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家族3
3-9
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(今に始まったことじゃないけどな)
嫌われることが、どんなに怖いか……。
「相見~? ……大河く~ん?」
「……名前」
「だって、全然反応しないからぁ」
ブー垂れる唐木が四つん這いでにじり寄ってくる。
「名前で呼ばれるの嫌?」
「そうじゃないけど、珍しいなと」
「そっか。嫌じゃないなら良かったよ」
本当に嬉しそうに笑うもんだから、拒むことなんてできない。
(これもコイツの作戦だったりしてな。――いや、考えるのは止そう)
視線を外して傍らに置いていた雑誌を持ち上げて捲る。
「何の雑誌? ……あ、スポーツ誌だね。しかも水泳の特集って大河くんらしい」
雑誌を覗き込んでクスクス笑う唐木の、最後の言葉に俺は視線を上げた。
「それは止せ」
「へ? それって?」
ぶつかった視線から逃れるように顔を背け、溜息一つ……。
「敬称だ。いらねぇから、それ」
「え……じゃあ、呼び捨てでいいの?」
「逆におかしいだろ。今更敬称付けるとか」
「……うん、それもそうだね。じゃあ大河で」
「ああ」
親しい奴にくん付けされると、あの人が頭を過ぎる。
(李煌さんだけだからな……身近でくん付けするのは)
沢山聞くなら、李煌さんだけがいい。
(うわ。これって独占欲っていうのか?)
開いたままの雑誌に思わず顔を埋めた。
「はぁ……」
(……らしくないな)
自分がこんな風に思う日が来るなんて、想像もしていなかった。
「大河~? 今度はどうしたのさ」
唐木が俺の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「んー……何でもねぇよ」
「そうは見えないけどー? 顔上げてよ」
「嫌だ」
「そう言われると、無理矢理にでも上げさせたくなるんだけどなぁ」
――グイッ。
(っ!?)
「? ……ちょっと顔赤い?」
言った直後に決行してくるとは思わず、完全に不意を突かれた。
頬を包んだままジッと顔を見つめて来る唐木に一拍遅れて漸く手を払い除ける。
「なになに? どうして顔赤いの?」
「煩ぇ!」
「教えてよ。もし僕のことでそうなったんなら、嬉しいんだけどな」
「ちょ、おい! 重いっ」
背後はベッド、前は唐木が抱きつくように凭れかかってきて完全に身動きが取れなくなった。
――コンコン。
「大河くん。デザート持って来たんだけど、食べない?」
ノックのあと、返事をする前に扉が開いた。
「――……えっと、お邪魔、だったかな……?」
少し驚いた様子の李煌さんが、トレーに乗った二人分のプリンを遠慮がちにテーブルに置いた。
「い、いや。違う。コイツが俺をからかって勝手に楽しんでるだけだから。――いつまで人の上に乗ってるんだお前はっ」
グィっと唐木を押し退ける。
「お兄さん、差し入れありがとうございます」
「ううん。頂きモノなんだけど、食べてもらえると嬉しいよ」
唐木と対話する李煌さんをチラリと見上げる。
(……誤魔化せたか?)
唐木の俺への気持ちは、誰も知らないはずだから誤解するようなことはないと思いたいが…。
嫌われることが、どんなに怖いか……。
「相見~? ……大河く~ん?」
「……名前」
「だって、全然反応しないからぁ」
ブー垂れる唐木が四つん這いでにじり寄ってくる。
「名前で呼ばれるの嫌?」
「そうじゃないけど、珍しいなと」
「そっか。嫌じゃないなら良かったよ」
本当に嬉しそうに笑うもんだから、拒むことなんてできない。
(これもコイツの作戦だったりしてな。――いや、考えるのは止そう)
視線を外して傍らに置いていた雑誌を持ち上げて捲る。
「何の雑誌? ……あ、スポーツ誌だね。しかも水泳の特集って大河くんらしい」
雑誌を覗き込んでクスクス笑う唐木の、最後の言葉に俺は視線を上げた。
「それは止せ」
「へ? それって?」
ぶつかった視線から逃れるように顔を背け、溜息一つ……。
「敬称だ。いらねぇから、それ」
「え……じゃあ、呼び捨てでいいの?」
「逆におかしいだろ。今更敬称付けるとか」
「……うん、それもそうだね。じゃあ大河で」
「ああ」
親しい奴にくん付けされると、あの人が頭を過ぎる。
(李煌さんだけだからな……身近でくん付けするのは)
沢山聞くなら、李煌さんだけがいい。
(うわ。これって独占欲っていうのか?)
開いたままの雑誌に思わず顔を埋めた。
「はぁ……」
(……らしくないな)
自分がこんな風に思う日が来るなんて、想像もしていなかった。
「大河~? 今度はどうしたのさ」
唐木が俺の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「んー……何でもねぇよ」
「そうは見えないけどー? 顔上げてよ」
「嫌だ」
「そう言われると、無理矢理にでも上げさせたくなるんだけどなぁ」
――グイッ。
(っ!?)
「? ……ちょっと顔赤い?」
言った直後に決行してくるとは思わず、完全に不意を突かれた。
頬を包んだままジッと顔を見つめて来る唐木に一拍遅れて漸く手を払い除ける。
「なになに? どうして顔赤いの?」
「煩ぇ!」
「教えてよ。もし僕のことでそうなったんなら、嬉しいんだけどな」
「ちょ、おい! 重いっ」
背後はベッド、前は唐木が抱きつくように凭れかかってきて完全に身動きが取れなくなった。
――コンコン。
「大河くん。デザート持って来たんだけど、食べない?」
ノックのあと、返事をする前に扉が開いた。
「――……えっと、お邪魔、だったかな……?」
少し驚いた様子の李煌さんが、トレーに乗った二人分のプリンを遠慮がちにテーブルに置いた。
「い、いや。違う。コイツが俺をからかって勝手に楽しんでるだけだから。――いつまで人の上に乗ってるんだお前はっ」
グィっと唐木を押し退ける。
「お兄さん、差し入れありがとうございます」
「ううん。頂きモノなんだけど、食べてもらえると嬉しいよ」
唐木と対話する李煌さんをチラリと見上げる。
(……誤魔化せたか?)
唐木の俺への気持ちは、誰も知らないはずだから誤解するようなことはないと思いたいが…。
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