8 / 41
8 拾われた
しおりを挟む
俺を抱えたまま歩く男は、周囲をきょろきょろしながら進んでいる。おそらく犬の飼い主でも探しているのだろう。
兄上やフロイドから気軽に喋るなと念押しされていた俺は、むすっと黙り込んだまま悩んでいた。
今すぐこの男から逃げ出したいのだが、がっちり抱えられていてそれも不可能。無駄にジタバタ暴れるだけとなってしまう。
「おい、ロッド。なんだその犬」
そんな中、男が俺を連れて行ったのは王宮内に存在する王立騎士団本部であった。なぜ。いや格好からしてこの男も騎士なんだろうけど。
寄ってきた騎士たちが、目敏く俺を見つけて囲んでくる。「拾いました」とあっさり白状する男は、「どうすればいいですか」と同僚たちに問いかけている。
俺は楽しく庭を散歩していただけだ。勝手に拾ったくせに、なんだその面倒くさそうな態度は。
俺を拾った騎士は、ロッドというらしい。
突然犬を持ち込んできたロッドに、他の騎士たちが困惑しているのがわかる。
「拾ったって。どこで?」
「中庭」
好き勝手に手を伸ばしてくる騎士たちに、低く唸って威嚇してやる。でも誰も怯まない。ちくしょう。俺が小さくてふわふわの可愛い犬だからか。
「おい、ロッド。この犬、首輪ついてるけど」
「うん」
若い茶髪の騎士が、首を捻っている。ロッドと同年代くらいで、態度から察するにおそらく同期だと思われる。
軽く頷くロッドに、茶髪騎士が若干引いている。ロッドとは違い優しそうな面持ちの好青年である。
「中庭にいたんだろ? 王宮に忍び込めるとも思えないし。誰かが庭に放して散歩でもさせてたんじゃ?」
「……そうなの?」
そうだそうだ。俺は楽しく散歩中だったんだぞ。邪魔しやがって。勢いよく吠えてやれば、茶髪騎士が「うお!」とびっくりして一歩後ろに下がる。
だが、俺を抱えたままのロッドは無反応。この野郎。
「戻してきた方がいいんじゃないか? 飼い主が探してるかも」
「うーん」
鈍い反応のロッドは、やがて「そうだね」と頷いた。
「ちょっと行ってくる」
そうして再び中庭に向けて歩き出そうとしたロッドであったが、こちらに勢いよく駆けてくる人影を発見して足を止めた。
「ちょっと! ビリー!」
「フロイドさん?」
茶髪騎士に向かって、突進するかのような勢いで突っ込んできたのはフロイドであった。
ひとりでわたわたする彼は、そういえば王立騎士団所属であった。普段は俺の護衛兼見張り役を務めているフロイドは、王立騎士団には滅多に足を運ばないのに。なにしにきたんだ、こいつ。
ビリーと呼ばれた茶髪騎士も驚いたように目を見開いている。
「え、なんでここに」
「あ、あの! 犬! 白い犬を探してほしいんですけど!」
犬?
ビリーとロッドの視線が、俺に注がれる。小さくわんと吠えてみれば、フロイドがようやく俺に気がついた。
「いたぁ!」
ガバリと半ば引ったくるようにして、フロイドが俺をロッドから奪い取る。
「探したんですけど!?」
俺の顔を見据えてくるフロイドに、思わず半眼となる。俺に言われてもな。文句であれば、俺を拾ったロッドに言ってほしい。
小さい犬だぞ。こんな騎士に拾われたらどうしようもできない。
「よかった。本当によかった」
安堵するフロイドに、ビリーが「フロイドさんの犬ですか?」と尋ねている。
「え。いや、えっと」
露骨に視線を泳がせるフロイドは、俺の目から見ても挙動不審であった。しっかりしろ。おまえが狼狽えてどうする。
「それはウィル様の」
もごもご口ごもるフロイドに、ビリーが「あぁ、なるほど」と苦笑する。
フロイドは俺の護衛だからな。俺が飼っている犬の面倒を押し付けられたとでも解釈したのだろう。現に「先輩も大変ですね」とビリーがフロイドの背中をバシバシ叩いている。どういう意味だ。
「ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって」
ははっと誤魔化すように笑うフロイド。ビリーが「それは」と気まずそうにロッドを見た。
「こいつが拾ったとか言って連れてきたんです。なんかすみません」
「中庭で寝てたから」
悪びれずに答えるロッドは、呑気なものだ。
勝手に拾っていかないでくださいよ、とフロイドが苦言を呈している。
本当にリードつけたいと嘆くフロイドに、ピシッと体を強張らせる。それはいけない。俺の威厳が。
すかさず前足でペシッとフロイドの頬を叩いておく。勢いなくて、叩くというよりは添えるような形になってしまったけど。
「なんですか」
半眼になるフロイドは、深くため息を吐く。
それにしても、律儀に犬のフリをしている俺は偉い。兄上が知ったら泣いて喜ぶと思う。
へへっとひとりで笑っていれば、ビリーが「ところで」と小声になった。
「ウィル様がカルロッタ様に手を出したって噂、あれ本当ですか?」
フロイドが勢いよく咽せた。
「そ、そんなわけないでしょう! 確かにウィル様はどうしようもない人ですけど。まさかそんな! 嘘に決まっています!」
「……どうしたんですか? そんなに焦って」
焦ってませんよ! と大声を出すフロイドは、露骨に焦っていた。こいつはちょっとな。馬鹿なところがあるからな。ビリーが頬を引き攣らせている。
というか。どさくさに紛れて俺の悪口言ったよな。フロイドめ。
騒がしい騎士ふたりを横目に、ロッドが俺の眉間をぐいぐい押してくる。やめろよ。なにすんだよ。
兄上やフロイドから気軽に喋るなと念押しされていた俺は、むすっと黙り込んだまま悩んでいた。
今すぐこの男から逃げ出したいのだが、がっちり抱えられていてそれも不可能。無駄にジタバタ暴れるだけとなってしまう。
「おい、ロッド。なんだその犬」
そんな中、男が俺を連れて行ったのは王宮内に存在する王立騎士団本部であった。なぜ。いや格好からしてこの男も騎士なんだろうけど。
寄ってきた騎士たちが、目敏く俺を見つけて囲んでくる。「拾いました」とあっさり白状する男は、「どうすればいいですか」と同僚たちに問いかけている。
