まあ、七瀬にこだわってるわけじゃないんだ。居場所を探してたあいつがここを選んだんだ。さぞ、楽しいものなんだろうってな」
 いや、本人要るし。そんなこと言っても。
「いや、別にあたしの勝手じゃないか。別に、ケビンは向こうに残ってても……」
 そうだ。もっと言ってやれ。
「だけど、俺が相手でお前、勝てるのか? 俺の部隊にエルザがいること忘れたわけじゃあないよな?」
 エルザ……? 誰だ?
「忘れてはないけど……」
「俺は、ハルトが死んだのを聞いてここに来たんだ。任務の為じゃない。それだけは、信じてくれ」
 やめてくれ、頭を下げないでくれ。疑っていたこっちにも悪いって言うのはある。
「だが、俺がこっちにいるわけだ。まだ、抜けたとも言ってない。俺がいるだけで、政府相手に動き回れる幅が広がるだろ?」
 それも……そうか。本当に彼が信用できる味方なら、それ以上に心強いものはない。……七瀬さんが信用しているんだ。多分……大丈夫なのだろう。
「伊勢谷さん。今は信じるしかありません。だから、信じましょう」
「それしか……無いんだからな。そうするしかないんだ」
 久しぶりにしゃべった気がする。なんて、そんな冗談を言える。ちょっとだけ、余裕が出て来た気がした。

「よし、でも、まず何をやるんだ?」
 そこから始まる。何かが。戦闘準備? ばっちりだ。銃だってメンテした。
「いきなり政府に殴り込むのは無謀すぎる。やっぱし、もうちょい修業だ。生半可な覚悟で行くと、お前らはエルザに殺される」
 ええ?! というか、箱を取りに行かなきゃだったな。
「そうそう、箱を手にしたものには、なんでも願いがかなう権利が与えられるが、同時に、タイムリープ能力も手に入れる」
 ……なんでそんな大事なこと隠してたんですかねぇ……
「伊勢谷、お前身に覚えあるはずだぞ」
 え……? んなこと……ない――あっ。そう言えば、美雨さん誘拐の時に父さんがあたりもしない能力を……
「そうだ。ハルトは前の所有者だ」
 まあ、その辺は大体分かってた。
「んまあ、ありかはわかってるんだ。伊勢谷、お前に託すぞ」
 え、ちょ。そんなもん僕に託さないでください。
「お前しか扱えないはずだ。大丈夫だ、ハルトだってつかえたんだからな」
 ぐふぅ……どうしよう。
「伊勢谷さん、手に入れたところでタイムリープは常時、願いは好きなタイミングのはずです。何も悩むことはないはずです」
 それも一理ある。けど。やっぱり……
「……シャキッとしろよ。伊勢谷。おめえにしかできねえんだ。誇っていいんだぞ? お前がやらなきゃ誰がやる」
 七瀬さん……
「そうです。晴の命、預けます」
 いや、そんな軽く預けられても……
「……お前の自由だが、一つ言うと、お前の銃だけは特殊だ。ハルトのだからな」
 何その隠しギミック的なの!? 僕知らないぞ!?
「タイムリープ。でも、それは過去改変だ。本来のタイムリープとは少しわけが違う。意識を世界線の分岐地点に飛ばし、最良の世界線に入る。それをつなぐことのできる遺産なら、意識を戻しても過去は変わっている。わかるか?」
 ……なんとなーくわかる気もしなくもない。つまり、最良の世界線を選ぶための道しるべが遺産……そう言う事か?
「簡単に言ってしまえば、こいつを使えば、少なくとも誘拐の時間は引き延ばせる」
 何故、大きく改変しようとしないんだ? タイムパラドックス……か?
「大きく改変しようとはするな。その場合、タイムパラドックスが起きる。この場合のタイムパラドックスでは、一番改変に関わっていた人間、つまり助ける対象にタイムパラドックスが起きる」
「じゃあ、大きく変えようとすれば、晴ちゃんの存在がなくなるかもしれないと?」
「ああ」
 ……高望みは出来ない。だから、厳しい状況には変わりはしない。だけど、少しの希望にも変わりないのは変わらない。父さんがやろうとしてたのは何かわからない。だけど、父さんの意思は継げる。
「遺産のありかは、ここの地下だ」
「ほ、本当に言ってるのか!?」
 少し驚くケビン。でも、ザル警備ではないぜ。
「でも伊勢谷さん、地下にはどうやって?」
 その方法も聞いてある。説明できるレベルに。
「父さんの使ってた書斎あるだろ? そこの本の中に、押すと階段が出るらしい」
「いや、その説明大雑把すぎます!?」
 驚くのそこか。
「取りま、あれだろ? 遺産は無事。それに変わりない」
 ああ。と、頷くと、七瀬さんは何かを探し始めた。何を探しているんだ?
「だってよ。聞いたか? 隠れてないで出て来いよ。いるんだろ? 半蔵」
 え……? 七瀬さんの言葉の後、数秒後、天井でボン。という音がした。忍者、やはり侮ってはいけない。さすが忍者、汚い。
「ばれてたでござるか。仕方ない。今日のところは引くが、必ず遺産はこちらで手に入れる」
「なあ、忍者。知ってるか? 遺産を手にすれば最後、ろくな死に方は出来ないんだぜ? 触れた時点で所有者。お前も仲間入りだ」
「拙者は……国のために死ぬと覚悟した身。だから、ろくな死に方など最初から期待していない。それではっ!」
 ぼんっ。という音と煙とともに、消える。……今回だけ、見逃してくれたのだろう。
 さて、これで本当に邪魔はいなくなった。書斎に移動しよう。そう言って、七瀬さんたちと共に書斎に移動するーー

