クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび

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8 拾われた

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 俺を抱えたまま歩く男は、周囲をきょろきょろしながら進んでいる。おそらく犬の飼い主でも探しているのだろう。

 兄上やフロイドから気軽に喋るなと念押しされていた俺は、むすっと黙り込んだまま悩んでいた。

 今すぐこの男から逃げ出したいのだが、がっちり抱えられていてそれも不可能。無駄にジタバタ暴れるだけとなってしまう。

「おい、ロッド。なんだその犬」

 そんな中、男が俺を連れて行ったのは王宮内に存在する王立騎士団本部であった。なぜ。いや格好からしてこの男も騎士なんだろうけど。

 寄ってきた騎士たちが、目敏く俺を見つけて囲んでくる。「拾いました」とあっさり白状する男は、「どうすればいいですか」と同僚たちに問いかけている。

 俺は楽しく庭を散歩していただけだ。勝手に拾ったくせに、なんだその面倒くさそうな態度は。

 俺を拾った騎士は、ロッドというらしい。
 突然犬を持ち込んできたロッドに、他の騎士たちが困惑しているのがわかる。

「拾ったって。どこで?」
「中庭」

 好き勝手に手を伸ばしてくる騎士たちに、低く唸って威嚇してやる。でも誰も怯まない。ちくしょう。俺が小さくてふわふわの可愛い犬だからか。

「おい、ロッド。この犬、首輪ついてるけど」
「うん」

 若い茶髪の騎士が、首を捻っている。ロッドと同年代くらいで、態度から察するにおそらく同期だと思われる。

 軽く頷くロッドに、茶髪騎士が若干引いている。ロッドとは違い優しそうな面持ちの好青年である。

「中庭にいたんだろ? 王宮に忍び込めるとも思えないし。誰かが庭に放して散歩でもさせてたんじゃ?」
「……そうなの?」

 そうだそうだ。俺は楽しく散歩中だったんだぞ。邪魔しやがって。勢いよく吠えてやれば、茶髪騎士が「うお!」とびっくりして一歩後ろに下がる。

 だが、俺を抱えたままのロッドは無反応。この野郎。

「戻してきた方がいいんじゃないか? 飼い主が探してるかも」
「うーん」

 鈍い反応のロッドは、やがて「そうだね」と頷いた。

「ちょっと行ってくる」

 そうして再び中庭に向けて歩き出そうとしたロッドであったが、こちらに勢いよく駆けてくる人影を発見して足を止めた。

「ちょっと! ビリー!」
「フロイドさん?」

 茶髪騎士に向かって、突進するかのような勢いで突っ込んできたのはフロイドであった。

 ひとりでわたわたする彼は、そういえば王立騎士団所属であった。普段は俺の護衛兼見張り役を務めているフロイドは、王立騎士団には滅多に足を運ばないのに。なにしにきたんだ、こいつ。

 ビリーと呼ばれた茶髪騎士も驚いたように目を見開いている。

「え、なんでここに」
「あ、あの! 犬! 白い犬を探してほしいんですけど!」

 犬?

 ビリーとロッドの視線が、俺に注がれる。小さくわんと吠えてみれば、フロイドがようやく俺に気がついた。

「いたぁ!」

 ガバリと半ば引ったくるようにして、フロイドが俺をロッドから奪い取る。

「探したんですけど!?」

 俺の顔を見据えてくるフロイドに、思わず半眼となる。俺に言われてもな。文句であれば、俺を拾ったロッドに言ってほしい。

 小さい犬だぞ。こんな騎士に拾われたらどうしようもできない。

「よかった。本当によかった」

 安堵するフロイドに、ビリーが「フロイドさんの犬ですか?」と尋ねている。

「え。いや、えっと」

 露骨に視線を泳がせるフロイドは、俺の目から見ても挙動不審であった。しっかりしろ。おまえが狼狽えてどうする。

「それはウィル様の」

 もごもご口ごもるフロイドに、ビリーが「あぁ、なるほど」と苦笑する。

 フロイドは俺の護衛だからな。俺が飼っている犬の面倒を押し付けられたとでも解釈したのだろう。現に「先輩も大変ですね」とビリーがフロイドの背中をバシバシ叩いている。どういう意味だ。

「ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって」

 ははっと誤魔化すように笑うフロイド。ビリーが「それは」と気まずそうにロッドを見た。

「こいつが拾ったとか言って連れてきたんです。なんかすみません」
「中庭で寝てたから」

 悪びれずに答えるロッドは、呑気なものだ。
 勝手に拾っていかないでくださいよ、とフロイドが苦言を呈している。

 本当にリードつけたいと嘆くフロイドに、ピシッと体を強張らせる。それはいけない。俺の威厳が。

 すかさず前足でペシッとフロイドの頬を叩いておく。勢いなくて、叩くというよりは添えるような形になってしまったけど。

「なんですか」

 半眼になるフロイドは、深くため息を吐く。
 それにしても、律儀に犬のフリをしている俺は偉い。兄上が知ったら泣いて喜ぶと思う。

 へへっとひとりで笑っていれば、ビリーが「ところで」と小声になった。

「ウィル様がカルロッタ様に手を出したって噂、あれ本当ですか?」

 フロイドが勢いよく咽せた。

「そ、そんなわけないでしょう! 確かにウィル様はどうしようもない人ですけど。まさかそんな! 嘘に決まっています!」
「……どうしたんですか? そんなに焦って」

 焦ってませんよ! と大声を出すフロイドは、露骨に焦っていた。こいつはちょっとな。馬鹿なところがあるからな。ビリーが頬を引き攣らせている。

 というか。どさくさに紛れて俺の悪口言ったよな。フロイドめ。

 騒がしい騎士ふたりを横目に、ロッドが俺の眉間をぐいぐい押してくる。やめろよ。なにすんだよ。
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