735 / 894
17歳
751 本心
しおりを挟む
背中から温もりが消えたはずなのに、徐々に体温があがっていくのを感じる。
咄嗟に頬を両手で包んで隠してみるけど、赤くなっているであろう顔は誤魔化せる気がしない。なにかを誤魔化したくて、必死に考える。一体なにを考えるべきなのか。
付き合えたらいいなって、思ってますよ。
ティアンの言葉が繰り返し脳内に流れる。ちょっと淡々とした、けれども照れを含んだような優しい声。
俺の聞き間違いじゃないよね?
付き合えたらって、そういう意味だよね?
今のって俺に対して言った言葉だよね?
考えれば考えるほど、自信がなくなってくる。
現実かどうか怪しくなってくる。
だって相手はティアンである。ティアンは俺の友達で、子分で。えっと。なんだろう。とにかくそういう恋愛的なのとは無縁だと思っていた。そう思っていたのは、俺だけだったってこと? どういうこと?
今のはティアンの本心だろうか。いや、待てよ。
ジェフリーの発言を巡って、場が混乱していた。ティアンの発言は、それらの騒動をおさめるためになされたものかもしれない。そうか。ティアンの本心じゃないのか。少し落ち着きを取り戻した俺は、そっと息を吐く。だよね。ティアンはそんなこと言わないよね。
ひとりで納得する。けれどもあんまり納得できない。もやっとするのは、なぜだろう。俯いたまま考えていると、誰かが近寄ってくる気配を感じた。
「ルイスと付き合いたければ、僕の許可を取れ」
突然聞こえてきた上から目線のユリスの言葉に、我に返った。勢いよく顔を上げて、周囲を見渡す。「許可……」と呟くティアンは、頬を掻いて照れくさそうにしている。その仕草は、ティアンの先程の発言がまるきり嘘ではないと感じさせるような温かさがあった。
デニスがにやにやと口元に手を添えている。ジェフリーは露骨にショックを受けたような顔で唇を引き結んでいる。ちょっと泣きそうだ。少し離れたところに佇むタイラーがあんぐりと口を開けていた。
ふらりと、一歩後ろにさがる。
ティアン以外の人たちの姿を認識して、ちょっと頭が混乱してきた。みんなの視線に、心臓がバクバクしてきた。
待って。やっぱりさっきの発言はティアンの本心? 冗談じゃない?
急にこの場から逃げ出したくなって、色々なことを誤魔化したくて、ティアンの足を強めに蹴ってみる。
「変なこと言わないで!」
「ちょ、痛っ」
感情のままに叫んでみて、どうにか平穏を取り戻そうと奮闘する。おかしいぞ。アロンだって似たような発言を散々していたじゃないか。でもそのときは、こんな変な空気にはならなかった。なんでティアンが言うと、こんな妙な空気になるのだ。俺の捉え方の問題? でもティアンはこういう冗談言うようなタイプじゃないから。俺の捉え方はなにもおかしくないよね?
「変なことってなんですか。僕、結構真剣に言ってるんですけど」
「っ!」
真剣ってなんだ。冗談じゃないってことか?
ダメだ。なんだかもうわけがわからないぞ。
「俺は忙しいから!」
わけがわからなくて、自分でも意味不明なことを口走る。ユリスが「おまえは暇だろ」と、やけに冷静な声で指摘してくる。今そんなことはどうでもいいだろ。
踵を返して自室へと走った。
ジェフリーが「ルイス様」と縋るように俺を呼んだ。でも足を止めることはできない。バタバタと慌ただしく部屋に駆け込めば、窓際で丸くなっていたエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。
「猫! エリスちゃん!」
「にゃー」
すっと立ち上がったエリスちゃんは、俺の足元に体を寄せてくる。おやつを寄越せと言わんばかりに鳴き声をあげるエリスちゃんの背中を無心で撫でた。
「エリスちゃん。どうしよう。ティアンが変なこと言う」
「変なことってなんですか」
「っ! 突然入ってこないで!」
「そんなに突然でもないですけど」
ああ言えばこう言う。
生意気に言い返してくるティアンは、平気な顔で追いかけてきた。パタンとドアの閉まる無機質な音が静かな部屋に響いて、これは現実なんだと俺に突きつけてくる。
「……ジェフリーは?」
「廊下にいらっしゃいますけど」
平然と答えるティアンと顔を合わせることができない。ひたすらエリスちゃんを撫でていたのだが、おやつが貰えるわけではないと理解したエリスちゃんは、ちょっと不満そうに鳴いてまた窓際に戻ってしまう。
拠り所をなくした俺は、ぽつんと部屋の中央で佇む。
自分の部屋なのに酷く居心地が悪い。
「すみません」
俺を見捨てたエリスちゃんを恨めしく眺めていれば、ティアンが控えめに謝罪の言葉を発した。
「なんで謝るの?」
「いえ。ルイス様を困らせてしまったみたいなので」
困って、困ってるんだろうか。
自分でもよくわからない。でも、さっきの発言をなかったことにされるのは、なんか嫌だ。俺って我儘なんだろうか。
「……ジェフリーのところに戻らないと」
せっかく遊びに来てくれたのに、放置するのは可哀想だろう。
「そうですね」
感情の読めない声で応じるティアンが、ドアを開けてくれた。
咄嗟に頬を両手で包んで隠してみるけど、赤くなっているであろう顔は誤魔化せる気がしない。なにかを誤魔化したくて、必死に考える。一体なにを考えるべきなのか。
付き合えたらいいなって、思ってますよ。
ティアンの言葉が繰り返し脳内に流れる。ちょっと淡々とした、けれども照れを含んだような優しい声。
俺の聞き間違いじゃないよね?