「移動し終わったからあれだけど、早速さがそうか」
 書斎の本と言っても、本棚は10〜20。数えきれないほどの本棚の数。これは、探すのに骨が折れそうだ。と、僕が探し始めようとした矢先、ケビンが大声で言った。
「ハルトが隠すなら……ここだっ!!」
 と、言うと、実際階段出てきた。ヤベええええ!! 幼馴染ヤベええええ!!
「ほれ、入るぞ」
 と言われ、ケビンについていく。

 中に入る。そこに置いてあったのは、箱だ。何の変哲もなく、特に何か特別ってわけでもなさそうな箱。いや、遺産なんだから特別ではあるか。
「これが……ジャンヌの遺産?」
 あっさり過ぎる。まあ、ここに来るまでが一苦労なんだけれども。それでも、こんなにザル警備なのはどうなのだろうか。
「取れ。伊勢谷。それで開戦の準備は完了だ」
 開戦の準備……そうか。そうだよな。これを取ればもう戦うしかなくなるんだよな。でも――僕はっ!
 箱を取る。その瞬間、僕は異常なほどのまでの頭痛に襲われる。なんだ、これ。いてえ。くっそいてえ……
 痛くてもがいている僕に、見ていた3人は何か言っていたが、何も聞こえなかった。

 15分間、頭痛は続いた。頭痛が引くと、立てるようにはなったが、少しふらつく。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……今はもう引いたから」
 そう返しても、少し不穏な雰囲気は残った。この箱は、本当に僕たちにとって最強の切り札になりえるのだろうか? 世界線だって、大きく変えてはいけない。ならば、残っているのは願い事だけだ。しかし、これを使うのは最後の最後。そんな気がする。父さんが最後の死後で使ったのだって、理由があったかもしれない。だから、怖くて無理だった。
「伊勢谷さん、それに頼るのはどうしようもなくなた時だけです。それを分かったうえで……行きましょう。政府に」
 そうだ。政府に、殴り込むんだ。殴り込んで……晴ちゃんを助ける。そして、ついでに政府の野望も食い止める。
「行きましょうか」
 向かう。車で。もちろん、ケビンの車ではなく、美雨さんの車でだ。
 ……というか、車で行けるってどんなだよ……
「車で行けなきゃ困ります。政府的にも」
 ま、まあ。そりゃそうだよな。うん……
「伊勢谷さん、向こうについたらまず……」
「分かってる。僕にしかできないことだ。やって見せる」
 あれ? なんだっけ……何やるんだっけ……
 緊張している……? 失敗すれば跡がないから。緊張している? ……緊張しないはずがない。人一人、国を動かす。そんな重いことだ。これは。最初は美雨さんに誘われただけだと思ってたけど……まさかこんなことになるとは。こうなる運命だったのだろうか? まあ、そんなことはいい。政府に殴り込んで失敗すれば確実に処刑だよな……失敗できない。まあ、最悪遺産があるからどうにかはなる……どうにかは……でも、物の力でどうこうってあまり好みじゃないんだけども……

 でも、政府に向かった後、晴ちゃんを助けることに徹する。そうして、全員で必ず帰るんだ。
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