染まらない花

煙々茸

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家族3

3-2

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「俺より他の奴が速かっただけだろ」
「そうかなぁ……。僕が見てた限りじゃあ、選ばれてもおかしくなかったと思うけど」
「それはただのよく――」
「ん?」
「……いや」
 欲目、と言いかけて口を噤んだ。
 それは違うと思ったからだ。
 正直なところ、バッタよりフリーの方が得意だ。
 でもリレーには選ばれたくなかったからバッタを専攻したに過ぎない。
 唐木が俺を過大評価してもおかしくはないのかもしれないが、リレーから逃げたと思われるのは本意じゃない。――事実だったとしても。
(やる気のない奴がココにいたら、反感買うだろうしな)
 キャップを被り、ザバン! と水の中に身を投げる。
(今年もバッタで押し通すしかねぇか。フリーが一番楽なんだけどな……)
 バッタはバタフライ。
 フリーは自由形で、通常ではクロールのことを指す。
 俺はバッタのフォームで水中を突き進んだ。
 両腕を振り上げ、勢いを付けて水を押しやるように掻いて顔を上げる。
 グンと伸びる感覚が心地良い。
 そして五十メートルを泳ぎ切り、肩を上下に揺らしながらキャップと脱ぐ。
「相見」
 ふいに上から呼ばれて顔を上げると、部長が俺を見下ろしていた。
「ちょっといいか」
「? ……はい」
 淵に手を突いて一気に体を押し上げ、プールから上がった。
 少し離れた場所まで来ると、腕組みをして俺を見据える部長に、なんだか嫌な予感がして眉を寄せた。
「お前、今年もバッタを泳ぐつもりか?」
「……そうですが」
 俺の言葉に部長の眉間にも皺が寄る。
「お前は、いつになったら本気を出すんだ?」
「本気ですよ」
「姿勢の問題を言ってるんだ。お前の場合は誰かに遠慮しているわけじゃあないだろ。リレーをやりたくない訳でもあるのか?」
「……」
「ないなら、お前はフリーを専攻しろ。あとでタイムもちゃんと測るからな。本気でやっているなら、逃げるなよ」
「! ……っ」
 遠ざかる部長へ視線を向けないまま、俺はキャップを握り締めた。
 競うことにはあまり興味が湧かない。
 ただ泳いでいられればそれでいい。
 こんな気持ちの人間と、一緒に泳ぎたいと思う奴がいるだろうか。
(はぁ……。面倒なことになったな)
 ポタポタと髪を伝って落ちる水滴を鬱陶しく思って手で掃う。
「さーがみ。……どうしたの? 何言われた?」
 いつの間に寄ってきたのか、唐木がそっと俺に問い掛けてきた。
「……フリーを泳げだと」
「え。それって、リレーに選ばれたってこと!?」
「いや、まだだろ。あとでタイム測るとか言ってたし」
「そっか。でも、それだけ期待されてるってことだよね。凄いことじゃない?」
「他人事だと思って……」
「違うよ。相見のことだからそう思うんじゃん」
(ああ。そうだった。コイツは……)
 俺の事が好きなんだった。
 ふとした時に思い出させられるとドキリとする。
 そのドキリは相手にとって良い意味ではないが……。
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