20 / 62
家族3
3-2
しおりを挟む
「俺より他の奴が速かっただけだろ」
「そうかなぁ……。僕が見てた限りじゃあ、選ばれてもおかしくなかったと思うけど」
「それはただのよく――」
「ん?」
「……いや」
欲目、と言いかけて口を噤んだ。
それは違うと思ったからだ。
正直なところ、バッタよりフリーの方が得意だ。
でもリレーには選ばれたくなかったからバッタを専攻したに過ぎない。
唐木が俺を過大評価してもおかしくはないのかもしれないが、リレーから逃げたと思われるのは本意じゃない。――事実だったとしても。
(やる気のない奴がココにいたら、反感買うだろうしな)
キャップを被り、ザバン! と水の中に身を投げる。
(今年もバッタで押し通すしかねぇか。フリーが一番楽なんだけどな……)
バッタはバタフライ。
フリーは自由形で、通常ではクロールのことを指す。
俺はバッタのフォームで水中を突き進んだ。
両腕を振り上げ、勢いを付けて水を押しやるように掻いて顔を上げる。
グンと伸びる感覚が心地良い。
そして五十メートルを泳ぎ切り、肩を上下に揺らしながらキャップと脱ぐ。
「相見」
ふいに上から呼ばれて顔を上げると、部長が俺を見下ろしていた。
「ちょっといいか」
「? ……はい」
淵に手を突いて一気に体を押し上げ、プールから上がった。
少し離れた場所まで来ると、腕組みをして俺を見据える部長に、なんだか嫌な予感がして眉を寄せた。
「お前、今年もバッタを泳ぐつもりか?」
「……そうですが」
俺の言葉に部長の眉間にも皺が寄る。
「お前は、いつになったら本気を出すんだ?」
「本気ですよ」
「姿勢の問題を言ってるんだ。お前の場合は誰かに遠慮しているわけじゃあないだろ。リレーをやりたくない訳でもあるのか?」
「……」
「ないなら、お前はフリーを専攻しろ。あとでタイムもちゃんと測るからな。本気でやっているなら、逃げるなよ」
「! ……っ」
遠ざかる部長へ視線を向けないまま、俺はキャップを握り締めた。
競うことにはあまり興味が湧かない。
ただ泳いでいられればそれでいい。
こんな気持ちの人間と、一緒に泳ぎたいと思う奴がいるだろうか。
(はぁ……。面倒なことになったな)
ポタポタと髪を伝って落ちる水滴を鬱陶しく思って手で掃う。
「さーがみ。……どうしたの? 何言われた?」
いつの間に寄ってきたのか、唐木がそっと俺に問い掛けてきた。
「……フリーを泳げだと」
「え。それって、リレーに選ばれたってこと!?」
「いや、まだだろ。あとでタイム測るとか言ってたし」
「そっか。でも、それだけ期待されてるってことだよね。凄いことじゃない?」
「他人事だと思って……」
「違うよ。相見のことだからそう思うんじゃん」
(ああ。そうだった。コイツは……)
俺の事が好きなんだった。
ふとした時に思い出させられるとドキリとする。
そのドキリは相手にとって良い意味ではないが……。
「そうかなぁ……。僕が見てた限りじゃあ、選ばれてもおかしくなかったと思うけど」
「それはただのよく――」
「ん?」
「……いや」
欲目、と言いかけて口を噤んだ。
それは違うと思ったからだ。
正直なところ、バッタよりフリーの方が得意だ。
でもリレーには選ばれたくなかったからバッタを専攻したに過ぎない。
唐木が俺を過大評価してもおかしくはないのかもしれないが、リレーから逃げたと思われるのは本意じゃない。――事実だったとしても。
(やる気のない奴がココにいたら、反感買うだろうしな)
キャップを被り、ザバン! と水の中に身を投げる。
(今年もバッタで押し通すしかねぇか。フリーが一番楽なんだけどな……)
バッタはバタフライ。
フリーは自由形で、通常ではクロールのことを指す。
俺はバッタのフォームで水中を突き進んだ。
両腕を振り上げ、勢いを付けて水を押しやるように掻いて顔を上げる。
グンと伸びる感覚が心地良い。
そして五十メートルを泳ぎ切り、肩を上下に揺らしながらキャップと脱ぐ。
「相見」
ふいに上から呼ばれて顔を上げると、部長が俺を見下ろしていた。
「ちょっといいか」
「? ……はい」
淵に手を突いて一気に体を押し上げ、プールから上がった。
少し離れた場所まで来ると、腕組みをして俺を見据える部長に、なんだか嫌な予感がして眉を寄せた。
「お前、今年もバッタを泳ぐつもりか?」
「……そうですが」
俺の言葉に部長の眉間にも皺が寄る。
「お前は、いつになったら本気を出すんだ?」
「本気ですよ」
「姿勢の問題を言ってるんだ。お前の場合は誰かに遠慮しているわけじゃあないだろ。リレーをやりたくない訳でもあるのか?」
「……」
「ないなら、お前はフリーを専攻しろ。あとでタイムもちゃんと測るからな。本気でやっているなら、逃げるなよ」
「! ……っ」
遠ざかる部長へ視線を向けないまま、俺はキャップを握り締めた。
競うことにはあまり興味が湧かない。
ただ泳いでいられればそれでいい。
こんな気持ちの人間と、一緒に泳ぎたいと思う奴がいるだろうか。
(はぁ……。面倒なことになったな)
ポタポタと髪を伝って落ちる水滴を鬱陶しく思って手で掃う。
「さーがみ。……どうしたの? 何言われた?」
いつの間に寄ってきたのか、唐木がそっと俺に問い掛けてきた。
「……フリーを泳げだと」
「え。それって、リレーに選ばれたってこと!?」
「いや、まだだろ。あとでタイム測るとか言ってたし」
「そっか。でも、それだけ期待されてるってことだよね。凄いことじゃない?」
「他人事だと思って……」
「違うよ。相見のことだからそう思うんじゃん」
(ああ。そうだった。コイツは……)
俺の事が好きなんだった。
ふとした時に思い出させられるとドキリとする。
そのドキリは相手にとって良い意味ではないが……。
0
あなたにおすすめの小説
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる