引きこもりの僕がある日突然勇者になった理由。ファイナル

ジャンマル

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それでも意思は変わらない

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「今の声……、なんだったんだろう?」

 謎の声、あれは、少し年寄りの感じの声だった。「箱を捨てろ」確かに、そう聞こえたんだ。箱は捨てない。持ち帰る。それが任務だからだ。

「ジャンヌ~早く、帰ろうよ~」

 彼女は、少し満足そうな顔でこちらを見てそういった。しかし―――その笑顔は、数秒後。風の音と共に消え去った。
 彼女が振り向いた瞬間、さっきの男が、彼女にナイフを突き刺した。

「貴様、よくもやってくれたじゃねえか!!! さっきの10倍返しで返してやるよ!!」

 男の暴言。それは、当然、まだ意識のあるリリの耳に入った。そして、リリは抵抗した。最後の力を振り絞って。
 だが、その抵抗も長くは続かなかった。男のナイフは、リリの心臓をど真ん中で突き刺した。

 男は、リリが倒れるのを見て、箱をよこせ、クソガキ。私にそういった。
 しかし、私は動けなかった。たった今、目の前で起きたことを見た瞬間、吐き気がした。嫌気がさした。罪悪感を覚えた。
 駄目だなぁ……、私って。いつか、リリが言ってたっけ? ジャンヌは、臆病で、控えめだから私がついてないとすぐにくたばっちゃうよ。彼女がそう言ってるのを思い出しながら、私はずっと泣き崩れながらあやまった。その声は、もうリリには聞こえない。それでも、謝った。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 そのうちに、私は意識が薄れていった―――はずだった。
 また、声が聞こえた。もちろん、その声の先には例の箱がある。

 その箱は私に話しかける。私と今すぐに契約するんだ。そうすれば、君は彼女を救い出せる。確かに、そういったのが聞こえた。契約―――それが、たとえどんな苦難でもいい。どんな雑用でもいい。どんなに罵声を浴びせられることをしてもいい。何でもします。だから―――私に力を―――勇気をください……!

「私は―――あなたを許しません!!!!!」

 それが、私が後に「フランスの英雄」そう呼ばれるきっかになったのかもしれない。

 殺した。私は、男を殺した。この私が? 人殺し? ……、でも、あなたの命一つで償えることではないんですよ。だからせめて―――苦しんで死んでいってください。
 神との契約。それは、私に『感情』という武器を失う代わりに、彼女を救えるというものだった。とっさの判断だった。彼女を救うことに意味がある。彼女を救えるなら、この命だって捧げられる。

 数時間後―――この森に居た兵士が目を覚ました。おそらく、魔術師は男が死ぬのをどこかで見ていて、呆れて魔術を解いていったのだろう。
 兵士が私に声をかける。これは君がやったのかい? 兵士は、どこか震えた声でそう言っていた。この死体を目にしたからだろう。

 私は、彼をバラバラにして殺したからだ。まずは手を。次に足を。次にはらわたを。最後に頭ごと脳みそを潰してやった。
 神がそう言っていたから。神がそうしろと言っていたから。私は従っただけだ。それがどんなに重罪だろうと、リリを殺した彼の罪も重い。

「君―――これを一人でやったというなら―――離れてくれないか……?」

 どうして? 私を見てそんなことを言うの? ……、怖かったのだろう。私の、何も見えなくなった瞳が。彼も、男のようになるのを想像するのが。
 でも、殺しはしない。彼には罪はないからだ。

「……、とりあえず、城まで戻りましょうか」

 そう言って、私は彼に馬車をひかせた。

 ……、そういえば、男と行動を共にしていた彼女は、見ていたのだろうか?
 最愛の人が、私に殺されるところを。見てたよね? 当然。それを見て、自殺でもしたのではないだろうか。まあ、私には関係ない。

「……、この箱、まるっきり喋らなくなった……」

 喋らなくなったということは、リリを助ける方法がわからなくなったというわけだ。

「ねえ、なんかしゃべってよ。出ないと、あんた埋めるよ?」

 そう言ったら観念したんか、喋った。そしてリリを救う方法を聞いた。彼は、まだ、教えられない。そうじらした。埋めてやる。帰ったら埋めてやる。

「……、ジャンヌ―――って言ってたっけ? 君、怖くなかったのかい?」

 兵士から話しかけられる。怖い? ああ、男を殺した事か。
 いいえ? 全然怖くなかったです。そう、私は彼に返した。兵士はその後に続けた。

「あの男はね、今までに何百と人を殺してきてるんだ。でも、さすがに想像できなかったんだろうね。そんな自分が、君みたいな女の子に殺されるって言うのを」

 そうか。想像力がないんだね。つくづく、かわいそうに思えてきた。同情するつもりはないが。

「……、このまま、城まで飛ばすよ。捕まっててね」

 今の私は、皇太子に会う資格があるのだろうか? こんな状態のリリを、皇太子に見せられるだろうか? 見せられない。むしろ、見せたらいけない。

 そうこうしてるうちに、箱が、やっとはいてくれた。リリを救う方法だ。

【……、君は、彼女を救う中でどんな苦悩があっても平気なのかい?】

 平気。そう、首を振った。

【彼女を救うってのはね、神の僕からすると、さっきの男を触らずに倒すくらい簡単なんだ】

 さすがにそれは無理だろう。箱の中の神は続けた。

【なんでも、一つだけ願いを叶える。でも、君には生き地獄を味わってもらう。それでもいいかい?】

 あなたと契約したときから、感情なんてとっくにない。だから―――生き地獄なんて耐えきって見せる。それで、彼女が救えるのなら、私はどんなことでも引き受ける。そう、神に伝えた。
 わかった。神は少し躊躇ったが、そういった。

 これから、始まるんだ。地獄が。生きているのがつらいほど、彼女の顔を見るのもつらいほど。自分が壊れる日々がこれから始まる。それでも―――私の決意は変わらない。
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