付き合えたらって、そういう意味だよね?
今のって俺に対して言った言葉だよね?
考えれば考えるほど、自信がなくなってくる。
現実かどうか怪しくなってくる。
だって相手はティアンである。ティアンは俺の友達で、子分で。えっと。なんだろう。とにかくそういう恋愛的なのとは無縁だと思っていた。そう思っていたのは、俺だけだったってこと? どういうこと?
今のはティアンの本心だろうか。いや、待てよ。
ジェフリーの発言を巡って、場が混乱していた。ティアンの発言は、それらの騒動をおさめるためになされたものかもしれない。そうか。ティアンの本心じゃないのか。少し落ち着きを取り戻した俺は、そっと息を吐く。だよね。ティアンはそんなこと言わないよね。
ひとりで納得する。けれどもあんまり納得できない。もやっとするのは、なぜだろう。俯いたまま考えていると、誰かが近寄ってくる気配を感じた。
「ルイスと付き合いたければ、僕の許可を取れ」
突然聞こえてきた上から目線のユリスの言葉に、我に返った。勢いよく顔を上げて、周囲を見渡す。「許可……」と呟くティアンは、頬を掻いて照れくさそうにしている。その仕草は、ティアンの先程の発言がまるきり嘘ではないと感じさせるような温かさがあった。
デニスがにやにやと口元に手を添えている。ジェフリーは露骨にショックを受けたような顔で唇を引き結んでいる。ちょっと泣きそうだ。少し離れたところに佇むタイラーがあんぐりと口を開けていた。
ふらりと、一歩後ろにさがる。
ティアン以外の人たちの姿を認識して、ちょっと頭が混乱してきた。みんなの視線に、心臓がバクバクしてきた。
待って。やっぱりさっきの発言はティアンの本心? 冗談じゃない?
急にこの場から逃げ出したくなって、色々なことを誤魔化したくて、ティアンの足を強めに蹴ってみる。
「変なこと言わないで!」
「ちょ、痛っ」
感情のままに叫んでみて、どうにか平穏を取り戻そうと奮闘する。おかしいぞ。アロンだって似たような発言を散々していたじゃないか。でもそのときは、こんな変な空気にはならなかった。なんでティアンが言うと、こんな妙な空気になるのだ。俺の捉え方の問題? でもティアンはこういう冗談言うようなタイプじゃないから。俺の捉え方はなにもおかしくないよね?
「変なことってなんですか。僕、結構真剣に言ってるんですけど」
「っ!」
真剣ってなんだ。冗談じゃないってことか?
ダメだ。なんだかもうわけがわからないぞ。
「俺は忙しいから!」
わけがわからなくて、自分でも意味不明なことを口走る。ユリスが「おまえは暇だろ」と、やけに冷静な声で指摘してくる。今そんなことはどうでもいいだろ。
踵を返して自室へと走った。
ジェフリーが「ルイス様」と縋るように俺を呼んだ。でも足を止めることはできない。バタバタと慌ただしく部屋に駆け込めば、窓際で丸くなっていたエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。
「猫! エリスちゃん!」
「にゃー」
すっと立ち上がったエリスちゃんは、俺の足元に体を寄せてくる。おやつを寄越せと言わんばかりに鳴き声をあげるエリスちゃんの背中を無心で撫でた。
「エリスちゃん。どうしよう。ティアンが変なこと言う」
「変なことってなんですか」
「っ! 突然入ってこないで!」
「そんなに突然でもないですけど」
ああ言えばこう言う。
生意気に言い返してくるティアンは、平気な顔で追いかけてきた。パタンとドアの閉まる無機質な音が静かな部屋に響いて、これは現実なんだと俺に突きつけてくる。
「……ジェフリーは?」
「廊下にいらっしゃいますけど」
平然と答えるティアンと顔を合わせることができない。ひたすらエリスちゃんを撫でていたのだが、おやつが貰えるわけではないと理解したエリスちゃんは、ちょっと不満そうに鳴いてまた窓際に戻ってしまう。
拠り所をなくした俺は、ぽつんと部屋の中央で佇む。
自分の部屋なのに酷く居心地が悪い。
「すみません」
俺を見捨てたエリスちゃんを恨めしく眺めていれば、ティアンが控えめに謝罪の言葉を発した。
「なんで謝るの?」
「いえ。ルイス様を困らせてしまったみたいなので」
困って、困ってるんだろうか。
自分でもよくわからない。でも、さっきの発言をなかったことにされるのは、なんか嫌だ。俺って我儘なんだろうか。
「……ジェフリーのところに戻らないと」
せっかく遊びに来てくれたのに、放置するのは可哀想だろう。
「そうですね」
感情の読めない声で応じるティアンが、ドアを開けてくれた。
1,019
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。