俺は楽しく庭を散歩していただけだ。勝手に拾ったくせに、なんだその面倒くさそうな態度は。
俺を拾った騎士は、ロッドというらしい。
突然犬を持ち込んできたロッドに、他の騎士たちが困惑しているのがわかる。
「拾ったって。どこで?」
「中庭」
好き勝手に手を伸ばしてくる騎士たちに、低く唸って威嚇してやる。でも誰も怯まない。ちくしょう。俺が小さくてふわふわの可愛い犬だからか。
「おい、ロッド。この犬、首輪ついてるけど」
「うん」
若い茶髪の騎士が、首を捻っている。ロッドと同年代くらいで、態度から察するにおそらく同期だと思われる。
軽く頷くロッドに、茶髪騎士が若干引いている。ロッドとは違い優しそうな面持ちの好青年である。
「中庭にいたんだろ? 王宮に忍び込めるとも思えないし。誰かが庭に放して散歩でもさせてたんじゃ?」
「……そうなの?」
そうだそうだ。俺は楽しく散歩中だったんだぞ。邪魔しやがって。勢いよく吠えてやれば、茶髪騎士が「うお!」とびっくりして一歩後ろに下がる。
だが、俺を抱えたままのロッドは無反応。この野郎。
「戻してきた方がいいんじゃないか? 飼い主が探してるかも」
「うーん」
鈍い反応のロッドは、やがて「そうだね」と頷いた。
「ちょっと行ってくる」
そうして再び中庭に向けて歩き出そうとしたロッドであったが、こちらに勢いよく駆けてくる人影を発見して足を止めた。
「ちょっと! ビリー!」
「フロイドさん?」
茶髪騎士に向かって、突進するかのような勢いで突っ込んできたのはフロイドであった。
ひとりでわたわたする彼は、そういえば王立騎士団所属であった。普段は俺の護衛兼見張り役を務めているフロイドは、王立騎士団には滅多に足を運ばないのに。なにしにきたんだ、こいつ。
ビリーと呼ばれた茶髪騎士も驚いたように目を見開いている。
「え、なんでここに」
「あ、あの! 犬! 白い犬を探してほしいんですけど!」
犬?
ビリーとロッドの視線が、俺に注がれる。小さくわんと吠えてみれば、フロイドがようやく俺に気がついた。
「いたぁ!」
ガバリと半ば引ったくるようにして、フロイドが俺をロッドから奪い取る。
「探したんですけど!?」
俺の顔を見据えてくるフロイドに、思わず半眼となる。俺に言われてもな。文句であれば、俺を拾ったロッドに言ってほしい。
小さい犬だぞ。こんな騎士に拾われたらどうしようもできない。
「よかった。本当によかった」
安堵するフロイドに、ビリーが「フロイドさんの犬ですか?」と尋ねている。
「え。いや、えっと」
露骨に視線を泳がせるフロイドは、俺の目から見ても挙動不審であった。しっかりしろ。おまえが狼狽えてどうする。
「それはウィル様の」
もごもご口ごもるフロイドに、ビリーが「あぁ、なるほど」と苦笑する。
フロイドは俺の護衛だからな。俺が飼っている犬の面倒を押し付けられたとでも解釈したのだろう。現に「先輩も大変ですね」とビリーがフロイドの背中をバシバシ叩いている。どういう意味だ。
「ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって」
ははっと誤魔化すように笑うフロイド。ビリーが「それは」と気まずそうにロッドを見た。
「こいつが拾ったとか言って連れてきたんです。なんかすみません」
「中庭で寝てたから」
悪びれずに答えるロッドは、呑気なものだ。
勝手に拾っていかないでくださいよ、とフロイドが苦言を呈している。
本当にリードつけたいと嘆くフロイドに、ピシッと体を強張らせる。それはいけない。俺の威厳が。
すかさず前足でペシッとフロイドの頬を叩いておく。勢いなくて、叩くというよりは添えるような形になってしまったけど。
「なんですか」
半眼になるフロイドは、深くため息を吐く。
それにしても、律儀に犬のフリをしている俺は偉い。兄上が知ったら泣いて喜ぶと思う。
へへっとひとりで笑っていれば、ビリーが「ところで」と小声になった。
「ウィル様がカルロッタ様に手を出したって噂、あれ本当ですか?」
フロイドが勢いよく咽せた。
「そ、そんなわけないでしょう! 確かにウィル様はどうしようもない人ですけど。まさかそんな! 嘘に決まっています!」
「……どうしたんですか? そんなに焦って」
焦ってませんよ! と大声を出すフロイドは、露骨に焦っていた。こいつはちょっとな。馬鹿なところがあるからな。ビリーが頬を引き攣らせている。
というか。どさくさに紛れて俺の悪口言ったよな。フロイドめ。
騒がしい騎士ふたりを横目に、ロッドが俺の眉間をぐいぐい押してくる。やめろよ。なにすんだよ。
273
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。
夏笆(なつは)
BL
公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。
ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。
そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。
初めての発情期を迎えようかという年齢になった。
これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。
しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。
男性しか存在しない、オメガバースの世界です。
改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。
※蔑視する内容を含みます。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる