嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

751 本心

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 背中から温もりが消えたはずなのに、徐々に体温があがっていくのを感じる。

 咄嗟に頬を両手で包んで隠してみるけど、赤くなっているであろう顔は誤魔化せる気がしない。なにかを誤魔化したくて、必死に考える。一体なにを考えるべきなのか。

 付き合えたらいいなって、思ってますよ。

 ティアンの言葉が繰り返し脳内に流れる。ちょっと淡々とした、けれども照れを含んだような優しい声。

 俺の聞き間違いじゃないよね?

 付き合えたらって、そういう意味だよね?

 今のって俺に対して言った言葉だよね?

 考えれば考えるほど、自信がなくなってくる。
 現実かどうか怪しくなってくる。

 だって相手はティアンである。ティアンは俺の友達で、子分で。えっと。なんだろう。とにかくそういう恋愛的なのとは無縁だと思っていた。そう思っていたのは、俺だけだったってこと? どういうこと?

 今のはティアンの本心だろうか。いや、待てよ。
 ジェフリーの発言を巡って、場が混乱していた。ティアンの発言は、それらの騒動をおさめるためになされたものかもしれない。そうか。ティアンの本心じゃないのか。少し落ち着きを取り戻した俺は、そっと息を吐く。だよね。ティアンはそんなこと言わないよね。

 ひとりで納得する。けれどもあんまり納得できない。もやっとするのは、なぜだろう。俯いたまま考えていると、誰かが近寄ってくる気配を感じた。

「ルイスと付き合いたければ、僕の許可を取れ」

 突然聞こえてきた上から目線のユリスの言葉に、我に返った。勢いよく顔を上げて、周囲を見渡す。「許可……」と呟くティアンは、頬を掻いて照れくさそうにしている。その仕草は、ティアンの先程の発言がまるきり嘘ではないと感じさせるような温かさがあった。

 デニスがにやにやと口元に手を添えている。ジェフリーは露骨にショックを受けたような顔で唇を引き結んでいる。ちょっと泣きそうだ。少し離れたところに佇むタイラーがあんぐりと口を開けていた。

 ふらりと、一歩後ろにさがる。

 ティアン以外の人たちの姿を認識して、ちょっと頭が混乱してきた。みんなの視線に、心臓がバクバクしてきた。

 待って。やっぱりさっきの発言はティアンの本心? 冗談じゃない?

 急にこの場から逃げ出したくなって、色々なことを誤魔化したくて、ティアンの足を強めに蹴ってみる。

「変なこと言わないで!」
「ちょ、痛っ」

 感情のままに叫んでみて、どうにか平穏を取り戻そうと奮闘する。おかしいぞ。アロンだって似たような発言を散々していたじゃないか。でもそのときは、こんな変な空気にはならなかった。なんでティアンが言うと、こんな妙な空気になるのだ。俺の捉え方の問題? でもティアンはこういう冗談言うようなタイプじゃないから。俺の捉え方はなにもおかしくないよね?

「変なことってなんですか。僕、結構真剣に言ってるんですけど」
「っ!」

 真剣ってなんだ。冗談じゃないってことか?

 ダメだ。なんだかもうわけがわからないぞ。

「俺は忙しいから!」

 わけがわからなくて、自分でも意味不明なことを口走る。ユリスが「おまえは暇だろ」と、やけに冷静な声で指摘してくる。今そんなことはどうでもいいだろ。

 踵を返して自室へと走った。

 ジェフリーが「ルイス様」と縋るように俺を呼んだ。でも足を止めることはできない。バタバタと慌ただしく部屋に駆け込めば、窓際で丸くなっていたエリスちゃんが「にゃあ」と鳴いた。

「猫! エリスちゃん!」
「にゃー」

 すっと立ち上がったエリスちゃんは、俺の足元に体を寄せてくる。おやつを寄越せと言わんばかりに鳴き声をあげるエリスちゃんの背中を無心で撫でた。

「エリスちゃん。どうしよう。ティアンが変なこと言う」
「変なことってなんですか」
「っ! 突然入ってこないで!」
「そんなに突然でもないですけど」

 ああ言えばこう言う。
 生意気に言い返してくるティアンは、平気な顔で追いかけてきた。パタンとドアの閉まる無機質な音が静かな部屋に響いて、これは現実なんだと俺に突きつけてくる。

「……ジェフリーは?」
「廊下にいらっしゃいますけど」

 平然と答えるティアンと顔を合わせることができない。ひたすらエリスちゃんを撫でていたのだが、おやつが貰えるわけではないと理解したエリスちゃんは、ちょっと不満そうに鳴いてまた窓際に戻ってしまう。

 拠り所をなくした俺は、ぽつんと部屋の中央で佇む。

 自分の部屋なのに酷く居心地が悪い。

「すみません」

 俺を見捨てたエリスちゃんを恨めしく眺めていれば、ティアンが控えめに謝罪の言葉を発した。

「なんで謝るの?」
「いえ。ルイス様を困らせてしまったみたいなので」

 困って、困ってるんだろうか。
 自分でもよくわからない。でも、さっきの発言をなかったことにされるのは、なんか嫌だ。俺って我儘なんだろうか。

「……ジェフリーのところに戻らないと」

 せっかく遊びに来てくれたのに、放置するのは可哀想だろう。

「そうですね」

 感情の読めない声で応じるティアンが、ドアを開けてくれた。
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