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「外に出たい」
「そう言われましても」
困ったように眉を寄せるイアン。わかってるよ。君に文句を言っても無意味なことくらいわかっているよ。だが外に出たくて仕方がない。もはや別館に監禁されていると言っても過言ではない状況に追い込まれた俺は、なりふり構っていられなかった。
「あの腹黒王子め」
外出はしばらく待って欲しいと俺に告げたきり進展がない。もしや別館内を自由に移動できるようにしたことで、解決したとでも思っているのだろうか。そんなわけないだろう。
「てか殿下って独身なの?」
雪音ちゃんが、マルセル殿下は二十七だと言っていた。なんかこう、俺の勝手なイメージでは異世界の結婚年齢って低い気がする。二十七で独身の王子様って珍しいんじゃなかろうか。たとえ結婚はまだでも婚約者くらい既にいそうではある。もし結婚しているのならば、マルセル相手に色仕掛け(?)して気に入られよう作戦は不発に終わってしまうかもしれない。
俺の疑問に、イアンが「左様でございます」と相槌をうつ。
「この国では代々、次期国王陛下たる王太子殿下主導で聖女召喚の儀が執り行われます。そのお役目を果たしてようやく婚姻及び正式な王位継承権が認められるという習わしでして」
つまり聖女召喚の儀は、王様になるための通過儀礼みたいな立ち位置なのか。なるほどなるほど。
ということは、マルセルは先日雪音ちゃんを召喚したわけで。これを機にようやく正式に国王陛下になる権利と結婚するお許しを得たということになる。
「ちなみに結婚相手って聖女?」
召喚した聖女とそのまま、なんて乙女ゲームでありがちだ。一応確認しておけば、イアンは「いいえ」と否定する。
「お相手は誰でも」
「そうなんだ」
そういえばこの国(というか世界)について、俺にはろくな知識がない。
改めてイアンを質問攻めにすれば、彼はよどみなくこの世界について教えてくれる。
いわく、魔術のような物が発達した世界であり、世界の均衡を保つため、数十年に一度の頻度で異世界から聖女と呼ばれる存在を召喚する必要があるらしい。聖女は浄化の力を所持しており、世界に蔓延る淀みを浄化することにより、世界の平穏を守ることができるのだそうだ。
ゲームみてぇ。なにそのファンタジー設定。俺もそっちがやりたかった。こんなわけのわからん神様役じゃなくて。浄化とかやってみたい。
「俺にもあったりしない? 浄化の力」
「おそらくないかと。浄化の力は異界からの女性が所持するとの言い伝えでございますので」
「へー」
じゃあ俺にはなさそうだな。なんか不思議な力がありそうな感じも特にないしな。異世界で不思議パワー使って無双するのは、諦めるしかないのか。ちくしょう。
「しかしミナト様は異界の神でございますからね。我々には想像もつかないようなお力をお持ちなのでしょう」
「だから持ってないってぇ」
そもそも神じゃねぇし。ただの人間なのよ、俺。見たまんまの成人男性なのよ。想像もつかないお力なんて有していないっての。
だが躍起になって訂正するのも飽きてきた。それに雪音ちゃんとの話し合いで、俺が実はただの平凡な人間であることはバレない方がよろしいという結論に至っている。ここは軽く流そうではないか。
そうして俺は、退屈を紛らわすべく届きそうで手の届かない青空へと目を向けた。
※※※
「私は天才だと思いませんか?」
「お、おう」
なにやら突然自己評価が爆上がりしたらしい雪音ちゃんは、頬を赤くして興奮しているようだった。
なにがあったんだよ。
雪音ちゃんの部屋にお邪魔した際の出来事である。いつものように気を利かせたイアンたちが廊下に引き上げるのを見計らって、雪音ちゃんがわくわくと口を開いた。
「カミ様の神様設定を利用してやればいいんですよ!」
「ふーん?」
よくわからんが、雪音ちゃんが大興奮しているということはわかった。ちょっと落ち着きなさいよ。
「てことで! カミ様は定期的に外に出ないと弱って死んでしまうという設定にしておきました!」
とんでもねぇ設定を追加してやがる。
だが人間である以上、いつまでも部屋に引き篭もっていては体に毒であることは事実だ。「これで外出できますね!」と手放しで喜ぶ雪音ちゃんは、マジで俺のことを真剣に考えていてくれているらしい。ありがたい。
「じゃあ近いうちにお出かけできるかもってこと?」
「そうですよ! よかったですね、カミ様!」
「ありがとう、雪音ちゃん」
握手を交わせば、雪音ちゃんは「時間無制限の握手会だぁ!」となにやらテンション上げていた。そのまま俺の手をぶんぶん振り回してくる。握手会ってこんな乱暴な感じだったっけ? なんか体ごと持っていかれそうな勢いなんだけど。
「あと! カミ様にとって性別の概念は重要じゃないから男でも女でも結婚できるって設定にしておきました!」
「……ん?」
なんだって?
目を丸くする俺に、雪音ちゃんがえっへんと胸を張る。
「これでマルセル殿下も、心置きなくカミ様に手を出せますね!」
出させねぇよ?
なにを言ってるんだ、この子は。
「そう言われましても」
困ったように眉を寄せるイアン。わかってるよ。君に文句を言っても無意味なことくらいわかっているよ。だが外に出たくて仕方がない。もはや別館に監禁されていると言っても過言ではない状況に追い込まれた俺は、なりふり構っていられなかった。
「あの腹黒王子め」
外出はしばらく待って欲しいと俺に告げたきり進展がない。もしや別館内を自由に移動できるようにしたことで、解決したとでも思っているのだろうか。そんなわけないだろう。
「てか殿下って独身なの?」
雪音ちゃんが、マルセル殿下は二十七だと言っていた。なんかこう、俺の勝手なイメージでは異世界の結婚年齢って低い気がする。二十七で独身の王子様って珍しいんじゃなかろうか。たとえ結婚はまだでも婚約者くらい既にいそうではある。もし結婚しているのならば、マルセル相手に色仕掛け(?)して気に入られよう作戦は不発に終わってしまうかもしれない。
俺の疑問に、イアンが「左様でございます」と相槌をうつ。
「この国では代々、次期国王陛下たる王太子殿下主導で聖女召喚の儀が執り行われます。そのお役目を果たしてようやく婚姻及び正式な王位継承権が認められるという習わしでして」
つまり聖女召喚の儀は、王様になるための通過儀礼みたいな立ち位置なのか。なるほどなるほど。
ということは、マルセルは先日雪音ちゃんを召喚したわけで。これを機にようやく正式に国王陛下になる権利と結婚するお許しを得たということになる。
「ちなみに結婚相手って聖女?」
召喚した聖女とそのまま、なんて乙女ゲームでありがちだ。一応確認しておけば、イアンは「いいえ」と否定する。
「お相手は誰でも」
「そうなんだ」
そういえばこの国(というか世界)について、俺にはろくな知識がない。
改めてイアンを質問攻めにすれば、彼はよどみなくこの世界について教えてくれる。
いわく、魔術のような物が発達した世界であり、世界の均衡を保つため、数十年に一度の頻度で異世界から聖女と呼ばれる存在を召喚する必要があるらしい。聖女は浄化の力を所持しており、世界に蔓延る淀みを浄化することにより、世界の平穏を守ることができるのだそうだ。
ゲームみてぇ。なにそのファンタジー設定。俺もそっちがやりたかった。こんなわけのわからん神様役じゃなくて。浄化とかやってみたい。
「俺にもあったりしない? 浄化の力」
「おそらくないかと。浄化の力は異界からの女性が所持するとの言い伝えでございますので」
「へー」
じゃあ俺にはなさそうだな。なんか不思議な力がありそうな感じも特にないしな。異世界で不思議パワー使って無双するのは、諦めるしかないのか。ちくしょう。
「しかしミナト様は異界の神でございますからね。我々には想像もつかないようなお力をお持ちなのでしょう」
「だから持ってないってぇ」
そもそも神じゃねぇし。ただの人間なのよ、俺。見たまんまの成人男性なのよ。想像もつかないお力なんて有していないっての。
だが躍起になって訂正するのも飽きてきた。それに雪音ちゃんとの話し合いで、俺が実はただの平凡な人間であることはバレない方がよろしいという結論に至っている。ここは軽く流そうではないか。
そうして俺は、退屈を紛らわすべく届きそうで手の届かない青空へと目を向けた。
※※※
「私は天才だと思いませんか?」
「お、おう」
なにやら突然自己評価が爆上がりしたらしい雪音ちゃんは、頬を赤くして興奮しているようだった。
なにがあったんだよ。
雪音ちゃんの部屋にお邪魔した際の出来事である。いつものように気を利かせたイアンたちが廊下に引き上げるのを見計らって、雪音ちゃんがわくわくと口を開いた。
「カミ様の神様設定を利用してやればいいんですよ!」
「ふーん?」
よくわからんが、雪音ちゃんが大興奮しているということはわかった。ちょっと落ち着きなさいよ。
「てことで! カミ様は定期的に外に出ないと弱って死んでしまうという設定にしておきました!」
とんでもねぇ設定を追加してやがる。
だが人間である以上、いつまでも部屋に引き篭もっていては体に毒であることは事実だ。「これで外出できますね!」と手放しで喜ぶ雪音ちゃんは、マジで俺のことを真剣に考えていてくれているらしい。ありがたい。
「じゃあ近いうちにお出かけできるかもってこと?」
「そうですよ! よかったですね、カミ様!」
「ありがとう、雪音ちゃん」
握手を交わせば、雪音ちゃんは「時間無制限の握手会だぁ!」となにやらテンション上げていた。そのまま俺の手をぶんぶん振り回してくる。握手会ってこんな乱暴な感じだったっけ? なんか体ごと持っていかれそうな勢いなんだけど。
「あと! カミ様にとって性別の概念は重要じゃないから男でも女でも結婚できるって設定にしておきました!」
「……ん?」
なんだって?
目を丸くする俺に、雪音ちゃんがえっへんと胸を張る。
「これでマルセル殿下も、心置きなくカミ様に手を出せますね!」
出させねぇよ?
なにを言ってるんだ、この子は。
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